野生生物 違法取引関連情報 まとめ(2008年~2010年)


  • 密猟からトラを守れ! 罠を探し出す新兵器(2009年4月1日)
  • 違法取引がオランウータンを追い詰める(2009年4月23日)
  • 中国で野生生物の消費が増加(2008年11月20日)
  • 飼われているトラが野生のトラを脅かす?(2008年8月22日)
  • 中国がアフリカの象牙取引に参加(2008年7月18日)
  • 難民問題と密猟:トラフィックが報告書を発表(2008年1月22日)

密猟からトラを守れ! 罠を探し出す新兵器(2009年4月1日)

隠された罠を探せ! 野生生物の取引監視と保護に取り組むトラフィックでは、WWFの支援のもと、インドの保護区内で起きているトラの密猟を防ぐため、新たに金属探知機を使った罠の探索活動に取り組んでいます。低コストで実現可能なこの取り組み。密猟の予防策としても、期待されています。

金属探知機で罠をさがせ

WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムとして活動する、野生生物の国際取引の監視と、その保護に取り組むトラフィック・ネットワークは、現在インドでトラの密猟防止活動を展開しています。

その中で最近、新しい手法と機材が使われ始めました。これは、トラをはじめ、野生動物を捕らえるために仕掛けられた罠を、金属探知機を使って探し、撤去する、というものです。

インドの国立トラ保護当局(The National Tiger Conservation Authority (NTCA))と協力して、この取り組みを進めているトラフィック・インドの事務局長サミール・シンハは次のように言っています。

「金属の罠は、トラや他のネコ類を捕まえるためによく使われています。しかし、罠は巧妙にカモフラージュされているため、見つけるのはほとんど不可能でした。しかし金属探知機を使えば、森林保護官は、きわめて巧妙に隠されている罠も、探し出すことができるのです」。

フィールドで活躍!

トラフィック・インドは、この探知機の使い方についても、本格的な訓練を実施し、野外で活動するスタッフの助けとなるように、英語とヒンズー語で書かれたマニュアルも開発しました。

組み立てや操作が簡単で、丈夫に作られている金属探知機は、野外でのこうした活動には、理想的な道具。

さらに、探知機は罠にかかった動物が銃弾で殺されたり、傷つけられたりしていないかどうかも、調べることができます。トラフィックでは、これが密猟者を法律に照らして処罰するための、有力な情報を提供する上でも、効果があるとしています。
シンハ事務局長は、探知機を使う訓練を受けたスタッフの、前向きな反応から、この装置を使うことのメリットを感じている、と言っています。

残り1,400頭、インドのトラを守るために

今回始まった金属探知機の活用は、密猟者に警戒心を起こさせ、長期的には密猟そのものの抑止効果も発揮するものと見られています。
また、インドの一部の政府高官も、この取り組みに高い関心を持ち、どのように探知機を入手することができるか、トラフィックに問合せも入っています。
シンハ事務局長によれば、金属探知機の調達と、その使い方の訓練にかかるコストは、導入する保護区ひとつあたり約8万ルピー(約15万4,000円)ほど。コストとしては、決して高いものではありません。

この金属探知機を使ったトラフィック・インドの取り組みは現在、海外のWWF事務局による支援に支えられ、インドを代表する、コーベット、ランサムボール、カーナ、ペンチ、シムリパル、バンダウガル、ラジャジといった、多数の保護区で展開されています。
近年、その個体数がわずか1,400頭あまりであることが明らかになった、インドのトラ。この罠探知活動も、トラを絶滅から救い、長期的に保護してゆく取り組みの一つとして、成果が期待されています。


違法取引がオランウータンを追い詰める(2009年4月23日)

絶滅の危機にあるスマトラオランウータンを、違法な取引が追い詰めている―― 野生生物の国際取引を監視する「トラフィック」では、新しい報告書の中で、ペットを目的とした違法取引が、スマトラ島の霊長類を危機に追い込んでいる現状を指摘しました。

違法であるにもかかわらず...

