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進捗報告:マレーシアでの爆破漁業対策プロジェクト

この記事のポイント
WWFジャパンは2023年にWWFマレーシアと共同で、サンゴ礁生態系保全を目的とした、爆破漁業対策プロジェクトを開始しました。爆破漁業とは、サンゴ礁の海で行なわれる、簡易な爆発物を使った漁で、海の生態系を著しく損なうのみならず、人をも危険にさらす、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の一つです。この爆破漁業を防ぎ、取り締まるために、WWFマレーシアが行政機関や地域住民、学術機関と協力して取り組んでいる、爆破漁業の実態把握と体制づくりについて報告します。
目次

プロジェクト概要:爆破漁業からサンゴの海と人を守るために

爆破漁業とは

サンゴ礁生態系は、気候変動や汚染、開発など、さまざまな人間の活動による脅威にさらされています。

本プロジェクトで対象とする爆破漁業も脅威の一つで、手製の爆発物を海中で爆破させ、その衝撃で気絶したり、死んで浮き上がった魚を捕獲する、違法な漁法です。

マレーシアでは、安価かつ簡単な漁として、50年ほど前から行なわれるようになり、今も海洋保護区を含む各地の海で確認される例が後を絶ちません。

爆破は、サンゴ礁を含む海底の環境を大きく損ない、海域から生きものと生態系を一掃してしまう上、その回復には長い時間を要し、場合によっては再生しない場合もあります。

爆破漁業で破壊されたセンポルナ海域のサンゴ礁
© Jürgen Freund / WWF

爆破漁業で破壊されたセンポルナ海域のサンゴ礁

さらに爆破物の利用は、漁業者自身や、ダイビングなどのレジャーを含む、他の海の利用者にも危険を及ぼします。

マレーシアのボルネオ島サバ州に位置するセンポルナ海域でも、爆破漁業が行なわれています。

このセンポルナ海域は優先保全地域(Priority Conservation Area)で、政府機関であるサバ州公園局が管理する2つの海洋保護区(Marine Protected Area)を含みます。

点在する多くの島の周囲や海岸線に沿って、サンゴ礁やマングローブ林、海草藻場等の海洋生物の重要な生息地があり、豊かな海洋生態系が築かれています。

WWFジャパンは、WWFマレーシアとの共同プロジェクトを通じて、この海域でサンゴとその生態系、また海の恵みを活用する人々を守るための、爆破漁業対策の取り組みを展開しています。

共同プロジェクトの概要

プロジェクト名 センポルナ海域における爆破漁業対策のためのコミュニティの保護、能力向上、パートナーシップ推進プロジェクト
目標 爆破漁業の削減に向け、関連各機関の取締り体制を構築・強化し、実務スキルを向上させること。
期間 2025年3月~2026年6月
実施地 マレーシア サバ州 センポルナ海域
協力地域・関係機関 WWFマレーシア、島の地域コミュニティ、サバ州水産局(センポルナ支部)、サバ州東部警備司令部 (ESSCOM)、サバ州公園局、マレーシア海上執行庁(MMEA)、海洋警察等。

このプロジェクトに先立つ2023年1月から2024年6月までの間、WWFマレーシアとWWFジャパンは、水中爆破探知装置の設置とデータ収集・分析を実施。

また、海洋警察や地域コミュニティとも連携した、取締り強化と、サンゴの調査を行ないました。

爆破漁業からサンゴを守る マレーシアでの共同プロジェクト(2024年11月)

プロジェクト実施地であるセンポルナ海域は、サバ州の東海岸にあります。

プロジェクト実施地であるセンポルナ海域は、サバ州の東海岸にあります。

対象海域での水中爆破探知装置の設置。実際の爆破の現場を抑えるのは難しいためこの探知装置を使い、海中で発生した爆破の回数を調査します。半径10キロ程度の範囲内で起きた爆破振動をキャッチできます。
© Faridzuan Jaiby / WWF-Malaysia

対象海域での水中爆破探知装置の設置。実際の爆破の現場を抑えるのは難しいためこの探知装置を使い、海中で発生した爆破の回数を調査します。半径10キロ程度の範囲内で起きた爆破振動をキャッチできます。

爆破漁業の調査や対策は、対象海域の周辺で、地道に続ける必要があります。海域に浮かぶ島には、それぞれいくつかの地域コミュニティがあり、そのなかから連携に意欲的なコミュニティを探して、協力のため自治組織と交渉するのも、WWFマレーシアのスタッフたちの大切な仕事です。
© WWF-Japan

爆破漁業の調査や対策は、対象海域の周辺で、地道に続ける必要があります。海域に浮かぶ島には、それぞれいくつかの地域コミュニティがあり、そのなかから連携に意欲的なコミュニティを探して、協力のため自治組織と交渉するのも、WWFマレーシアのスタッフたちの大切な仕事です。

この海域では、海上の高床式家屋で暮らす人々も多く、島の周縁に無数の家屋が並んでいます。島の中でも、コミュニティによって文化的背景や経済状況が異なる場合もあるため、プロジェクト実施の際には配慮が必要となります。
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この海域では、海上の高床式家屋で暮らす人々も多く、島の周縁に無数の家屋が並んでいます。島の中でも、コミュニティによって文化的背景や経済状況が異なる場合もあるため、プロジェクト実施の際には配慮が必要となります。

地域住民の海上パトロールグループと、WWFマレーシアのスタッフたち。地域固有の言語や文化を理解し、信頼関係を築くことも、爆破漁業を削減し、サンゴ礁生態系を守るための重要なステップです。
© WWF-Japan

