象牙取引に関するWWFジャパン/トラフィックの見解


現在、アフリカゾウ(Loxodonta africana)が深刻な密猟の危機にさらされています。その最大の原因となっているのが、象牙を目的とした密猟と違法取引(密輸)です。

アフリカゾウの象牙は1989年より商業目的の国際取引が原則禁止されていますが、象牙に対するアジア諸国での過剰な需要はなくならず、密猟も続いています。アフリカゾウの個体数は、2006年以降の10年間で11万頭あまり減少したとみられ、近年は、密猟の犠牲になるアフリカゾウの数が、年間2万頭から3万頭に上るともいわれています。

こうした問題が横行している原因は、一つではありません。たとえば、貧困に苦しむ生息国での密猟の防止活動が十分に行なえていないこと、象牙の密輸にかかわる国々の取り締まりの甘さや、政治的腐敗、市場で違法象牙と合法な象牙の区別ができていないことなど、国や地域によってさまざまな原因が重なり、問題を大きくしています。

一方で、ゾウの数がほとんど減っておらず、自然死した個体の象牙を、自国の産品として合法的に輸出することを望む国や、自国内での象牙の取引を合法的に認めている国もあります。
アフリカゾウを保全するためには、国や地域の課題に応じた対策が必要とされているということです。

今、そうした対策の一つとして、各国で行なわれている象牙の国内市場閉鎖を求める動きがあります。長年、ゾウの密猟と象牙の違法取引に強く反対してきたWWFジャパンとトラフィックも、こうした野生生物犯罪につながっている国々での象牙の国内取引の禁止を支持しています。

日本の象牙市場に関しては、現在世界で問題となっている大規模な密猟や密輸に直接的な影響を与えているといった傾向は示されていないため、現状で直ちに閉鎖する必要はないと考えていますが、現行の法制度にはまだ問題があり、密輸品が紛れ込む可能性がゼロではありません。

したがって、日本政府と市場関係者が違法象牙ゼロ実現に向け、強い意志をもって対応しない場合は、今後国内取引を禁止する、といった厳しい措置を選択することも必要と考えます。

そして、日本が違法象牙ゼロを目指し、違法取引と闘い課題に悩む国々に良い事例を示すことが、国際社会とアフリカゾウ保全への貢献と責任として求められていると考えます。


象牙をめぐる背景情報

野生生物犯罪について

世界の野生生物犯罪は、年間およそ1兆円の規模と見積もられており、第70回国連総会においても違法取引根絶に向けた決議「Tackling the illicit trafficking in wildlife(野生生物の違法取引への取り組み)」(A/RES/70/301)が採択されました。

こうした犯罪は、国境を越えた犯罪組織の関与や、各国の汚職などが大きく関わっています。撲滅のためには、各国が効果的な法律の執行制度を確立すると共に、各国政府や国際機関が協力し、取り組みを行なうことが不可欠です。

また、野生生物犯罪を引き起こす要因には、アジア諸国における経済成長に伴う富裕層の増加や、開発途上国が抱える地域の貧困問題があります。

希少なものを所有することを富の象徴としたり、貧しさから野生生物を密猟する人や社会が存在することを考慮し、対応を行なう必要があります。

国際社会は近年、その解決に向けた取り組みとして、野生生物犯罪に対抗するための「宣言」をいくつも発表してきました。

こうした宣言に、多くの国が積極的に参加し協力することも必要です。

ロンドン宣言(2014年2月) 41カ国+EUが、野生生物犯罪と闘うための緊急かつ断固とした行動をとることを合意
カサネ声明(2015年3月) 31カ国の政府代表によって、世界的な密猟の危機への対策強化の決意を新たにし、急増する違法な野生生物取引に対抗するための重要な施策を採択
第69回国連決議A/RES/69/314(2015年7月) 世界的な密猟の危機に終止符を打つために集団的努力を向上させることを各国が誓約する決議「Tackling the illicit trafficking in wildlife(野生生物の違法取引への取り組み)」が採択された。
第70回国連決議A/RES/70/301(2016年9月) 「Tackling the illicit trafficking in wildlife(野生生物の違法取引への取り組み)」が新たに採択された

各国の象牙市場について

象牙の国際間での商業取引は、現在ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)によって規制されています。

