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黄海のアサリ漁業がMSC漁業認証を取得!

この記事のポイント
東アジア屈指の渡り鳥の飛来地として知られ、干潟をはじめとした豊かな沿岸の生態系を有する、黄海。WWFは2002年より、この貴重な黄海沿岸域の生物多様性を守る保全活動に取り組んできました。2016年からは、持続可能な漁業の国際認証であるMSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)漁業認証規格にもとづき、アサリ漁業改善プロジェクトを約3年間にわたり実施。新型コロナウイルスの影響を大きく受けながらも、この度2021年9月21日に、アサリ漁業がMSC漁業認証の取得を果たしました。
目次

黄海の豊かな自然

中国大陸と朝鮮半島に囲まれ、高い生物多様性を有する黄海。

鯨類などの海棲哺乳類をはじめ、300種以上の魚類や、貝類を含む100種以上の軟体動物など、多様な生物が生息し豊かな生態系をつくっています。

沿岸地域では、鴨緑江、黄河、長江などの大規模な河川からの流入する砂泥などの堆積物が、約20,000km2にもなる広大な干潟を形成。


この広大な干潟群は、世界に9つある渡り鳥の移動ルート(フライウェイ)の一つ「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」にも含まれ、シギやチドリをはじめとした多くの渡り鳥が休息や採食のために訪れる、重要な中継地となっています。

特に、沿岸域の中でも重要な渡り鳥の飛来地の一つでWWFも保全に取り組んでいるナンプ湿地(河北省)では、毎年春に10万羽近い水鳥が飛来し、これまでに100種以上の水鳥が確認されています。

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無数の水鳥が舞うナンプ湿地

さらに黄海は、水産物の産地として人間にとっても重要な場所です。

比較的安価で重要な栄養源である貝類は特に多く生産されており、その中でもアサリは、中国国内での消費のみならず日本にも輸出されています。

日本のアサリ供給量のうち、実に6割にあたる量が中国からの輸入によるものであり、アサリの主要生産地である黄海沿岸の豊かな自然によって日本人の食が支えられているのです。

日本のアサリ供給量(2019年)(財務省「貿易統計」、FAO「Fish stat」より作成)

失われゆく自然

豊かな自然を有する黄海ですが、過去数十年間にわたり、その環境が大きく変化しています。

特に沿岸の干潟は、1950年代から2000年代にかけてその多くが失われ、中国だけでも約70%が消失してしまいました。

広大な沿岸の埋め立てをともなう開発が、急速に進んできたことが主な原因です。

それにより、干潟に生息する底生生物やそれを捕食する渡り鳥をはじめ、野生生物の生命を脅かす大きな問題となっています。

黄海沿岸域における干潟面積の変化(Nicolas et a. 2014

また、過剰漁獲も深刻な問題となっています。

日本が輸入しているアサリについても、中国国内の消費が拡大していることもあり生産量が増大。

近年では年間生産量が400万トン前後にのぼっています。

こうしたことにより、アサリの資源や生産現場の自然環境への影響が懸念されてきました。

中国のアサリ生産量の推移(FAO「Fish stat」より作成)

これまでの黄海保全の取り組み

WWFでは、世界的にも貴重な黄海沿岸域の自然環境を守るため、2002年より保全活動を開始しました。

まず取り組んだのが、「黄海エコリージョン優先保全地域マップ」の作成です。

渡り鳥や海生哺乳類、代表的な魚類、海藻類など、主要な野生生物にとって重要な生息地の調査を行ない、黄海沿岸域で特に保全価値の高い23か所の地域を特定しました。

黄海エコリージョン優先保全地域マップ

これに引き続き2007年からは、パナソニック株式会社の支援を受け、優先保全地域で生息地保全活動や普及啓発活動に取り組む団体を支援し保全を促進。

さらに、中国と韓国でそれぞれ生態系ベース管理と地域振興型管理をもとにしたモデル地区での活動を展開し、湿地保全活動の優良事例の確立に取り組みました。

特に中国のモデル地区では、遼寧省の鴨緑江河口域での渡り鳥・沿岸漁業・底生生物の生態学的なつながりの調査を実施。

その結果をもとに、生物多様性の保全や持続可能な水産業の推進に関する内容を提言書としてまとめ、地域の行政府に提出しました。

鴨緑江河口域の干潟での生物調査。これらの取り組みは、パナソニック株式会社の支援(2007年~2015年)により行なわれました。

こうした活動も踏まえ2016年からは、アサリの主要な生産地であり渡り鳥の重要な中継地でもあるこの鴨緑江河口域で、アサリの漁業改善プロジェクトを開始。

漁業改善プロジェクトは、持続可能な漁業であることを示す国際認証である、MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証制度の漁業認証規格を満たすことをゴールに設定し、段階的に漁業の改善を進めていくプロジェクトです。

