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ワシントン条約CoP19終了報告-国際条約にも忍び寄る分断の影

この記事のポイント
2022年11月25日、パナマで開催されていたワシントン条約第19回締約国会議が閉幕しました。今回の会議では、日本にも関係の深い象牙やサメ、ペットの取引に関する新たなルールが決まりました。しかし一方で、容易に合意されない議題については、秘密投票が行なわれたり、野生生物の利用に積極的な国と、保護に向けた取引規制を強力に求める国の意見の相違も際立ち国際条約の抱える課題が改めて露呈しました。会議の概要と、主だった決議について報告します。
目次

ワシントン条約第19回締約国会議の概要

2022年11月14日から25日まで、パナマで開催されたワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)の第19回締約国会議(CoP19)が終了しました。

20年ぶりのラテンアメリカでの開催となった、今回のCoP19には、160を超える締約国の政府代表ら2.500名が参加し、91の議題が話し合われました。

また、CoPで最も注目される議題の一つであり、締約国が影響を大きく受ける、取引規制の対象を掲載した「附属書」の改正については、52の提案について採否が決まりました。

そのほか会期中には、ワシントン条約の施行をサポートするツールの紹介や、個別のテーマに沿った最新の情報を提供するために、ワシントン条約事務局、締約国政府、WWFなどのNGOにより、120のサイドイベントが開催されました。

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開催地となった、南北アメリカ大陸の間に位置する亜熱帯のパナマ。CoP19には、この地域に生息する種の附属書改正提案や議題も多く出されました。生物多様性ホットスポットである国々の問題意識の高さを物語っていると言えるでしょう。

CoPの議論は、2つの分科会(Committee)で行なわれます。各分科会で合意された内容が、最後の2日間に開かれる全体会合(Plenary)で最終的にCoPでの結果として、採否が確定します。(会議の進行プロセスについて、文末に参考情報として紹介しています)

▼関連資料:CITES-CoP19で決議された附属書への新規掲載やアップ/ダウンリスティング提案の結果

今回のCoP19では、附属書改正以外も含めると、合計500種を超える動植物に関するさまざまな提案が、締約国によって新たに決議されました。

この各動植物の附属書改正の採否は、今後の種の保全と、野生生物取引の持続可能性を担保する上で、最も注目されるポイントになります。

これと同時に、ワシントン条約の規定を各締約国が施行する上の手引きとなるルールや定義などを定めている「決議(Resolution)」や「決定(Decision)」の決議もとても重要です。

CoP19では、こうした運用上の規定が過去最多の365採択されました。

採択された附属書改正の内容や決議・決定について、日本に関係の深いテーマについて紹介します。

アフリカゾウ-象牙取引の行方

アフリカゾウや象牙に関する議論は、ワシントン条約設立時から注目されるテーマの一つです。

特に2016年に開催されたCoP17以降、国際取引を規制するワシントン条約上で、締約国が有する国内象牙市場、つまり各国の国・域内取引に対する規制強化の議論が加速し、今回も多くの時間を割いて議論がなされました。

象牙取引については、大きく2つの側面について、それぞれ違ったアプローチがあり、審議が紛糾しました。
・ ゾウの密猟や象牙の違法取引撲滅のために必要な措置について
・ ゾウの保全のために必要な措置について

密猟や違法取引撲滅も野生生物の保全もワシントン条約が目指すもので、どちらも同じ取り組みを実施することができそうですが、特に象牙取引においては、実際、非常に難しい問題を抱えています。

ゾウの密猟や象牙の違法取引を撲滅するためには、より厳しい措置として、国内の象牙市場を閉鎖すべきと考える締約国によって、締約国の国内象牙市場の状況を分析することを求める提案が出されていました。

一方で、アフリカゾウが生息するアフリカ諸国の中には、象牙は有効な資源として活用する権利があり、また取引により得た資金によって、保全活動を促進させることができる、との考えから、現在は禁止されている象牙の国際取引再開を求める提案も出されていました。

