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プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025みらいダイアログを開催

この記事のポイント
2022年2月、WWFジャパンは2025年を目標に、サーキュラー・エコノミーを持続可能に進めるための包括的な枠組み「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」を設立。特に容器包装、使い捨てプラスチックを取り扱う企業に参加を呼びかけています。その一環として、2022年6月1日、行政・企業・生活者・NGOが一堂に会したイベント「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいダイアログ」を開催。持続可能でサーキュラーな未来をどう創っていくのか。対話を行ないました。(期間限定のアーカイブ映像あり)
目次

「持続可能なサーキュラー・エコノミー」の実現を目指して

大量生産・大量消費・大量廃棄がもたらす、プラスチックによる環境汚染。

深刻化が指摘されているこの問題に対する取り組みが今、国際的にも大きく広がりを見せようとしています。

2022年3月には、国連環境総会でプラスチック汚染を根絶することを目的とする、法的拘束力のある国際条約を策定することに、全会一致で合意。

ビジネスの世界においても、世界の主要企業はこのプラスチック問題を、地球規模の環境汚染のみならず地球温暖化問題にも関連したリスクとして捉え、先を見た対策を取り始めています。

2022年3月に開催された国連環境総会(UNEA)では、WWFが呼びかけた世界2,237,486人からの国際条約発足への署名を、議長に提出した。

2022年3月に開催された国連環境総会(UNEA)では、WWFが呼びかけた世界2,237,486人からの国際条約発足への署名を、議長に提出した。

こうした動きの中、従来の「作って、使って、そのままごみとして捨てる」という一方通行の在り方を見直し、新たに循環型の社会経済のシステムを築く「サーキュラー・エコノミー」が解決策として注目を集めています。

しかし既に人類の生産・消費活動は、地球の許容・再生能力を1.75倍も超過しています。

「サーキュラー・エコノミー」においても、大量生産・大量消費・大量廃棄から脱却し、地球の限界の範囲内で行うことが大原則です。

つまり、製品やサービスの設計段階から無駄なものを極力取り除いた上で、長寿命化やリユース、リサイクル等により資源を可能な限り有効に活用し続けることで、廃棄物の発生もゼロに近づけていく「持続可能なサーキュラー・エコノミー」に早期に転換することが求められています。

プラスチック問題においても、「持続可能なサーキュラー・エコノミー」に基づき、リデュース(発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)の優先順位で包括的で意欲的な対策を取ることが主要な解決策となります。

WWFジャパンは、こうしたプラスチック問題にかかわる「持続可能なサーキュラー・エコノミー」を実現するため、2022年2月、包括的な枠組みとして「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」を発足。

特に、プラスチックごみの多くを占める、容器包装や使い捨てプラスチックを多用する企業に参画を呼びかけ、WWFのサーキュラー・エコノミーの原則に賛同の上で、2025年までにプラスチックに関する問題解決を大きく前進させるための5つの包括的なコミットメントを求めました。

「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」特設サイト

「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいダイアログ」の開催

この取り組みの一環として、環境月間の初日にあたる6月1日、WWFジャパンは東京・渋谷で、容器包装や使い捨てプラスチックを多く取り扱う企業担当者向けのイベント「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいダイアログ」を開催しました。

これは、持続可能なサーキュラー・エコノミーに基づく未来を、これからどのように創っていくべきなのか、行政や企業、生活者、NGOを一堂に会して対話する企画です。

当日は、53名が参加。
企業が今後、プラスチック問題への対策と、持続可能なサーキュラー・エコノミーに立脚したビジネスの在り方を検討するあたり、視野に入れるべき、さまざまなポイントが共有されました。

WWFジャパンは引き続き、地球の限界内での持続可能なサーキュラー・エコノミーの実現を目指し、分野や世代を超えた関係者と協力しながら、「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」への企業の参画を呼びかけていきます。

開催概要

イベント名:プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいダイアログ
日時:2022年06月01日(水) 13:00 ~ 16:30
場所:東京・渋谷 SHIBUYA QWS
参加者:53名
主催:WWFジャパン
後援:環境省、消費者庁
備考:当日のアーカイブ映像はこちら(公開期間:2022年9月30日まで)

講演概要

来賓挨拶

吉村紀一郎氏(消費者庁 消費者教育推進課課長)

最初に、消費者庁の吉村様より、来賓のご挨拶をいただきました。
吉村様は、SDGsに対する認知が高まっている中、今回のイベントのテーマである、プラスチック問題の解決を通じたサーキュラー・エコノミーの推進を持続可能に取り組むことの意義について言及。
消費者利益の保護に取り組む消費者庁としても、持続可能な社会に向けた社会的参画を、消費者に呼びかけているとし、エシカルな消費行動の重要性を指摘されました。
また、日本のGDP540兆円の約半分を占める「消費」による経済活動の規模と、それが変化することの力の大きさに触れ、消費者には消費行動を変えることを通じて、地域、社会変えていく力があること。そして、環境に配慮した商品やサービスを求める意欲も高まっており、企業にはそうした消費者の期待に応えて、循環型の生産と消費の好循環をつくってゆくことが期待されること。最後に、今回のイベントが、企業、消費者の協働を通じて、プラスチック循環社会を共創するきっかけになってほしい、と述べられました。

イントロダクション: プラスチックの問題とプラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025について

三沢行弘(WWFジャパン・プラスチック政策マネージャー)