野生生物の国際取引を監視する、WWFとIUCNの共同プログラム「トラフィック・ネットワーク」では、スマトラオランウータンや、数種のテナガザル類が、違法取引によって絶滅の危機にさらされていることを指摘する、新しい報告書『An assessment of trade in gibbons and orang-utans in Sumatra, Indonesia (インドネシアのスマトラ島におけるテナガザルとスマトラオランウータンの取引状況)』を発表しました。

オランウータンは、インドネシアの法律によって、許可無く飼育したり、所有することが禁じられています。罰金は最高で、1億インドネシアルピア(9000米ドル)、さらに最高で5年の懲役刑が科される、厳しい法律です。
しかし実際には、違法取引自体を取り締まる法律や、所有者を実際に処罰する体制が整っていないため、オランウータンなどの違法取引は、跡を絶ちません。

しかも、オランウータンを違法に飼育者している人たちの多くは、その違法行為が明らかであるにもかかわらず、法的な裁きを受けていないのが現状です。

処罰されない所有者たち

スマトラオランウータンは成長すると体重90kg、体長1.5mにもなるため、ペットとして飼ことを途中で諦めてしまうケースが珍しくありません。

そして、オランウータンの「リハビリセンター(保護されたオランウータンを野生に戻すための施設)」のような施設に、こうした飼育されていたオランウータンが持ち込まれたり、放棄されたりするケースが多発しています。
オランウータンの所有者たちは、違法行為を犯していても、ほとんど処罰された例が無いため、平気でこのような施設にオランウータンを持ち込んでいるのです。

この約30年の間に、インドネシアで飼い主から押収されたり、飼い主が自ら飼育を放棄し、保護されたオランウータンは、およそ2,000頭にのぼると見られていますが、実際に罪を問われ、訴追された飼育者は、ほんのひと握りに過ぎません。

厳しい法律の施行を!

「飼い主を訴追せずに、オランウータンをリハビリセンターで引き取るだけでは意味がありません」と、トラフィック サウスイースト アジアのディレクター、クリス・シェファードはいいます。「処罰されなければ、犯罪に対する抑止力は働かないのです。インドネシアには十分な法律が存在しますが、厳密な処罰が行なわれていないため、違法取引が続いています」。

スマトラオランウータンの現在の推定個体数は、約7,300頭。しかも、スマトラ島では、森林伐採や、農地、プランテーションの開発、土壌浸食、森林火災といった脅威により、生息環境の減少も進んでいます。
現在の状況が続いた場合、スマトラオランウータンは間違いなく、深刻な絶滅の危険にさらされることになるでしょう。

WWFでは、報告書が指摘している、スマトラ島のオランウータン、テナガザル、その他の野生生物を保護する法律が、より厳しく、効果的に執行されることが重要であると考え、この提案を支持しています。
また同時に、スマトラ島の環境破壊を食い止める活動を展開。企業などに対し「保護価値の高い森林」の保全を働きかけているほか、地域住民が自然資源を持続可能な方法で利用、管理する取り組みを支援しています。

英文の報告書はこちら :PDF形式

トラフィック イーストアジア ジャパンのサイト


記者発表資料 2009年4月23日

依然としてやまないペットとしての取引

【クアラルンプール、マレーシア発】 
トラフィックの新たな報告書"An assessment of trade in gibbons and orang-utans in Sumatra, Indonesia" (インドネシアのスマトラ島におけるテナガザルとスマトラオランウータンの取引状況)によれば、インドネシアにおける違法取引を取り締まる法律が実効性を欠くために、スマトラオランウータンやテナガザル類の存続が脅かされているという。

野生生物の保護に対する相当な労力の投入にも関わらず、ペットとしての取引を主目的として捕獲されたスマトラオランウータンの数は、2000年代に入って、1970年代レベルを超えてしまっている。スマトラオランウータンは絶滅危惧種であるにも関わらず、こうしたことが起きている。トラフィックでは、十分な法執行体制を欠いている点が非難されるべきだと考える。

リハビリテーションセンターに送られたオランウータンとテナガザルの個体数の記録をみれば、どれだけの数が違法に捕獲されているかを推し量る手がかりを得られる。一方、その間も野生下の生息数は減少し続けているのである。最新の推定個体数は、スマトラオランウータンでわずか7,300頭である。

体重90kg、体長1.5mになるスマトラオランウータンは、成長してペットとして飼うには大きくなりすぎると、リハビリセンターにやってくることになる。しかし、所有者は法的な裁きを受けることがない。

