科学誌『Nature』の両生類爬虫類のペット利用に関する論説
2026/10/21
- この記事のポイント
- カメやヘビ、ヤモリ、カエルなどの爬虫類・両生類は、その独特な姿や希少性からペットとして人気を集めています。しかし、その需要の高まりが、世界の野生生物に深刻な影響を与えています。2026年9月、 科学誌『Nature』に掲載された、医師・公衆衛生の専門家による論説「Close legal gaps in the global pet trade(世界的なペット取り引きにおける規制のギャップを埋めよ)」は、ペット取引が爬虫類・両生類の生存を脅かしているとして、国際社会に対策強化を求めました。この背景と内容を解説します。
野生から集められる「ペット」
現在、世界では爬虫類の約20%、両生類の約40%が絶滅の危機にあるとされています。主な原因は生息地の破壊や気候変動ですが、人による利用、特にペット目的の捕獲も近年、大きな脅威となっています。
論説「Close legal gaps in the global pet trade(世界的なペット取り引きにおける規制のギャップを埋めよ)」によると、ペットとして取引される爬虫類の半数以上、両生類の約4割が野生から直接採集された個体(ペット市場では、WC, WD, Wildなどと称されます)です。
珍しい種類ほど高値で取引される傾向があり、新たに発見された種(しゅ)や生息地が限られた固有種がターゲットとなることも少なくないとされています。その結果、一部の種では野生個体群減少の懸念が示されています。
取引がもたらすさまざまなリスク
野生動物の取引は、野生下の個体数を減らすだけではありません。
野生で捕獲され、輸送された個体が病原体を運び、新たな地域で感染症を広げることがあります。
また、逃げ出したり放されたりした個体が外来種となり、在来生態系に影響を及ぼすケースもあります。
さらに、ペットとして流通する過程で、その動物本来の行動を十分にとれない飼育環境に置かれるなど、動物福祉の観点からも課題が指摘されています。

ラッブ・リム・ツリーフロッグ(Ecnomiohyla rabborum)は、中南米に分布していた樹上性の大型のカエル。ペット取引が主因で世界中に蔓延したとされるカエルツボカビ病により激減し、写真の飼育個体を最後に2016年に絶滅したと考えられています。
日本も無関係ではない
両生類・爬虫類のペット利用が引き起こすさまざまな問題は海外だけの話ではありません。
WWFジャパンが2026年9月に日本の野生生物取引を分析した報告書でも、日本は世界有数の生きた野生動物の輸入大国であることを示しています。
特に爬虫類と両生類では、輸入量だけでなく輸入される種数の多さでも世界の上位に位置しています。絶滅が危惧される種や、生息国で保護されている固有種も輸入されており、一部では野生個体への依存や取引経路の不透明さが課題として浮かび上がりました。

生息国のインドネシアではコバルトツリーモニター(Varanus macraei) の野生捕獲(WC)個体の輸出は認められていないが、WC個体を飼育下繁殖(CB)個体と偽って行われる取引が長年問題となっている。日本のペット市場でも本種は人気がある。専門家は、「本当にCBであれば、若齢個体の取引が主なはずだが、日本市場には、成体やWCの特徴のひとつである、欠けや傷の目立つ個体が多い」と指摘しています。
また、日本国内の市場調査では、輸入記録の確認ができない種や、由来を十分に追跡できない個体の流通も確認されています。さらに、日本国内で外来種として国や都道府県のリストに掲載されている爬虫類の実に76%がペット由来であることも示されています(WWFジャパン調べ)。

2010年代に再発見されたミミナシオオトカゲ( Lanthanotus borneensis )は生息国で保護されていて、2017年にはワシントン条約の附属書II掲載種となりました。WC個体の輸出の記録がないにも拘わらず、日本を含む世界のペット市場で流通しています。
現在の規制では十分ではない
野生動植物を過剰利用から守るために国際取引を規制する、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約、CITES)は重要な仕組みですが、この制度の規制対象となっているのは爬虫類全体の約1割、両生類ではわずか4%にとどまります。
多くの種は国際的な取引管理の対象外であり、問題が明らかになってから規制される「後追い型」の対応になりがちです。

