【第1部:省エネルギー編】 第2章 WWFシナリオの省エネルギー技術


脱炭素社会に向けた
エネルギーシナリオ提案

第2章 WWFシナリオの省エネルギー技術

2011年3月の原子力発電所の事故以来、政府の節電要請が行われ、節電への意識が高まり、多くの節電情報が知られるようになった。LED電球が急速に価格低下を惹き起こして、多くのビルや家庭で利用され始めている。電車のラッシュアワー以外の20%間引き運転、通路の間引き照明が行われている。休日のシフト(自動車産業は木金を土日にシフト)や、サマータイム(4時に終業)を実施する企業がある。すだれの売れ行きが多くなり、エアコンの代わりに扇風機を使う人が増えている。天井照明の代わりに卓上LED電気スタンドを使用する、などである(巻末資料参照)。このような節電意識が、人々のライフスタイルの中に浸透すれば、将来のエネルギー消費は大きく変わってくる。

省エネルギー技術についての統一的な調査は、すでに多く行われている。省エネルギー技術は、太陽エネルギーなどのエネルギー供給技術と比較すると、一単位あたりエネルギーのコストが小さく、導入するのに必要な時間が短いことが特徴であり、現実的な効果が高いことが知られている。また、一度導入されると、それ以後引き続いて省エネルギー効果を発揮し続けるので、新しく枯渇しない油田を掘削するのと同等の価値があり、きわめて有効な方法である。

2009年、マッキンゼー社はコストカーブを利用して、各種の省エネルギー技術を一覧する試みを行っている。コストカーブでは、横軸に各種省エネルギー技術の適用による省エネルギー量をとり、縦軸にそのコストをとる。単位エネルギーコストの小さい省エネルギー技術を左から右へ順にならべて省エネルギー量をとっていくと、適用するべき技術のコストと省エネルギー量がひと目でわかるので印象的である。そのコストカーブだけでなく、「脱温暖化2050」に取り上げられた省エネルギー技術、「超長期エネルギー技術ロードマップ」で検討された各種技術を参考にし、また最近の節電に関する情報を参考にして本報告を作成した。4)5)

ここでは、各種の効率の高い既知の技術(BAT:Best Available Technology)やライフスタイルの変化から生み出される省エネルギーの可能性を定量的に検討する。
各省エネルギー技術について、

エネルギー効率の変化割合=2050年における効率/2008年における効率

を調べて、これを第3章におけるシナリオ計算に利用している。

以下には、エネルギー統計の構成にしたがって、家庭部門、業務部門、産業部門、運輸部門における省エネルギーについてまとめる。

2.1 家庭部門の省エネルギー

2.1.1 照明

省エネ電球が世界中に普及すれば、二酸化炭素の排出量を少なくとも1%削減できると、国連環境計画が2010年の気候変動枠組み条約締結国会議(COP16)で報告した。報告書では「電球交換がおそらく最も簡単な温暖化対策だ」と報告している。報告書によると、世界の電力の19%を消費している照明器具について100カ国を調べたところ、エネルギー効率の悪い白熱灯が電球の売上の半分以上を占めていた。これを電球型の蛍光灯や発光ダイオード(LED)などに置き換えれば、電力消費の2%以上を削減でき、470億ドル(約4兆円)の燃料節約につながるとしている。

図2-1には、LEDと電球型蛍光灯と白熱電球のライフサイクルコストを比較している。LEDは消費電力が小さいため電気代は小さくなるが、初期費用が大きい。電球型蛍光灯は1,000時間で白熱灯より低コストになるが、LEDでは2,500時間必要である。しかし、LEDのコスト低下は急速であり、長期的にはすべてLEDに置き換わるとみている。

日本では、コンパクト型蛍光灯が白熱電球に比較して省エネルギーであるとして推奨されてきたが、ここへきてLED電球が低消費電力であることが広く知れわたった。LED電球は、光が拡散せず目的とする部分を照明するので、実際の使用状況においては既存の照明の半分程度の電力消費ですむことが多い。すでに白熱電球メーカーは、2010~2012年には白熱電球の生産中止を宣言し、すでに中止したメーカーもある。また蛍光灯の取り付け金具にそのまま差し込めて代替できる直管形のLEDランプも発売されている。