「飼い主を訴追することなく、オランウータンをリハビリセンターで引き取るだけでは意味をなさない」とトラフィック サウスイースト アジアのディレクター(実務もこなすActing Director)であるクリス・シェファードは述べる。「処罰されずにいれば、こうした犯罪に対する抑止力が働かない。インドネシアには十分な法律が存在する。しかし、厳密な処罰がないために、違法取引は続き、これらの野生生物は絶滅に向けたスパイラルを降りていくことになる」。

この30年間に、インドネシアで飼い主から押収されたり、飼い主自ら放棄したオランウータンが約2,000頭いるとみられるが、このうち、きちんと訴追された例はひと握りに過ぎない。

例えば、スマトラ島に新しく開設されたシボランギット・リハビリテーションセンターは、2002年から2008年のあいだに、142頭のスマトラオランウータンを収容した。以前からあるボホロク・リハビリテーションセンターは1995年から2001年のあいだにわずか30頭を受け入れたに過ぎない(リハビリテーションセンターとしての機能は2001年に停止)。そして、ボホロクは 1973年から1979年のあいだに105頭のオランウータンを受け入れていたのであった。

「最初のリハビリテーションセンターが開設されたときには、オランウータンやテナガザルが押収・保護されると同時に、違法な取引が減少すると期待されたものでした」と、トラフィックのコンサルタントで今回の報告書の執筆者であるヴィンセント・ニジマン(在オックスフォードブルックス大学)は言う。「しかし、何百頭ものオランウータンとテナガザル類がリハビリセンターにいて、さらに毎年数十頭もが持ち込まれるという状況があります。インドネシアの法執行の努力不足に対する批判として、こうした数字が浮かび上がってくるのです」。

今回の報告書には、インドネシアの動物園には、148頭のスマトラ島のテナガザル類と26頭のスマトラオランウータンがいると記述されている。

「インドネシアでは、オランウータンを保護する法律の執行体制を強化することが極めて重要である。今の状況が続くならば、スマトラオランウータンが絶滅にいたる可能性が十分にありうる」とWWFインターナショナルの野生生物保護プログラムのマネジャーである、ウェンディ・エリオットは語る。

違法取引の根本的な要因を明らかにし、スマトラ島のオランウータン、テナガザル、その他の野生生物を保護する法律がより効果的に執行されることを、報告書は提案している。

伐採行為、土地利用の転換、土壌浸食、森林火災といった生息地の減少によってもスマトラ島の野生生物は脅かされている。

WWFでは、スマトラ島における野生生物の生息地の破壊を食い止める活動をしている。例えば、企業に働きかけて「保護価値の高い森林」を農地に変えたりしないように努力している。地元の住民には自然の資源を持続可能な方法で管理するよう支援し、代替策を提示している。

NOTES

  1. "An assessment of trade in gibbons and orang-utans in Sumatra, Indonesia" はスマトラ島におけるテナガザルとオランウータンの取引状況を調べた、トラフィックとしては初めての報告書である。2005年のカリマンタン島における同様の調査に続くものである。
  2. インドネシアの国内法によって、違法にオランウータンを所有すると、最高1億インドネシアルピア(9000米ドル)の罰金と最高5年の懲役刑が科される。
  3. オランウータンは、スマトラオランウータンPongo abeliiとボルネオオランウータンPongo pygmaeusに分けられる。
  4. スマトラ島にいるテナガザルは、シロテテナガザルHylobates lar、アジルテナガザルHylobates agilis、フクロテナガザルSymphalangus syndactylus。

中国で野生生物の消費が増加(2008年11月20日)

世界の一大消費国となりつつある中国。近年、中国国内では、野生動植物の消費も拡大しつつあります。野生生物の国際取引を監視する「トラフィック・ネットワーク」は、2008年11月11日、中国での野生生物の消費の現状をまとめた報告書を発表しました。

再び増え始めた「消費」

2003年、動物による媒介が指摘されたSARSをめぐる不安により、一時落ち込んでいた中国での野生動物の消費が、近年再び増える傾向にあることが、調査により明らかになりました。