続いて、WWFジャパンでプラスチック汚染に関する政策提言と、サーキュラー・エコノミーの推進を担当する三沢より、プラスチック問題の現状と、地球温暖化との関連性、そしてWWFジャパンの呼びかけで発足した「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」についてご説明しました。
現状については、まず石油から直接作られるバージンプラスチックの年間生産量が、現在4億トン超にのぼり、2030年には6億トンに増える見込みであること。そして、分解されないこれらのプラスチックが、少なからず環境中に流出することで生じる深刻なリスクについて述べました。
また、現状の対策を続けた場合と、更なる対策を取った場合とで、世界のプラスチックごみの海洋流出はどうなるのかにつき、2040年までのシナリオを提示。
リサイクル推進は大事だが、これだけでは対策として不十分であることを指摘し、プラスチック流出を減少に転じさせるためには、循環型の新しい社会・経済システムを創っていかねばならないことを訴えました。

WWFジャパンの発表スライドより

WWFジャパンの発表スライドより

また、こうしたシステムの変革が必要な理由として、人類の生産消費活動が、すでに地球の生産量を1.75倍も超えてしまっていること。それをくい止めるためには、まず過剰包装のような不要な生産をやめることなどで大量生産・消費から脱却することが大事であると述べ、そのための仕組みとして、WWFの呼びかけで2022年2月に発足した「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」について解説。
飲料、食品など、各業界を主導する企業10社が参画しており、さらにこれを広げていきたい、と活動の展望を示しました。

2022年6月現在の参画企業は、キリンホールディングス、サントリーホールディングス、資生堂、日本航空、日本コカ·コーラ、日本水産、ネスレ日本、ユニ・チャーム、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、ライオンの計10社

2022年6月現在の参画企業は、キリンホールディングス、サントリーホールディングス、資生堂、日本航空、日本コカ·コーラ、日本水産、ネスレ日本、ユニ・チャーム、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、ライオンの計10社

持続可能なサーキュラー・エコノミーの実現という、進むべき方向性は示されました。企業にはこれに応え、生産から消費、廃棄後までのライフサイクル全般を視野に入れた、包括的で意欲的なコミットメントを社会に示し、それを実現する体制を早急に構築していくことが求められています。

第1部:プラスチック・サーキュラー・エコノミーによる持続可能なビジネスの創造

第1部では、プラスチックに関連した深刻な環境問題の現状を踏まえ、「サーキュラー・エコノミー」の視点から、持続可能なビジネスをどのように創出し、問題を解決してゆけばいいのか、その基本を解説しながら、専門家と参画企業との間で議論を深掘りするパネルディスカッションを行ないました。

基調講演:
水野大二郎氏(京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構 教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特別招聘教授)

第一部では冒頭、水野氏よりサーキュラー・エコノミーを実現するための「サーキュラーデザイン」について、「超高付加価値化」「循環化」「資産化」「脱物質化」という4つのキーワードで基調講演をしていただきました。
水野氏は、「サーキュラーデザイン」を、単なる「従来の作る・使う・捨てるという直線型から循環型への移行」ではなく、「どうやって循環を輪として閉じるのか」、「どうやって循環の輪の中の物質の循環速度を下げられるのか」、さらに「どうやって循環の輪の中の物質量を低減させるのか」を実現するための新たな理論や手法として提示しました。
その一方で、サーキュラーデザインの「複雑さ」という課題とその解決の方向性についても言及しました。
サーキュラーデザインは、「材料部材をサステナブルにする」、「製品・サービスそのものをサステナブルにする」、「それを使いこなす方法・サービスを設計する」、「コミュニティとのコラボレーションによる空間・社会の設計」、「公共的な実践としての社会技術システムの設計」と広範な領域に拡大していますが、これらの相互作用を把握しながら、適切なサーキュラーデザインを実現していくことには、非常な難しさがあります。
水野氏は、これが企業のサステナビリティの担当者も抱えている本質的な課題であるが、「これをやればいい」という明確な体系は未だ存在していないことを指摘しました。

サーキュラー・エコノミーの将来像とは、単なる「直線型から循環型への移行」ではなく、「どうやって物質の使用量を削減するのか」、「究極的にはモノを作らずにどのようにビジネスを回していけるのか」、という課題を解決するもの。その兆しはすでに生まれ始めており、それを、どうやって新たなビジネスの機会や、文化的成長のチャンスとしていくことができるのかが論点になる。そして何よりも、社会のデジタルへの移行も考慮しつつ、ライフサイクル全体のサーキュラーデザインを描ける人材の育成が急務であると強調しました。

水野氏が示されたこれらのポイントは、WWFが提唱する「持続可能なサーキュラー・エコノミー」への転換の根底となるものであり、今回のイベントでも、講演を踏まえ視座を一段上げての対話が行なわれました。

パネルディスカッション:
【パネリスト】
・ 水野大二郎氏
・ 飯田征樹氏(日本コカ·コーラ株式会社 サスティナビリティー推進部部長)
・ 張叶氏(日本航空株式会社 ESG推進部)
・ 枝廣淳子氏(大学院大学至善館教授)
【ファシリテーター】
・ 三沢行弘

パネルディスカッションでは、「サーキュラー・エコノミーにつながるビジネスの創造」をテーマに、4名のパネリストの方々にご登壇いただき、2つのテーマについて、それぞれが考える未来のビジョンや、各企業の取り組みをお話しいただきました。
各パネリストのコメントの要旨をご紹介します。

