【COP17現地報告】自然を損なう公的資金の転換を急げ ~ ターゲット18実施加速へ
2026/10/22
- この記事のポイント
- 現在、アルメニアのエレバンで開催されている生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)では、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)の目標達成に向けた行動の強化が議論されています。現在の取り組みの延長線上では目標達成が困難な見込みであることから、行動の加速がCOPのテーマとなっています。議長国アルメニアは、特に進捗が遅れている分野における実施加速のための重点イニシアティブを打ち出しています。そのうちの一つが公的インセンティブの改革を扱うKM-GBF「ターゲット18」の実施加速を後押しする取り組みです。COP第2週のハイレベル会合における立ち上げが予定されており、新たな政治的機運が生み出せるか注目されています。
ネイチャーポジティブの達成に不可欠な資金フローの改革
2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の達成を目標に掲げた「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」。
これは、生物多様性条約に加盟する国々が合意し、掲げている、世界の生物多様性保全の国際目標です。
2026年10月19日から30日にかけて、アルメニアのエレバンで開催されている、生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)では、このKM-GBFの達成状況を確認する中間評価「グローバルレビュー」が実施されています。
現在の世界各国の取り組みの状況では、KM-GBFの達成が困難であることが指摘される中、CBD-COP17では、生物多様性保全のための行動を、各国が大幅に加速させるため、具体的な道筋を見出せるかどうかが焦点となっています。
なかでも、保全に必要な資金の拡大と、自然を破壊する事業などに使われる資金の流れを転換する取り組みは、進捗が最も遅れている分野の一つであり、CBD-COP17の重要なテーマとなっています。
とりわけ注目されるのは、「ネイチャーポジティブ」達成のための資金動員を掲げたKM-GBFの「ターゲット19」、そして、補助金などの公的インセンティブの改革を掲げる「ターゲット18」です。
今回のCBD-COP17の議論では、その実施を各国が加速できるかが、大きな焦点となっています。

補助金を含む公的インセンティブの改革を目指す「ターゲット18」
「ターゲット18」には、次の2つの要素があります
- 生物多様性に有害な影響をもたらす可能性のある、補助金などのインセンティブの特定と改革。2025年までに有害なインセンティブを特定し、最も有害なものから優先的に廃止・改革を進め、2030年までに年間5,000億ドル以上削減すること。
- 生物多様性の保全と持続可能な利用に資する、公的インセンティブの拡大。
このように「ターゲット18」では、生物多様性の損失を招く補助金などのインセンティブを削減・転換するとともに、保全を後押しするインセンティブを拡大することが求められています。
国連環境計画(UNEP)によれば、自然を損なう経済活動への資金は、年間で推定約7.3兆ドル。対して、自然の保全や回復に向けられる資金は、わずか約2,200億ドルにとどまっています。
30倍以上の差を持つ、この2つの大きな資金の偏りを是正するためには、保全に向けた資金を増やすだけでは足りません。
生物多様性の損失につながる、ビジネスや事業などの経済活動に流れる資金やインセンティブそのものを見直し、転換していくことが欠かせません。