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蛍光灯の明るさは、1Wあたり96~110ルーメンである。これに対して、LED電球の明るさは、すでに1Wあたり、市販品で80ルーメン、開発中のもので100ルーメン程度になっており、これが2020年に至る前に、200ルーメンまで効率化する可能性がある。大量生産によりコストも急激に低下している。これにより、照明用電力が現状の4分の1になることが期待できる。住宅の電力消費のうち16%が照明であるが、エアコンと厨房用を除いた電力消費のうちでは照明は22%を占めている。この部分が4分の1になると予想できる。2050年までにはさらに効率が上昇する可能性がある。これとは異なる照明技術だが、有機ELも効率が高くなる可能性がある。

今夏の節電対策のなかでも、照明をLEDに交換する例は非常に多い。蛍光灯に比較しても電力消費が半分以下になり、最大電力の制限を避けるのに有効としてLEDへの交換が実施されている。

2.1.2 住宅の断熱化

住宅の省エネルギー基準は、旧省エネ基準(昭和55年)、新省エネ基準(平成4年)、次世代基準(平成11年)の3種があり、2050年までに逐次、高性能の基準が普及すると考えられている。

次世代基準では、1戸あたりの暖房需要は無断熱の場合と比較して、戸建住宅では24%へ、集合住宅の場合には、12%に低下する。

2005年には、5320万戸の住宅のうち、無断熱38%、旧省エネ基準50%、新省エネ基準9%、次世代基準3%と報告されている。

WWFシナリオでは、表2-1に示すように、2050年にはすべての住宅が最高性能の次世代基準に移行するものとした。既存住宅から高性能断熱基準の住宅へ時間をかけて移行してゆくとき、戸建住宅と集合住宅の戸数の変化を考慮にいれて計算すると図2-4のような暖房需要総量になる。2010年の暖房需要を100とした指数で表示している。

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戸建住宅と集合住宅の戸数を考慮して、高性能な次世代省エネ基準が普及していくとき、2050年には暖房需要総量は2010年の36%に低下することがわかる。

2.1.3 ヒートポンプ

ヒートポンプは、気体を圧縮すると温度が上がり、膨張させると温度が下がる性質を利用して、熱を移動させる機械である。すでに冷凍や冷房の設備に利用されてきた。冷房では室内の温度を汲み上げて室外に放出し室内の温度を下げる。暖房の場合には室外の温度を汲み上げて室内の温度を上げるものである。

その熱輸送の効率は、投入する電力に対して輸送される熱量の比COPで表現される。現在の技術ではCOPは3~4であるが、2050年ころには、およそ2倍になりCOPは7~8に向上すると予測されている。5)この場合には、暖房時に必要な投入エネルギーは暖房需要の1/7~1/8ですむことになる。

現状から比較して暖房需要が36%に低下した断熱構造の高い住宅で、このヒートポンプを使用すると、実際の電力消費は現状の18%ですむことになる。

2.1.4 高効率給湯器

ヒートポンプ給湯器の成績係数(COP)は3程度であるが、この効率は6~8に向上する可能性があり、2050年には、現状の2倍になると予想される。5)

2.1.5 電気製品

すでにブラウン管テレビは姿を消し、液晶型テレビが広く使用されている。これにともない年間消費電力量が減少したが、画面の大型化がそれを帳消しにしている面がある。今後も、省エネルギーが行われるが、画面の拡大があり、全体として電力消費は変化しないものと考えられる。

エレクトロニクス技術の絶え間ない発展により、パワーデバイスの効率向上の可能性があり、多くの電気製品のなかの半導体関連の回路電力の消費量は、2050年には半減するものと期待できる。5)

2.1.6 HEMSとスマートメータ

HEMS(Home Energy Management System)とは、IT(情報技術)を活用して家庭のエネルギー消費機器(家電製品や照明、給湯器、冷暖房システムなど)を最適な運転状態に制御し、居住者の快適性や利便性を損なうことなしに省エネルギーを行うものである。

NEDOは、2001年度~2005年度までの5年間をかけて、全国5地区(北海道、関東、阪神、中国、四国)でHEMSの実証試験を行っている。HEMSは2050年には100%普及して、その導入による省エネルギー効果は、電力消費の10%程度と推定されている。6)

