【WWF声明】エネルギー需給の強靭化では省エネと再エネを主軸に据えることを求める


 2026年8月26日、高市政権は昨今の中東情勢で生じた原油・石油製品等の供給の混乱を受けて、「エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ」を取りまとめた。当該パッケージのもと、化石燃料の安定的な調達とGXの加速・強化を通じて、エネルギーの需給構造における脆弱性を克服することが目指されている。
 WWFジャパンは、日本が抱え続けてきた化石燃料の輸入依存というエネルギー面での弱さを克服しつつ、人々の健康や暮らし、自然環境を守るために、今こそ省エネの深掘りと再エネの活用を最大限加速させることを求める。確かに今般の国際情勢に鑑みると、短期での手当てとして原油等の備蓄を充実させること等はやむを得ない。他方、そうした対処が必要になったのは、エネルギーの約80%を化石燃料に依存し、そのほぼ全量を輸入に頼り続けてきたことに起因している。この構造を根本から改善しなければ、国際情勢・市況の悪化に左右され続けることになる。
 また、日本の温室効果ガス排出量の約87%は、化石燃料の使用に伴うものである。その転換を図ることはエネルギーのレジリエンス向上のみならず、気候変動対策に直結する。日本では100年あたり約1.44度のペースと、世界平均に比べて高いペースで気温が上昇している。さらに猛暑・酷暑も相次いでおり、例えば2026年7月中旬から下旬前半の記録的な高温は地球温暖化が無ければ生じなかったとの科学的分析も報告されている。IPCCによれば、今世紀末までの世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えるために、世界全体の温室効果ガス排出量を2019年比で2035年までに60%削減する必要があるとしている。能力と責任を有する先進国として、日本はその水準を十分上回る形で温室効果ガス排出削減を進めることが求められる。
 これら両方の便益を実現するためには、以下の3点にわたる改善が特に必要となる。

(1)足下では、既存の省エネ・再エネ技術の最大限導入に向けて支援を集中させるべき

 今回の政策パッケージでも、GXの加速が掲げられているが、その内容は、次世代再エネ技術の重視と原子力の最大限活用が目立つ。確かにペロブスカイト太陽電池や洋上風力発電といった技術は、気候変動対策を進めるうえで不可欠である。ただし、2024年の単年で1.5度を超えたなか、パリ協定の1.5度目標を堅持するには、早期かつ急速に温室効果ガスの排出削減を進めることが必要となる。また、原子力発電もリプレースが志向されているが、リードタイムやコスト、バックエンドの諸課題が残ることを踏まえれば、中心的役割を担えるとは言い難い。
 排出削減のタイムラインやコストの点から、既存の省エネ・再エネ技術にリソースが集中的に投下されることが求められる。IPCCは、1.5度目標の実現が、再エネや省エネ技術といったCO2削減量1トン当たり100ドル以下の方法で可能であること、その大半が20ドル以下であることが示されている。加えて国際政治でも、当該目標の達成に向けた合意がなされている。COP28では2030年に向けて再生可能エネルギーを世界全体で3倍に増やすことに合意しており、その達成に向けて日本も貢献しなければならない。
 その再エネの導入拡大に当たっては、地域社会・自然との共生の観点や、ポテンシャルの多さに照らせば、建築物の屋根への導入と営農型太陽光発電の推進が不可欠である。その中で現在、農水省は営農型太陽光発電に対する規制を強化する方針を示しているが、過度な制約とならないような見直しが求められる。政府全体で再エネ普及の障害を特定し、その克服に向けて制度的措置や支援を総動員するべきである。

(2)化石燃料からの転換を可能にする出口戦略を策定するべき

 化石燃料に依存しているなか、短期では寸断が生じないように手当てをすることは必要な側面もある。しかし同時に、中長期的に、どのようなタイムラインで、かつどの部門を優先して化石燃料からの転換を果たすのか、出口戦略を定めることが重要である。
 例えば石炭火力発電は、最も効率的なものでも、ガス火力の2倍近くの二酸化炭素を排出する。排出係数の高さと代替手段の存在に照らせば、優先して段階的に廃止されるべきである。他方、天然ガスもトランジション期には一定の役割を担いうるものの、WWFジャパンの分析では2050年には不要となる。トランジションの名のもとの化石燃料の延命は避けるべきである。
 国際的には既に、化石燃料からの転換に向けた機運が着実に高まっている。2026年4月の化石燃料からの転換に向けたサンタマルタ会議や、同5月の国際司法裁判所の勧告的意見を受けた国連総会決議などでは、各国に行動を促すメッセージが示されている。日本もそれらを的確に受け止めつつ、日本企業が座礁資産化や国際サプライチェーンでの競争力低下を回避できるように、正確な政策シグナルを示すことが求められる。

(3)社会全体での脱炭素化を加速させるために、国際水準での炭素価格の実現を目指すべき

 GXの推進では、2026年度から導入されたGX-ETS(排出量取引制度)をはじめとしたカーボンプライシングも重要な役割を担う。二酸化炭素の排出に対して事業者に金銭的負担を求めることで、社会全体で効率的に削減を進められるからだ。本パッケージでも、この制度の強化が明確に位置付けられるべきである。
 GX-ETSの導入それ自体は歓迎されるものだが、改善を要する点も多い。特に、十分に高い水準での炭素価格が実現できるように、その上限は引き上げられるべきである。現状、2026年度では1トン当たり4,300円とされているが、年2%の物価上昇率を仮定しても、2030年には5,000円代半ばに留まる。他方、例えばIEAのシナリオ分析では、先進国経済で2030年に1トン当たり140ドル(約22,540円)にする必要があるとされるなど、国際水準とは大きな乖離がある。この水準に到達できるように見通しを示すことが必要である。

 以上3点の改善が政府には求められる。確かにエネルギーの安定供給はきわめて重要な問題である。しかし、国際情勢が流動的であるなか、そして何より地球温暖化が待ったなしの状況であるなか、その確保には既存政策の延長線上では足りない。省エネ・再エネを主軸に据えた新しいエネルギー政策への転換を、WWFジャパンは強く期待する。

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