右から水野氏、飯田氏(日本コカ·コーラ)、張氏(日本航空)、枝廣氏(大学院大学至善館教授)、三沢

右から水野氏、飯田氏(日本コカ·コーラ)、張氏(日本航空)、枝廣氏(大学院大学至善館教授)、三沢

●テーマ1
持続可能なサーキュラー・エコノミーへの転換により、築くべき未来(2030年以降)の姿は

水野氏:
先ほど「超高付加価値化」「循環化」「資産化」「脱物質化」という4つのキーワードを出しました。未来の社会として、デジタル化を除いて考えると、産地独自のリソースを使いこなし特殊で固有で高価値のものを作る「超高付加価値化」が考えられます。そして、これまでのような「所有権」ではなく「使用権」を販売するサブスクリプションモデルも含めた「循環化」の社会になっていくでしょう。

枝廣氏:
2つの大事な点があると考えています。
今の経済は、地球から何らかの形で供給されているものに支えられている。そしてCO2を含め廃棄したものを地球に吸収させています。それらが地球が耐えられなくなっている規模にまで拡大してしまった。地球温暖化やプラスチック問題はその典型です。
究極のサーキュラー・エコノミーとは、地球から何一つ取り出さない、何一つ戻さない、それを経済の中で回していくことだと思います。
もちろん、経済の中で循環できるからといって、不要なものをたくさん作ってよいわけではありません。
「勿体ない」という言葉がありますが、勿体とは、そのモノの価値や本質を示す言葉です。本当に必要なモノだけを作った上で、その価値を最大限活かしきる、それが出来る社会こそが、私たちが見たい未来ではないかと思います。

張氏:
2030年に向けてJALグループが目指す姿を示した「JALビジョン2030」では、未来への推進のエンジンとして、安全安心と共にサステナビリティを掲げています。
「誰もが豊かさと希望を感じられるサステナブルな未来の実現」に向け、企業として努力していかねばならないと考えていますが、近年、お客様の意識が変わりつつあると感じています。以前は「上質なサービス」が求められていましたが、今は「社会の課題解決」、「社会への貢献」がより求められるようになりました。
そこで、これまでの「事業戦略」ではなく、「ESGの経営戦略」を最上位に持ってくることにしました。つまり、まずESG戦略に基づき社会の課題を解決することで事業の価値を高めた上で、そこで得た利益をさらに品質やサービスの向上に還元していくことを目指しています。そのような世の中をつくるために、サーキュラー・エコノミーの考え方に沿った施策を推進していきます。

ESG戦略を経営戦略の最上位に位置づけた日本航空(資料提供:日本航空株式会社)

ESG戦略を経営戦略の最上位に位置づけた日本航空(資料提供:日本航空株式会社)

飯田氏:
日本のコカ·コーラシステムでは、「容器の2030年ビジョン」において、2030年にコカ·コーラのグローバル目標を上回る「全ての製品のペットボトルを、サステナブル素材(リサイクル素材と植物由来素材)に切り替える」ことを目指しています。また先日、「4杯に1杯は、リユース、リフィルが可能な容器により提供すること」を目指す新たな目標を発表しました。
2022年4月より100%リサイクル素材、かつ「ラベルレス」の「コカ·コーラ」の販売も開始。ただしラベルレスは、法制度の制約から、オンライン販売のみに限定せざるを得ません。
また、業界全体としての課題解決が求められています。日本全体ではペットボトルは88.5%がリサイクルされているものの、回収後同じペットボトルに戻す「水平リサイクル」については、15.7%にとどまっています。当社のサステナブル素材使用率は40%に達していますが、自社だけでなく業界全体として水平リサイクルの率を引き上げていく必要があります。

自社および業界全体の現状をデータで把握・開示し、業界全体で水平リサイクル割合を引き上げていきたいと話した飯田氏(資料提供:日本コカ·コーラ株式会社)

自社および業界全体の現状をデータで把握・開示し、業界全体で水平リサイクル割合を引き上げていきたいと話した飯田氏(資料提供:日本コカ·コーラ株式会社)

三沢:
大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした現在の社会経済のシステムが、地球環境を圧迫しています。冒頭に人類の消費活動が地球の限界を突破しているという話をしましたが、仮に世界で日本人と同様の暮らしをした場合、地球が2.8個必要となります。地球の限界内で持続可能な事業活動を行うために、水野教授が示す「超高付加価値化」、「循環化」といった未来の姿があると感じました。
さらに、枝廣教授が改めて取り上げた「勿体ない」という言葉。本当に必要なモノだけを作った上で、その価値を最大限活かしきる「勿体ない」とう考え方を、持続可能な未来のためにしっかりと活用していくべきだと思います。
張さんからの、ESG経営戦略を社の最優先事項とする事例は、日本では先進的なものであり、地球と共生する未来を築くために、他の企業にも導入を求めたいです。
飯田さんからは、ペットボトルのリサイクルに関して日本が世界の中でも先駆的な取り組みをしている事例を紹介していただきました。さらに自社のみならず、業界の底上げを考えていく必要性についてもお示しいただきましたが、こういった連携がますます重要になっていくと思います。