お土産として象牙のアクセサリーなどを購入した場合も、それを国境を越えて持ち出したり、持ち込んだりすることは、原則できません。

しかし、国内のみでの象牙の販売については、必ずしも違法ではありません。

以下の国々のように象牙の国内取引を法律で認めている国もあります。

エジプト、ナイジェリア、ジンバブエ、スーダン、アンゴラ、コンゴ民主共和国、コートジボワール、モザンビーク、ドイツ、イギリス、フランス、ポルトガル、スペイン、イタリア、ベルギー、米国、英国、中国、香港、台湾、タイ、日本、ミャンマー、ベトナム、など(2013年時点)

しかしながら、こうした市場には、密猟由来や、違法に取引された象牙が紛れ込む可能性が考えられるため、アフリカゾウの危機を増大させる要因の一つになっているという見解もあります。

このうち、近年のアフリカゾウの密猟の激化を受けて、中国、香港、米国やフランスのように自国の国内市場を原則として閉鎖することを明言している国・地域もあります。

国内市場の閉鎖というメッセージは、密猟や野生生物犯罪に取り組む強い意志を示すものと言えます。ただし、市場閉鎖を明言しているどの国も、取引禁止の例外を認めているため、完全な閉鎖を意味するものではなく、これが万能な対策になるわけでもありません。

実際、その象牙の市場がどれくらい厳しく管理されているか、また密輸のルートなどに利用されているのかなどは、消費量やその状況について国や地域によって事情が異なります。その点を考慮せずに市場を閉鎖した場合、取引をアンダーグラウンド化させ、逆に取り締まりを困難にしてしまう可能性があるほか、象牙の代替として、イッカクなど別の野生生物の牙や角を狙った密猟が増加する懸念もあります。その実現性を考えると、全面的な市場閉鎖が、どこまでアフリカゾウの保全に貢献するのかは未知数です。

日本の象牙市場について

象牙の市場が存在する国の一つである日本には、現在も象牙の在庫が相当量存在します(全形象牙の累積輸入量は6,000トン以上)。ここで取引されている象牙は、大きく下記の2つの由来によるものです。

【1】ワシントン条約の規制がはじまる以前に輸入されたもの

アジアゾウ:

1975年よりワシントン条約の附属書Iに掲載され、商業目的の輸出入が禁止になりました。しかし、それ以前には、特に規制がなく輸出入が自由におこなわれていたため、1975年以前に輸入されたアジアゾウの象牙も残っていると考えられています。これらの象牙が今も国内で合法的に取引されている可能性があります。

アフリカゾウ:

1977年に附属書IIに掲載され、1989年に附属書Iに移行されて、象牙の輸出入が禁止されました。日本には、1989年までに輸入された象牙の在庫がまだ残っており、合法的に売買されているものもあります。

【2】One-off saleによって輸入されたもの

国際取引全面禁止(1989年の全個体群附属書I掲載)から数年後、密猟が少なく生息状況が安定していたため附属書IIに移行された個体群(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカ共和国)の象牙が、限定的に輸入されたことがあります。

これは、自然死したゾウと害獣駆除によって捕殺されたゾウから採取した象牙で、南部アフリカ諸国が合法的な輸出を求める提案をワシントン条約に対して行ない、それが締約国会議で認められました。「One-off sale(ワンオフ・セール、一回限りの取引)」と呼ばれるものです。

この時、象牙を購入するために生息国に支払われた資金(1999年:およそ50万ドル、2008年:およそ1,550万ドル)は、アフリカゾウの保全や地域の発展のために利用されました。

この事例が過去に2回だけ(1999年:約50トンと2008年:約100トン)あります。現在の日本には、その時に輸入した象牙の在庫があり、それによって国内市場での需要がまかなわれていると考えられます。

日本は上記【1】と【2】の象牙を利用しており、違法取引に関する調査でもその関与が報告されていないことから、現在世界で問題となっている大規模な密猟や違法取引に直接的な影響を与えている可能性は低いと考えています。しかし、現行の日本の法制度が、他国より進んだものになっているとはいえ、密輸品が紛れ込む可能性がゼロではありません。


ワシントン条約の取り組み

アフリカゾウは、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する法律:CITES)によって、国際取引を規制する観点から、さまざまな保全対策が取られてきました。

例えば、1997年以降、2つのモニタリング強化のシステムが構築されました。

これらのシステムによってもたらされるデータは、ゾウの保全に関するワシントン条約の意思決定に活用されています。

ETIS:
Elephant Trade Information System(ゾウ違法取引情報システム)

