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万博開催を通じたネイチャー・ポジティブへの貢献を考える

この記事のポイント
2025年に大阪市で開催される大阪関西万国博覧会。その開催地となるのは、沖合に造成された人工島「夢洲(ゆめしま)」。ここは人工的環境でありながら大阪府の生物多様性ホットスポットAランクに指定されるほど多様な生物が生息する環境となっています。今、万博開催に向けた工事でこの環境が失われようとしています。SDGsやネイチャー・ポジティブへの貢献を謡う万博における、こうした環境の価値、保全の是非が問われています。
目次

夢洲の環境とそこに生息する野生生物

夢洲は大阪湾に建設土砂、浚渫土、廃棄物等の埋立によって造成された人工島(大阪市此花区)で、面積は約390haです。島の北部および南東部でそれぞれ橋とトンネルで本土とつながっており、現在、一部区域は埋立工事が終了し、コンテナターミナルとして機能しています。

造成途中の島の南西部は湿地環境が形成され、水域および周辺域には様々な野生生物の生息が確認されています。その数は大阪自然環境保全協会の調べによると、鳥類112種(うち絶滅危惧種51種)、植物206種(うち絶滅危惧種および重要種12種)が確認されています。

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セイタカシギ(環境省 絶滅危惧II類)比較的開けた淡水湿地に生息し、個体数は多くはない。

こうした状況から、夢洲は隣接する大阪南港野鳥園とともに、大阪府の生物多様性ホットスポットAランクに指定さ入れています。
https://www.pref.osaka.lg.jp/midori/tayouseipartner/redlist.html

大阪関西万博における生物多様性保全の意義

大阪生物多様性レッドリストの指定自体は自然環境の保全を担保する法的拘束力はありません。しかしながら、前大阪市長の松井氏は2022年に環境影響評価書に対する市長意見として、「動物・生態系:夢洲では多様な鳥類が確認されていることから、専門家等の意見を聴取しながら、工事着手までにこれら鳥類の生息・生育環境に配慮した整備内容やスケジュール等のロードマップを作成し、湿地や草地、砂れき地等の多様な環境を保全・創出すること。」と事業者である2025年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)に対して求めています。

これまでにWWFジャパンでは、日本自然保護協会、日本野鳥の会、大阪自然環境保全協会、日本野鳥の会大阪支部と協働・連携して、複数回にわたり要望書や意見書の提出、さらには大阪港湾局や博覧会協会との公式・非公式の意見交換を重ねてきました。

これらの中で、WWFジャパンが大阪港湾局や博覧会協会にこれまで要望してきたのは、

  • 絶滅危惧種等への影響軽減
  • 多様な生物が生育しうる水辺環境の創出
  • NGO/NPOとのオープンで継続的な対話
  • 南港野鳥園や新規埋立地を視野に入れた生態系ネットワークの構築

です。

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営巣したコアジサシ(環境省 絶滅危惧II類) 営巣に適した沿岸の草地・裸地などの減少により個体数を減らしている。

しかしながら、博覧会協会はその責任範囲は事業期間である2026年までであり、開催後は原状回復して土地所有者である大阪市に返却しなければならないとし、いっぽう大阪市はカジノ施設を含むIR(統合型リゾート)など観光拠点にする計画であり、一部緑地エリアも計画しているが詳細は未定との立場から、対処的な議論に終始しています。

2023年9月28日に、博覧会協会との意見交換会が開催されました。博覧会協会との初の公式な意見交換会が実現したことは評価されますが、会議の内容はこれまでの工事や環境配慮策の進捗説明と意見聴取にとどまりました。今後の議論の中では、大阪関西万博のテーマや目標に基づいた建設的な議論を期待します。
https://www.expo2025.or.jp/report/report-20231206-01/

大阪湾のネイチャー・ポジティブの可能性と課題

2022年の生物多様性条約で採択された昆明モントリオール生物多様性枠組みでは、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せる」、いわゆる「ネイチャー・ポジティブ」の方向性が明確に示されています。2023年4月に公開された「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた行動計画」においても、一連の国際的な生物多様性保全と回復に関する目標へ寄与し、「沿岸域における生態系ネットワークの重要な拠点として、会場内の自然環境・生態系の保全回復に取り組む」と明記しています。

大阪湾沿岸の干潟は戦後の埋立や開発により92%が消失したと言われています。これはほかの大都市を抱える沿岸域の中でも非常に高い消失率(東京湾:82%、伊勢湾:53%、博多湾:31%)です。しかし夢洲の例からも分かるように、適切な生育環境が形成されれば、干潟を主な生息域とするシギ・チドリ類をはじめとして多くの生物が生息するポテンシャルをいまだに有していると言えます。夢洲のさらに沖合には新たな新島(埋立地)が造成中ですが、こちらにも多くの水鳥が飛来していることが確認されています。

夢洲に形成された湿地環境。こうした人工的環境も多様な生物の生息場所となりうる。

大阪関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。失われた大阪湾の生物多様性(=『いのち』)に関する将来ビジョンや目標づくり(=『未来社会のデザイン』)を検討することは、万博を開催することの意義であり果たすべき責務なのではないでしょうか。事業期間や整備計画の未確定を理由に議論を避けるのは、言い訳に過ぎないとWWFは考えます。

多大な資金と人手を投じて開催する万国博覧会だからこそ、これまでは実現が困難であるとされた課題へのチャレンジと決断が期待されます。

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