【COP17現地報告】生物多様性条約COP17閉幕 総括 ~2030年に向けて
2026/10/31
- この記事のポイント
- 自然と共生する社会を目指し、2030年までに自然の損失を止め、回復軌道に乗せることを掲げた、世界の生物多様性保全の国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」は、世界196か国・地域の合意のもと2022年に採択されました。そこから4年が経過し、2030年までに残すところ4年となった2026年。アルメニアの首都エレバンで生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)が開催されました。会議は会期を1日延長し、2026年10月31日に閉幕。世界の取り組みの遅れが、深刻な懸念として示された一方、初の「グローバルレビュー」が決定され、資金動員などの議論で合意がなされるなど、一定の成果が認められる結果となりました。
「グローバルレビュー」の決定と資金動員の合意 ~CBD-COP17の2つの成果
CBD-COP17の最大の重点は、KM-GBF実施の中間評価となる初の「グローバルレビュー」でした。
世界的な進捗の遅れが明らかになる中、KM-GBFの目標達成に向けた野心を堅持し、具体的な行動強化の方向性に合意できるかが問われました。
同時に、その実現に不可欠な資源動員が目標を下回っている中で、資金拠出の責任など政治的に繊細な論点も含めて、資源動員の拡大に向けた前進を示せるかが交渉の重要な焦点となりました。
「グローバルレビュー」の決定
交渉の末、「グローバルレビュー」の決定では、迅速に実施を加速させなければ2030年目標の達成ができないことに深い懸念を示した上で、「エレバン・パスウェイ」として、行動加速に向けた一連の方向性に合意しました。
特に、生物多様性に有害な補助金・インセンティブの改革とポジティブなインセンティブの拡大(ターゲット18)をはじめ、進捗の遅れが指摘される分野における具体的な行動が明示されたことは、各国の行動強化を促すうえで重要な要素となりました。
こうした「グローバルレビュー」の決定は、CBD-COP17の主要な成果となりました。
資金動員の議論
資金動員の議論では、条約のもと先進国に課される途上国への資金拠出に関して、「拠出国の範囲(contributor base)の拡大」の検討という非常に繊細な論点をめぐり、政治的な対立が深く、交渉が難航しました。
しかし、会議終盤の閣僚協議の議長から示された妥協案を最終日に関係国が受け入れ、最終的に合意に至りました。このほか、条約の恒久的な資金メカニズムの基準についても、長時間にわたる交渉の末に合意することができました。

示された今後の生物多様性保全の方向性
交渉が最後まで難航した議題に、前回CBD-COP16の重要な成果として立ち上がった2つの制度に関するものがありました。
ひとつは、遺伝資源に関するデジタル配列情報(DSI)の利益配分メカニズムにおける「カリ基金」の運営方法を中心とした議題。
もう一つが、先住民族と地域社会(IPLCs)に関する常設補助機関(SB8(j))の運営方法でした。
いずれも各国の立場の隔たりから会期中の合意が危ぶまれる場面もありましたが、最終段階で妥協案の合意にこぎつけました。
CBD-COP17では他にも、資金メカニズム、生物多様性のセクターへの主流化、海洋・沿岸の生物多様性、生物多様性と気候変動、保護地域に関する作業計画などをはじめとした重要な議題が多く議論されました。それぞれで成果と課題が残されたものの、今後の実施を方向付ける決定が採択されました。
- 「グローバルレビュー」「資源動員」「DSI」については、後段のポイント解説もご参照ください。

CBD-COP17に対するWWFの評価
WWFは、世界の取り組みが依然として不十分であることを懸念しつつ、2030年の生物多様性目標の達成に向けて実施の野心と行動を強化する必要があることを認識した「グローバルレビュー」決定が、今回のCBD-COP17で採択されたことを歓迎します。
一方、CBD-COP17のグローバルレビューの真価は、その結果を各国の行動強化につなげられるかどうかにかかっています。