この調査は、WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムで、野生生物の国際取引を監視する「トラフィック・ネットワーク」が、中国南部の5つの都市で行なったものです。
その結果をまとめた報告書『The state of wildlife trade in China(中国における野生生物取引の現状)』によると、食料品店25店のうち13店が、レストラン50店のうち20店が、野生動物を販売していたことが明らかになりました。

調査で見つかった野生動物は、全部で56種。このうち8種は、中国の法律で保護されており、17種は、国際取引を禁止または厳しく管理している「ワシントン条約(CITES)」により保護されている種でした。

中でも、違法な取引が目立ったのは、淡水性のカメとヘビです。
中国では、淡水カメと、ヘビのほとんどが肉あるいは薬用のために売られていますが、利用されているこれらの野生動物の中には、過剰な捕獲によって、絶滅の危機にさらされている種も、少なからず含まれています。

漢方薬と木材の利用

トラフィックの報告書は、中国が世界第二の木材の輸入国であること、そして漢方薬に代表される、野生動植物を利用した伝統薬の取引拡大も指摘しています。

中国に木材を最も多く供給しているのは隣国のロシアで、さらにアフリカから輸入される木材の割合も増加しています。とりわけアフリカと中国の木材取引については、違法な伐採や取引を助長している可能性があるほか、アフリカの地域住民に対する利益の公平な分配についても、きちんと行なわれているかどうか、疑問視されています。

また、中国における漢方薬の取引はSARSが流行した2003年以降、年に10%の規模で拡大を続けています。
中国から輸出される漢方薬の多く(6億8,700万米ドル(約673億円))が、アジア諸国向けですが、ヨーロッパ(1億6200万米ドル(約158億円))や、北アメリカ(1億4,400万米ドル(約141億円))といった地域も、規模の大きな市場もなりつつあります。

トラフィックは現在、北京中医薬研究所など、いくつかの機関と協力し、薬用やアロマ用に使われる植物を、持続可能な形で採取するための国際的な基準づくりを進めていますが、このような取り組みを、今後さらに広げてゆかなければ、過剰な消費によって絶滅の危機にさらされる野生の薬用植物は、増え続けることになるでしょう。

中国政府に求められる対策の強化

一方、改善の兆しが見られたものもありました。
違法な象牙の取引が、減少しつつあることが明らかになったのです。中国国内で、違法に販売されている象牙の数が、この1年間で大幅に減少。中国政府による管理の強化が、結実した形となりました。

しかし、トラフィック中国プログラムの徐宏発教授は、こう警告します。
「この減少は喜ばしいことですが、当局には警戒を怠らないように求めるものです。特に、違法な象牙のロンダリングが起こらないよう、注意する必要があります」。

今回のトラフィックの報告書では、他にも、減少が心配されるジャコウジカから採れる香料「麝香」の違法取引や、ガラパゴス諸島の海洋生態系を脅かしているナマコの密漁と密輸、ロシアのサケの漁場と中国市場のつながりなどについても、調査結果をまとめており、今後さらに拡大が懸念される中国の消費が、世界の生物多様性に与える影響を指摘しています。

WWFは、違法取引を阻止し、絶滅のおそれのある世界の野生生物の消費を減らすため、中国当局に取り締まりと、情報発信や教育活動の強化を求めています。

報告書のダウンロードはこちら

『The State of Wildlife Trade in China in 2007』
中国における野生生物取引の現状(PDF形式:2.25MB / 英語・中国語)
http://www.trafficj.org/publication/08-State_of_Wildlife_China.pdf


飼われているトラが野生のトラを脅かす?(2008年8月22日)

現在、絶滅寸前の危機にある野生のトラ。生息環境の破壊と共に、薬の原料となる骨や、毛皮を目的とした密猟・密輸が深刻な脅威になっています。WWFと野生生物の取引を管理するトラフィックは2008年7月、アメリカのトラ飼育に関する法律の不備を指摘する報告書を発表。このことが野生のトラの新たな密猟を呼ぶ危険について警告しました。

トラの危機

アジアにかつて10万頭が生息していたといわれるトラ。現在、野生のトラは、インドや極東ロシア、東南アジアに4000頭ほどが生き残っているのみで、絶滅の危機に瀕しています。