グラフィックレコーダーの杉浦しおりさんに、議論が進む様子を、イラストを交えて書き留めていただきました。

グラフィックレコーダーの杉浦しおりさんに、議論が進む様子を、イラストを交えて書き留めていただきました。

●テーマ2
持続可能なサーキュラー・エコノミーへの転換を企業がどのように設計・実現できるのか

水野氏:
サーキュラー・エコノミーをどのように設計・実現できるのかを考えたとき、漸進的にやっていくパターンと、痛みを伴う形でやっていくパターンの両面があります。そして材料、製品、サービス、ソーシャルイノベーションという4つのスケールで階層的にとらえることができます。
企業単体ですぐに取り組めることもありますが、自治体も含め多数の利害関係者のネットワークで取り組まなければ前に進まない大きな改革も必要となります。
このような状況下で、実現の最大の課題となるのが、人材の欠落です。
企業のサステナビリティを推進する部門で、サーキュラー・エコノミーの専門知識を有し、ビジネスモデル、法的制度、新たな技術の可能性等を理解できている人をほとんど見かけません。
サーキュラー・エコノミーへの移行というのは新たに進行中の課題であるからですが、OJTなどを通した人材育成を強化することで、企業がどこを目指すべきかを定義できるようになるのではないかと思います。

枝廣氏:
企業の取り組みとして、2つ重要なポイントがあります。
一つは「見える化」。完璧なサーキュラー・エコノミーに対し、自社がどこまで達成できているのか、どこが強みで、どこができていないのか。自社の現状を「見える化」し、データとして押さえておくことが必要です。これをしないと、何をどこまで転換すればいいかが、誰にもわかりません。
もう一つは、企業1社ではできない取り組みを実現するために、他の企業との協業をさらに広げ、生活者との連携、共創をデザインしつくっていくことです。
日本企業は自社内だけでやるのは得意ですが、セクターを越えて、広いステークホルダーと一緒に取り組んできた経験があまりありません。
本当にサーキュラー・エコノミーへの転換を図るためには、消費者の意識や行動も変えていかねばなりません。それぞれの地域のリアルな場で、小さな試みをたくさんやっていく必要があると思います。
先ほど、ラベルレスのペットボトルの提供は法的な縛りからオンラインでしか売ることができていないという話がありました。企業が消費者と一緒になって、サーキュラー・エコノミーをつくるために、法的な枠組みの改善に向けた場面を作っていくことも大事です。
こういった自社を超えての共創のプロセス、その作法を身に付けていくことが企業にとってとても大切なことです。

張氏:
私たちはメーカーではなく調達する側ですが、使い捨てプラスチックの削減に向け、3R プラス 1(リデザイン)の推進により、2025年度までに、客室、ラウンジでお客様に提供する全ての使い捨てプラスチックについて、新規石油由来プラスチックのものをゼロにする目標を立てています。
空港、貨物については、100%環境配慮素材へ変更する目標としています。
事例として、サラダカップをリユースに切り替え、また、そばつゆをジュレに替えることで、そばつゆボトルを廃止しました。
機内で提供したペットボトルをCAが回収していますが、通常日本では焼却処分されていました。これを関係機関に働きかけることで、成田空港においては、ペットボトルに生まれ変わるリサイクル処理ができるようになりました。
これまではサービスの品質を重視し、お客さんのカバンを保護するために提供していた空港受託手荷物をカバーするビニール袋を廃止、年間150万枚を削減しました。こういった改善に、お客さまをはじめ、取り引き先を含めたステークホルダーの理解と協力しながら取り組んでいきます。

飯田氏:
サステナビリティの推進については、企業1社だけでできることは限られていると常に感じています。ペットボトルのリサイクル一つにしても、外出先で飲んだペットボトルの処理は、商業施設であれば、そこの廃棄物処理業者の協力が必要となる。現在、こういった取引先に、回収とペットボトルへのリサイクルの意義を丁寧に説明しているところです。
「見える化」については、難しいと感じています。その製品が、バージンプラスチックなのか、リサイクルしたものなのかは、見た目だけではわかりません。リサイクルしたものであることを伝え、その価値を理解していただき、選んでもらうようにコミュニケーションしていくことが企業にとって重要です。
そして昨年から、パッケージを刷新し「リサイクルしてね」というロゴを付ける取り組みをはじめています。このように、消費者にサステナブルな消費の価値をご理解していただけるように、地道な取り組みに力をいれていくべきであると感じています。

三沢:
循環経済という考え方は日本にもありましたが、本来の持続可能なサーキュラー・エコノミーへ転換するためは、3Rに取り組むことだけでは不十分です。水野先生がおっしゃる通り、対応できる人材の不足は、大きな課題だと思います。
企業の情報開示のレベルは、日本は欧米に比べて明らかに低いといえるでしょう。目標や実施していることの「見える化」は必須となっています。
そして、日本航空が示した事例からも、サーキュラー・エコノミー転換に向け、お客様の理解を得るためにも、ただ「これをやりましたから協力してください」ではなく、「高い目標を掲げた上で、その実現に向けてお客様と共に進んでいきたい」と全体像を示す必要があると思います。

また、1社で出来ないことを、どう協力してやっていくか。企業もその重要性と必要性を理解し、他の企業、自治体、消費者との共創をして推進いくことが大事です。

サーキュラー・エコノミーは、大きな捉えづらい概念ですが、人間の社会・経済活動を、一つの地球の中でやっていく、という点を踏まえ、一緒に実現していくことを目指していきたいと思います。

第1部のグラフィックレコーディング(©杉浦しおりさん)

第1部のグラフィックレコーディング(©杉浦しおりさん)