スマートメータは、HEMSを簡便化して電力計に省エネルギーに関する情報を扱えるようにしたものと言える。とくに電力の供給源が太陽光発電や風力発電になったときには、スマートグリッドを介して、供給の変動に応じて情報が家庭に届き、緊急性の低い電気製品の電源をOFFにし、省エネルギー情報を伝える効果が期待されている。

2.1.7 待機電力の削減

(財)省エネルギーセンターの平成20年度の調査によれば、家庭の年間消費電力量4734kWhのうち、待機電力は285kWhで、6%を占めている。平成11年の調査では年間消費電力量4227kWh、待機電力398kWh、占有率9.4%であったので減少しているといえる。ここでは、2050年には、待機電力はひとつの電気機器あたり0.1W以下とし、各家庭の電力消費の1%まで低下すると推定した。

以上のように、電気製品の効率向上、HEMSやスマートメータの利用、待機電力の節減によって、2050年の家庭における照明以外の電力用途の効率は50%向上すると推定した。

2.2 業務部門の省エネルギー

2.2.1 建物の断熱化

オフィス、病院、スーパーマーケット、学校、などの建築物の暖冷房エネルギーは、国土交通省の断熱基準によって異なる。図2-5には、こうした建築物の断熱基準を示している。もっとも高性能の平成11年の断熱基準によれば、昭和55年以前の建物の75%に低下する。すでに新しい基準に沿った建物も建設されている。この基準は、住宅に比較するとゆるい基準であり、将来はさらに強化されるであろう。ここでは、現状に比較して2050年には75%の暖冷房消費に低減するとし、これに現状の2倍の効率、COPが7~8のヒートポンプを組み合わせれば、必要なエネルギーは37.5%に減少するとした。

建物におけるエネルギー消費をゼロにする「ZEB(ゼロエネルギービル)」の研究会が立ち上げられている。また、平成14年には、住宅・建築物に関して環境性能を総合的に評価し、ランク付けする手法として、「建築物総合環境性能評価システム(CASBEE)」が考案されている。環境性能は、建物本体の「環境品質」と建物が外部に及ぼす「環境負荷」の2つの観点から評価されている。「環境品質」/「環境負荷」の良い建物が高い評価を得るようになっている。このような活動が普及すれば、業務用建物のエネルギー消費が大きく低下すると期待される。

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2.2.2 遮熱・断熱フイルムの利用

ペアガラスの室外側ガラスの内面に金属膜をコーティングすると外の熱が室内に伝わりにくくなる。一方、同じペアガラスの室内側ガラスの外側面に金属膜をコーティングすると、室内の熱が外に奪われることを防ぎやすくなる。前者は遮熱であり、後者は断熱である。業務用建物では、都市によっては、年間の暖房需要よりも冷房需要が大きい場合が多いので、遮熱にすることが多い。これにより冷房用電力が低減できる。しかし、その効果については定量的なデータを入手できなかったので本報告には計上していない。

2.2.3 空調機器の効率向上

ヒートポンプのCOPは現在3程度であるが、2050年までに現状の2倍の6になると予測されている。5)

2.2.4 照明

業務用ビルでは、暖冷房用電力を除いた電力消費の半分が、照明用である。

すでにLED照明の効果についてはとりまとめたが、業務用建物でもLED化により4倍の照明用電力の効率向上が可能である。建物内部では、避難用照明のLED化が重要である。この照明は常時点灯しており、その電力消費は見逃せない大きさになっている。

このほかに、照明技術としては、人感センサーの導入、タスクライティング(局所機能照明)、自然光の利用などが利用可能であり、効果的に組み合わせればさらに省エネルギーになる。

今夏の節電により、過剰な照明に対する反省が生まれており、間引き照明、タスク・アンビエント照明(机上の小型照明と天井からの低照度照明を組み合わせる)が実施されている。かねてから欧米に比較すると日本の照明が明るすぎるという意見があった。オフィスにおける単純な750ルクスの推奨照度の見直しに進むと思われ、適切なレベルの照明が普及すると思われる。

2.2.5 BEMS

オフィスなどの場合にも、住宅のHEMSと同様のBEMS(Building Energy Management System)と呼ばれるシステムが開発されており、温度や湿度、空気質(炭酸ガス濃度など)、照明などをITにより制御する。これにより、10%の省エネルギーが見込めるとされている。これはミスを起こしやすい人間の操作を、コンピュータ化するものであり、確実に省エネルギーを実現できる。

