「国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)」の発効を歓迎
2026/01/15
- この記事のポイント
- 海洋は、魚や貝などの水産資源を育むだけでなく、近年は、レアアースなどの鉱床としても注目を集めています。しかし世界の海の3分の2を占める各国の管轄権外の海(公海および深海底)は、保全と資源利用のための国際ルールが不足しているため、過剰利用と資源開発による生態系の破壊が危惧されていました。 こうした問題が深刻化する中、2026年1月17日、公海および深海底の生物多様性を守る国際条約「国連公海等生物多様性協定 (BBNJ協定)」が発効します。国際政策は、地球の海の未来を守るための大きな転換点を迎えます。
WWFはBBNJ協定の発効を歓迎します
今日、海洋保全は世界的に重要な課題として注目を集めています。2025年11月に開催された国連気候変動枠組条約のCOP30でも、議長国ブラジルが、「海洋を森林とならぶ気候変動対策の二大優先課題」として位置づけ、この世界的な潮流を明確に示しました。
こうした流れの中、2026年1月17日、「BBNJ協定(正式名称:国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続的な利用に関する協定)」が発効します。
はじめに
本国際条約の呼称について、日本語では「国連公海条約」や「国連公海等生物多様性協定」、「BBNJ協定 (Biodiversity of Areas Beyond National Jurisdictionの略) 」など、複数の略称が存在しています。
同協定は、「国家管轄権を越える区域(Areas Beyond National Jurisdiction:ABNJ)」— 具体的には「公海」とその海底の「深海底」—について、生物多様性の保全を可能とする国際ルールを定めていることから、本記事では『生物多様性(Biodiversity)のABNJにおける保全』として分かりやすい「BBNJ協定」の略称を用いています。
BBNJ協定の発効
BBNJ協定以前の公海における生物多様性は、漁業について各地域漁業管理機関(RMFOs)、海運については国際海事機関(IMO)というように、分野ごとに個別に管理が行なわれてきました。
BBNJ協定では、より包括的な保全を実現するため、締約国に対し各国際機関とBBNJ協定の整合性を求めることに加え、公海において海洋保護区(MPA)を含む「区域型の管理ツール」を設置することを可能にしたことが特徴です。
日本は、2025年5月にBBNJ協定を国会承認し、同年12月12日に条約加入の書簡を国連事務総長に寄託しました。
WWFは、海洋の生物多様性の危機に対し、国際社会が連携して取り組む枠組みであるBBNJ協定の発効ならびに日本政府の批准を歓迎します。

漁業者の管理を離れた漁具が海中を漂い続け、ウミガメをはじめ海の生物を捕獲し続ける「ゴーストフィッシング」は世界的に海洋生態系を脅かしています。このような、放棄、逸失、もしくは投棄されて海に流出した漁網などの業務用の漁具由来のプラスチックごみを「ゴーストギア」といいます。 WWFジャパンは、日本各地でゴーストギアの実態調査を行なっています。
海洋は地球上の命と暮らしの源
海洋は、地球の表面積の7割を占めており、地球の水の97%を蓄え、地球上の生息空間の99%の体積を占めています(*1)。地球はまさに海に支えられている「水の惑星」です。
海洋は、魚や貝などの食卓を支える水産資源を供給するだけでなく、大気中の熱や二酸化炭素を吸収したり、海流によって地球の気温上昇を和らげることで地球を生物の生存可能な温度に保つなど、命と暮らしの根幹を担っています。
海洋環境から直接的得られている資源やサービスは少なくとも毎年2.5兆米ドルと試算され、海洋全体の資産的な価値はその10倍以上とされています(*2)。
しかし、今日、水産資源の35.5%が枯渇(*3)、サンゴの50%が消失しており(*4)、海洋の生物多様性は危機的な状況にあります。
また、この10年、自然は人為起源の二酸化炭素の54%を吸収してきましたが、そのうち23%が海洋により吸収されています。海が温暖化を緩和する一方で、その吸収された二酸化炭素により海洋酸性化も進み、海洋生態系に大きな被害が表れています。
海水温・海面の上昇、プラスチック汚染を含む陸上からの有害物質の流入、乱獲、生息地の破壊などにより、海洋はかつてない危機に瀕しています(*5)。