第2部:ユース×企業×国 本音で語るプラスチックの持続可能でサーキュラーな未来

第2部では、地球の未来を担う生活者として、ユース世代の方々にもご登壇いただき、参画企業や政府に対し、「持続可能なサーキュラー・エコノミー」への転換に向けた率直な期待や提案をいただきながら、ディスカッションを行ないました。
世代と立場を超え、将来の展望や、その実現に向けた課題を本気で語り合いながら、未来志向で共創の機会を探る場となりました。

パネルディスカッション
【ファシリテーター】
・ 枝廣淳子氏
【プレゼンター】
・ 落合航一郎氏(慶應義塾大学蟹江憲史研究会)
・ 田中文也氏(慶應義塾大学蟹江憲史研究会)
【パネリスト】
・ 平尾禎秀氏(環境省 環境再生・資源循環局総務課 リサイクル推進室長 兼 循環型社会推進室長)
・ 別所孝彦氏(キリンホールディングス株式会社CSV戦略部 主務)
・ 嘉納未來氏(ネスレ日本株式会社 執行役員 コーポレートアフェアーズ統括部長)
・ 上田健次氏(ユニ・チャーム株式会社 執行役員 ESG本部長)
・ 三沢行弘
【グラフィックレコーディング発表】
・ 杉浦しおり氏

●企業に対する消費者からのリクエスト

第二部では冒頭、三沢からWWFジャパンがウェブサイト上で行なっている、生活者から企業へのプラスチックに関するリクエストについてのアンケート結果を発表しました。

このアンケートは、2022年2月のサイトオープン以降行なってきたもので、今回のイベントまでに1,819票の回答が寄せられています。

WWFジャパンの特設サイト上では、17の選択肢の中から生活者が企業に期待したい取り組みのリクエスト投票を受け付けている

※WWFジャパンの特設サイト上では、17の選択肢の中から生活者が企業に期待したい取り組みのリクエスト投票を受け付けている

※WWFジャパンの特設サイト
「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」

リクエストされた内容としては、第1位「過剰包装の撤廃」、第2位「包装やトレー無しでの提供」、第3位「使い捨て商品の提供を全て撤廃」を含み、第5位までを、「使わないように設計する」分野の取り組みが占め、不要なパッケージ付きの商品や使い捨ての商品を買わなくていいように、企業が努力してほしいとの生活者の意向が強く示されました。
この他に、企業に「科学的情報の提供」を求めたり、「量り売りが出来るようにしてほしい」といった声も多く寄せられました。

三沢からは併せて、国内でのパッケージレスの事例紹介があり、野菜に食べられるインクを使って関連情報を直接印刷し販売している実証実験と、提供段階まで包装を行わず水の使用も抑えることで輸送時のエネルギーも低減できる固形のシャンプーの事例が示されました。

パネルディスカッションでは、こうした生活者から企業に求める声や、二人のユース世代の若者からの提案を踏まえ、パネリストの対話が行なわれました。

●ユース世代の提案

提案1:パッケージのリユースについて

1人目の落合さんからは、普段の暮らしの中で使われるパッケージのリユースについてのご提案をいただきました。
落合さんはまず、パッケージが持つ3つの要素に注目。「生活者向けのイメージの共有」「(乾燥など)外的な要因から商品を守る」「携帯性の確保」という3要素を他の手段で補うことができれば、使い捨てのパッケージは無くてもいいのではと考えました。
そこで、パッケージのリユースの仕組みを考案。購入した品物を入れる袋を、お店に戻し、繰り返し使うことで、リユースを推進できるというプランを披露しました。特に、こうしたリユースがしばしば面倒くさがられ、敬遠されがちなことに着目。戻した袋を店頭でツリー状に掲示し、自分の参加を「見える化」することで、生活者の意識を変え、行動を促進する案を盛り込みました。

スライド作成:落合航一郎さん(慶應義塾大学)

スライド作成:落合航一郎さん(慶應義塾大学)

提案2:水平リサイクルの推進について
2人目の田中さんは、製品パッケージの素材や規格がばらばらであることで、コンビニエンスストアの製品の水平リサイクルが進まないことに注目。企業は、商品の情報やイメージを伝えるために、パッケージで差別化しようとして、パッケージが複合素材でバラバラな構成になってしまっている。AR技術を使うことで、プラスチック製品の素材や規格の統一化を可能となり、水平リサイクルを促進できるというプランを提示しました。
このプランは、実際の商品は、シンプルな規格に統一化されたリサイクルが可能なパッケージに入っているが、消費者はお店に入る時、専用の眼鏡を付けることで、商品ごとのパッケージデザインや必要な商品情報をARで読み取ることができる、というものです。
田中さんは、このプランには生活者と企業双方にとってメリットが大きいと指摘。消費者にとっては、購買を快適に体験することができる。素材や規格を統一することで企業も素材をより効率的に使用できるようになり、大企業が小さな企業の使い終わったパッケージを買い取り再生利用するといった商品使用後の新たなパートナーシップにつながる。さらに生活者の目線からの情報を得ることにより、企業のマーケティングにも活かせるといった様々な可能性を指摘しました。

スライド作成:田中文也さん(慶應義塾大学)

スライド作成:田中文也さん(慶應義塾大学)

●各パネリストのコメントの概要

嘉納氏:
私は、広報担当なので、コミュニケーションという観点で述べさせていただきますが、どちらの提案も、お客様を、どうサーキュラー・エコノミーに巻き込むか、をよく考えていらっしゃると感じました。見える化、新しいショッピング体験を通じて、「楽しさ」を与えてくれる印象を受けました。