その理由は、生息環境である北方林や熱帯林の急激な減少と、ファッションやアジアの伝統薬の原料に使われる骨や毛皮などを狙った密猟です。
トラは多くの生息国で保護下に置かれているだけでなく、毛皮や骨などを国外に持ち出すことも基本的に禁じられていますが、それでも密猟は無くならず、これが各地でトラを減少させる、大きな原因になっています。

トラの密猟を食い止めるためには、生息国以外の国々で、トラの骨などを使った製品の売買を規制したり、密輸品が紛れ込んだりしないように、法律を強化し、厳しく実施してゆかねばなりません。

このため、WWFや野生生物の取引を監視する国際団体トラフィックは、世界各地でトラの骨などをつかった製品の取引状況や、それらを売買する各国の現状について調査を実施。法体制の問題を指摘したり、改善のための提言を行なってきました。

アメリカの現状

2008年7月、WWFとトラフィックは、アメリカの国内で飼育されているトラの管理にかかわる法律について調査した、新しい報告書を発表。この中で、現在のアメリカの法体制に大きな問題があり、これがトラの違法取引を増加させる可能性があることを指摘しました。

この報告書によれば、現在のアメリカでは、国内のどこで、何頭のトラが飼育されているのか、誰がそれを所有し、どこに移動しているのか、また、そのトラたちが死んだ時、その骨などの体の部分がどうなっているのか、明確にする術がありません。

動物園のものを含む飼育トラは、カーニバルなどでの催し物や、広告展示でも使用されており、保護施設に収容されるものもいれば、個人に所有されているものもいます。何より、多くの州では、トラをペットとして飼うことに対する規制や、登録などの義務がありません。

最近の推計では、現在アメリカでは、野生のトラの個体数を上回る、5000頭以上のトラが飼育されているとみられています。
これだけのトラの骨などが、管理もされないまま、国際的な密輸ルートに流れるようなことになれば、需要の拡大を呼び、さらなる野生のトラの密猟を引き起こすことにもなりかねません。もともと数が少なくなっているトラにとって、これは大きな脅威となります。

求められる厳しい管理

報告書は、今までのところ、これらのアメリカのトラが闇市場に流れているという証拠があるわけではない、としていますが、緊急に対応が必要であるとしています。そのために必要なことは、飼育されているすべてのトラを登録したり、死んだトラの処分を監視するための、あらたな仕組みを作ることです。

WWFとトラフィックは、一部の飼育トラに適用されている、登録の免除を認めた法律の例外措置の廃止や、トラを展示したり、繁殖させたりする際に必要な、アメリカ農務省の免許を持つすべての個人や施設に対し、飼育や誕生、死亡、移送、また売却したトラの頭数を、毎年報告すべきだ、とした提言を行なっています。

また、現在のアメリカでは、国際的な野生動植物の取引を規制する「ワシントン条約」で合意されている、飼育トラの取引(骨や毛皮などの部位を含む)に関する規制の約束を、十分に実行できていないと指摘。国際的なトラ保護の視点からも、早急な改善を求めています。

報告書

Paper Tigers? : The Role of the U.S. Captive Tiger Population in the Trade inTiger Parts/トラの取引における飼育トラに対する米国の役割(英文:PDF)


中国がアフリカの象牙取引に参加(2008年7月18日)

スイスで開かれていたワシントン条約の常設委員会会議で、中国の象牙の国際取引への参加が認められました。この象牙の取引は、アフリカ南部の4ヵ国が管理する在庫の象牙を、1回限定で海外に輸出するというもので、今回の決定により、中国は日本と共に、世界で2つだけの輸入国として認められることになりました。

中国が入札に参加

 2008年7月16日、スイスのジュネーブで開かれていたワシントン条約の常設委員会会議において、中国の象牙の国際取引への参加が認められました。

 この象牙の国際取引は、ワシントン条約に加盟している、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカの4ヵ国が管理する、合計108トンの在庫の象牙を、1回限定で海外に輸出する、というもの。その収益はそれぞれの国内のアフリカゾウ保護活動に充てられることが取り決められています。

 今回の会議により、中国は日本と共に、世界で2つだけの輸入国として認められることになりました。
実際の時期や価格などは、現時点では未定ですが、象牙は入札によって取引されることになっています。