2年後の2028年に予定されている生物多様性条約第18回締約国会議(CBD-COP18)は、エクアドルの首都キトでの開催が決まりました。
CBD-COP18、そして目標達成年である2030年に向けては、各国政府が生物多様性を環境政策の枠を超えてあらゆる政策分野に統合し、全政府的アプローチ(whole-of-government)のもとで実施を加速させること、そして、あらゆる主体が参加する全社会的アプローチ(whole-of-society)のもと、社会全体で変革を進めていくことが必須の取り組みとして求められます。

会議最終日に開催したWWFインターナショナルの記者会見。
CBD-COP17:交渉外のイニシアティブ・動向について
資金をめぐるイニシアティブの発足
今回のCBD-COP17では、各国政府代表団による交渉の外でも、グローバルレビューが示した進捗の遅れへの対応を後押しするさまざまな議論やイニシアティブが立ち上げられました。このことも、CBD-COP17の前向きな成果の一つです。
なかでも、保全に有益な資金フローの約30倍に上るとされる、生物多様性に有害な資金フローは大きな問題として注目され、その転換に関する議論はCBD-COP17を通じた重要なテーマとなりました。
その中で、議長国アルメニアの後押しにより、生物多様性に有害な公的インセンティブの改革とポジティブなインセンティブ拡大を促進する「ターゲット18」の実施加速に焦点が当たったことは前進でした。
こうした議論の中、議長国イニシアティブの政治宣言「エレバン・コール」や、有志国グループ「フレンズ・オブ・ターゲット18」などのイニシアティブが発足。
議長国はこのほかにも、モニタリング、山岳・淡水域、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)の3分野について、KM-GBFの実施加速を後押しするイニシアティブを立ち上げ、気候変動・生物多様性・土壌劣化(砂漠化)の3条約の連携強化(シナジー)に関する共同宣言を発表しました。
資金と民間の動き
今回の会議で議長国アルメニアは、会議期間中に参加者から表明された拠出の総額が18億米ドルに達したと発表しました。さらに、環境大臣と財務大臣による初の対話も開催。生物多様性目標の達成には、経済・財政政策を含む社会全体の変革が不可欠であり、こうした対話が今後も継続・発展していくことが期待されます。
この他にも、本会議場での交渉の外では、民間企業や金融機関を対象としたさまざまなイベントも展開され、民間企業からも多くの参加者が集まりました。
ビジネスと生物多様性フォーラムなどのイベントでは、すべての企業が生物多様性に影響を与えている、というIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)報告書の強いメッセージを起点に、企業が変革の主体となることの重要性が強調されました。
実践面では、「ターゲット15」に関連する情報開示や自然の状態の測定の枠組みについての最新動向や、民間セクターの先進事例に加え、こうした取り組みを支える政策・制度環境の整備についても議論が展開されました。

ネイチャーポジティブイニシアチブによるビジネスをテーマにしたサイドイベント。
さらにCOP会場で大きな存在感を示していたのは、先住民族、地域社会(IPLCs)、若者、女性などの権利保有者・ステークホルダーたちです。
こうしたグループは、公式交渉への参加に加え、数多くのサイドイベントや展示、キャンペーンを通じて、それぞれの経験や知見に基づく声を発信しました。
特に、人権に基づくアプローチ、ジェンダー平等、世代間公平性といった視点から、KM-GBFの実施をより公平かつ包摂的なものとする必要性が訴えられました。

主要議題の結果 -ポイント解説
グローバルレビュー
CBD-COP17で中核的な位置づけを占めたのがKM-GBFの中間評価にあたる初の「グローバルレビュー」でした。各国がKM-GBFの実施状況を報告した国別報告書をもとに取りまとめられたグローバルレポート『State of Biodiversity Action』では、世界的な進捗の遅れが明らかにされ、CBD-COP17が行動加速の転機となるかが焦点となっていました。