別所氏:
飲料業界企業の印象として、印象深いユニークな提案だと感じました。
リユース案件については、なぜリユースが広がらないのか、といった課題認識を持たれた点が大事だと思いました。日本では昔から、ビールや清涼飲料といった製品において、びん容器をリユースしてきた歴史がありますが、お客様の利便性を高めていったことで、使い捨ての缶やペットボトルへと変わっていきました。しかし、今後はこれらの利便性だけでなく、生活者の環境意識も高まっておりますので、リユースは広がっていく可能性があります。
ARコンビニについては実現できると良いと思いました。ペットボトルについて当てはめると、コンビニの冷蔵ケース内のペットボトル製品が全てラベルレスで提供されるイメージでしょうか。メーカー側としても、プラスチックの使用量自体が削減できますし、ブランディング効果も補完できる等のメリットもあり、ユニークなアイデアだと思います。

上田氏:
夢のある提案でよいと思いました。
また、会社でもそうですが、若い社員が考える提案を、出来ない理由を並べてつぶしてしまうのは、よくないのだと思いました。
昔は業種店が、モノを家に届け、使い終わったら回収もしてくれることで、動脈と静脈が回っていた。それが、今は家にいつもだれかがいるわけではなく、手ぶらで買い物に行って使い終わったら捨てるというように生活習慣が変わってしまい、企業も作り方や売り方をそれに合わせるようになってしまった。
これから先消費の中心を担う人たちが、こういった(持続可能な)買い方、使い方がいいと言うのであれば、それに合わせて企業として、さらに考え方を変えていかねばならないと思います。

平尾氏:
提案は、実はいい線を突いていると思います。
リユースも水平リサイクルも、やった方がいいと分かっているのに出来ていないのには何かしらの理由があり、それをやっていくためにはビジネスモデル自体を変える必要があります。
提案に当たって現状分析を行った提案になっているのがいいなと思いました。
今のビジネスモデルも便利にするためにできてきました。
そして今、私たちの意識や求めるものも(サステナビリティを求める方向に)変わっている。生活者の「私たちはこうしていきたいのだ」という思いがよりダイレクトに伝えることができれば、その先の未来も変わっていくと思います。

三沢:
今の社会で足りないものに、企業と生活者の間の相互のコミュニケーションがあります。今も従来型の、企業から消費者に向けた一方通行のマーケティングコミュニケーションが続いている。生活者の声をしっかり聞いてみれば、こういう面白い提案が出てくるにもかかわらず、そうした機会がほとんど無い点が問題だと思います。このような場はぜひWWFとしても作りたいと思いますし、企業の皆さまにもサーキュラー・エコノミーへの転換に向けて、積極的に生活者の声を聞く機会を設けてほしいと思います。

前列左から、ファシリテーターの枝廣氏、環境省の平尾氏、キリンホールディングスの別所氏、ネスレ日本の嘉納氏、ユニ・チャームの上田氏、WWFジャパン三沢、後列左から慶応義塾大学の落合氏、田中氏

前列左から、ファシリテーターの枝廣氏、環境省の平尾氏、キリンホールディングスの別所氏、ネスレ日本の嘉納氏、ユニ・チャームの上田氏、WWFジャパン三沢、後列左から慶応義塾大学の落合氏、田中氏

枝廣氏:
アンケートでは過剰包装を止めてほしいという生活者の声がたくさんありましたが、過剰包装という捉え方は、状況によって違います。リユースが進まない理由も、企業としての事情があります。社会のニーズが変わっている中で、容器や包装を使っている企業として変わっていかないといけないが、その中で、企業各社はどういうことに悩み、どのような挑戦しようとしているのか。容器や包装についての課題や、向かおうとしている方向性についてお聞かせください。

別所氏:
飲料業界ではペットボトルに使う原材料を、使用済みペットボトル100%に切り替えていく、という取り組みを始めています。ですが、ペットボトルではないもの、たとえばお弁当のトレーのようなものは、汚れがついていたり、同じプラスチックでも違う素材が混ざりあっているなどして、リサイクル原料にすることが難しいのが現状です。キリングループではさまざまなペット素材をリサイクルできるよう、ケミカルリサイクル実用化の検討を昨年度から始めるなど、課題解決に取り組んでいます。

嘉納氏:
食品と言ってもさまざまですが、それに使われているパッケージには、大きく分けると2つの役割があります一つは、お客様に安全においしく届ける使命。もう一つは、消費される国や地域の気候や特性に合わせたパッケージの必要性です。
弊社では、2025年までに、100%リサイクル可能・リユース可能なデザインにすること、バージンプラスチックの使用について1/3削減するというコミットメントを掲げています。
そのために、無駄を極力省いて使用を削減するなどこれまでの発想を転換したり、削減が困難であれば、リユースや詰め替えなどのビジネスモデルを検討したり、紙などの代替素材に変えるなど取り組みを進めています。
また、リサイクル可能なパッケージデザインでも、国や地域の法律や設備が異なる状況の中で、どのようにリサイクルを実現できるかを考えながら取り組んでいるところです。

