ポスト2020生物多様性枠組の内容は不十分 WWF報告書で明らかに

この記事のポイント
2022年にはポスト2020生物多様性枠組が決定する中、世界の政治リーダーは国際公約、宣言、決定などを行なってきました。今後は国連生物多様性条約で決まるポスト2020生物多様性枠組での議論に焦点が集まります。WWFはこれまの国際公約、宣言、決定を、現在示されているポスト2020生物多様性枠組第一草案の内容と比較し、第一草案の内容が十分に野心的なものかを検討しました。このWWFの報告書『Bridging the Gap』によると、現在のポスト2020生物多様性枠組第一草案の内容は、これまでの国際公約、宣言、決定の内容と比較すると、目標設定が不十分ということが示されています。
目次

生物多様性国際交渉が最終局面に

2022年3月13日から29日まで、ジュネーブで国連生物多様性条約、ポスト2020生物多様性枠組の議論が再開されます。

ポスト2020生物多様性枠組の国際交渉は最終局面にきています。現在の第一草案では現在4つのゴールと21の目標の詳細について、活発に議論が交わされています。

さらに2022年中には、国連生物多様性条約第15回締約国会議が中国昆明で開かれ、ポスト2020生物多様性枠組が決定し、いよいよ実施に向けて動き始めることになります。

環境省 自然環境部会 生物多様性国家戦略小委員会(第1回)資料1参考 生物多様性の国際的な動向.pdfより引用
環境省 自然環境部会 生物多様性国家戦略小委員会(第1回)資料1参考 生物多様性の国際的な動向.pdfより引用

政治的コミットメントからグローバル目標へ

国連生物多様性枠組の議論を念頭に、これまでに各国のリーダーは様々な場面で生物多様性もしくは自然“Nature”に対して、2030年までに回復することを約束しています。

例えば以下に示すような国際公約、宣言、決定などで、自然を回復するための取組を約束しています。

  • リーダーによる自然への協約(Leaders Pledges for Nature )
  • G7 2030年自然協約
  • G20 ローマ首脳宣言
  • 自然と人々のための高い野心連合(High Ambition Coalition for Nature and People)
  • IUCN政策決定116
  • 昆明宣言
  • グローバルオーシャンアライアンス
  • SDGs
  • グラスゴー首脳宣言

上記のような国際公約、宣言、決定の中で示された目標をより確固たるものにするために、国連生物多様性条約におけるポスト2020生物多様性枠組の目標設定は非常に重要になります。

これまでの国際公約、宣言、決定が、ポスト2020生物多様性枠組に反映され、国際レベルでの取り組みを確約できるかが注目されています。

そこでWWFでは、これらの既存の国際公約、宣言、決定の内容を、現状のポスト2020生物多様性枠組の第一草案と照らし合わせ、その「差異(Gap)」について分析を実施。

2022年3月9日に報告書『Bridging the Gap』として発表しました。

WWF報告書『Bridging the Gap』(英語)

その結果、多くの部分で目標設定が十分でないことが明らかとなってきています。

ポスト2020生物多様性枠組第一草案と国際公約との比較

ポスト2020生物多様性枠組第一草案と国際公約との比較

ココが足りない、9項目!

上記のよう背景を踏まえながら、WWF報告書ではポスト2020生物多様性枠組が交渉で強化すべき 9つの分野を特定しています。

1. 全体的野心
「2030年までに生物多様性の損失を阻止し、回復させる」という全体目標を引き上げ、2030年までに2020年よりも多くの自然が存在するようなネイチャー・ポジティブな世界を確保する。

2. 絶滅と種の多様性
2022年から人間による種の絶滅を食い止め(すなわち即時)、2030年までに種の豊度を増加させるというマイルストーン/成果を確保すること。

3. 持続可能な生産と消費
2030年までに生産と消費のフットプリント(人による環境への負荷)を半減させるというマイルストーン/成果を含めること。特に、現在の地球上の喫緊の課題が、持続可能でない消費と生産によるところが大きいことを考慮すべき。

4. 自然を基づく解決策
生態系に基づくアプローチに関する補完するため、自然に基づく解決策(Nature based Solutions)への言及を確保し、それらが先住民や地域社会の権利に焦点を当てながら公平に展開されることを保証すること。

5. 有害な補助金
有害なインセンティブをすべて廃止または再検討し、公共と民間の資金の流れを自然環境に配慮したものにすることを含む、金融システムの改革にコミットすること。

6. 地域別保全
空間保全目標(目標3)において、先住民族と地域コミュニティ(IPLCs)の権利と、空間保全の決定と行動において彼らの自由意志に基づき、事前に十分な情報を与えられた上での合意を得ることの重要性を明確に認識することを含めること。

7. 権利に基づいたアプローチ
ポスト2020生物多様性枠組とその実施の中核に、男女平等を含む権利に基づいたアプローチを確保すること。

8. 確固たる実施メカニズム
愛知目標の未達成という失敗を繰り返さないために計画、モニタリング、報告、レビューのメカニズムを含み、段階的な野心の引き上げを可能とする仕組みを確保すること。

9. 条約間の関連性
他の多国間環境協定やSDGsとのより緊密な連携を図ること。

WWFジャパンでは、報告書『Bridging the Gap』の内容と共に、野心の引き上げを求めるため、WWFインターナショナル事務局長のマルコ・ランベルティー二とWWFジャパン事務局長 東梅貞義の署名入り書簡を送っています。

©WWF

世界と日本に必要なのは野心的な目標

昆明宣言、G7・2030年自然協約、G20ローマ首脳宣言など、多くの公約に示された2030年までに生物多様性の損失を反転させるという首脳の約束に合致させるためには、ポスト2020生物多様性枠組が掲げる国際目標を、より野心的なものにしていかなければなりません。

WWFは生物多様性損失の要因を考慮し、特に農業と食料システムを変革することが重要であると考えています。

WWFインターナショナルのマルコ・ランベルティー二事務局長は次のように述べています。

「限定的な公約間のギャップを埋めるため、各国首脳は今すぐ行動を起こす必要があります。それができない場合、信頼は失われ、また自然保護に関する約束が守られないことになるでしょう。
科学的根拠に基づき、測定可能な「ゴール」と「ターゲット」を、新たな国際目標の草案に反映させ、閣僚並びに各国の交渉官に要請する必要があります。

気候対策と同様に、自然についても統一的で明確な世界目標を盛り込むべきです。私たちは2030年までに自然の損失を反転させ、自然にとってポジティブな未来を実現するために、世界を統合できる強力な目標の合意を必要としています。」

今のままでは自然の損失の流れを変えることはできません。

日本も世界の環境に与えている負の影響を与えている国の一つであり、これまでのような環境行政だけでは対応しきれません。

ポスト2020生物多様性枠組において、国際公約、宣言、決定での内容を担保し、さらに目標の野心を引き上げるような提案が、日本に求められています。

前回の愛知目標の未達という失敗から学び、対策がこれ以上後回しにならないよう、政府、企業、そして消費者をも巻き込んだ、生物多様性の主流化に向けた取組の推進を強く求めます。

WWF報告書『Bridging the Gap』(英語)

参考:【動画】ネイチャー・ポジティブについて

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