一方で、このグローバルレビューは、促進的・非介入的・非懲罰的であり、各国に追加的な行動や目標の強化を義務付けるものではありません。
そのため交渉では、KM-GBFの約束実行への政治的コミットメントを再確認するとともに、深刻な進捗の遅れを踏まえた行動加速の必要性について強いメッセージを打ち出し、各国レベルでのフォローアップにつながる優先分野や行動の方向性を示すことが求められていました。
グローバルレビューは、2026年7~8月にケニアのナイロビで開催された補助機関会合(SBSTTA-28/SBI-7)の準備交渉、9月に中国・昆明で実施された「昆明対話(Kunming Dialogue)」を経て、こうした期待に概ね応える形でCBD-COP17において決定文書として合意されました。
決定では、国際協力の強化や実施手段の拡充を含め、世界全体での取り組みを迅速に加速しなければKM-GBFの2030年目標とミッションは達成できないとの「深い懸念」を表明するとともに、グローバルレビューで明らかになったギャップや障壁への対応強化の必要性を強調しています。
さらに、進捗が遅れている分野やターゲットに言及し、「KM-GBF実施加速のためのエレバン・パスウェイ」を通じて今後の行動強化の方向性を示したことは重要な成果といえます。
そして「エレバン・パスウェイ」では、グローバルレビューで明らかになった進捗の遅れに対応するため、2030年までの実施加速に向けた優先分野(下記)が示されました。
- 目標設定や実施計画の強化
- 国際協力と資源動員の拡大
- 政策や経済システムを含む生物多様性損失の根本要因への対応
- 生物多様性に有害な補助金・インセンティブの改革とポジティブなインセンティブの拡大(ターゲット18)
- 生物多様性の主流化や全政府的・全社会的アプローチの推進 など
また、締約国だけでなく、先住民族・地域コミュニティ、女性、若者、地方自治体、企業、金融機関など幅広い主体による取り組みの重要性も強調されました。
参考:交渉のポイント
グローバルレビューの交渉では、目標や行動の「野心」の強化と、資金などの「実施手段」の強化のバランスが一部の先進国と途上国の間で主要な争点となりました。また、グローバルレビューの結果が国内の政策プロセスに過度の影響を与えることを懸念する立場をどのように反映するかもポイントとなりました。
これらについて、コンタクトグループ共同議長が提示したバランス案のパッケージによって合意が得られるなど交渉が前進。最後まで残った論点に「生物多様性損失の根本要因(underlying drivers)」への対応の重要性や、ターゲット18の実施加速などの項目の具体的な記述内容、地域レベルの対話などのフォローアップ措置がありましたが、議長案でいずれの要素も盛り込む形で採択されました。
資源動員
CBD-COP17において最も政治的に繊細で交渉が難航したのが、資源動員の議題でした。
大きな論点となったのは、次の2つの課題です。
- 条約20条に基づき先進国に課されている途上国への資金拠出について、その負担を担う国の範囲(contributor base)の拡大に関する論点
- 2030年のCBD-COP19で恒久的な資金メカニズムの立ち上げを目指すロードマップのもと、将来の資金メカニズムが満たすべき基準(criteria)を、今回のCBD-COP17で合意できるか
KM-GBFの野心的な目標達成には、資金をはじめとする実施手段の拡大が欠かせません。しかし、OECDがCBD-COP17に先立ち公表した報告書によれば、世界全体の生物多様性資金は2023~2025年時点で年間749~924億ドルと推計されており、KM-GBFが必要なコストとして掲げる、2030年までの年間2,000億ドルび動員目標の達成には、なお大きなギャップがあります。
さらに、先進国から途上国への国際公的資金も2023~2025年平均で年間161億ドルにとどまり、2025年までに年間200億ドルとするターゲット19(a)の目標を下回っています。
このような生物多様性資金のギャップを埋めるために、資源動員の拡大に向けた道筋を示すことが、CBD-COP17に期待された成果のひとつでした。