世界の象牙の違法取引のデータを収集・分析する

(右図)象牙の押収量の推移(重量別の割合)
出典:CITES CoP17 Doc.57.6(Rev.1), Addedum ETISデータより

第17回ワシントン条約締約国会議(CoP17)開催直前にデータが追加され、新たに分析された結果、2014年には減少の兆候を示していると考えられていた象牙の押収が、引き続き増加していることが示された。

MIKE:Monitoring the Illegal Killing of Elephants(ゾウ違法捕殺監視システム)

ゾウの密猟傾向に関する情報を収集・周知する

  • 0.0は、発見された死体が全て自然死、1.0は全てが違法な捕殺であったことを表す
  • PIKEは、密猟傾向に関する情報を収集しているMIKEの調査地点で、発見された総死体数に対する違法捕殺の割合を測定している。
  • アフリカ全土で密猟が確認されているが、地域ごとに傾向が異なる。

この他、条約では2013年以降、中国、香港、マレーシア、カメルーンなどアフリカゾウを対象とした野生生物犯罪の懸念のある国に対して、象牙の管理やその執行体制を強化するための「国内象牙行動計画」を策定するように求めています。

NIAPs:National Ivory Action Plans (国内象牙行動計画)

ETISの分析に基づいて、象牙の違法取引に関与しているレベルが高い国を指定し、ワシントン条約締約国会議が計画策定を勧告する

ETISの分析による象牙の違法取引懸念国/地域

CoP16(2013年)時点の分析CoP17(2016年)時点の分析NIAP策定が勧告されている国
最重要国/地域
primary concern
中国、香港、ケニア、マレーシア、フィリピン、南アフリカ、タンザニア、タイ、ベトナム 中国、香港、ケニア、マラウイ、マレーシア、シンガポール、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ベトナム 中国、香港、ケニア、マレーシア、フィリピン、タンザニア、タイ、ウガンダ、ベトナム
重要国/地域
secondary concern
カメルーン、コンゴ、コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、ガボン、モザンビーク、ナイジェリア、台湾、ウガンダ カンボジア、カメルーン、コンゴ、エチオピア、ガボン、ナイジェリア、スリランカ、南アフリカ、タイ カメルーン、コンゴ、コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、ガボン、モザンビーク、ナイジェリア
重要監視国/地域
important to watch
アンゴラ、カンボジア、日本、ラオス、カタール、UAE アンゴラ、コンゴ民主共和国、エジプト、日本、ラオス、モザンビーク、フィリピン、カタール、UAE アンゴラ、カンボジア、ラオス
  • 出典:CITES, CoP17 Doc.57.6

日本は、市場が存在する国として注意すべき国「important to watch」に入っています。

CoP16の時点では、NIAP(国内象牙行動計画)を策定するレベルではないと判断されていましたが、密輸出の事例が報道されていることからCoP17(2016)では、NIAP策定の勧告が成される可能性が出てきました。

第17回ワシントン条約締約国会議(COP17)の決議で、日本がこの行動計画の策定を求められた場合は、WWFジャパンとトラフィックは、国内取引の禁止を視野に入れた、より厳しい対応を求めます。

附属書への掲載

附属書について

ワシントン条約では、規制の対象となる動植物を3種類に分類し、種の状況に合わせた規制を行なっています。

附属書I 絶滅のおそれがあり取引による影響を受けるため、原則として国際取引を禁止しています。
附属書II 取引を管理しないまま取引を続けていては絶滅のおそれがあり、取引を規制しています。取引を行うためには、種への影響のない範囲であるかどうかを判断し、輸出国の許可書の発行が必要です。
附属書III 自国に生息する種を守るために、生息国が他の国に協力を求めるものです。いつでも掲載を申請することができます。取引を希望する場合には、その国の許可書が必要です。その他の国から輸出をする場合には、附属書IIIに掲載されている国ではない事を示す(原産地証明書)必要があります。

アフリカゾウの附属書掲載について

アフリカゾウは、1977年に全個体群が附属書IIに掲載された後、1989年に全個体群が附属書Iに移行されました。

その後、生息状況の安定している南部アフリカ諸国の提案により、1997年にボツワナ、ナミビア、ジンバブエの個体群が、2000年に南アフリカ共和国の個体群が附属書IIに移行されました。

