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持続可能な社会をめざす地域モデルの推進

この記事のポイント
先進国では、都市住民と同じ生活をすると地球3個分の自然資源が必要になるといわれるほど、都市の環境負荷は大きくなっています。日常的に利用する交通や食、住居などの観点からライフスタイルを見直すことが大切です。その点、ごみ処理や都市計画、学校教育などで、人々の身近にある自治体の果たす役割は大きく、良い取り組み事例をつくることは、持続可能な社会という世界的な目標達成の足がかりになります。WWFジャパンは2015年春から、「環境未来都市」のひとつである横浜市と協働して持続可能な街づくりに取り組んでいきます。

横浜でのモデル確立をめざして

持続可能な社会をめざす地域モデルの推進 活動の概要紹介

目的 都市の持続可能なライフスタイルを、「温暖化対策」と「食にともなう環境負荷の削減」
といった側面から実現していけるよう、市民の環境リテラシーの向上を図り、地域の主体性
を高める。
内容 本事業は持続可能な都市の構築にあたって、まず横浜市をモデル地域として推進する。
地球環境問題の最新の課題のひとつである「都市におけるライフスタイルの見直し」を図る。
その方法として、教育を通じた働きかけと、地域の主体性と実現力が高まる体制づくりを支援する。
期間 2015年4月~2021年3月
実施体制 WWFジャパン スタッフ1名
協力機関:横浜市温暖化対策統括本部
進展状況 第1期(2015年4月~2018年3月) プロジェクト開始。構想と戦略の立案。協力機関との関係構築など。 第2期(2018年4月~2021年3月) 教育プログラムの確立、普及拡大。地域連携による地元関係者の主体性確立支援。
活動資金 約200万円/年

グローバルな目標達成は、ローカルなアクションから

2018年、世界人口は74億人に達しました。その約50%は都市に居住し、都市に住む人口は急速に増大しています。

発展途上国の新興都市では、住居や上下水道、電気などのインフラが十分に整わず、交通渋滞、大気汚染などの問題が起きています。
さらに都市からは世界の温室効果ガス排出量全体の約70%が排出されています。
もし世界中の人々が先進国の都市部に住む人々と同じ生活をしたら、自然資源が地球3個分も必要になる計算です。

この現状を変えなければ、交通、食、住居を通じて都市で生じる環境負荷はさらに拡大してしまうでしょう。一方で、都市からの環境負荷を賢明な形で減らすことができれば、都市の生活の質は向上し、地球全体の環境は改善していくでしょう。

WWFは自治体による積極的な好事例を生み出そうと取り組みを続けています。
環境への配慮が行き届き、地球の資源が1個分で済むような都市づくりが達成できるよう、その政策や実行計画の立案を支援しています。

2015年3月、WWFジャパンは横浜市と環境分野について連携協定を交わしました。
この協定は、地球温暖化対策や生物多様性の保全、循環型社会の構築など、環境分野での連携を通じて、持続可能な社会の実現をめざすものです。

2018年3月、この連携協定を更新しました。
連携活動のねらいを表現するメッセージを『One Planet YOKOHAMA Lifestyle』とし、人口370万の日本を代表する都市のひとつである横浜から「地球1個分の暮らし」を形にしていこうとしています。

具体的な実施においては、「教育」と「地域連携」を大きな柱としています。

2015年3月の連携協定締結セレモニー。林文子横浜市長(右)と德川恒孝WWFジャパン会長(左)(当時)
©WWFJapan

2015年3月の連携協定締結セレモニー。林文子横浜市長(右)と德川恒孝WWFジャパン会長(左)(当時)

【2019年度の活動予定】

2015年から取り組んできた実施策の2本柱である「教育」と「地域連携」を、今後、さらに拡充させていきます。

1. 「地球1個分の暮らし」教育プログラムの推進

横浜市教育委員会や学校現場との接点を生かして開発した「地球1個分の暮らし」教育プログラムをご紹介するため、小中高校の先生たちを対象にした実践的講習会「明日の授業に生かせるESD講座」を開催します。
講座を受講した先生方の中で、希望された場合は、WWFネットワーク内でも教育活動に熱心なWWF香港と連携し、香港の小学生とのメッセージ交換によって交流する機会を設けます。