環境中に流出したプラスチックのほとんどが最終的に海に行きつきます。
海洋は全ての生き物の生存基盤です。だからこそ、その利用に一定のルールを設け、各国の利害を調整しながら、持続可能な利用を実現するために、海洋に関する国際法が発展してきました。
人類共通の財産である「海洋」、利用と保全を両立させるルールの策定
海洋に関する国際法の発展の歴史
海洋に関する国際法のルーツは、古くは大航海時代に提唱された「海洋自由論(Mare Liberum)」まで遡ります。当時、海洋は原則として誰も所有できず、自由に航行できる空間と考えられていました。しかし、海洋の利用者が増加することや、資源開発が拡大するにつれて、制限なき自由は見直され、徐々に秩序とルールを設ける国際法体系が形成されてきました。
現在では、「海の憲法」とも呼ばれる「国連海洋法条約(UNCLOS、1994年発効)」が海洋秩序を支える基本的枠組みとして国際社会で適用されています。日本は、1996年6月にこれを批准し、同年7月20日(国民の祝日「海の日」)に発効しました。
UNCLOSでは、沿岸(領海基線)から12海里(約22㎞)の領海、200海里(約370㎞)の排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、国際海峡など海洋空間を法的に区分し、それぞれの海域における沿岸国や船舶の旗国の権利および義務などを詳細に規定しています。
一方で、どこの国の管轄にも属さない、EEZ以遠の「公海」については、伝統的な海洋の自由の考え方を残し、航行、漁業、科学的調査などを自由に行えるとする「公海自由の原則」が適用されていました。

1海里は約1.852km
しかし、公海における漁業については、比較的早い段階から国際的な管理体制が構築されてきました。
20世紀後半に冷凍技術の発展や船舶の大型化が進み、遠洋漁業が拡大した結果、大量漁獲による水産資源の枯渇が懸念されるようになりました。
また、マグロなどの回遊魚は、国境とは関係なく回遊し、複数の国によって漁獲されます。そういった魚種については、漁獲国や関係国で連携して漁業管理を行なうことが必要不可欠です。
こうした状況を受け、公海漁業について、地域または魚種別(例えばマグロ類やサンマ、サバなど)に地域漁業管理機関(RFMOs)を通じて国際的に管理する枠組みが主流となってきました。
深海漁業においても、北太平洋漁業委員会(NPFC)において、冷水性サンゴなどの惰弱な海洋生態系に配慮した漁業の実現にむけて、議論が行なわれています。
なお、すでに多くの地域漁業管理機関では、BBNJ協定とどのように連携していくべきかについても議論が始まっています。
関連リンク:マグロの資源管理を行なう国際機関
関連リンク:WCPFCに関する記事
関連リンク:NPFCに関する記事
また、深海底(おおむね公海の下に広がる海底)資源については、20世紀後半にかけて先進国を中心に深海底開発の機運の高まったことを背景に、国際海底機構(ISA)が創設され、深海底資源を人類共通の財産として、公平に管理する独自の国際法制度が発展しています。
WWFでは、ISAにて深海底採掘に踏み切る前のESGリスクの理解や、必要資源量の少ない技術やインフラへの投融資を呼びかけています(*6)。

