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COP15閉幕 新たな生物多様性国際目標が決定 今後、世界と日本に求められることは?

この記事のポイント
2022年12月7日から19日にかけて開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)で、2030年までの世界の生物多様性保全の目標を設定した「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が、ついに採択されました。合意に至った23の国際目標では、何が決められたのか。今後、世界や日本はどんな対応をしていくことになるのか。現地で会合に参加したスタッフが解説します。
目次

さまざまな利害関係が交錯した議論

2022年12月19日、カナダのモントリオールで、国連生物多様性条約の第15回締約国会議(CBD-COP15)第2部が閉幕し、2年間かけて議論してきたポスト2020生物多様性枠組(GBF:Global Biodiversity Framework)が、ついに「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」として採択されました。

世界の生物多様性を保全する、2030年までの国際目標を定めたこの枠組みには、23の目標が含まれています。

生物多様性の国際的議論の中で、特に特徴的なことは、ビジネス、地方自治体、ユースなど、多様なアクターが議論に参加し、交渉の場においてメッセージを伝えることができるということです。

今回も、さまざまなステークホルダーが締約国への熱いメッセージを交渉の場において提示し、会議場を拍手喝采で包む一幕もありました。

最終的に、当初の予定よりも9時間ほど遅れ、2022年12月19日の午前3時に、ようやく「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が合意されました。

WWFは、COP15において、締約国に対し具体的な目標提案や、野心引き上げを目指した二者間での対話、各国ハイレベルを巻き込んだサイドイベント、また現地を通じたTeam Earthキャンペーンなど、多数展開しました。

CBD-LIVE

新たな国際目標決定の木槌を叩くCOP15議長の黄潤秋・中国生態環境相

COP15での重要な決定事項は何か?

今回、「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」で決められた重要な決定事項は、何だったのでしょうか。

以下の記事で、WWFが考える6つの重要事項を挙げてみましたので、こちらをもとに決定の内容を見てみましょう。それぞれ、良かった点と課題点がありました。

1.「ネイチャー・ポジティブ」実現のための野心的な目標設定

WWFは生物多様性の損失を食い止め、回復傾向へ向かわせる、「ネイチャー・ポジティブ」を2030年までに達成するための、より野心的な目標設定が重要としていました。

今回のCOP15では、これについて、2050年までの方向性(2050 Vision)に対する2030年の大目標(2030 Mission)として、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復傾向へ向かわせる(halt and reverse biodiversity loss)」、つまりネイチャー・ポジティブが枠組みのSection B(目的)とSection F(2050年ビジョンと2030年ミッション)に明記されました。

この回復傾向に向かわせる行動を、世界各国の政府が、どのように実際に実現していくかが今後の課題です。

2.保全の規模拡大と回復

世界の陸域や淡水、海洋の自然の何%を保全の対象とするのか。これを定める数値目標は、今回のCOP15における重要なポイントの一つでした。

会合では、一時は30%以下を主張する国が協議の障壁となったものの、目標3において、保護区として確保すべき最低ラインである30%の陸域・内陸水域・海域を目標として確定しました。

他方で、絶滅危惧種の保全については、明確な目標が盛り込まれず、愛知目標の内容よりも後退する結果となりました(Goal A ならびに目標14)。

さらに、生物多様性の高い地域の損失を「2030年までにゼロに近づける」ことについてしか述べていないことにも、目標設定の甘さが見えています(目標1)。

日本の貴重な淡水生態系
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今回の保全対象地域に関する目標では、陸域とは別に、淡水域の自然についても30%の保全が目標として設定されました。これは今後の日本の環境政策においても、注目すべき大きなポイントとなる点です

3.持続可能な生産と消費

生産と消費のフットプリント、すなわち人類による環境への負荷を大幅に削減することは、ネイチャー・ポジティブを確保する上で、大変重要なポイントです。

今回合意された目標には、過剰消費が進む中で、目標のなかに世界の食料廃棄の半減、過剰消費の大幅削減、廃棄物の大幅削減など、公平な方法で消費のグローバルフットプリント削減を実現することが明記されました(目標16)。

また2030年までに、累積的影響を考慮しつつ、あらゆる発生源からの汚染リスクとその悪影響を、生物多様性と生態系の機能とサービスに有害でないレベルまで削減すること、農薬と非常に危険な化学物質によるリスク全体を少なくとも半分に削減し、プラスチック汚染の防止、削減、除去に向けて努力することも示されました(目標7)。

