【COP17現地報告】ターゲット18の実施加速へ~議長国アルメニア・イニシアティブ立ち上げ

この記事のポイント
アルメニア・エレバンで開催中の生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」の達成に向けた議論が続いています。資源動員をめぐる交渉が難航する一方で、生物多様性損失の要因となっている経済・金融システムの転換に関わる「ターゲット18」の実施加速に向けて、議長国アルメニアが新たなイニシアティブを立ち上げました。政治的コミットメント、締約国間の協力、実施支援を組み合わせたこの取り組みが、有害な公的インセンティブの改革や生物多様性に資するインセンティブの拡大といったターゲット18の実施を後押しできるかが注目されます。
目次

資源動員と並ぶ生物多様性保全の重要課題「ターゲット18」

アルメニアのエレバンで開催されている、国連の生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」の実施状況を確認する、初めてのグローバルレビューが行なわれています。

KM-GBFは、世界の生物多様性保全の目標であり、2030年までに地球の生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の達成を目指すものです。

会議の開催前、グローバルレビューの基礎情報として、各国によるその達成状況をまとめた報告書では、世界各地で取り組みが進む一方、KM-GBFの多くのターゲットで進捗が不十分であり、このままでは2030年までの目標達成が困難であることが示されました。

なかでも、生物多様性損失の要因である経済・金融システムの変革は、最も進捗が遅れている分野の一つです。こうした課題を前進させるため、CBD-COP17では、あらゆる資金源から保全に向けた資源動員を扱うKM-GBFの「ターゲット19」に加え、補助金などの公的インセンティブの改革を求める「ターゲット18」の実施加速が重要なテーマとなっています。

Photo by IISD/ENB - Mike Muzurakis

しかし、資源動員をめぐる議論では、各国の立場の隔たりが大きく、CBD-COP17の交渉は難航しています。

先進国から途上国への資金拠出が、目標金額に届かなかったことへの不満が途上国にある一方、先進国側では、財政的制約から拠出拡大は容易ではありません。

このため、新たな資金供与国の拡大も議論に上がっていますが、合意形成の見通しは不透明です。

資源動員の議論が行われているコンタクト・グループの様子
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資源動員の議論が行われているコンタクト・グループの様子

そもそも、KM-GBFの目標達成には、新たな資金を動員するだけでは不十分です。現在も自然を破壊するビジネスや事業などの経済活動には、保全に資する資金の約30倍もの資金が流れ続けているためです。

ネイチャーポジティブの実現には、保全資金の拡大と並行して、こうした資金フローそのものを転換していくことが不可欠です。

とりわけ各国政府には、公的財政や政策を通じて、生物多様性損失の根本要因となっている経済・金融システムの転換を後押しする役割が求められています。

そのため、ターゲット19による資源動員と並行してターゲット18の実施を加速することが重要となっています。

【参考記事】【COP17現地報告】自然を損なう公的資金の転換を急げ ~ ターゲット18実施加速へ

ハイレベル会合が予定されているCBD-COP17第2週の初日には、財務大臣のラウンドテーブルも実施された。
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ハイレベル会合が予定されているCBD-COP17第2週の初日には、財務大臣のラウンドテーブルも実施された。

議長国アルメニア主導のターゲット18実施加速のイニシアティブ

そうした中、10月26日に開催された閣僚級イベントで、議長国アルメニア主導のイニシアティブが発足しました。

これは、「ターゲット18」に関する政治的な約束を具体的な実施につなげることを目的としたものです。単なる政治宣言にとどまらず、「政治的コミットメント」「締約国間の協力」「実施支援」の3つの側面から実施を後押しする仕組みとされています。

【1:政治的コミットメント】生物多様性に資するインセンティブのためのエレバン・コール(Yerevan Call on Positive Incentives to Biodiversity) 政治的な意思と行動を促すハイレベル宣言

本イニシアティブの政治的基盤となるハイレベル宣言。ターゲット18の2つの要素である「生物多様性に有害なインセンティブの削減・改革」と、「生物多様性に資するインセンティブの拡大」へのコミットメントを再確認し、その実施に向けた行動を促す目的。

【参考情報】 Flagship Initiative Target 18 Ministerial event

【2:締約国間の協力】フレンズ・オブ・ターゲット18(ターゲット18有志国グループ:Friends of Target 18) 各国の協力と相互学習を通じて実施加速を目指すプラットフォーム

ターゲット18の実施加速に向けた締約国主導の協力プラットフォーム。各国が継続的な政治的・技術的協力を進めるとともに、有害なインセンティブの特定・改革や生物多様性に資するインセンティブの拡大に関する経験や知見を共有し、相互に学びあうことを目的とする。フィンランドとコロンビアが共同議長国。

【3:実施支援】エレバン・生物多様性ファイナンス・チャレンジ(Yerevan Biodiversity Finance Challenge) 政治的約束を具体的な行動につなげる実施支援プログラム

政治的なコミットメントを国レベルでの具体的な行動へと結び付けるための実施支援イニシアティブ。生物多様性に影響を与えるインセンティブや資金フローの把握・評価から、改革案の設計、資金動員、進捗管理までを体系的に支援し、各国によるターゲット18およびターゲット19の実施を後押しするプログラム。

ドイツ政府の支援により、最大10か国を対象に技術支援とシード資金が提供される予定。2027年から取り組みを開始し、次回開催されるCBD-COP18までに、有害なインセンティブの改革や生物多様性に資する財政措置の拡充に向けた具体的な取り組みを後押しし、成果を生み出すことを目指す。

【参考情報】Yerevan Biodiversity Finance Challenge(BIOFIN)

議長国アルメニアが主催したターゲット18のイニシアティブを立ち上げるハイレベルイベントの様子。
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議長国アルメニアが主催したターゲット18のイニシアティブを立ち上げるハイレベルイベントの様子。

このようにCBD-COP17では、KM-GBFのターゲットの中でも特に進捗が遅れてきたターゲット18の実施加速に向けて、議長国主導で政治的コミットメントのもと、締約国間の協力、実施支援を組み合わせたイニシアティブが立ち上げられました。

日本を含め、ターゲット18の実施が十分に進んでいない国々にとって、エレバン・コールは新たな約束ではなく行動への呼びかけであり、既存の約束を具体的な行動へと移すための後押しとなるかが注目されます。

真価が問われるCBD-COP17

CBD-COP17は第2週のハイレベル会合を迎え、交渉が大詰めに入ります。グローバルレビューで明らかになった進捗の遅れに対し、各国の行動強化につながる具体的な合意ができるのか。また、実施に不可欠な資金を含む実施手段の拡大に向けた道筋を示せるのかが問われています。

WWFは、引き続き関係各国への働きかけや情報発信を積極的に行ないながら、実効性のある成果の実現に向けて尽力していきます。

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