カメラが捉えた、シベリアトラ保全の歴史的瞬間
2026/02/10
- この記事のポイント
- 2025年11月、中国東北部に広がる森の中で、これまでにない朗報が届きました。森に設置したカメラトラップに、シベリアトラ(アムールトラ)の母親と5頭の子トラが写っていたのです。シベリアトラが一度に産む子は通常1〜4頭とされており、5頭は非常にまれな事例です。地域の生態系が着実に回復している可能性があるとして大きな注目を集めています。
中国の東北虎豹国家公園で撮影された母トラと5頭の子トラ。カメラに最初に現れたのは母トラ。続いて4頭の子トラが現れ、少し遅れてもう1頭がやって来ます。© NCTLNP (東北虎豹国家公園)
森にトラが戻るために
ここは、中国の東北虎豹国家公園(※1)。ここに設置された調査用のカメラが最初に捉えたのは、母トラと5頭の仔トラでした。
この中国の東北虎豹国家公園は、ロシアとの国境に接し、吉林省と黒竜江省にまたがる世界最大のトラ保護区。
北東アジアに生息するトラの亜種シベリアトラ(アムールトラ)をはじめとする野生生物にとって、重要な移動経路(回廊、コリドー)となっています。
このつながりがあるからこそ、仔トラたちが将来独立して自分の縄張りを見つける旅に出る際にも重要な役割を果たします。
しかし、トラが生息する場所には、さまざまなリスクもあります。人と野生動物の軋轢、密猟、そして土地の利用・管理方法など、課題は依然として残されています。
WWF中国は、国家公園と地域社会と協力し、以下の取り組みを進めています。
- わなの撤去と密猟防止
- SMARTパトロールシステムの導入※2
- 人と野生動物の軋轢管理の戦略づくり
- 地域運営におけるコミュニティの参加促進
- トラの獲物となる野生動物の増加
※1「国家公園」は、中国における保護区の一種
※2 SMARTパトロールとは、野生動物の保護状況や脅威を現場で記録・分析し、効率的なパトロールや違法行為対策を可能にするデジタル管理システムのこと
人々を守るために
中国のアムールトラの個体数は、2010年の20頭という過去最低の状態から、2025年には約70頭まで回復しました。
このため、北東中国に暮らす多くの地域住民にとって、トラが身近にいるというのは、とくに若い世代にとっては未知の状況となっており、世代間の知識ギャップも生まれています。
これに対応するため、WWF中国は「対立から共存へ(Conflict to Coexistence Approach)」と呼ばれる共存戦略づくりを支援してきました。
この一環として、国家公園の緩衝地帯にある村へつながる道路沿いに、リアルタイム警報カメラ5台を設置しました。
今回、母トラと子トラ5頭が撮影された場所の近くです。トラがカメラの前を通過すると、システムが瞬時にレンジャーの携帯端末に通知を送ります。
レンジャーはその情報を村の委員会やWeChatグループ(中国のチャットアプリ)を通じて共有し、住民が危険を回避できるようにしています。
これまでに98件の警報が送信され人と野生動物の軋轢を減らすのに役立っています。
トラを守るために
一方、トラの数が増えてきたことで、密猟者に狙われるリスクがあります。トラの毛皮や骨、爪などの色々な部分が、歴史的に国際的な違法野生生物取引の標的となってきました。
WWF中国は、政府機関と協力して地域の巡回体制を強化し、2025年には4名ずつの地域レンジャーからなる3つのコミュニティパトロールチームを設置しました。2025年の成果は以下の通りです。
- パトロール回数:624回
- 総移動距離:11,112km(フルマラソン約265回分!)
- パトロール時間:12,323時間
- 撤去したわな:123個
- 野生動物の痕跡記録:1,230件
希望に満ちた未来へ
1頭1頭の子トラは、長年続けられてきた保全活動の成果の象徴です。
1頭の母トラが5頭もの子トラを育ていている事実は、この森が、世界で最も希少なネコ科動物の一つであるアムールトラに、食べ物、すみか、そして安全をもたらす場所として機能していることを示しているのです。
WWFは今後も、保全体制の強化、生息地のつながりの改善、そしてトラの回復を世界的な成功事例として確実にしていくための取り組みを続けていきます。