地域住民の海上パトロールグループと、WWFマレーシアのスタッフたち。地域固有の言語や文化を理解し、信頼関係を築くことも、爆破漁業を削減し、サンゴ礁生態系を守るための重要なステップです。

手工芸品の製作に取り組む地域住民女性組織。海洋資源以外にも生計手段を得ることや、海上パトロールに必要な経費の捻出にもつながっています。
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手工芸品の製作に取り組む地域住民女性組織。海洋資源以外にも生計手段を得ることや、海上パトロールに必要な経費の捻出にもつながっています。

2025年からの取り組み

WWFジャパンとWWFマレーシアは、現在センポルナ海域で、2025年3月から2026年6月までの予定で、共同プロジェクトを実施しています。

この取り組みの目的は、爆破漁業の防止や取締りが効果的に実行されること。

そのために、管轄する行政機関の関与とその体制、島の地域住民による海上パトロールの体制とスキル、そして爆破発生装置の維持管理の技術力の強化などに取り組んでいます。

管轄する行政機関による関与と取締りの強化

本来、違法漁業の取り締まりは、サバ州水産局(センポルナ支部)、サバ州公園局、マレーシア海上執行庁(MMEA)等の管轄です。

しかし、人員や時間、物理的条件等により、これらの管轄行政機関による取り締まりは制約を受けているのが現状です。


また、管轄する行政機関が複数あり、それぞれに役割や立場が異なるなかで、爆破漁業の取り締まりに対して足並みをそろえ、役割分担するための調整も必要です。

そこで、WWFマレーシアは管轄する行政機関を対象に、対話や勉強会、委員会等の機会を通じて働きかけを行ないます。

各行政機関が、爆破漁業の取締りに対して、より積極的な関与を公式に合意し、実効性のある連携方法を共有し実施することを目指します。

地域住民による海上パトロールの実施

センポルナ海域は、7,680平方キロメートル、東京都約3.5個分と広く、管轄する行政機関が常駐全域を監視することは物理的に困難です。

そこで、海域内に点在する島に暮らす地域住民が、海上でのパトロールを担い、爆破漁業の防止や早期発見につなげようとしています。

爆破の現場を発見した場合、WWFマレーシアや行政機関に対して迅速な情報提供を行ない、違法漁業者の取り締まりの一翼を担います。

パトロールは、爆薬を扱う漁業を対象とし、万が一爆破に巻き込まれた場合には重大な事故につながるリスクもあります。

また、海上の現場で得られた情報を有効活用するためには、関係者と連携が図られるが重要です。

そこで、パトロール体制の構築や、実施に必要なスキルの習得、安全装備等の配備を行ないます。

WWFマレーシアによる爆破探知装置の維持管理

爆破漁業の発生状況に関するデータは、管轄する行政機関による取締りや、地域住民による海上パトロールの効果的な実施にあたり、重要な役割を果たします。

爆破漁業の発生状況がリアルタイムで把握できることで、爆破現場の特定がしやすくなるためです。

また、一年間を通じて、日々の発生状況のデータを収集することで、爆破漁業が発生しやすい季節や場所、時間帯等を把握し、パトロールの実施に活かすことができます。

爆破漁業の探知には、特殊な水中探知装置を用いたデータ収集と分析が必要で、これまではその大部分を外部専門家に委ねてきました。

WWFマレーシアは、管轄する行政機関や、地域住民との連携を強化するうえで、より迅速かつ責任ある対応を取れるよう、装置の維持管理やデータ収集をフィールドオフィサーが実施できるよう、能力強化を図ります。

2025年3月~6月の活動

センポルナ爆破漁業防止委員会の開催

2025年4月、WWFマレーシアが調整役を務め、センポルナ爆破漁業防止委員会が開催されました。

管轄する行政機関が集まり、彼らが協調して効果的に取締りを行なえるよう、これまでのプロジェクトで得られた爆破漁業の発生状況のデータや各機関の意見を基に議論がなされました。

その結果、サバ州水産局、センポルナ諸島プロジェクト(Semporna Island Project:SIP、地域環境保全団体)、センポルナプロダイバー協会(Semporna Professional Divers Association:SPDA)、WWFマレーシアによる教育・啓発活動の実施に加え、行政機関による法令違反者や爆薬供給者の逮捕といった厳格な業務執行に、今後一層取り組んでいくことが確認され、大きな前進が見られました。

センポルナ爆破漁業防止委員会の様子
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センポルナ爆破漁業防止委員会の様子

管轄する行政機関とのワークショップ開催

2025年6月、WWFマレーシアは、SIP、Stop Fish Bombing Malaysia(爆破漁業撲滅に取り組む団体)と共催で、ワークショップを開催しました。

管轄する行政機関が一堂に会し、リアルタイム検知技術の紹介や、その活用のための連携手順の検討が行なわれ、参加者の合意を得た連携手順書が作成されました。

© WWF-Malaysia
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管轄する行政機関とのワークショップ開催

パトロールに向けた地域住民の能力強化

2025年6月、マレーシア赤新月社との連携により、応急処置トレーニングを実施しました。

地域住民による海上パトロールを実施する3島(Bait、Larapan、Omadal)から、18人が参加し、海上で怪我等の緊急事態が発生した場合の対処方法を学びました。

応急処理トレーニングの様子
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応急処理トレーニングの様子

これらの取り組みは、世界の76%のサンゴ種が生息するコーラル・トライアングルと呼ばれる海域の保全につながるだけでなく、日本でも大きな問題として注目されている、IUU(違法・無規制・無報告)漁業の撲滅にも貢献する、重要な海洋保全活動です。
WWFは今後も、国際的なネットワークを活かしつつ、サンゴ礁の保全活動を推進していきます。

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