2023年のWCPFC年次総会の会議場
保全と利用を両立させる国際ルール形成へ
1990年代以降、人間活動が沿岸から沖合へ、さらに深海へ拡大するにつれ、水産資源や鉱物資源といった海洋の資源だけでなく、海洋の「生物多様性」の保全と持続的に利用を確保するための共通ルールが必要であるという認識が国際社会で次第に醸成されていきました。
生物多様性には、遺伝子の多様性(「種内の多様性」)、種の多様性(「種間の多様性」)、「生態系の多様性」、の3つがあり(生物多様性条約第2条)、生物多様性の維持には、どれ1つとして欠かすことが出来ない重要な要素です。
1993年に発効した生物多様性条約(CBD)は、以下の3点を条約の目的に掲げ、加盟国における生物多様性保全の取組を推進しています。
1.生物の多様性の保全
2.生物多様性の構成要素の持続可能な利用
3.遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分
しかし、CBDは、国家管轄権のある範囲を対象としている条約であるため、ABNJのルール形成や協力を直接実施することはできません。
そこで、2004年、国連総会は、国家管轄権を越える区域(ABNJ)における海洋生物多様の保全を検討するため、「BBNJ作業部会」の設置を決定しました(総会決議59/24)。その時から20年余りがたった2023年6月、長年にわたる検討や協議を経て、国連総会においてBBNJ協定が採択されました(*7)。
BBNJ条約には大きく4つの柱が設けられています:
- 海洋遺伝資源
- 区域型管理ツール手法
- 環境影響評価
- 能力構築および海洋技術移転

WWFは、BBNJ協定によって定められた数あるルールの中でも、特に次の3点を主要な成果であると考えています。
1.国家管轄権を越える区域(ABNJ)において、海洋保護区(MPA)を含む「区域型管理ツール」の設定を可能にすること
BBNJ協定は、EEZの外側に広がるABNJにおいて、海洋保護区などの区域型管理ツールを国際的な手続きに基づいて設置することを可能にした史上初の協定です。
2.公海および深海底における環境影響評価の義務化
各国がABNJにおいて計画する活動について、環境に与える影響を事前に評価する「環境影響評価(EIA)」の実施を義務づけられました。
3.分野別国際機関との協力関係強化
ABNJ上の活動である深海底開発や海運、漁業については、引き続き各分野の国際機関(それぞれ、ISA、IMO、RFMOs)が管轄しますが、締約国は、こうした関連機関においても、BBNJ協定の目的との整合性を追求することが求められます。締約国を通じて、生物多様性の保全の理念を、分野別機関の意思決定や管理措置に反映することが期待されます。
特に、MPAを含む「区域型管理ツール」の設定が可能になることは、 国家管轄権外の海域において、「30by30」目標を前進させる大きなチャンスに繋がります。

海水温の変化に敏感なサンゴは、全体の44%にあたる約390種が絶滅の危機に瀕しています(国際自然保護連合、2024年)
公海における海洋保護区設置への期待
「30by30」目標とは、2030年までに世界の陸域および海域の30%を生態系を守るため保全区域とすることを目指す国際目標であり生物多様性条約のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)」の主要ターゲットの1つです。
多くの国がこの目標に沿って自国の管轄権内で達成に取り組んでいます。例えば、日本では現在、陸の21.0%、海の13.3%が何らかの枠組みのもとで保全区域に指定されています(*8)。
しかし、世界の海域の3分の2以上は公海であり、各国が自国の領海やEEZにおいて30%を保全したとしても、地球全体で見ると目標達成には不十分です。

海洋の大部分は、国家管轄権域外の公海です
真に「30by30」を実現するためには、沿岸域から公海にいたるまで、生物多様性や生態系サービスの重要性を意識しつつ、海洋保護区やそのほか効果的な保全措置を生態学的につながるネットワークとして拡大していくことが不可欠です。