2.2.6 OA機器の効率化

OA機器類は、半導体の効率向上の影響で、2050年には、エネルギー消費量が50%に低下すると見込む。5)

2.2.7 ITの利用、TV会議

TV会議システムは遠距離の移動を減らすのに効果的である。総務省の報告には、TV会議システムのCO2削減効果について、3社がデータを提出しており、導入前と比較したCO2削減率が、98.9%、98.4%、96.6%になったと報告している。6)これを単純に平均すると、削減率は97.97%になり、エネルギー効率は50倍である。これを用いて航空機で移動する場合の10%に代替手段としてTV会議が使用された場合のエネルギー消費の削減を検討すると、以下のようになる。

旅客航空のエネルギー消費の10%は、443・1000TOE(1000トン石油換算)(2008年)

これをTV会議で代替すると、業務部門の電力消費は6.95・1000TOEの増加になる。

ここで、上記報告書では航空機の原単位は0.186kgCO2/km、電力の原単位は0.363kgCO2/kWhである。7)

2.2.8 都市の緑化

2050年まではまだ40年近い時間があるので、都市の緑化を進めることが可能である。公園、街路樹、屋上緑化あるいは全面芝生などによって都市内の緑が増えれば、やすらぎの心理的効果だけでなく、建物の周辺の気温を低下させることができる。地表面温度のコンピュータ・シミュレーションによると、このような緑化によって真夏の周辺の気温を2℃低下でき、7月~9月の冷房期間の周辺温度を平均で1℃低下させる効果がある。7)これにより冷房デグリーデイを25%ほど小さくすることができる。日本の主要都市で緑化が進めば、業務用ビルの20%について、実際の冷房エネルギー消費を25%減少すると見込むことができよう。

2.2.9 クールビズ、ウォームビズ

温室効果ガス削減のために、夏のエアコンの温度設定を上げると電力が削減できる。オフィスで快適に過ごすため、平成17年夏にスタートしたのが「COOLBIZ(クールビズ)」である。クールビズ実施期間は毎年6月1日~9月30日となっている。今年になってさらに「スーパークールビズ」としたのは、冷房温度28℃、勤務時間を朝方へシフト、残業しない、上着なし、ポロシャツ、Tシャツ、サンダルOK、オフィスの日よけ、打ち水、パソコンの低消費電力モードへの切替へ、などである。ウォームビズは、冬の暖房時の温度設定を下げてもいいように、セーターや高性能アンダーウエアを着用することである。

環境省では、すべての事業所におけるクールビズの実施によって、平成17年度の冷房温度を26.2℃から28℃に1.8℃上げた場合に290万トンのCO2削減が可能と試算している。このときの業務用冷房エネルギーからのCO2排出量は2443万トンCO2であり、この削減量は11.87%に相当する。暖房用にも同様の削減可能性があり、すでに行われている効果をさし引いて、2050年に、ウォームビズとクールビズにより暖房用と冷房用エネルギーを8%低減できると推定した。

2.3 産業部門の省エネルギー

2.3.1 インバータ制御モータ

モータの回転数を負荷に応じて柔軟に制御すれば、省エネルギーになることは知られている。図2-6に示すように、通常のモータは部分負荷率が100%であれば、効率は100%近い優れた電気機器である。しかし、負荷が50%になると、その効率は低下してしまう。多くの電力が熱になって放散する。このとき、モータの回転数を制御して必要な電力のみを供給すれば電力消費量を小さくできる。これを実現するのが、インバータである。

インバータの導入費用は、1kWあたり7~10万円程度である。100kWのモータがあり、年間5000時間運転しているとき、インバータを導入すれば30%の効率向上となり、年間15万kWhの電力を節減する。このとき、工場における電気料金は1kWhあたり8円程度であり、年間の節減金額は120万円になる。インバータの導入費用は700万~1000万円であり、5.8~8.3年の投資回収期間になる。しかし、企業においては、通常許される投資回収期間は3年程度であり、これでは導入されないことが多い。