国際的な協調への期待

 今回の決定の背景には近年、中国が国内で象牙の取引を厳しく規制・管理してきたことがあります。
ワシントン条約では、国内市場で流通する象牙が、別の国に輸出されたりすることが無いよう、きちんと管理・追跡できる国にしか、象牙の国際取引への参加を認めていませんが、中国は近年の前向きな取り組みが国際的に認められた形となりました。

トラフィックイースト/サウスアフリカのトム・ミリケン事務局長も、これまでに海外の中国国籍の人々が、特にアフリカ中部などで象牙の密輸に関与してきたことを指摘しつつ、中国政府による国内での取り組みを評価。中国が今後、これらの人々に対して、密輸行為が違法であることを明確に伝える普及活動に努め、国際的な協力に積極的に寄与すべきであるとしています。

アフリカの危機的な現状

しかし一方で、現地のアフリカでは、今も多くの都市で、公然と違法な象牙が売買されています。
これらの象牙の多くは、密猟された野生のアフリカゾウから採られたものであり、違法な取引自体が密猟の大きな原因になっていることは間違いありません。

WWFインターナショナルの野生生物保護プログラムのスーザン・リーバーマンも、今回国際的な監視の下で予定されている1回限りの在庫象牙の取引よりも、この各地で続いている多くの密猟、密輸が、大きな問題であると指摘。「アフリカゾウの密猟をやめさせる唯一の方法は、それぞれの国で行なわれている違法な象牙取引を、効果的に取り締まることだ」としています。

密猟をくいとめるために

国際的な取引が行なわれると、どこかで違法な象牙が混入し、さらなる密猟を呼ぶ可能性があることから、取引自体に反対する意見もあります。
しかし、ワシントン条約では今のところ、保護や管理のための資金が必要であるとするアフリカ南部諸国の訴えに応える形で、限定的な取引を認めています。

今回の取引でアフリカ南部諸国から輸出される象牙は、すべて各国政府が登録管理している、自然死したゾウから採ったものに限られています。それでも、厳重な管理下にあるとはいえ、今回行なわれることになった1回限りの象牙取引に、密猟の呼び水となる可能性がまったく無いとは断言できません。

このため、ワシントン条約事務局では、象牙取引がゾウの個体群にどのような影響を与えるか調べるため、1997年からETIS(ゾウ取引情報システム)とMIKE(ゾウ違法捕殺監視システム)による情報の収集と分析を行なっています。

実際、このETISの機能によって、今回と同様に1999年、南アフリカ諸国から1回限定で日本へ象牙が輸出された時は、その後の5年間、象牙の密輸が減少していたことが明らかになりました。
WWFとトラフィックは、ETISとMIKEの管理・運営を支援しながら、今後も取引が密猟の増加につながらないよう、監視を続けてゆくことにしています。


難民問題と密猟:トラフィックが報告書を発表(2008年1月22日)

野生生物の取引を調査するトラフィック・ネットワークは、新しい報告書『闇夜の食料(Night Time Spinach)』の中で、東アフリカの難民キャンプで起きている、深刻な食肉の不足と、野生動物の違法な採取、取引について明らかにしました。これによると、1990年代半ばに、2つの難民キャンプでは、毎週推定で約7.5トンの野生生物の肉が、違法に採取され、食べられていたことが分かりました。

難民キャンプで大量消費される野生動物

1961年の独立直後から、難民問題に直面しつづけてきたタンザニア。この国には、1990年代半ばまでに、周辺国から80万人を超える難民が流入しました。故国へ帰還した人たちもいますが、現在もおよそ54万8,000人という、アフリカで最も多くの難民が、各地の難民キャンプに残っています。
特に、北西部のカゲラとキゴマの難民キャンプは、世界でもっとも過密状態にある難民キャンプであるといわれています。

IUCN(国際自然保護連合)とWWFの共同事業として設立され、野生生物の取引を調査・監視しているトラフィック・ネットワークは、新しく発表した報告書『Night Time Spinach(闇夜の食糧)』において、カゲラとキゴマの2つの難民キャンプで行なった調査の結果を公表しました。

報告によると、2つの難民キャンプでは、1990年代半ばに、毎週推定で約7.5トンの野生生物の肉が、違法に採取され、食べられていたことが分かりました。この背景には、まずキャンプへの食肉の配給が不足していること、そして、野生動物の肉(ブッシュミート)が牛肉よりも安価で手に入るといった理由があります。