象牙を目的とした密猟により、アフリカゾウの個体数は2006年からの10年間で11万頭減少したと試算され、IUCNのレッドリストでも絶滅危機種として評価されています。

それでも、生息国37カ国中のいくつかの国や地域では、個体数が安定していたり増加傾向にある一方、人とゾウの生活圏が近くなり、人や農作物がゾウの被害に遭ったり、ゾウが害獣として認識され、殺されるといった問題が生じています。

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発言する日本政府代表団。日本政府は、象牙の持続可能な利用を支持し、国内の合法象牙市場の維持を明言していますが、日本から違法に象牙が流出している実態を指摘する国やNGOから、日本の国内象牙市場に疑問が呈されました。

関係する議題は複数に渡りましたが、主な審議で決議した内容は下記のとおりです。
・ 国内象牙市場を有する締約国は、密猟や違法取引に寄与しないために実施している措置について、第77回常設委員会(2023年開催予定)へ報告すること
・ ワシントン条約事務局は、国内象牙市場を有する締約国に関連する象牙の違法取引について、専門家と協力し、可能な場合は分析を行ない次回CoP20で報告すること。また、その分析の進捗状況は、第77回常設委員会(2023年開催予定)へ報告すること

その他、象牙の取引再開を望む国々が出していた、規制の緩和を求める附属書の改正提案については否決されたため、アフリカゾウに関連する国際取引は、依然厳しく規制が継続されることとなりました。

審議の中では、予防的立場から強力な保護の施策を支持する先進国と、資源の利用を切望する途上国という構図が年々色濃くなっているのが印象的でした。

これは、アフリカゾウ以外の議題でも見られるもので、近年のワシントン条約の大きな課題ともいえるものです。

ペット対象種-広がる国際取引市場と規制のいたちごっこ

CoP19に提出された52の附属書改正提案の約半数の26は、ペットとして利用されている種についての提案でした。

その対象となっていた動植種の数は100種以上に上ります。

ペットとして多種多様な野生動物を利用している日本にとって、こうした種の附属書の改正の動向は非常に重要です。

今回の掲載提案は、カメ類が多いことと、中南米からの提案が多いことが特徴的でした。

近年、日本のペット市場で取引される爬虫類はトカゲ類が増えてきましたが、依然輸入量や国内取引量が多いのはカメ類です。

今回の提案に挙がっていたアジアで鳴鳥として人気のある2種と、国内法で飼育・取引が禁止されている種を除くと、日本ではいまだに多くが国内ペット市場で販売され、広告の掲出が確認されています。

また、需要が高まり国際取引が規制されると、まだ規制されていない別の種が売買されるという、いたちごっこも続いています。

CoP19の結果を受けた市場の動向を把握し、こうした事態が拡大しないよう注意が必要となります。

両生類については、、国際取引の規制対象となっていないイモリやカエルが世界のペット市場で活発に取引されていることから、前回のCoP18で、国際取引や保全状況を把握するための取り組みを条約事務局や締約国が協力して行なう決定が採択されました。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響もあり、その実施が遅れていましたが、今回CoP19では、取り組みの必要性が確認され、継続して進めるよう新たな決定が採択されました。

また、WWFジャパンの野生生物取引監部門であるTRAFFICが、2022年3月に公表した取引調査報告書の中で、ワシントン条約附属書へ掲載すべきと提言したシロメアマガエル(レムールネコメガエル)は、今回のCoP19において、附属書Ⅱへの掲載提案がなされ、採択されました。

© Ola Jennersten / WWF-Sweden

日本のペット市場でも人気のシロメアマガエルAgalychnis lemur。パナマを含む中米に生息する絶滅のおそれの極めて高い近絶滅種(CR)。個体数は減少傾向にある。CoP19で野生捕獲(WC)個体の輸出割り当てはゼロに設定されたため、WC個体が輸出されることはなくなります。