その他の地域のアフリカゾウの個体群は、引き続き附属書Iに掲載されています。

附属書IIに移行された南部アフリカ4カ国の象牙も、通常の商業取引は認められておらず、限定的な取引が許可されるにとどまっています。

この限定的な取引の事例が、1999年と2008年に例外的に認められた輸出(One-off sale)です。

この時に購入した日本(2回の合計約90トン)と中国(約60トン)に向け輸出された象牙は、4カ国内でストックされていた自然死したアフリカゾウと害獣駆除によって捕殺されたアフリカゾウから採取した象牙に限られ、違法なものが紛れ込まないようワシントン条約事務局の立ち合いの厳しい監視のもと、各回一度だけの輸出が行なわれました。


WWFとトラフックの取組み

WWFとトラフィックは、長年、アフリカゾウの保全や野生生物犯罪対策のため、さまざまな取り組みを行なってきました。

  • ETIS、MIKEの構築支援 / ETISの運営と分析
  • 密猟対策チーム支援:機材の提供・トレーニング、地域ベースの管理方法開発支援
  • ゾウ個体数調査支援
  • 生息国における法整備支援
  • 地域住民への教育やトレーニング支援
  • 各国の法執行担当(税関職員など)の教育やトレーニング

トラフィックは、野生生物の取引がその種の存続に影響を与えていないか、またどのような問題があるのか調査し、必要な対策について提言をおこなっています。アフリカゾウ、象牙に関する最新の調査報告書です。

WWFジャパンとトラフィックの提言

密猟と違法取引ゼロを達成するために、WWFジャパンとトラフィックは2つの提言を行なっています。

  • 提言1.他の国々や地域社会と協力し、異なる国々の状況に応じた適切な対策を進めること
  • 提言2.日本国内での違法象牙のゼロ実現をめざすこと

提言1.他の国々や地域社会と協力し、異なる国々の状況に応じた適切な対策を進めること

課題やその深刻さが多岐にわたるアフリカゾウの保全問題は、それぞれの国によって状況や環境が異なるため、求められる対策もまた、多様です。

「全ての国の象牙の市場がなくなればゾウが守れる」といった単純な発想で、解決できるものでは決してありません。根本的な解決を図るためには、世界のどこで、どのような課題が生じているのか、見極めると同時に、その内容に応じた対策を実行することが非常に重要です。

また、地域の人々が、その保護に参加しなければ、アフリカゾウはもちろん、そこに生息する野生の動植物を守ることはできません。

生息国の声を聞き、アフリカゾウの保全と地域社会の発展両方に貢献する策が講じられる必要があります。

アフリカゾウの危機の状況について

アフリカゾウの個体数や密猟の状況は、地域によって傾向が異なります。

IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」でのアフリカゾウ(Loxodonta africana)の評価

生息域中央部西部東部南部
レッドリスト EN(絶滅危惧種) VU(危急種) VU(危急種) LC(低危険種)
絶滅危機のレベル 非常に高い 高い 高い 低い
推定個体数 24,000頭 11,000頭 86,000頭 293,000頭
代表的な国 コンゴ共和国、カメルーン、ガボン ブルキナファソ、ガーナ、ベニン ケニア、タンザニア、モザンビーク ジンバブエ、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国

アフリカ中央部・西部および東部

中央部と西部では個体群は既に大きくその個体数を減らしており、安定しているとされていた東部でも近年、その個体数/生息数が激減していることが報告されています。こうした生息国の中には、すべての個体群を国際取引禁止の対象とし、世界的に市場をなくすことでゾウの保全を図ろうとしている国々があります。

アフリカ南部

20世紀後半にアフリカ東部を中心に起きた大規模な密猟の時にも、大きな被害を受けませんでした。現在も、個体群の規模が大きく、個体数は比較的安定しています。しかし、地域にすむ人々の人口が増加し、開発が進む中でヒトとゾウの衝突や、自然死したゾウの象牙の保管管理など、密猟とは別の問題を抱えています。これらの国々は象牙を自国の大切な資源と考え輸出したいという希望を持っており、それによって生息地の管理、地域住民の生活向上と野生生物との共存を目指すとしています。