これらの違法に入手された野生生物の肉は、日が暮れてから調理され、「闇夜の食糧」として難民キャンプ内で配られています。そして、この大量の野生動物の消費は、難民キャンプが本当ならば、食肉の供給を必要としている事実と危機感を、覆い隠してしまう一因になっています。

報告書の執筆者の一人、ジョージ・ジャンビヤは言いいます「難民を救済する国際機関は、野生動物の密猟と違法取引を引き起こしている、真の理由に目を向けてほしいと思います。それは、難民キャンプでは、動物性タンパク質の配給が不足している、という問題です」。

野生動物と人の暮らしを守るためには?

タンザニアの例のみならず、大きな難民キャンプが作られると、しばしばその周辺の自然保護区が荒らされ、そこにすむ野生動物の数が劇的に減少するということがあります。家を逐われた人々が、燃料にするため樹木を伐採し、食料を得るため野生動物を捕獲するためです。
また、 内戦などが起きている場合は、そこに参加している兵士たちも、同様の行動をとります。

この結果、アフリカでは現在、チンパンジーのような希少種のほか、スイギュウやセーブルアンテロープ、カバなどの大型草食動物が、大きな影響を受けているとみられています。
IUCNの「レッドリスト」でも、サハラ砂漠以南では、大型野生動物の約2割の種が、肉として消費・取引されていることで数が減少していると指摘しています。

今回、トラフィックが発表した報告書では、自然保護団体と人道支援組織が協力して、難民の生活と自然保護を両立させる必要があると提言しています。
WWFの野生生物担当者であるスーザン・リーバーマンは、「 野生生物由来の食料に依存している難民の人々が、自然の喪失に対する大きな代償を支払う立場になろうとしている」と、アフリカの難民の現状を指摘。WWFとしても、すべての人に持続可能な未来がもたらされるように、食肉の供給を含めた、難民の「食糧安全保障」を確立するための支援を要請したいとしています。

▼レポートはこちらからダウンロードできます (英文・PDF形式)
"'Night Time Spinach': Conservation and livelihood implications of wild meat use in refugee situations in north western Tanzania" 
( 闇夜の食糧:タンザニア北西部の難民キャンプにおける自然保護と暮らし~野生生物の肉の利用の観点から)


共同記者発表資料 2008年1月22日

難民キャンプでの食肉不足が大規模な密猟を招いている

【ケンブリッジ(英国)およびグラン(スイス)発】 東アフ リカにおける難民キャンプ(KageraとKigoma)における食肉不足が大規模な肉の違法取引を招いており、野生生物にとって脅威となるとともに、同 地での食糧安全保障(food security)の問題を引き起こしている。これは、野生生物の取引をモニタリングする団体であるトラフィックの新しいレポートによって明らかになったことである。

 このレポートは、"'Night Time Spinach': Conservation and livelihood implications of wild meat use in refugee situations in north western Tanzania"(闇夜の食糧:タンザニア北西部の難民キャンプにおける自然保護と暮らし~野生生物の肉の利用の観点から)であるが、タンザニアの2つ の難民キャンプに関してケーススタディを行ったものである。これらは世界でもっとも難民がひしめきあっているキャンプであり、アフリカでは最大規模であ る。

 違法に入手された野生生物の肉は日が暮れてから調理され、「闇夜の食糧」として難民キャンプ内で配られる。
  「東アフリカの難民キャンプにおいて野生生物が大規模に消費されているため、国際社会が難民キャンプの必要とする基礎的な食肉量を供給できていないという 事実を覆い隠すかっこうになってしまっている」と同レポートの執筆者であるジョージ・ジャンビヤは言う。「難民を救済する機関は、密猟と違法取引の真の理 由に目を向けてほしい。難民キャンプにおける動物性タンパク質の配給不足という問題があることに」とも付け加える。

 大変な数の難民キャン プが生まれると、しばしば周囲の野生生物生息地の環境劣化につながり、野生生物が劇的に減少するという現象が起きる。たとえば、チンパンジーのような希少 種が肉への需要によって脅威にさらされる。バッファローやセーブルアンテロープやその他の草食動物もまた急激な個体数減少に見舞われる。