この他にも、今回のCoP19では、ペット利用される種の多くが、密猟や密輸といった問題も指摘されました。

密猟や密輸を撲滅するためには、取引を規制するだけでなく、消費国(輸入国)で、野生生物や野生生物製品への問題のある需要を削減する必要性が認識されています。

CoP19では、その実践のためのガイドラインの採用が提案され、また、実施のための研修やガイダンス、それらの各国語への翻訳を推奨する決議が行なわれました。

結局、ペット関連の26提案のうち、提案国が取り下げたシンリンガラガラヘビに関する提案と、附属書Ⅰ掲載が否決され、附属書Ⅱへの掲載が決まったインペリアルゼブラプレコ以外、すべての提案が採択され、附属書への新規掲載と規制強化が実施されることになりました。

ただ、一部の提案については、それまでの議題の審議が長引いたことで、分科会最終日の審議となったために、十分な議論が尽くされたとは言えない点は残念です。

こうした会議のプロセスには課題が残りますが、ペット取引が野生生物の脅威として認識され、国際取引規制の必要性が認識されたことは評価できます。

これまで無規制に行なわれてきた、ペット利用される野生動物の保全策が、今回の決議を受け、各国で進むことが期待されます。

水産種-資源管理とワシントン条約

近年のCoPでは、水産物として利用される野生生物(以下、「水産種」という)に関する議論が増加しています。

今回も、サメ・エイおよびナマコに関する附属書や施行に関わる議題が大きく注目されました。

特に、サメ類は漁獲や輸出入に関係する締約国が多いため、審議にも長い時間が割かれました。

今回のCoP19では、メジロザメ類とシュモクザメ類については、一度に多くの種が規制対象となる「科」全種を附属書に掲載する提案が、主催国であるパナマをはじめとする中南米の国々、欧州などから提案され、開催前から話題になっていました。

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発言するパナマ政府代表

サメ類は、その生態から個体数が減少すると回復が難しいために、予防的な保全策が必要である一方、世界的に広く商業利用される種でもあること、また、今回の提案では、資源量が豊富で漁獲圧も高くないとされるヨシキリザメも規制対象に含まれることから、熱心な議論が交わされました。

対象とする種を絞る変更なども検討されましたが、最終的には、投票によって、メジロザメ「科」に属する全54種、シュモクザメ「科」の全9種が、附属書Ⅱに掲載され、取引の規制対象となる提案が採択されました。

水産種は、資源として地域漁業管理機関など他の枠組みでも持続可能な利用を目指す取り組みが行なわれており、ワシントン条約で取引管理することの有効性や施行の実現可能性を疑う声もあります。

しかし、別の国際的な枠組みでの資源管理がうまく機能していないとの課題が指摘されているほか、規制の対象種が限定されることで、対象外の種との識別が難しくなっている点や、規制対象ではない種と偽って取引を行なうロンダリングの問題が生じていることから、今回の会議では、一律に管理する提案に支持が集まり、採択にいたりました。

今後は、掲載種の増加に伴う締約国の運用面の負担や技術的なサポートを行なうと共に、地域漁業管理規則など、ワシントン条約以外の枠組みと協力した、国際的な取り組みの実施を目指すことが求められます。

© Joost van Uffelen / WWF

日本で最も漁獲されているサメであるヨシキリザメ。本種を含むメジロザメ科の附属書Ⅱ掲載が決まりました。12カ月後から、国際取引には輸出許可書が必要になります。

ダウンリスティング-保全の成功例

CoP19に関して特筆すべきことに、附属書I掲載種を附属書Ⅱへ移行する、すなわち規制を緩和する複数の提案の採択があります。

こうしたダウンリスティングが認められるには、掲載種の個体数の回復と国際取引が種の存続に悪影響を与えないことが条件です。

ですから、附属書Iから附属書Ⅱへのダウンリスティングは、ワシントン条約という国際取引規制が掲載種の保全の成功に貢献したことを意味する、非常に喜ばしい改正です。

CoP19では、メキシコプレーリードッグ、シジュウカラガン、アホウドリなどが附属書Ⅰから附属書Ⅱへ移行されることが決まりました。

© Jürgen Freund / WWF

孵化するイリエワニ。本種は、1979年以降、附属書ⅠとⅡに分かれて掲載されています。CoP19でフィリピンの個体群も附属書Ⅱへ移行することが決まりました。

こうした例は、「ワシントン条約の附属書に一度掲載されたら、規制が永久に続くので、経済的に重要な種の掲載はなるべく避けたい」という後ろ向きな締約国政府の姿勢を変えることにもつながります。