自家発電を保有する工場では、電気料金は1kWhあたり5円程度であり、さらに投資意欲は小さくなる。したがって、インバータ制御モータは、今のところ、電気料金が高く、年間稼働時間が長い場合にのみ有効であり、産業全体で幅広く普及するまでには至っていない。日立製作所が提供する「HDRIVE」は工場の生産設備に日立製インバータ装置を設置し、モータをインバータ化したことで生じるメリットの一部から費用を受け取る事業であるが、まだ実際のビジネスに結びついていないようである。

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しかし、2050年までを考慮すると、電気料金が高くなってゆき、省エネルギーへの関心が高まり、インバータ制御モータは広く普及する可能性を持っている。

ほとんどすべての産業に関係する技術である。ここでは、非鉄金属、金属機械などの分野の効率を20~30%向上させるひとつの要素とした。

2.3.2 鉄鋼リサイクル率の向上

産業のなかで鉄鋼業が消費するエネルギーは非常に大きい。鉄鋼生産は、高炉では、鉄鉱石をコークスで還元し銑鉄をつくりこれを転炉で鋼(スチール)にする。そして多くの場合これを圧延して鋼板にして利用する。鋼板は建築や機械や自動車に使用後回収され、電炉によって電気加熱により溶解・圧延工程を経て再利用される。電炉鋼の割合は電炉比で表わされ、2000年には世界で30%程度である。

2010年の鉄鋼生産は11億トンであり、2050年の世界の鉄鋼需要は24億トンとされている。鉄鋼生産の一次エネルギー消費は2010年の約1.7倍程度になる。2050年には24億トンの半分のおよそ12億トンはリサイクル鉄鋼(電炉鋼)になると予想されている。

電炉鋼が増大すると、リサイクル鉄鋼中の銅の混入率が高まり、鉄鋼の品質が低下すると懸念する向きもある。これには、国際的な規約を作って、銅の混入率を低下させることが必要であるが、実現すれば、電炉鋼の割合を高くすることが可能になる。

アルウッドの計算によると、2050年には、世界の鉄鋼のリサイクル率が90%になり、消失する鉄鋼10%を新規に供給してゆくだけで済むとしている。9)実際にリサイクル率を上げなければ、鉄鉱石が枯渇してゆく問題があり、規制がなくても鉄鋼業がそのような行動をとる可能性がある。

WWFシナリオでは、2008年の日本の鉄鋼生産1億550万トンのうち30%が電炉鋼とし、日本の鉄鋼業が最先端のリサイクル技術を開発して2050年に生産量8870万トンのうち電炉鋼の割合を70%にするものとして計算すると、必要なエネルギー需要は、表2-3に示すように、44.8%に低下する。この製鉄プロセスのエネルギー消費は、鉄鋼業全体のエネルギー消費の74.7%であることから、各年の鉄鋼業全体のエネルギー消費を表2-3のように算出した。

鉄鋼業では、このほかにもコークス炉の更新、廃棄プラスチックの高炉への投入、製鉄プロセスの高度化により、2050年までに必要エネルギーは大きく低減できると報告されている。5)

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2.3.3 セメント産業

将来のセメント生産は廃棄物の徹底的な処理産業となり、廃棄物中からセメント製造に必要な成分を取り出し、廃棄物の燃焼熱により生産が行われるようになると考えられており、効率向上の余地がある。5)2050年に30%の効率向上を見込む。

2.3.4 製紙産業

紙の再資源化率は60%を越えているが、これをさらに引き上げ、循環社会のなかのサステナブル産業に近づいていくことが考えられる。現在でも、製紙産業はバイオマスを工業的に利用しており、投入した木材チップの50%は黒液として回収利用され、残りはパルプとなって製紙原料になっている。不足分のエネルギーは石炭から供給されているが、将来はすべてバイオマスから供給することが考えられる。5)2050年には、30%の効率向上を見込んでいる。

2.3.5 化学産業

化学産業においても、ゼロエミッション化により、エネルギー損失を低下させ同時にガスタービンを利用したコプロダクション(熱と電力の発生)を行って、40%の省エネルギーが可能と推定されている。5)ただし、ここでは30%の効率向上を見込むことにする。

2.3.6 高性能工業炉

高温の熱処理に使われる工業炉を、循環型バーナーにより排気ガス中の熱をリサイクルさせる方式で効率が30%以上向上する。2020年までに、年間300万トンCO2の削減が可能とされている。2)この技術の適用分野は、素材産業をはじめとして、非鉄金属、金属機械などの分野である。