2019年6月のESD講座は横浜市教育委員会と横浜市(温暖化対策統括本部)の後援を得て、以下のようなねらいと内容で実施します。

●目 的:地球温暖化をはじめ、森林の減少、環境負荷の大きな生活様式など、解決が必要な環境問題がいくつもあります。これらについて小学校高学年から中高校生が、総合的な学習、理科、社会などの時間を利用して効果的に学習するためのカリキュラムについて学びます。
●内容:地球温暖化やプラスチックごみ、ライフスタイルなどについての授業用資料の提供、アクティビティの手順と実施方法の紹介。
●時間:9:30~13:00(横浜市役所本庁舎近くのビルにて、6月上旬)
●定員:30 名以内(横浜市内の小中高教員)
●国際交流:希望者にはWWFジャパンが香港の学校を紹介し、国際交流の橋渡し
●参加費:無料

2. 地域の連携強化

・2019年3月と同様に、EARTH HOUR(アースアワー)を地域主体で実施する体制を整え、各種イベントなどを実施する予定です。世界188カ国地域で実施されている世界的消灯イベントに参加することで、市民の環境意識と主体性を高めます。
・横浜市環境創造局から依頼を受けて、毎年の6月の環境月間を中心に、市立中央図書館や都筑区の図書館で自然環境についてのパネル展示に協力してきました。2019年も、WWFジャパンが制作した海洋保全についてのパネルなどを展示する予定です。
・横浜市で実施されている「環境絵日記展」に対し、毎年、優秀賞を選ぶ選考に加わり、「WWFジャパン賞」を出してきました。今年度も協力関係を維持し、環境をテーマにした絵と作文に関し、優秀な作品が数多く生まれるよう、地域での草の根環境保全活動の盛り上げに貢献していきます。

【これまでの取り組みと成果】(2015.4~2019.3)

1.教育

①「地球1個分の暮らし」教育プログラムを小中学校で展開 

横浜市内の小中高の学校教員対象にESD講座を開催してきました。ESDとは、Education for Sustainable Developmentの略称で、持続可能な社会を作るための人を育てる教育活動で、ユネスコ等により、世界各地で展開されています。

この講座では、「地球1個分の暮らし」教育プログラムをもとに、参加した先生方が自身の学校に帰ってから、すぐに実践できるよう、地球温暖化やライフスタイルの見直しなどに関する授業用資料や、取り組みやすいアクティビティの実施方法を紹介するなどしました。

さらにWWF香港と連携し、香港の小学生と横浜の小学生に交流の機会を提供してきました。これまでに市内小学校6校約500人の児童・生徒が参加しました。
子どもたちは海外の同世代の子どもたちが作成したプラスチックごみやリサイクル、省エネなどに関する手紙や絵、学習のまとめ、動画などに興味深く目を通し、共感したり、学びを深めたりしました。

横浜市内の学校教員を対象としたESD講座(2017年)
©WWFJapan

横浜市内の学校教員を対象としたESD講座(2017年)

香港の小学生が送ってきた横浜の小学生宛の手紙や環境学習のまとめ<br>
©WWFJapan

香港の小学生が送ってきた横浜の小学生宛の手紙や環境学習のまとめ

②幼児対象に食品ロス削減をテーマとした紙芝居「おひさまトマトのトマゴロウ」を制作

2017年6月、横浜市資源循環局と協働し、絵本作家やべみつのり氏と児童文学者わしおとしこ氏のお力を借りて、食品ロスの削減をテーマとした幼児対象の紙芝居を制作しました。
資源循環局の職員が幼稚園・保育園児に絵本の読み聞かせをする際に、紙芝居の主人公であるトマトとトマトスープ通じて「食の大切さ」や「食の循環」を学ぶための啓発ツールとして大いに活用されるようになっています。