ノシ・ハラ海洋公園(マダガスカル)。WWFマダガスカルは、地域コミュニティや漁業者、政府当局と協力し、地域主体で管理される海洋のエリア保全に取り組んでいます。
その意味でも、2026年1月17日に発効するBBNJ協定は、公海を含む海洋全体で「30by30」を実現するための歴史的な転換点になります。
協定発効後には初の締約国会議(COP1)が開催され、公海における海洋保護区の具体化が本格的に議論されることになりますが、その成否を左右するのが、科学に基づいた保全区域の特定と設計です。
WWFは、科学コミュニティや各ステークホルダーと連携し、海域レベルでの生物地理学的区分の整備を重視しています。
これは、公海において生態系の連結性(生物が生息エリア間を移動できること)や多様性(サンゴ礁、藻場、深海などさまざまな生息環境があること)を確保し、生物多様性と生態系サービスの維持・向上の双方に貢献する、効果的な海洋保護区ネットワークを構築するための重要な前提条件となります。
IUU漁業の対策強化を求める
しかし、海洋保全区域の指定だけでは、海洋生態系の劣化を食い止めることはできません。保全措置と合わせて、海洋資源の利用そのものを適切に保全・管理することが不可欠です。
とりわけ、IUU漁業(Illegal, Unreported and Unregulated、つまり、「違法・無報告・無規制」に行なわれている漁業)をはじめとする国境を越えて行われる資源利用は、海洋生態系やそれがもたらす生態系サービスに深刻な影響を与えています
IUU漁業による地球と経済活動への打撃
IUU漁業は、水産資源を過剰に消費し、水産資源の減少を加速させるだけでなく、正確な漁獲データを歪めることで、科学的根拠に基づく資源管理や回復の取組みを著しく困難にします。さらに、年間約100~235億ドル規模と推定される不正漁獲(*10)によって、安価な水産物が市場に出回り、正規の漁業者の収入や地域の持続可能な漁業が深刻な打撃を受けています。
WWFジャパンは、IUU漁業根絶のための仕組みの強化や、持続可能な水産物の生産と消費の実現を追求し、海外のWWFオフィスや他のNGO、研究機関と連携して、国(水産庁)や地域漁業管理機関(RFMOs)、水産物を取り扱う企業・団体、漁業者・養殖業者に対し、IUU漁業根絶のための仕組みの強化の働きかけを行なっています。
関連リンク:IUU漁業に関する記事
未来の海洋を守るターニングポイント
WWFジャパンは、公海と深海底における生物多様性の保全に向けた歴史的一歩となる BBNJ協定の発効、および日本政府による批准を歓迎するとともに、海洋大国としての積極的な貢献を期待します。
政治的意思・行動を伴った条約となるよう、WWFジャパンは、実装の支援を続けます。
また、引き続き、国内外の多様な主体と連携し、海洋の未来を守るための取り組みを力強く進めていきます。

アオウミガメは、保護活動によって個体数が回復傾向にあります。2025年10月10日に公開された国際自然保護連合(IUCN)の最新レッドリストでは、絶滅危惧種の分類から外れました。
参考文献
*1 国連広報センター(2025). 国連海洋会議(2025年6月9–13日、フランス・ニース)関連資料:事実と数字. 2025年5月29日.
*2 WWF, Reviving the Ocean Economy.
*3 Sharma, R., Barange, M., Agostini, V., Barros, P., Gutierrez, N. L., Vasconcellos, M., Fernandez Reguera, D., Tiffay, C., & Levontin, P. (Eds.). (2025). Review of the state of world marine fishery resources – 2025 (FAO Fisheries and Aquaculture Technical Paper No. 721). FAO.
*4 Hoegh-Guldberg, O., et al. (2015). Reviving the ocean economy: The case for action – 2015. WWF International.
*5 WWF - Uncovering Climate’s Secret Ally
*6 WWF, Deep Seabed.
*7 United Nations General Assembly. (2025). Resolution 80/107: Agreement under the United Nations Convention on the Law of the Sea on the conservation and sustainable use of marine biological diversity of areas beyond national jurisdiction (A/RES/80/107).
*8 環境省(2025). 生物多様性国家戦略2023–2030の実施状況の中間評価(案).
*9 Flanders Marine Institute (2023). Maritime Boundaries Geodatabase, version 12.https://www.marineregions.org/. https://doi.org/10.14284/628
*10 Agnew, D. J., Pearce, J., Pramod, G., Peatman, T., Watson, R., Beddington, J. R., et al. (2009). Estimating the worldwide extent of illegal fishing. PLoS ONE, 4(2), e4570.