1970年代から生息地・沖縄で保護対象となっているクロイワトカゲモドキ(Goniurosaurus kuroiwae)は、2021年になってやっとワシントン条約の規制対象となりました。かねてから海外への違法な持ち出しが指摘されていましたが、2026年にも国内のペット事業者が関与する事件が摘発されました。また本種以外にも日本の法律で保護されている固有種の海外におけるペット需要を当て込んだ密猟や密輸が近年続発しています。
『Nature』の論説では、この状況を改善するため、以下の3点を提案しています。
(1) 輸出国・輸入国の法制度強化
輸出国は、科学的根拠に基づく規制を整備・執行すべきとしています。オーストラリアやスリランカのように、在来種の商業輸出を全面禁止する予防的対策も一案であると述べています。そして、輸入国は、ワシントン条約による規制の有無に拘わらず、原産国の法令に反して採集・輸出された個体の輸入、販売、所有、再輸出を禁止すべきであり、米国のレガシー法を参考とすべき例としています。
(2) ポジティブリストの導入
科学的な評価に基づいて飼育可能な種を限定する「ポジティブリスト(ホワイトリスト)」の導入も積極的に提案し、リストに入れる種が満たすべき4つの条件を挙げています。
・合法かつ持続可能な供給が可能であること
・外来種化するリスクが低いこと
・感染症病原体を運ぶリスクが低いこと
・飼育において良好な動物福祉を満たせること
そして、既にポジティブリストを導入している域内の先行事例を参考にEU全域での導入も強く求めています。

北欧ノルウェーでは、外来の哺乳類・爬虫類・両生類のペット飼育は原則禁止されていますが、爬虫類においてのみ、例外的に19種のペット飼育を認める、ポジティブリスト制が2017年から導入されています。飼育可能な種は、写真のコーンスネーク、ボールパイソン、レオパードゲッコーなど。
(3) 国際枠組みの強化
この論説は、ワシントン条約だけでは不十分である述べています。国際組織犯罪防止条約(UNTOC)を活用して野生生物犯罪への国際協力を強化する必要性を訴え、2026年10月の締約国会議の場は、そのために新たな環境犯罪議定書制定へ進む好機であるとしています。そして、その議定書には、原産国法違反で取得された野生生物の輸入・販売等を犯罪化する規定を設けるべきであり、加えて腐敗防止条約(UNCAC)の実施強化も必要と述べています。そしてさらにワシントン条約、UNTOC及びUNCACを組み合わせた国際的枠組みの構築が有効としています。
消費国としての責任
日本でもペットショップの店頭やSNS投稿で珍しい動物を見かけることがあります。しかし、その1頭がどこから来たのか、野生での保全にどのような影響を与えているのかを知る機会は多くありません。
現に先ごろ発覚したペット事業者が関与したアデレードアオジタトカゲの無登録取引事件や過去のペレンティオオトカゲの密輸事件のように違法取引された個体がペットショップで販売・広告されることもあるのです。
もちろん、店頭のラベルやネット上の情報ではその個体の出自や流通経路は明らかになっていません。
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再び違法取引、今度はオーストラリア固有のトカゲ
https://www.wwf.or.jp/activities/news/6406.html
また密輸!今度はオーストラリア最大のトカゲ!
https://www.wwf.or.jp/staffblog/news/4174.html
WWFジャパンの調査が示したように、日本は重要な消費国の一つです。だからこそ、輸入や販売の透明性を高め、取引の合法性や持続可能性を確認できる仕組みづくりが求められています。
希少な動物への関心が高まる今、ペットとして取引される個体の背景にある自然や野生個体群にも目を向けること。それが消費国に求められる責任ではないでしょうか。
WWFジャパンは、行政や事業者団体との意見交換などの機会を通じて、消費国としての責任を果たす仕組みの必要性を訴えています。