上田氏:
パッケージにはフィルムを使っていますが、使用量を減らすために、より薄くしたり、シール部分を小さくしたり、不要な取っ手を無くしたり、といった細かな工夫をしています。
また、国内売り上げは4割で残りは海外ですので、海外向けの製品は、それぞれの国や地域に合わせた様々な形態のパッケージを使っています。
生活者の利便性を損なわずに、使用量をどう減らすかが課題です。パッケージについては、内容物を保護し、運搬利便性を上げて、情報伝達をするという3つの機能は落とせない。そこで、小売店での情報告知のPOPや店頭でのディスプレイの紙素材への切替えなど、消費者にとって必要な付加価値からは遠いところから、少しずつ改善を図っています。

枝廣氏:
リサイクルをしていく上では、素材の共通性は大事、という話がありました。かつての日本には、お酒も、お醤油も、みりんも、すべて同じ一升瓶に入っていて、使用後には業者が洗浄して、繰り返し使うという非常に効率的なリユースの仕組みがありました。
その時代に戻るのは難しくても、商品そのもののように企業が他社と競争するところと、パッケージのように統一して一緒にやるところを、しっかり見極めることが大事かと思います。企業にはそうした動きはありますか?
また、特定の企業が先駆的にリードし、業界がそれに続く、トップランナー方式の改善もありえると思いますが、環境省はどう見ているでしょうか。

別所氏:
容器包装では何を統一するかが重要だと考えています。例えばペットボトルには飲料業界の自主設計ガイドラインがあり、そのおかげで、リサイクルがしやすくなっています。しかしながら統一しない方が有効となる場合もあります。ペットボトル軽量化等の原料使用量の削減に繋がる取組みでは、「いかに品質を保ちつつ薄くするか」について、各企業が競争することによって、技術をより進化させることに繋がると考えています。

平尾氏:
今にして思えば、30年ほど前、日本では「ペットボトルを透明にしよう」ということを業界が決めましたが、これはリサイクルを進める上でとても重要だった。なぜ日本のペットボトルは透明なのか?海外の政策担当者には不思議がられます。実際に海外にはさまざまな色のペットボトルがあり、それがリサイクルを難しくしているけれど、もはや統制が困難です。
私はこの4月に施行したプラ新法を担当しているが、設計する時点での認定基準や認定製品を示すべく動いています。早く認定製品を生活者に選んでいただける状況にしてきたいと思います。

落合氏:
私たち学生のような社会を知らない人たちは、制約を踏まえずいろんなことを話しますが、今回それに対する企業の皆さんからフィードバックを頂けたのはいいステップになっていると思います。
そして世代や立場を超えた議論が、共創の大事な要素になると考えています。政府と企業と、一般の人たちが、ある部分は妥協し、ある部分は進化して、それぞれが変えていくことが大事であると思いました。

田中氏:
競争と協働についてですが、そのバランスを考えると、生産するペットボトルの量を1/3にするのと、同じペットボトルを3回使うのは、結果として削減量は同じで、競争よりも協働したほうがより早く新技術への移行が出来るのではないかと思います。

ファシリテーターの枝廣淳子氏(大学院大学至善館教授)

ファシリテーターの枝廣淳子氏(大学院大学至善館教授)

枝廣氏:
知らないことがあっても、自由にものが言えるのは学生の特権ですが、さらに知ることで、それを、次につなげることが出来るのではないかと思います。また、ユースが生活者全体の代表、というわけでもなく、例えばWWFの実施した生活者全般からの投票では、包装やトレーを無くしてほしいという声が大きかった。私自身も、「なぜ個別包装して売っているのか?」につき、スーパーの担当者に聞いて回ったことがあるが、「包装無しだと、お客さんに直接触れられてしまうことで傷ついてしまい、売り物にならなくなってしまうから」という答えがありました。サーキュラー・エコノミーを推進しようにも、生活者がそれにあった行動をしなければ、企業だけではできません。
いろいろな世代や考え方の生活者を巻き込んでサーキュラー・エコノミーを実現するために、企業が、生活者とのコラボレーション、生活者へのコミュニケーションにおいて、いろいろと工夫している中で、今苦労していることは何でしょうか。

上田氏:
マーケティングの一部として、当然様々な消費者のリサーチをしているが、本音はなかなか聞き出せません。環境にいいことについて聞けば、必ずそれを推進すべきだという答えが返ってくる。ただし、実際の消費行動として、環境配慮製品を選択してくれる数はまだそれほど多くはないという問題があります。
消費者のベネフィットを損なわずに、許容いただけるコストで、いかに提供するのかというバランスがとても難しいと思います。
消費者の行動こそが本音だと考えており、生活者の購買行動をどうやって持続可能な方向に促していけるのかについて、企業として先手を打っていかないといけないと思っています。

嘉納氏:
私たちは、製品やサービスを通じてさまざまな価値を提供してますが、生活者はそのライフサイクルの一部を担うことで、その製品の価値を一緒に作っていくパートナーです。製品を選ぶ際、若い世代が環境に配慮するようになってきたものの、多くのお客様は、パッケージの綺麗さや、値段等、それぞれ違った価値観を持っていらっしゃいます。
弊社では、親子で学ぶプログラム等を通じて、プラスチックの問題について認識してもらい、一緒に解決に向けて取り組みませんかというアプローチをすることで、環境に配慮した価値観をみんなで一緒に温めていく。次に、お客様が考える環境に配慮したものはなんだろうというところから、対話をしながら製品やサービスを一緒に育てていきたい。こうした取り組みは、まだまだ発展途上ですのでいろいろ学んでいきたいです。