象牙の需要の上昇と密猟の要因について

ゾウの密猟の原因は、さまざまな要素が影響しあう複雑なものです。

東・東南アジアの富裕層の増加に伴う象牙消費の増加

中国の消費者による支出の傾向と、MIKE(ワシントン条約が管理しているゾウ違法捕殺監視システム)が報告するアフリカにおけるアフリカゾウの違法捕殺率(PIKE)の推移には、強い相関関係があると報告されています。

生息国と消費国の関係

アフリカのインフラ整備や資源採掘に関わるアジア人労働者の増加に伴い、アフリカの市場と主要消費国の距離が縮まっています。特にアフリカ-中国間を頻繁に行き来する短期・長期滞在者が増加しており、このことが違法な取引の増加の一因となっている可能性が指摘されています。

生息国の法執行の不履行

アフリカゾウが生息する国では、地元の法執行担当官(密猟のパトロールなど)が買収され、密猟が見逃されたり、政府高官が汚職に手を染め、政府が所有する在庫象牙の不適切な管理が生じるなど、法律の執行が適切に行なわれていない実態が明らかになっています。
また、アフリカの多くの都市では法による規制や、その執行能力が弱いために、出所の不明な違法な象牙を、公然と取引している地域もあります。

政府による統治(ガバナンス)の弱さ

生息国、輸出国、中継国のそれぞれで生じている、政治的な腐敗や、軍事的な混乱が、国境を越えた違法取引を増大させています。こうした国々における政治的な力の弱さは、密輸レベルと相関関係が高いことが明らかになっています。
また、内戦に伴う密猟の増加も指摘されているほか、国境を越えた犯罪組織の関与により、密猟や象牙の違法取引は、大規模なものとなっています。パトロールに従事するレンジャーが殺害されるなど、地域の人々の安全の確保も重要な課題になっています。

密猟以外の脅威について

密輸のルートは変化し、複雑化している。
アフリカの東側の港からアジア諸国を経由(中継)して
中国、香港、タイを最終仕向地として向かうルートが主流である。
近年、中継国としてアラブ首相国連邦やスペインが
加わっていることも特徴的である(クリックすると拡大します)

アフリカゾウを脅かしているのは、密猟だけではありません。それ以外の要因も深刻です。これらの要因が、密猟とあいまって、危機をさらに大きなものにしています。

生息地の消失

人口密度の増加、都市の拡大、農地開発、森林破壊、インフラ整備といったことを要因としてゾウが生息するのに適した土地が減少しています。

人との衝突(コンフリクト)

ゾウの生息地に人が侵入することによって発生する人とゾウの衝突が、ゾウを捕殺する要因の一つになっています。これは特に、ゾウの個体数が安定している南部アフリカ諸国で問題になっています。人口増加や開発は、ゾウの生息地と人との距離を縮め、農作物や人への被害を増加させました。この結果、毎年、数百頭にのぼるゾウが、危険な動物として捕殺されています。

象牙以外の需要

ゾウの捕殺については、ブッシュミート(野生生物の肉)目的のものあります。生息国では、日々の暮らしにも困っている貧困にあえぐ人々が、密猟・狩猟を行なう例が多くあり、これによってゾウの生息状況が悪化することが指摘されています。ゾウの狩猟によって得られる肉は、しばしば農村部でタンパク源とされ、象牙は収入源となっています。

密輸ルートの変化と複雑化

ゾウの生息国でもなく、象牙の消費市場も小さい国が、密輸などの「中継国」となって、利用されるケースがあります。象牙の密輸を行なう犯罪組織は、こうした複数の国を経た、複雑な取引ルートを通して、象牙の出所を曖昧にし、追跡を困難にしています。こうした中継国には、ガバナンスの低い国が選ばれる上、そのルートも頻繁に変化しています。
これは、アフリカゾウの生息国と、象牙の消費国以外にも、この問題に関わる国が多数存在し、問題を複雑化している要因の一つです。

提言2.日本国内での違法象牙のゼロ実現を目指すこと

日本は、過去2回行なわれた「One-off sale」において、2度とも輸入を認められた唯一の国です。このOne-off saleとは、1989年の象牙の国際取引の禁止以降、ワシントン条約の承認を経た国にのみ行なわれた国際取引のことで、1999年と2008年に実施されました。

それ以外での国外からの象牙の輸入は禁止されていますが、日本国内では、1993年に制定された「種の保存法:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」で象牙の取引の要件が整備、規定され(1995年)、そうした条件を満たす象牙・象牙製品に限って国内での取引が認められています。