2.4 運輸部門の省エネルギー

2.4.1 カーシェアリング

 自動車に関するライフスタイルの変化がエネルギー消費を削減する例として、カーシェアリングが挙げられる。これはレンタカーという既存のビジネスモデルとちがって、インターネットを利用した会員制の簡単な契約利用システムであり、ガソリン価格の高騰により出現したビジネスである。

カーシェアリングは1980年代にスイスやドイツで始まり、2008年にはスイスでは8万4500人が会員登録をし、米国では27万人が5838台の車をシェアしているという。日本でもすでに大都市を中心にしてビジネスとして試みが行われている。

カーシェアリングを利用すると、自動車の利用が80%減少するという報告がある。個人で自動車を所有している場合、不必要なドライブでも自動車をすでに持っていることから、自動車を使用することになる場合が多い。自動車1台についてみると、1年間に利用する時間は、日本の場合は、1台あたり年間走行距離1万kmを時速30キロで走行するとき、利用時間は年間333時間でしかない。この短い時間のために1年中自動車を保有することはコストが大きいと感じるわけである。

カーシェアリングは自動車の利用度を改善する可能性がある。その場合、全体として、1台あたりの自動車利用は増大するが、全体の自動車交通需要が減少し、必要な自動車台数も減少することになる。

2.4.2 エコドライブ

エコドライブは運転方法の改善により燃費を向上させる方法である。詳しくは、ふんわりアクセル、加減速の少ない運転、早めのアクセルオフ、エンジンブレーキを積極的に使う、エアコンの使用を控えめに、アイドリングはしない、暖機運転はしない、交通情報の活用、タイヤの空気圧を適正に保つ、トランクに不要な荷物は積まない。

このような点に注意してエコドライブを実施すると、乗用車では15%程度燃費が改善すると報告されている。2050年には、自家用乗用車と営業用乗用車の5%にエコドライブが普及するものとした。

日本損害保険協会では、運送業20社の1650台に、エコドライブの採用により燃費が7.89%向上し、安全運転が行われて事故の発生が49.6%減少したと報告している。10)保険費用が低下するメリットが理解されて、運送業界では普及が進んでいる。ここでは、2050年には、6%の削減効果があるエコドライブが貨物自動車全体の40%に普及すると推定した。

2.4.3 軽量化、PHV/EV/FCV

自動車の燃料消費を削減する基本的な方法は、第一に車体の軽量化である。航空機の軽量化で効果を発揮しているFRP(繊維強化プラスチック)や高張力鋼板の利用により、自動車の車体重量が削減でき、燃料消費が削減される可能性がある。

PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)などのエコカーは、今後、普及してゆくと期待される自動車である。WWFシナリオでは、2050年までにすべての自動車がEVまたはFCVに移行すると考えている。

PHVはその移行期に重要な役割を演じるもので、部分的にガソリンエンジンを利用する。バッテリーには家庭用電力から充電可能であり、EVに似ている。いずれの自動車も電気を利用してモータで走行するため、効率が高くなる。ガソリン車は1リットルあたり平均15km走行するので、1kmあたり670Whのエネルギー消費である。これに対して、EVの電力消費は1kmあたり150Wh程度であり、ガソリン車の4.5倍のエネルギー効率である。11)

EVのバッテリーは、単位重量あたりのエネルギー密度がガソリンの100分の1と小さく、一充電あたりの走行距離が短く、充電時間が長く、ライトやエアコンをつけると長距離を走行できないという欠点がある。しかし、将来、職住近接の都市計画が実現した場合には、小型EVの都市内の限定的な利用には問題はない。FCVは、水素を搭載して燃料電池で発電しモータで走行する。燃料電池の効率は50%が期待できる。FCVでは、水素の充填時間が短く、長距離走行にも耐えられるので、普通乗用車や貨物輸送車などに利用されると考えられている。ここでは2050年には、EVとFCVがほぼ半分づつ普及するとして、軽量化を含めて、エネルギー消費は現状の30%になると推定した。

2.4.4 既存の自動車の改善

既存自動車の燃費改善の可能性も残っている。トップランナー基準は、自動車の燃費基準や電気・ガス石油機器(家電・OA機器等)の省エネルギー基準を、各々の機器においてエネルギー消費効率が現在商品化されている製品のうち、最も優れている機器の性能以上にするという考え方である。乗用車の場合、2004年の実績値に対して2015年度推定値は23.5%の改善が目標になっている。この燃費値は、より最近の走行実態に即したJC08モードにより測定した値である。