中国遼寧省東港市の水産加工会社である丹東泰宏食品有限公司、同社からアサリを調達する株式会社ニチレイフレッシュ、WWF中国、WWFジャパンの4者が協力し、アサリ漁業でこのゴールを達成することを目指し、プロジェクトに取り組みました。

© 2014 Mapabc.comData SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA, GEBCOImage Landsat© 2014 ZENRIN

アサリ漁業改善プロジェクトの対象地域

アサリの漁業改善プロジェクト

MSC漁業認証規格は、主に下記の3つの視点をふまえ、構成されています。

  1. 資源の持続可能性
  2. 漁業が生態系に与える影響
  3. 漁業の管理システム

アサリの漁業改善プロジェクトでは、これらの原則にもとづき、予備審査を行なった結果をふまえて、洗い出された課題の解決に取り組みました。

しかし、MSC漁業認証規格を理解し改善の作業を進めていくことは容易ではなく、プロジェクト開始当初は作業が順調に進まない時期もありました。

そのため関係者と定期的な議論の場を設け、作業の進捗や必要な作業に関する話し合いとともに、規格の内容や持続可能な漁業に関する理解を深めました。

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プロジェクト関係者との会議。中国ではMSC漁業認証のような漁業の国際認証の取得例が少なく、理解や実際の漁業の改善には多くの時間と関係者の協力が必要とされました。

定期的な話し合いの機会は、改善の作業が進むきっかけになっただけでなく、プロジェクト関係者の関係構築にもつながりました。

特に、遼寧省東港市の漁業局、大連海洋大学、遼寧省海洋漁業科学院(LOFSRI)、中国水産加工流通協会(CAPPMA)、MSC中国事務所などの幅広い関係者が連携し、持続可能なアサリの生産に向けた協働体制が確立されたことは、プロジェクトの大きな成果です。

こうした関係者との約3年間にわたる密な取り組みの結果、2020年1月にアサリ漁業のMSC本審査入りに至りました。

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プロジェクトの関係者

MSC漁業認証取得の意義と持続可能な水産物拡大の重要性

MSC漁業認証取得の意義

新型コロナウイルスの影響を受け審査スケジュールが大幅に遅延しましたが、2021年9月21日、ついにアサリ漁業がMSC漁業認証の取得を果たしました。

今回のMSC漁業認証の取得は、漁場から加工、商品までをつなぐ中国と日本のサプライチェーン上の関係者の協働により、中国で漁業改善プロジェクトを通じて実現した、初めての事例です。

これにより、海の環境に配慮した持続可能なアサリが日本にもやってくることになります。

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漁獲されたアサリ

この漁業改善プロジェクトを通じたMSC漁業認証の取得は、混獲(漁獲対象でない野生生物の漁獲)や生息地の調査により漁業が生態系に影響を与える可能性を明らかにし、漁業管理計画の議論や業界団体の設立を通じて中長期的な適切な管理を促進するなど、黄海沿岸域の豊かな自然環境の保全に大きくつながりました。

現状アサリ漁業が生態系に与える影響は小さいことが確認されましたが、一方で懸念も残っています。

特に近年の中国でのアサリの生産拡大については、この状況が続けば、黄海の自然が本来持っている生産力を超えて環境負荷がかかり、将来的に渡り鳥の飛来地を含む沿岸の自然環境に影響を与える可能性があります。

つまり、いま持続可能であるというだけでなく、将来にわたってそれを維持または向上させていくことが、非常に重要であるということです。

その意味において、今回漁業改善プロジェクトとMSC本審査を通じ、現在のアサリ漁業の持続可能性を確保できたのみならず、今後に向けてさらに改善が必要な課題が示されことも、黄海沿岸域の保全を進めるうえでの重要な成果となりました。

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アサリ漁船。漁獲方法や量などを、持続可能な形に転換していくことは、環境を長期的に守っていくための重要なカギとなります。

持続可能な水産物拡大の重要性

水産物の持続可能な生産と消費は世界的な課題となっており、欧米を中心にMSC漁業認証を取得する漁業が増加する一方、中国を含むアジア地域ではまだまだ十分に進んでいるとは言えない状況が続いています。

特に開発途上国では、現地の漁業者や加工会社だけではMSC漁業認証の取得やそのための改善を進めることが困難なことが多く、水産物を調達するサプライチェーン上の企業の関与が重要となります。

こうした取り組みは、「持続可能な開発目標(SDGs)」を通じるものであり、持続可能な未来を築くためにも欠かせません。

多様な関係者の協働により、漁業改善プロジェクトを通じて持続可能な漁業を実現していくことは、SDGsの目標「14 海の豊かさを守ろう」をはじめ、「12 つくる責任 つかう責任」や、「17 パートナーシップで目標を達成しよう」にも貢献します。

今後このアサリ漁業のような取り組みが、黄海沿岸の他の地域や漁業、さらには他国にも同様の取り組みが広がっていくことが期待されます。

WWFは引き続き、生産現場での活動を含め、水産物の持続可能な生産と消費の拡大を推進していきます。

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