別所氏:
今日のイベントで紹介のあった事例など、企業の環境に配慮した取り組みについて、初めて耳にされた方もいらっしゃったかと思います。各社は企業のホームページ等で環境に配慮した取り組みを伝えてはいますが、これまで以上に、消費者の方々にご理解いただける様、努力することが大切だと感じています。

三沢:
生活者と企業の間に立っているWWFとして、共創が大事なのは言うまでもありません。ただ、プラスチックについても実際に生活者に何ができるのかというと、選択肢がまだ圧倒的に不足していると感じます。
生活者が環境にいいことをしようとしても、マイバッグ、マイボトルを持ち歩こう、それでその先に何ができるのか?というところで止まってしまっている。
企業がどう踏み出せばいいかについては、環境に配慮したものを作っても実際に売れるかどうか分からないというジレンマもあるが、ディスカッションばかりしていても進まないので、パイロットプロジェクトをどんどん立ちあげればいいのではないでしょうか。そこで試行錯誤しながら、生活者に選んでもられる環境配慮型サービスを探っていくことができます。
とにかくどんどん始める事。そして国には、そうした環境に配慮した取り組みを支援する枠組みをどんどん作ってほしいと思います。

平尾氏:
手近なところでいうと、ペットボトルのリサイクルについては、ようやくボトルtoボトルが出てきたという印象です。そして、リサイクル品だから買おうという動きも、ようやく出てきた。この機を活かさなければいけないと感じています。
施策を立案していると、一方ではやりすぎだと言われ、もう一方では生ぬるいと言われ、この方向性で大丈夫なのか不安になることも正直あります。でも、確かにプラスチックが減っているデータもあり、正しいことだと信じて進めています。
企業の担当者様にとっても、何かしらの取組を進める際には、マーケットの反応等少なからず不安があるのではないでしょうか。そういう時に、WWFも含め、消費者の方々に、「その方向性でいい」との声を送っていただけると、意外と早く環境配慮型の取り組みが進んでいくのではないかと思っています。
実際にコロナで社会が変わり、購買活動において、フォロワーではなく、自らが最初に動きますという層が増えており、こういった機会を活かしていきたいと思います。

枝廣氏:
最後に、大学生のお2人にお聞きします。
ユース世代の皆さんの中には高い環境保全意識をお持ちの方も多いですが、全てがそうではないですから、そういう人たちを増やしていかなければいけません。環境保全の意識・関心を高め、行動を起すことを、いろいろな世代を巻込んでやっていかなければいけません。プラスチックのサーキュラー・エコノミーに限らず、サステナビリティやSDGsの推進のために、今何ができると思われますか?

落合氏:
思ったことが2つあります。
一つは消費者の視点として、「知ること」が何より大事ということ。
着ている服はどこから来たか、今朝の飲み物はどこから来ているのかなど、知らないことが多いです。レジ袋の有料化もネットでは批判されていたが、国の導入目的を調べてみると、「国民にエコについての意識を高めてほしい」とあり、そこから考えると、インターネットでの議論やメディアに取り上げられたことで施策としては大成功だと思います。そうしたことを知ることで、何か新しく出来ることが増えてくると思っています。
もう一つは企業の視点ですが、何が正解か分からないというジレンマを聞きました。ただ今日だけでも、様々な業種から50‐60名もの皆さんにお集まりいただいている。それぞれに強みがあり、それをしっかりやっていくことで、SDGsの17の目標や169のターゲット達成のために、今日より明日、明日より明後日を、
持続可能な社会へと近づけていくことができるのではないでしょうか。

田中氏:
私からも二つあります。
まず、生活者について、知ることも重要ですが、それに加えて、納得感や腹落ちがあってはじめて、行動につながっていくんだと思います。事実、SDGsは有名になりましたが、生活者の間での納得や腹落ちにまで至っていません。なので、環境に配慮した商品やサービスを選択するという実践にまでは、なかなか進んでいません。
もう一点、サーキュラー・エコノミーを実現しようとすると商品のコストが高くなるのではと感じることがあります。自分も大学生で、お金がないと、どうしても安いものを選ぶという方向に進んでしまい、なかなかサステナブルなものが選べない。でも、サーキュラー・エコノミーを実践しつつ商品のコストを下げるのは難しいと思います。この点を踏まえ、サステナビリティの追求と同時に、一人一人の貧困の問題をいかに解決できるのかというのが、大切な観点なのかと思っています。

枝廣氏:
今日は、「ユースと企業と国が本音で語るプラスチックの持続可能でサーキュラーな未来」について話し合ってきました。ユースはユースとして、企業は企業として、国は国として、WWFはWWFとして、自分たちでできることと、共創できることを、しっかり進めていきたいですね。今日の機会が、そのためのきっかけになったらうれしく思います。

●グラフィックレコーディングの発表

パネルディスカッションの終了後、第一部、第二部を通じて、ステージ横でグラフィックレコーディングを行なってくれた、杉浦しおりさんより、その作品の紹介がありました。
各講演者、パネリストのお話が、イメージとともに分かりやすくまとめられています。

第2部のグラフィックレコーディング(©杉浦しおりさん)

第2部のグラフィックレコーディング(©杉浦しおりさん)

*当日のアーカイブ映像はこちらで公開しております。(公開期間:2022年9月30日まで)
*なお、本イベントの講演・発表内容の著作権は、それぞれ発表者に帰属します。無断での引用、転載は固くお断りいたします。

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