WWFシナリオでは、2050年ごろまでに既存の内燃機関自動車は、すべてEV/FCVに移行していると考えている。その途中までであるが、車体の軽量化、エンジン特性の改善、可変バルブ、アイドリング停止、タイヤ特性改善などにより、既存自動車の燃費は、現状からさらに20%改善される可能性があるとした。

2.4.5 貨物輸送とモーダルシフト(トラック輸送から鉄道・船舶輸送)

ICTを利用した物流管理によって、トラックによる小口輸送と、船舶・鉄道による大口輸送の接続を容易にすることによってモーダルシフトが生じ、トラック中心の輸送形態が変化してゆく。2050年にはこのような変化によって、トラック輸送の15%が鉄道・船舶輸送へ移行するとした。

2.4.6 航空機

航空機の省エネルギーとしては、機体の軽量化が進行している。金属に代わってFRP(強化繊維プラスチック)を採用すると、燃費が20%低下することが知られている。すでに最新のボーイング787はこの技術を実現している。2050年までには、機体の軽量化、ジェットエンジンの効率改善、省エネルギー飛行航路の選択などによって、現状から30%程度のエネルギー削減が可能になると予想される。

2.4.7 船舶

貨物輸送船については各種の省エネルギー技術が開発されている。船底に泡を出して燃料設備を抑える「省エネ船」が開発されている。空気圧縮機で直径数ミリの泡を毎分120立方メートル、船底に放出する。泡は船底を流れて薄い空気の層を作り、水の抵抗を減らす。平たい船底は、泡がとどまりやすいので、燃料消費が10%減少すると推定されている。(三菱重工)

日本郵船は2009年省エネを徹底追求したコンテナ船「NYKスーパーエコシップ2030」の構想を発表している。8000個のコンテナを積むことができる全長353mの大型船で、2030年の実用化をめざす。主な動力源は、液化天然ガス(LNG)から取り出した水素を使う燃料電池であり、これだけでCO2を32%減らすという。風の力も利用する。ヨットのような8本の帆は、風の向きや強さに合わせ、最も効率の良い角度を保つように自動制御する。貨物を覆うカバーや帆の表面は太陽光パネルである。1~2MWを発電し、CO2を2%減らす。船底に泡を流し摩擦を減らすなどで10%、炭素繊維を使う船体の軽量化で9%、風力で4%などの数字を積み上げ、合計で69%の減少になるとしている。すべての船がこのような船になるとは考えにくいが、有効な技術は取り出して利用されるであろう。

このほかにも、海流情報を利用して航路を決定する省エネルギー船舶がある。海流の向きや強さの詳細な情報をもとに、うまく海流に乗れば、エンジンの出力を落としても十分な速さで進めるので、燃料消費を最大で9%減らせるとしている。全体として、2050年には、船舶の効率は30%向上すると見込んでいる。

2.4.8 鉄道

鉄道の旅客需要は人口の減少を反映して増大しないと見込んでいる。これに対して、貨物需要はモーダルシフトにより増大する。

今年の節電対策として、鉄道分野では、ラッシュアワーを除いた昼間の時間帯の運転本数の10~20%削減、地下鉄・JRの駅内照明の削減を行っている。これでも問題がないことがわかって、運行計画や照明の設計基準の改定に進むことが期待される。

鉄道車両に搭載できるLED照明は、現行の蛍光灯照明と比べて消費電力を約4割削減し、それに伴って1編成1年間あたりのCO2排出量を約12t低減すると報告されている。JR東日本は、駅の照明でもLED化を進め、LEDを使った案内掲示器「エコ薄型電気掲示器」を首都圏の駅を中心に導入して、従来の蛍光灯型の電気掲示器に比べて消費電力を60%削減するとしている。

鉄道車両の省エネルギーは継続的に行われており、車体の軽量化、回生ブレーキ、ハイブリッド化などがあり、2世代前の車両と比較すると電力消費は47%に低減している。今後も省エネルギーは継続され、全体として鉄道のエネルギー利用効率は、2050年には20%向上すると見込んでいる。

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目次

脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第一部・省エネルギー>
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