しかし、資金拠出を担う国の範囲(contributor base)の拡大をめぐっては、政治的に極めて繊細な論点となりました。国際公的支援の拡大に向けて拠出国の範囲を広げるべきと主張する先進国に対し、多くの途上国は先進国による資金供与責任の後退につながることを懸念しました。特に、一部の高所得途上国は拠出国の範囲拡大に関する検討そのものに強く反発したことから、立場の隔たりは大きく、交渉は膠着しました。
会議終盤の閣僚協議を経て提示された妥協案は、対立する立場の間でかろうじて成立した政治的均衡を反映したものであり、最終日にすべての関係国がそのまま受け入れる形で合意に至りました。議長案は、条約第20条に基づく先進国の資金供与義務は変更しないことを確認しながら、途上国を含む他の国々が任意に拠出国となる可能性を検討するためのプロセスを立ち上げるものでした。
もうひとつの論点であった将来の資金メカニズムの基準についても、長時間にわたる交渉の末に合意することができました。CBD-COP19での恒久的な資金メカニズムの設置に向け、CBD-COP17で求められていた基準について合意に至ったことは前進でした。
WWFは、CBD-COP17において生物多様性資金の将来の制度設計に向けた前進がみられたことは評価する一方で、依然として大きな資金ギャップを踏まえ、各国が合意した行動を具体的な資金拡充と実施強化につなげることが不可欠だと考えます。
デジタル配列情報(DSI)の利益配分
前回CBD-COP16の大きな成果として設立・運用開始された遺伝資源に関するデジタル配列情報(DSI)の利益配分メカニズムの一環である「カリ基金」を中心とした議論は、生物多様性条約に関連した会合において最も複雑な議題のひとつです。
カリ基金への拠出はまだごくわずかです(2026年10月23日時点で、5社からプレッジを含む合計一万米ドルあまり)。CBD-COP17では企業からの拠出を促進し、利益配分のメカニズムを機能させていくための制度設計に関する数多くの複雑な論点が議題に含まれていました。
大きな論点は、次の5つです。
- 拠出に関する論点(Money-in:拠出対象や拠出額基準、証明書)
- 配分方法(Money-out)
- カリ基金のガバナンス
- 非金銭的利益配分とデータの透明性
- CBD-COP18で予定されているレビューの方法
DSIに関する議論では、これらの複雑な論点について各国の利害や立場の違いが大きく、一部の論点を除いて決定文の文言の交渉がほとんど進展しないまま閣僚協議に持ち込まれました。閣僚協議でも打開策は見いだせず、最終的にはCOP18までに必要な会期間作業に絞った集中協議の末、未明に決定文が採択されました
CBD-COP17においては、カリ基金の制度的な成熟にはなお時間を要することが改めて明らかになりました。DSIをめぐっては、十分な規模での資金動員と公正な利益配分の実効性を重視する国々と、企業や研究への影響や制度の予見可能性を重視する国々との間の隔たりがあるほか、アクセスと利益配分(ABS)に関する国内制度との関係を重視する国もあります。
こうした各国の立場の隔たりは、企業拠出額の算定方法、証明書のあり方、資金配分方法など、COP17で議論されたほぼすべての主要論点に表れていました。
DSIではカリ基金の制度運用に向けた最低限の前進はみられたものの、拠出表明額は依然として極めて小さく、WWFは企業による拠出と利益配分を実効あるものにするため、CBD-COP18に向けて各国が立場の隔たりを乗り越える必要があると考えます。
閉幕を受けて現地からのコメント
WWFジャパン自然保護室 生物多様性政策グループ長 北出智美
CBD-COP17のグローバルレビューでは、2030年目標の達成が危ぶまれる現状について、各国が強い危機感を共有しました。その上で、KM-GBFの約束を着実に実行していく政治的意思を改めて確認するとともに、「エレバン・パスウェイ」を通じて、2030年までの実施加速に必要な優先課題と具体的な行動の方向性を示すことができました。
CBD-COP17の成果は、ここから各国がどれだけ具体的な行動につなげられるかによって評価されることになります。
日本においても、特に進捗の遅れが明らかになった生物多様性損失の根本要因への対応が急務です。経済・金融システムの転換や、生物多様性に有害なインセンティブの改革を含む資金フローの転換に向けた取り組みを加速していく必要があります。