一方で、フットプリント削減や過剰消費に対する明確な削減数値が入らなかったこと、実効性が担保できていない点には懸念が残ります。

4.取り組みの加速と拡大

愛知目標が達成できなかった理由の一つとして、国際目標と国家目標の整合性が取れていなかったことが挙げられています。

今回のCOP15で合意された枠組みでは、セクションJ(責任と透明性)において、各国の目標をどの様に統合し、世界目標と整合させていくかについて記載がされ、報告、モニタリング制度がより強化される形となりました。

しかしその一方で、報告の義務は課されず、あくまでも努力目標となりました。

つまり、各国の取組みが、国際目標と整合しているかどうかについて、評価と軌道修正を行う仕組みは明確にされませんでした。

愛知目標と同様に昆明・モントリオール生物多様性枠組みが絵に描いた餅にならないか、不安が残ります。

5.適切な資金と投資

生物多様性保全において、公的機関・民間機関を含めた資金動員や、環境に有害な資金・補助金の見直し、などに関する目標の設定は、大きな焦点でした。

議論の結果、2025年までに生物多様性に有害な補助金を含むインセンティブを公正、公平、効果的な方法で排除、段階的に廃止または改善させること、そして、負の影響を及ぼす資金の流れを2030年までに少なくとも年間5000億米ドルを実質的かつ段階的に削減することが明記されました(目標18)。

さらに、直接的な資金動員についても、国内、国際、公共および民間の資源を含むすべての資金源から、効果的、適時かつ容易にアクセスできる方法で、2030年までに少なくとも年間2,000億米ドルを動員するが示されています(目標19)。

また生物多様性保全に特化した国際資金メカニズムも今後設立されることが決定しています。

6.自然に根ざした解決策(NbS)

生態系の保全だけでなく、防災対策や人間の福利厚生とも関連し、さらには気候変動対策との関係性からも重要視されているNbS(Nature-Based solutions、自然に根ざした解決策)は、WWFが当初から目標に組み込むべきところとして主張してきた項目です。

今回の国際目標では最終的に、目標8と11において、生態系を基盤としたアプローチ(Ecosystem based approach)と共に促進していくことが明記されました。

新しい枠組みに包括的な資金動員戦略を含めることは、世界目標を成功裏に実施し、変革を推進し、ネイチャー・ポジティブな経済を提供するために重要な要素となります。公的、民間、国内および国際的なすべてのソースからの資金を大幅に増加させる必要があります。

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昆明・モントリオール生物多様性枠組み確定後の世界の流れはどうなるのか?

無事に昆明・モントリオール生物多様性枠組みが確定し、最低ラインは確保できたものの、ゴール達成期限の2030年までは、すでに8年しかありません。

今後は枠組における決定事項や目標を受けて、国家政策へ落とし込み、実施に向けた取組が、各国政府において急ピッチで進められなければなりません。

2010年の愛知目標が達成されなかった理由として、国家戦略と国際目標の整合性がないことから、同じ過ちを繰り返さないように、世界目標に沿った実施をしっかりと見ていく必要があります。

日本においては、「次期生物多様性国家戦略」が2023年3月をめどに閣議決定される予定です。

生物多様性に関する国際的な議論の特徴的なところとして、さまざまなステークホルダーの関与が挙げられます。

それは、地域レベルのコミュニティーから、先住民、ユースや女性、そして民間企業に至るステークホルダーが、枠組みの実施を支えています。

特に、経済的な視点を重視する日本にとっては、地域や国際レベルでの企業連携についても、重要視されるポイントです。

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今後、国内での動きはどうなるのか?

今回のCOP15において、一つ印象的だったのは、ビジネスセクター主導によるダイナミックな事前キャンペーンと現地での強い主張でした。

Business for Nature(B4N)やFinance for Biodiversity(F4B)は自然関連情報の開示義務化を提唱しています。

特にB4NはCOP15開催に先駆け、(情報開示の)義務化実現キャンペーン(Make it Mandatory)を展開し、締約国に対し各国での法的規制により開示義務を強化することを強く主張しました。

これらのイニシアティブは、着実に加盟企業数を増やしており、ビジネスセクター側から政策決定者を動かす原動力となっています。

今後の関連する国際動向については、昆明・モントリオール生物多様性枠組みの決定に関わらず、注視していく必要があるといえるでしょう。

2030年までの目標は決定しましたが、ネイチャー・ポジティブ達成に向けた課題や、目標と実行の間に乖離(ギャップ)は、たくさんあります。

ネイチャー・ポジティブに必要な活動は何かを真摯に考え、国内での政策やビジネスにおいても、野心的な計画や戦略が形成されるよう、WWFジャパンは各国政府やビジネス界に訴えていきます。

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