さらに紙芝居を見た子どもが、事後に家族にも学んだことを伝えられるよう、紙芝居と同時に配付されるリーフレットにレシピつけ、家庭でもトマトスープを味わいながら、食べものの大切さを家族内で確認しあえるように工夫しました。

食品ロスの削減をテーマにした紙芝居「おひさまトマトのトマゴロウ」表紙

食品ロスの削減をテーマにした紙芝居「おひさまトマトのトマゴロウ」表紙

③温暖化対策について考える機会となる市民対象セミナー開催

2016年1月、最新の地球温暖化対策の課題を横浜市民と共有するため、「パリ協定」をテーマとした市民参加型セミナー「Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか」を横浜情報文化センター(情文ホール)で開催し、220名の参加を得ました。

パリ協定は、気候変動に関する国際会議で2015年12月に成立した温暖化対策のための世界的な協定です。
第一部の講演と、第二部の参加型のワークショップからなるセミナーでは、パリ協定の内容や広く世界の温暖化の現状をめぐり、参加者からたくさんの発言と質問が出されました。活発に議論が展開されることで、参加者間でパリ協定ととるべき温暖化対策についての理解が深まりました。また、国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多氏にもご登壇いただいたおかげで、温暖化の最新の知見がもたらされました。

パリ協定を題材にした市民参加型セミナー「Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか」(2016年1月開催)」

パリ協定を題材にした市民参加型セミナー「Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか」(2016年1月開催)」

2. 地域連携

① EARTH HOUR in YOKOHAMA が地域の連携のもと実施

WWFが世界各地で参加を呼びかける消灯イベント「アースアワー」は、毎年3月下旬の土曜日に開催されています。
横浜では2014年から市と共催という形で実施してきました。
横浜F・マリノスは2015年に日本のアースアワー親善大使に就任し、以来アースアワーの認知度を高める活動にご協力下さっています。毎年、横浜会場には複数の現役選手とトリコロールマーメイズがお越し下さるおかげで、大きく盛り上がる場面が生まれています。

2019年3月の開催に向けて、地元NGOや大学生が主体となる「アースアワー実行委員会」(EARTH HOUR 2019 in YOKOHMA実行委員会)が横浜で立ち上がり、市民自らの手で盛り上がるようになってきています。

近年は、当日だけでなく、「アースアワーウィークス」と呼ばれる期間が設けられ、3月に入ってから、関連イベントが事前にも当日にも、複数実施されるようになっています。

2019年3月は「持続可能な街づくり」を市民が主役となって考える市民ディスカッション(シビル・ディスカッション)が計3回おこなわれるなど、アースアワーウィークスが横浜に暮らす人たちが中心となる形で進められました。

3月24日には、横浜市風力発電所ハマウィングの電力が活用され、横浜ビー・コルセアーズVS栃木ブレックス戦が『自然エネルギー100%ゲーム 風と海賊DAY 』(バスケットボールのBリーグ公式試合) として開催されました。
こうして、3月30日は、横浜ベイブリッジをはじめ、過去最多133の企業・団体が消灯に参加する、さらに大きなイベントへと成長しました。

日本丸前でのアースアワー(2018年3月)

日本丸前でのアースアワー(2018年3月)

市民ディスカッション(2019年3月)

市民ディスカッション(2019年3月)

横浜ビー・コルセアーズのバスケットボールの試合前におこなわれたグリーン電力証書授与のセレモニー(2019年3月)

横浜ビー・コルセアーズのバスケットボールの試合前におこなわれたグリーン電力証書授与のセレモニー(2019年3月)

② 地域の図書館や動物園を活用したパネル展開催

横浜市環境創造局との協働活動では、毎年5月22日の「国際生物多様性の日」から6月の環境月間にかけて、横浜市立中央図書館や都筑区の図書館で森林や海洋、野生生物などをテーマにしたパネル展を開催してきています。

図書館が収蔵する自然環境に関連する図書などもあわせて紹介され、子どもたちだけでなく大人にも興味を持たれる企画として、市民が学びを深める機会が提供されています。

横浜市立中央図書館でのパネル展

横浜市立中央図書館でのパネル展

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