現在、この日本の市場で取引されている象牙は、2度のOne-off saleによるものと、1989年の輸入禁止以前から存在した一部の象牙によるもので、それによって国内需要がまかなわれています。在庫が十分に存在すること、また違法取引への関与が低いと報告されていることから、WWFジャパンとトラフィックでは、現在起こっているアフリカゾウの密猟に、日本の国内市場が大きく影響を与えているとは考えておらず、現状では直ちに閉鎖する必要のない国内市場の一つとして認識しています。

しかしながら、日本への象牙の密輸の可能性はゼロではありません。取引管理制度が確立されているとはいえ、現状の体制では、消費者が手にする象牙製品の由来をたどることはできない(製品に貼付される標章制度は任意)ことや、製品になっていない未加工象牙(全形象牙)が国内にどれくらいあるか把握できていないことなど、密輸された象牙や象牙製品が紛れ込んでも、合法的に売られているものと区別することが困難です。

さらに、こうした管理体制の不備を突いて、密輸をもくろむ犯罪者が、日本に持ち込む、のではなく、日本から海外へ象牙を違法に持ち出した事例が報道されています。こうした象牙は、密猟を直接増やすものではありませんが、海外の闇市場と、そこでの取引を拡大させ、アフリカゾウを間接的に脅かす要因になることが考えられます。

これらは、日本が優先して対処すべき大きな課題として認識されるべきであり、One-off saleで合法的に象牙を輸入した、国内市場を持つ国の大きな責任です。そのためにも、日本の国内で、在庫の象牙の状況を正確に把握し、管理制度と運用の不備を見直し、規制強化を図ることが重要です。

また一方で、日本は過去に大量の象牙を輸入し、市場を維持していながら、その後、国全体の需要の縮小に成功してきた、数少ない国の一つでもあります。
現状で残されている制度・運用の不備を解消し、合法的かつ野生生物犯罪に寄与しない限定的な市場が確立できれば、それは目下さまざまな課題を抱えているアジア諸国に対し、良い先例を日本が示すものになると考えます。

そのために、WWFジャパンとトラフィックでは、政府と関係者に次の提案を行なっています。

国内の象牙および象牙製品のトレーサビリティを確保するための制度の改善

  • 象牙取り扱い事業者への要件の強化、および事業者情報の公開
    現状象牙を取り扱う事業者は届出をする必要がありますが、これを登録制(許可制)とし、その情報を公開し、消費者が適正な事業者かどうか判断できるようにすべきです。
  • 任意の合法性担保制度である製品認定制度(標章)の検証と改善
    現状の標章制度の有用性をまず検証し、より効果的な制度となるようにすべきです。
  • 国内に存在する象牙の在庫量と所有者の把握
    全形象牙の累積輸入量が6,000トン以上(1951~1989年)と見積もられる中、登録された全形象牙は、累積約305トン(1995~2015年)です。製品の原材料として使用されたものを除いても、所有者が不明な象牙が多数存在します。それらは把握すべきものと考えます。

密輸入・輸出の防止を徹底

  • 税関など、水際管理の強化
    密輸入の可能性がゼロではないことに加え、密輸出の事例も報道されていることから、厳格な管理体制が必要です。
  • 輸送セクターとの連携による違法象牙の摘発強化
    税関など水際対策に加えて、輸送に関わる民間セクター(物流企業、航空企業、航空貨物企業や輸送関連企業)との連携も重要です。
  • アジア地域の各法執行機関との協力強化
    アジア地域には消費国・中継国両方の側面を持つ国々が混在しています。関係国との協力が非常に重要です。

上記の取り組みは、日本の象牙市場が、アフリカゾウの密猟と、世界の違法市場に関与しないことを確実にする上で、欠かすことのできない条件です。

これらが適切に行なわれないのであれば、日本においても象牙の国内取引を禁止する厳格な措置を取ることも必要であると考えます。


参考文献

  • Elephant Status Report, 2016
  • WWF FPs決定 MIKEデータ, PNAS vol.111 no.36(2014) http://www.pnas.org/content/111/36/13117.full.pdf
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    https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/58/E58-36-2.pdf
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    http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0076539
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  • IUCN, 2011
    https://cmsdata.iucn.org/downloads/ssc_op_045.pdf
  • http://www.trafficj.org/press/animal/n151012news.html

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