  1961年にタンザニアが独立して以来、20以上の大規模難民キャンプが野生動物保護区、国立公園などの保護区に近接して造られた。2005年の調査時点 でも、13のキャンプが存在していた。1990年代の半ば、2つの主要な難民キャンプで毎週7.5トン(推定値)の違法な野生生物の肉が消費されていた。 (注:難民キャンプに限らず、東部および南部アフリカでは、違法に入手された肉によって地域経済が支えられる構図があることが、研究者の論文に書かれてい る。Brown et al.,2007 Bushmeat and livelihoods:Wildlife Management and Poverty Reduction)

 トラフィックでは、難民キャンプは2重の問題を抱えているとしている。ひとつは、最小限の人道的支 援が必ずしも足りていないこと、もうひとつは肉への需要を満たそうとする難民自身の行動が適法になされていないということである。これと対比できるのはク ロアチア、スロベニア、セルビアにおける90年代初期に生まれた難民への人道的支援であり、コンビーフの適量の供給がな
されていた件である。

 「故郷から銃とともに逃げ出すことになった難民たちは、やがて野生生物保護官の取り締まりから逃れながら食料を求めて保護区で密猟をする...というのは何かが間違っている」とレポートの執筆者であるトラフィックのサイモン・ミレッジは言う。
  野生生物の肉は、地域の牛肉よりも安価であり、多くの難民たちにとって文化的にもより受け入れやすく(ブッシュミートのこと:後述)、かつ収入を得る機会 を難民たちに与えることになる。このことは、タンザニア政府の難民保護政策に反するもので、難民キャンプ内で自足すべきであるというポリシー(政策)を後 退させている。自然保護団体としては、カギを握るのは、法の執行を強化するだけではなく、合法的な肉の必要量を供給することにあると考えている。

  「野生生物由来の食料に依存している難民たちは、生物多様性の喪失に大きな代償を支払う人たちにもなってしまっているという悲しい現実がある」とWWFの 野生生物担当ディレクターであるスーザン・リーバーマンは言う。「動物性タンパク質の供給を含む、難民への"食糧安全保障"と言うべきものを与えるべく、 人道支援機関は動いてほしいとWWFは要請したい。すべての人にとって持続的な未来がもたらされることを願って」

 「IUCNのレッドリス トによると、サハラ砂漠以南(サブサハラ)の野生生物の多くが危機にさらされている。20%の野生生物種がブッシュミート取引(bush meat trade 野生生物肉の取引)のために個体数を減らしている」とIUCNの野生生物保護プログラムの責任者であるジェイン・スマートは言う。「野生生物がいなくなれ ば収入を得る機会を失うことになりかねない。なぜなら、ある地域から野生生物がいなくなると、その地域を訪れようという興味を抱く人が減ってしまうから だ。そうなると、地域住民は、生き物がいなくなったことを嘆くばかりでなく、経済的な負の影響にも直面することになる」

 野生生物を保護す る機関と人道支援機関は協力関係を築いているが、"森林消失"のような難民キャンプに起因するほかの環境問題をクローズアップさせる成果をあげてきた。今 回のレポートでは、野生動物保護を巡って、十分な食肉供給という観点から、両機関がさらに密接な協力関係を築くことを提言している。

NOTES:

1990 年代半ばにタンザニアへ80万人を超える難民が流入した。カゲラ(Kagera)には1994年に、キゴマ(Kigoma)には1996年に大量に流入し た。故国へ帰還した人たちもいるが、タンザニアにはいまだにアフリカでもっとも多くの難民がいて、その数およそ54万8,000人である。多くはブルンジ とコンゴ民主共和国からの難民である。そのうち、正式に設営された難民キャンプにいる人たちの割合は3分の2である。(UNCHR国連難民高等弁務官事務 所2007年調べ)

トラフィックについて

※ トラフィックは、野生生物の取引をモニタリングする世界最大のNGOです。ワシントン条約発効を受けて1976年に設立されました。IUCN(国際自然保 護連合)とWWFの共同事業として、世界22カ国に拠点を構えています。ワシントン条約事務局やIUCN、WWF、その他多くの団体と連携しながら、取引 によって野生生物の存続がおびやかされないような社会ができることを目指して活動しています。

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