今後も、各国が協力し合い、実施した保全・回復の取り組みの成果として、CoPでダウンリスティング提案が適切に審議され、実現することを期待します。

今後の懸念と期待

国際交渉とは本来、世界中の国々が協力して、課題を共有し、その解決を目指すための協議を行なう場です。

しかし近年、さまざまな国際条約の会議では、締約国間で意見の対立や方針をめぐる分断が際立ち、締約国を名指しで批判する例も見られます。

ワシントン条約においても、自国に生育する希少な樹種を保全したい生息国と、その樹種を利用して製造された製品(楽器など)の取引や移動を阻害されたくない利用国の間で対立が起きたり、同じ生息国でも、絶滅の危機を理由に取引を禁止したい国と、個体数の回復を理由に資源としての利用を促進したい国の間で、こうした反目が見受けられます。

また、今回のCoP19で、ワシントン条約において初めて取り上げられた、ジェンダーに関する議題でも、宗教的な意見の相違が露呈しました。

このような対立や分断が、コンセンサス(全会一致)を基本とするワシントン条約のような国際条約での議論を、困難な状況に追い込んでいます。

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ウクライナ政府代表団は、将来、CoPを主催したいと述べ、喝さいを受けた。

日本政府は、これまでのCoPに比較して、はるかに積極的に議論に参加し、発言していたことが印象的でした。

特に持続可能な利用については、生息国の地域社会に寄り添い、取り組みを進めることの必要性を求める姿勢が垣間見えました。

一方で、持続可能な利用の推進に固執するあまり、大前提である野生生物の保全や予防的アプローチが、ないがしろになることは避けなければなりません。

真に持続可能な利用の在り方とは、どのようなものなのか。保全と利用のバランスは、どう取っていくべきなのか。そして、そのための合意の道のりを、どうつけていくのか。

これらの課題は、引き続きCoPの場において、大きな焦点となっていくでしょう。

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発言するWWFスタッフ

次回のCoPは、記念すべき20回目。2025年の開催が決まっています。

世界の国々は、野生動植物の保全、そして生物多様性の回復という共通した大きな目標を目指し、分断から連帯の場にCoPのあり方を変えていく必要があります。

WWFとTRAFFICも、引き続き国境を越えた国際NGOとしての立場から、ワシントン条約が有効な野生生物保全の機会となるよう、働きかけを行なっていきます。

▼参考情報:ワシントン条約締約国会議の進行プロセス

ワシントン条約の締約国における分科会では、各議題の検討を始める際にまず、議長が、その提案の提案者(締約国)に議題の紹介を促します。

続いて、各締約国やオブザーバーに意見を求め、集約して分科会としての見解をまとめます。附属書改正以外の議題は、主に「決議(Resolution)」または「決定(Decision)」の修正や採択を求める形で提案されているので、必要に応じて、こうした案文の修正作業を分科会の下位の作業部会で行ないます。

また、締約国間で意見が分かれる場合は、投票が行なわれます。投票に参加した締約国数の過半数、附属書改正など重要な議題については2/3以上の賛成で提案が通ります。

分科会にメンバーとして参加できるのは、締約国の政府代表団のみで、WWFのようなNGOや研究機関などはオブザーバーとして傍聴します。オブザーバーは、分科会では投票などには関与せず、意見を述べるにとどまりますが、作業部会では締約国と共に作業を行ないます。

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