【WWF声明】拙速な原発方針の転換と実効力に欠けるGX関連法案の閣議決定に抗議する

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岸田政権は2023年2月28日にGX脱炭素電源法案を閣議決定しました。これはGX基本方針に必要な法制度をGX推進法案と共に定めるものです。しかし、現行の60年制限を超えた稼働の容認など、国民的議論なく原発活用の方針を転換します。カーボンプライシングも実効性に乏しく導入は遅いままです。WWFジャパンはGX関連法案に抗議し、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させるための3つの修正点を提示します。

2023年2月28日、岸田政権は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(以下、GX脱炭素電源法案)を閣議決定した。これは、同2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の実施に必要な法制度として、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」(以下、GX推進法案)とともに定められるものである。
 WWFジャパンは、これら2つのGX関連法案で、2011年の東京電力福島第一原発事故の教訓を蔑ろにする形で原発の規制が拙速に変更され、実効性に乏しい形でカーボンプライシングが導入されることに抗議する。パリ協定の掲げる1.5度目標の達成には、世界全体で温室効果ガス排出量を2030年までに半減させなければならない。それに向けた温暖化対策では、キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の最大限の活用が中核をなすべきである。これら実効性の高い排出削減策が導入・実施されるよう、GX関連法案は以下の3点について今後の国会審議で修正される必要がある。

(1)GX脱炭素電源法案のうち原子炉の運転期間延長に関する改正案を廃案にすべき
現行の原子炉等規制法は原発の運転期間を最長60年に制限しており、東京電力福島第一原発の事故の反省に基づく安全規制である。本GX脱炭素電源法案はそれを超えて運転できるように変更し、さらに利用側の経済産業省が所管する電気事業法に移すものであり、これは、原子力における安全と利用の峻別という、前述の事故から得た教訓を無視することにほかならない。なにより2011年3月11日に宣言された原子力緊急事態宣言がいまだ継続されている中、安全規制をなおざりにする議論は許されない。
また安全規制を所掌する原子力規制委員会において、原子炉等規制法の改正案は、委員の一人が明確に反対する中異例の多数決で了承されており、他の委員からも議論を急かされた旨の発言が示されている。2022年8月の岸田総理の指示に端を発する一連の検討は、国民的議論を欠くばかりか専門家の間でも一致を見ておらず、今回の改正は拙速との誹りを免れない。
原子力災害が万が一生じた場合に、国民の生命・身体・財産、並びに自然環境に甚大な影響を及ぼすという避けられないリスクに鑑みれば、懸念が残存するなかで原子炉の運転期間を延長する本法改正は廃案とした上で、まずは広く国民を巻き込んだ熟議が確保されなければならない。同時に2030年排出量半減に向けて、再エネ・省エネ既存技術の最大限活用が優先的に進められるべきである。

(2)実効性の高いカーボンプライシング早期導入と多様なアクターの関与を確保すべき
 GX推進法案は、発電事業者に対する有償オークションを2033年度から、化石燃料賦課金を2028年度から導入する。しかし、2030年までに排出量半減というパリ協定のタイムラインに整合しないため、排出量取引制度と化石燃料賦課金の導入時期の規定は可能な限り前倒しして修正されるべきである。
 本来、高い排出削減効果を得るためには、自主性に基づくのではなく、総排出量の上限(キャップ)設定と参加・遵守の法的強制を伴うキャップ&トレード型排出量取引制度を導入すべきだ。また、化石燃料賦課金では2030年排出量半減に必要な炭素価格から逆算して賦課金の単価を設定することが不可欠である。制度検討プロセスでは多面的な知見が必須であるため、環境大臣の意見はもちろん、気候科学等の有識者への諮問や国民の意見を収集する措置も併せて明確に定めるべきである。
 なお、導入後に炭素価格を引き上げていく際の検討や、ベースとなるGX推進戦略の達成状況の評価・見直しにも、多様なアクターの知見、最新の気候科学や国際的な動向の反映が必要である。またその実施タイミングを具体的な年数をもって定めることも重要だ。客観的・多面的な現状分析とそれに基づく間断ない施策強化を継続して行なうPDCAサイクルが、GX推進法案で構築されるべきである。

(3)投資支援において2030年までの排出削減への貢献度と透明性を重視するべき
 GX推進法案では、新たに設置するGX推進機構が、政府の予め定めた支援基準に準拠して民間企業のGX投資の支援を実施するとある。他方、その支援基準が満たすべき要件は条文にほとんど定められておらず、経済産業大臣に大きな裁量が与えられている。
 革新炉や水素・アンモニア混焼など、日本の2030年排出削減目標の達成にほぼ寄与しない技術の開発も対象に含まれることが予想される。この場合、当該目標の達成に不可欠な再エネ・省エネなど既存技術へ振り向けられるべき投資原資が奪われることになりかねない。
 本来であればペロブスカイト太陽電池や連系線強化、デマンドレスポンスの推進などの短期での確実な排出削減に特に有効な再エネ・省エネ既存技術を中心として集中的に投資される必要がある。上述の支援基準に求められる法定の一要件として、2030年までに見込まれる排出削減量の考慮を条文に明記するべきである。
 また、温暖化対策は全ての国民が利害を有することに鑑みると、こうした投資支援業務を担うGX推進機構の運営や、個別の支援決定では高い透明性が要求される。それらに関する議事録の公開が義務付けられるべきである。

 パリ協定の下、日本を含め各国には排出削減目標の継続的な引上げが求められる。2030年目標よりも野心的な2035年目標を、遅くとも2025年には提出する必要がある。脱炭素化に向けた世界の潮流は加速を続ける中、日本も立ち止まってはいられない。キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の最大限の活用など国際的に有効と評価される排出削減策を導入してはじめて、日本経済の国際競争力は維持・強化できる。今回のGX関連法案を今後の国会審議で修正し、グリーンに向けた真のトランスフォーメーション(変革)に着手するべきである。

<2023 年 3 月 30 日追記>
WWF ジャパンは、GX 推進法案・GX 脱炭素電源法案の問題点と改善策について、以下のペーパーを取りまとめました。
「GX 関連法案の改善ポイント脱炭素社会の実現と産業競争力の強化の真の両立に向けて」

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