農地に転換される南米の森。こうした事業に資金が付くと、環境の破壊は一気に進みます。生物多様性に有害なインセンティブとは、こうした環境への配慮が足りず、生息地の破壊や土地利用転換、資源の過剰利用、温室効果ガスの大量排出、汚染など、環境破壊を招き、生物多様性の損失を引き起こす要因となっている経済活動を後押しする補助金や優遇措置などをいいます。
「ターゲット18」の課題とCBD-COP17での機運の高まり
KM-GBFの世界的な進捗を評価した「グローバルレポート」によると、「ターゲット18」に関する各国の目標設定は不十分です。
特に、生物多様性に有害なインセンティブの特定や改革に関する目標は、保全に資する正のインセンティブに比べて不足しています。
また、報告が必須の指標となっている「有害なインセンティブの金額」について報告した国も、国別報告を提出した国の20%に満たない状況です。日本も国別報告書の中で、指標を含めターゲット18に関する進捗を報告できていません。
「ターゲット18」の実施には、技術的な課題だけでなく、政治的な課題も伴います。
生物多様性に負の影響を与える可能性のあるインセンティブの多くは、環境政策ではなく、産業振興や生産者支援などを目的とした政策のもとで導入されているためです。その見直しには、政府全体の明確な方針のもとで関係省庁が連携する体制が欠かせません。
さらに、生産者や地域コミュニティなど幅広い関係者の参加・協力に加え、公正な移行の観点を踏まえた社会的配慮も重要になります。
これまで国別の生物多様性ファイナンスの分野では、国連開発計画(UNDP)の生物多様性ファイナンス・イニシアティブ(BIOFIN)などを通じて、多くの国で生物多様性に関する財政支出の分析や、公的な補助金・インセンティブのレビューと改革の取り組みが進められてきました。
*イニシアティブ:この場合は「国際的な共通目標を達成するための枠組みや取り組み」のことを指す
CBD-COP17でも、こうした経験が共有され、「ターゲット18」および「19」の実施を加速するための議論が、さまざまなサイドイベントで行なわれています。
【参考情報】The Biodiversity Finance Initiative(UNDP-BIOFIN)
さらにCBD-COP17を前に、130社を超える企業や金融機関からも、各国政府に対して公的なインセンティブ改革を進めるよう求める公開書簡が出されました。
自然を損なうビジネスや事業などの経済活動への補助金や優遇措置は、市場の競争条件をゆがめる要因となるためです。
政府がインセンティブを改革し、自然に配慮した選択が競争力を持つ環境を整えることは、民間資金の流れをネイチャーポジティブな方向へ転換することにもつながります。
【参考情報】The trillion-dollar opportunity: An open letter from businesses and financial institutions to governments on incentive reform
(Business for Nature)
議長国アルメニアの「ターゲット18」イニシアティブ
こうした動きにも見られる通り、KM-GBFの約束を果たす上で欠かせない「ターゲット18」の取り組みを加速する機運が、エレバンのCBD-COP17では高まっています。
ハイレベル会合が始まる10月26日には、ターゲット18の実施加速に向けた議長国アルメニアのイニシアティブの立ち上げが予定されています。これに先立ち、第1週からは関連するサイドイベントが相次いで開催されています。
10月21日のサイドイベントでは、フィンランドとコロンビアが議長国を務める「フレンズ・オブ・ターゲット18(ターゲット18有志国グループ)」が紹介されました。
すでに20か国が参加する「フレンズ・オブ・ターゲット18」は、アルメニアのイニシアティブの一環として、ハイレベル会合において正式に発足する見込みです。

議長国アルメニアは、ターゲット18の実施加速に向け、第2週のハイレベル会合で「エレバン・コール」「フレンズ・オブ・ターゲット18」「エレバン・生物多様性ファイナンス・チャレンジ」の3つの柱で構成されるイニシアティブを立ち上げる方針を示した。
イベントでは、メキシコやイギリスにおけるターゲット18実施の具体的事例が紹介されたほか、UNDPのBIOFINに参加する138か国でも、生物多様性に負の影響を及ぼす可能性のある補助金やインセンティブのスクリーニングが進められていることなどが共有されました。
ターゲット18の実施は、環境省が主導して進めることは容易でなく、財務省や経済省、農業省など幅広い関係省庁の連携が不可欠です。「フレンズ・オブ・ターゲット18」では、各国間で経験や手法の共有といった技術的協力を進めるとともに、実施を後押しする政治的機運の醸成を目指しています。

限られた会場スペースに多くの参加者が詰めかけ、関心の高さがうかがえた。
WWFでは引き続き現地で会議に参加し、こうした動きが真に生物多様性の保全につながるものとなるよう、提言活動やサイドイベントなどの開催に取り組むとともに、CBD-COP17の交渉や、交渉の外で進む重要なイニシアティブの動向とその意義を発信していきます。
