© Suyash Keshari / WWF-Australia

トラの未来を守るために:12カ国の違法取引対策を比較した最新報告(2025年発表)

この記事のポイント
WWFなどは、12カ国のトラ違法取引対策を比較調査した報告書『Law of the Tiger』を発表しました。調査の結果、国内市場での取引やハイブリッド種の抜け穴、執行体制における課題が明らかとなり、持続可能な保護体制と国際協力の必要性が浮き彫りとなりました。
目次

IUCNレッドリストで絶滅危惧種(EN)に選定されているトラは、多くの国や地域で神聖な生きものとして大切にされてきた一方、違法取引の対象にもなってきました。

トラの違法取引を撲滅するためには、国際的な協力と各国の法制度の強化が不可欠です。

今回WWF、TRAFFIC、Legal Atlasが発行した報告書『Law of the Tiger』(※1)では、トラの生息国12カ国における違法取引対策の法的枠組みを比較・分析した結果を報告しています。

調査対象となったのは、インド、バングラデシュ、ネパール、ブータン、中国、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアの12カ国です。

これらの国々は、トラの生息地であると同時に、違法取引の発生源や経由地となることが多く、法制度の整備と運用が重要な課題となっています。

国内市場に潜む違法取引の実態

2000年から2022年の間に世界で押収されたトラのうち、約85%がこれらの生息国の国内で押収されているというデータがあります(※2)。

たとえば、インドではトラの骨や皮を国内で販売する事例が報告されており、密猟された個体が地域の市場に流通しているケースもあります。

これは、国際的な密輸だけでなく、国内市場でも違法取引が広く行なわれていることを示しています。

ワシントン条約(CITES)による国際的な規制があっても、国内法の整備や運用が不十分である限り、違法取引の根絶には至らないという現実が浮き彫りになっています。

押収されたトラの毛皮
© Ola Jennersten / WWF-Sweden

押収されたトラの毛皮

サプライチェーン全体での対応

違法取引の「サプライチェーン全体」を対象とする法制度の必要性が、調査を通じて明らかになりました。

多くの国では、輸出入などの国際取引に関する規制は整備されている一方で、国内での販売、広告、オンライン取引、所持、輸送に対する法的対応が不十分です。

たとえば、タイではSNS上でトラの剥製や骨を販売する投稿が見つかっても、それを取り締まる明確な刑事罰が存在しないため、摘発が困難になるケースがあります。

こうした法的な空白が、違法取引の温床となっているのです。

宝石店で売られていたトラの爪と歯
© Heather Sohl

宝石店で売られていたトラの爪と歯

ハイブリッド種にまつわる法の抜け穴

ライガー(ライオンとトラの交配種)やティゴンなどのハイブリッド種に関する法的扱いも、重要な論点として浮上しています。

CITESでは、トラの血統を持つハイブリッド種も保護対象とされていますが、国内法で明確に定義し規制している国はごくわずかです。

ベトナムでは、ハイブリッド種の扱いが「野生動物」とは異なっているため、繁殖施設で飼育された個体が合法的に取引される可能性があります。

このような法的な盲点が、違法取引の抜け道として利用されるリスクを高めています。

タイで飼育されていたトラ
© Tsubasa Iwabuchi / WWF-Japan

タイで飼育されていたトラ

執行体制と国際連携の課題

違法取引の取り締まりには、森林局や野生生物保護局、警察、税関など複数の機関が連携する必要がありますが、実際にはその連携が不十分な国が多く存在します。

たとえば、インドネシアでは野生動物保護局が押収を行なっても、警察との連携が取れていないため、起訴に至らない事例が報告されています。

法的な権限が限定されているため、現場の捜査官が逮捕や捜索を行なえないケースもあり、摘発力が制限されているのが現状です。

また、国際的な協力体制の活用も十分とは言えません。

ASEANや国境を越える犯罪に関する閣僚会議(SOMTC)などの枠組みを通じた情報共有や合同捜査の強化が、今後の重要な課題となっています。

たとえば、ラオスとタイの国境を越えた密輸ルートに関する情報が共有されていないことで、摘発のタイミングを逃すケースもあります。

マレーシアの森で見つかったくくり罠
© Emmanuel Rondeau / WWF-US

マレーシアの森で見つかったくくり罠

持続可能なトラの保護体制に向けて

トラの違法取引の撲滅には、法制度の整備だけでなく、実効性のある運用体制の構築が不可欠です。

違法行為の定義の明確化、執行機関の権限強化、促進行為への対応、ハイブリッド種の法的認識、そして国際協力の促進が、今後の取り組みにおいて重要な柱となります。

WWFは、各国政府や地域のパートナーと連携しながら、法改正の支援や現場でのトレーニング、政策提言を通じて、トラの違法取引撲滅に向けた活動を推進しています。

マレーシアでは、WWFが現地の捜査官向けに法制度に関する研修を実施し、違法取引の摘発力向上に貢献しています。

野生のトラの未来を守るためには、法制度の強化だけでなく、地域社会との協働、人権尊重、そして持続可能な保護体制の構築が欠かせません。

違法取引の根絶には時間と継続的な努力が必要ですが、今回の報告書はその第一歩として、現状を可視化し、改善への道筋を示す重要な資料となっています。

WWFは今後も、科学的根拠に基づいた政策提言と現場支援を通じて、トラをはじめとする野生動物の保護に取り組んでいきます。

参考文献
※1 Wingard, J., Stivanello, V., Sohl, H., & Henry, L. (2025). Law of the Tiger: A Comparative Study of the Laws Governing Tiger Trafficking in 12 Tiger Range States. Legal Atlas, WWF, and TRAFFIC.
※2 Wong, R. & Krishnasamy, K. (2022). Skin and Bones: Tiger Trafficking Analysis from January 2000 – June 2022. TRAFFIC.

木陰に潜むベンガルトラ(インド)
© Vivek R. Sinha / WWF

木陰に潜むベンガルトラ(インド)

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