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資源エネルギー庁に対しFIT法とバイオマス発電についての要望書を提出

この記事のポイント
温室効果ガスの排出削減に寄与する燃料として、注目が高まっているバイオマス。しかし、バイオマス燃料への需要の高まりは、木質やパーム油といったその原料の生産地で、森林破壊などの環境問題や、地域社会への悪影響を引き起こす恐れがあるだけではなく、化石燃料と比べてもより多い温室効果ガスの排出に繋がるリスクがあります。日本にはいまだに、温室効果ガス排出基準を含む網羅的な持続可能性基準が整備されておらず、WWFと賛同団体一同は2020年7月15日、経済産業省および資源エネルギー庁に、持続可能性基準および、化石燃料比で大幅な温室効果ガス排出削減基準を検討・策定するよう求める要望書を提出しました。

※本要望書への回答を7月末までとしてお願いしましたが、残念ながら経済産業省および資源エネルギー庁からは何のお返事もいただけませんでした。

バイオマス発電とその燃料の持続可能性

カーボンニュートラルとされ、国際ルール上も日本の温室効果ガス排出削減に寄与しうるエネルギー源として期待されているバイオマス発電。

しかし、バイオマス発電は風力や太陽光と異なり、燃料が必要です。
そして、その燃料への需要が高まると、木質やパーム油といったバイオマスの原料生産地で、森林などの自然環境や社会環境、生態系などに悪影響を生じるおそれが高くなります。

更に、燃料によっては栽培から燃焼までの温室効果ガス(以下、GHG)排出量を考えると、化石燃料よりも排出量が多くなる可能性があるのです。

それにもかかわらず、現在の日本では、バイオマス発電ありきでの議論が進められており、本来設定されなければならない「持続可能性基準」や「GHG削減基準」が網羅的に整備されないまま、バイオマス発電を推奨する制度のみが進んでいるのが実態です。

知らずに国民負担で進むバイオマス発電

実際、日本のバイオマス発電事業計画は過去数年で急激に増加しました。

この背景には、2012年に開始した固定価格買取制度(FIT制度)があります。
そして、2019年度のFIT制度による買取費用総額は3.6兆円に達すると見込まれ、これは賦課金として電気料金に上乗せして利用者から徴収されています。

つまり、国民負担でも賄われているものですが、これがバイオマス発電の急増を受け、年々増額傾向にあります。

資源エネルギー庁によると、2017年時点でパーム油を燃料とするバイオマス発電事業は、460万kWが認定されました。

また、同じくアブラヤシ由来の原料であるPKS(パーム椰子殻)も燃料として輸入量が急増しており、2012年の2.6万トンから2018年には170.6万トンと約66倍になっています(財務省「貿易統計」)。

そもそもパーム油は、熱帯林や泥炭地開発(土地利用変化)が伴う場合のGHG排出量が膨大であることが指摘されています。

そのため、パーム油が生産されてから精製・加工・運搬・燃焼も含めたライフサイクルでのGHG排出量が、化石燃料よりも高くなるという試算もあり、特に欧米では再生可能エネルギーとして利用する原料には適さないと考えられています。

アブラヤシ農園の拡大により、絶滅が心配されているオランウータンなどの希少な野生動物が命をはぐくむ熱帯林が破壊されている。
©naturepl.com / Anup Shah / WWF

アブラヤシ農園の拡大により、絶滅が心配されているオランウータンなどの希少な野生動物が命をはぐくむ熱帯林が破壊されている。

アブラヤシ農園の中を通り抜けるボルネオゾウ(マレーシア・サバ州)
©Chris J Ratcliffe / WWF-UK

アブラヤシ農園の中を通り抜けるボルネオゾウ(マレーシア・サバ州)

木質系の燃料についても、近年燃料としての利用量が増加していることから、持続可能性について十分配慮する必要があります。

例えば木質ペレットの輸入量は、FITが導入された2012年の時点では7.2万トンでしたが、2015年には23.2万トン、2019年には161万トンに増加してきています(財務省「貿易統計」)。

こうした木質系燃料についても、パーム油同様、ライフサイクルでのGHG排出量を計算し、化石燃料と比べて十分に有意な燃料である必要があります。

また、林産物を燃料として利用することが、原産地の森林破壊や生物多様性の損失を引き起こしていないことを十分に確認する必要があります。

木質チップ
© WWF-US / Zachary Bako

木質チップ

経済産業省および資源エネルギー庁に対する要望

WWFジャパンおよびWWF EUは、そもそもバイオマス発電の目的は大幅なGHG排出量削減とすべきであり、それを達成した上で電力の安定供給と地域経済の活性化を目指すべきと考えます。

しかし、現状の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下、FIT法)では、GHG排出増大の懸念があるため、FIT法の目的見直しおよび、目的を達成し得る持続可能性基準の策定を強く求めるため、2020年7月15日に、経済産業大臣および資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー課に対して下記の通り要望書を提出しました。

