押収されたトラの骨や皮、10年で1,000頭分に
2010/11/12
過去10年の間に、トラの生息国で、少なくともトラ1,000頭分以上にのぼる、トラの骨や皮などが押収されてきたことがわかりました。野生のトラは、現在世界に3,200頭あまりしか生息していないと見られており、密猟や生息地の森林破壊によって、絶滅の危機に瀕しています。
押収されたトラ、1年あたり100頭分
2010年11月9日、WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムで、野生生物の取引を監視するトラフィックは、新しいレポート『Reduced to Skin and Bones: An analysis of tiger seizures from 11 tiger range countries (2000-2010)』を発表しました。
これは、トラが生息する11の国々で、この10年間に押収された、トラやトラの身体の一部についてまとめたもので、その総量が少なくともトラ1,069~1,220頭分、1年間で平均100頭以上にのぼることを明らかにしたものです。
トラは、生息国を含む多くの国々で、狩猟や売買が法律で禁止されていますが、骨などが今も高値で取引されるため、密猟や違法取引が跡を絶ちません。
トラフィックのレポートでは、生きたトラや死んだトラの死骸、皮、骨格、骨、肉、かぎ爪、歯、頭蓋骨、ペニスなど、さまざまな身体の部位が取引されていると報告していますが、これらはいずれもアジアの各地で、装飾用、伝統薬の原料や、幸運のお守りといった、さまざまな形で利用されており、密猟や違法取引を呼ぶ原因になっていると見られています。
最大の生息国に迫る危機
違法に取引されたトラの押収件数が、特に多かったのは、トラの最大の生息国であるインドで、その数は276件にのぼり、それは469~533頭分に相当するトラの身体の部位が押収されました。
また、中国、ネパールでも、10年間に押収されたトラの身体は、それぞれ100頭分以上で、違法な取引や密猟がその背景で行なわれていることが、うかがわれます。
トラフィックとWWFが共同で取り組んでいる、トラ取引問題プログラムのマネージャーで、今回のレポートの著者でもあるポーリーン・ヴァーヘイジは次のように言っています。
「押収の件数が多いことは、取引が多いか、または効果的な取締りが行なわれているか、あるいはその両方を示しているのかもしれません。いずれにしても、インドでトラが深刻な密猟圧にさらされていることを強調するものといえます」。
今回のレポートでは、毎年少なくとも100頭以上もの野生のトラが、違法な取引やその背後で行なわれる密猟によって犠牲になっていることを明らかにしていますが、その半面、野生のトラが今どれくらい減少しているのか、その正確な数字は推測することしかできないのが現状です。
野生のトラを守るために何をすべきか
レポートはまた、インドネシア、ネパール、タイ、ベトナムでの押収数が明らかに増加しており、さらにいくつかの地域が違法取引のホットスポットとして突出していることも指摘しています。
その具体的な地域の例には、ネパール、インド-ミャンマー間、マレーシア-タイ間、ミャンマー-中国間、ロシア-中国間の国境が含まれています。
さらに押収された例は、西ガーツ山脈や、スンダーバンズ(ガンジス川河口)、テライ・アーク(ヒマラヤ山麓)といった、トラの保護地域から50kmの圏内の国境地帯から、多く報告されています。
WWFのトラ保護プログラムのリーダー、マイク・バルツァーは、この現状について、次のように言っています。
「違法なトラの取引が、消費国や生息国の双方で多くの政府・機関によって、トラの違法取引を抑えるための膨大かつ絶え間ない努力が払われてきました。それにも関わらず、トラの違法取引が続いていることを、このレポートは示しています」。
それは同時に、これまでの法に基づいた取締りと処罰が、十分な効果を発揮していないことを、示すものでもあるといえます。
レポートは、これからのトラ保護のために、各国による政治的なリーダーシップと、トラにかかわるすべての関係者が、正しい情報に基づき、国境を越えて協力しながら、活動してゆくことの必要性を指摘しています。
2010年11月21日~24日には、ロシアのサンクトペテルブルクで、トラ保護のための国際会議「トラサミット」が開催される予定です。
ここでは、2022年までに野生のトラの個体数を2倍に増やすことを目標とした、グローバルトラ回復プログラム(Global Tiger Recovery Program)をまとめあげるため、全てのトラの生息国の政府代表が集まる予定です。
トラフィックとWWFは、このサミットが野生のトラの未来にとって極めて重要な会議になると考え、今回レポートで発表した情報を発信しながら、サミットの成功と、新たなトラ保護活動の進展を求めてゆくことにしています。