梶山 弘志 経済産業大臣への要望

1. 国民負担によって賄われるバイオマス発電事業者への補助金が化石燃料と比べて大幅なGHG排出削減効果をもたらすようFIT法の目的を見直し、当該目的を達成し得る持続可能性基準を策定すること

解説:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)第一条に「エネルギー源としての再生可能エネルギー源を利用することが(中略)環境への負荷の低減を図る上で重要」とあり、「環境への負荷の低減」をもって、GHG排出削減基準を含む持続可能性について検討されて然るべきです。しかしながら、今日までGHG排出削減については検討すらされず、十分な持続可能性基準も設定されてきませんでした。FIT法の目的に掲げられる「環境への負荷の低減」の意味するところに、GHG削減を含む持続可能性基準が設定されるよう見直しを求めます。

2. 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課において、GHG削減基準を速やかに検討・設定させること。そのため、例えば、パーム油などの燃料作物や木の幹や切り株など、化石燃料と比べて大幅なGHG削減が見込めない場合は、FITの対象とすべきではない。分解が早く他に用途のない廃棄物や残さであっても同様と考える

解説:言うまでもありませんが、GHG削減基準は、化石燃料と比べて大幅にGHGを削減するために設定するものです。WWFは、特定の燃料について使用の是非を議論しているわけではなく、あくまでもGHG排出量を計算した上で、化石燃料と比べて大幅な削減効果がないものは燃料として使用すべきでないと考えます。

資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課への要望

1. FIT制度として適切且つGHG削減基準を含む燃料の持続可能性基準を検討・設定すること。2020年4月改訂版「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」においては、様々なバイオマス原料を燃料として利用することを前提とした議論になっている。GHG削減基準に則れば、分解が早く他に用途のない廃棄物と残さは奨励されてしかるべきと考えられるが、ある原料が燃料として適切かどうか判断する際には燃焼にともなう気候面の影響を慎重に検討する必要がある

解説:「バイオマス持続可能性ワーキンググループ中間整理」(2019年11月公開)では、持続可能性基準の評価基準として、RSPOの基準のほんの一部を抜粋していますが、認証制度は持続可能性を担保するためのツールであり、持続可能性基準自体は、利用主体(つまりここでは資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課)がFIT法の目的に沿って基準を検討・設定すべきものと考えます。そもそも、国際認証制度であるRSPO(パーム油)やFSC(木質)は、マテリアル利用を想定して作られた制度のため、特にGHG面において燃料の持続可能性は担保しきれていません。
なお、GHG計算の際、発電効率や熱利用も考慮すべきという考えもあります。


2. GHGは国際的に信頼できる第三者による定量的な計算方法(既存の手法でも可)を確立し、一律に義務付けること。なお、GHGを算出する際は、土地利用変化、(伐採等により)喪失した除去量、間接的土地利用変化、森林と土壌中の炭素蓄積から燃焼まで、ライフサイクルを通した計算が必須である

解説:排出削減手段としてのバイオマスの有効性は、ライフサイクルにおけるあらゆる排出量・吸収量を考慮しなくては意味がありません。バイオマス燃料の生産・加工・輸送等に化石燃料が使われ、加工過程や燃焼の際にもGHGが排出されると考えられます。森林伐採後のプランテーション由来のバイオマスでは、土地利用変化に伴う排出量も無視できません。また、例えば森林からの木質バイオマスの調達(伐採)では、地上バイオマス(幹や枝など)だけが計上されがちですが、伐採により土壌がむき出しになると、土壌中の有機炭素の微生物分解により、さらなるCO2排出につながるとも考えられます、このように、バイオマスの有効性を判断するには、気候面の影響を慎重に検討することが必要です。なお、GHG排出の評価手法と評価結果は全て公開されるべきと考えます。また、WWFはGHG排出削減だけではなく、燃料の選択においては他用途との競合がないことや、持続可能な森林管理も重要と考えています(詳細はWWFジャパン「バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー」を参照ください)。


WWFによる経済産業大臣および資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー課あて要望書

2020年7月14日時点の賛同団体。この他、個人として槌屋治紀氏 (株式会社システム技術研究所)、大島堅一氏 (龍谷大学政策学部教授) に個人として賛同いただいています。

2020年7月14日時点の賛同団体。この他、個人として槌屋治紀氏 (株式会社システム技術研究所)、大島堅一氏 (龍谷大学政策学部教授) に個人として賛同いただいています。

脱炭素社会・持続可能な社会を目指して

2019年までのFITにおける累計買取総額は15兆円にのぼり、このままでは2030年までに約59兆円、2050年までに約94兆円に達するという試算もあります。

賦課金は再生可能エネルギー普及において一定の成果はあったものの、上記のような問題が指摘されるバイオマス発電において利用すべきかは慎重に検討すべき事項です。

国民負担を求めているものであるからこそ、お金が適切に使われることを期待し、経済産業省および資源エネルギー庁には本要望書の内容を取り入れていただき、パリ協定の達成に向けて、日本でもGHG削減に本当に効果がある政策とシステムを確立いただきたいと考えています。

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