©Vladimir Filonov / WWF

トラの森を守る「持続可能な木材生産」に向けた覚書を締結

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世界の森林面積の約20%を占めるロシア。中でも北海道の対岸に位置する極東ロシアの沿海地方とハバロフスク地方には、絶滅が心配されているシベリアトラをはじめ、多くの野生生物のすむ森が今も残されています。この地域から木材を輸入する日本が、現地の森の破壊に加担することがないよう、WWFロシアは、2020年5月に、極東ロシア最大手の木材企業Russia Forest Productsグループと、「保護価値の高い森林」を守るための覚書を締結しました。保全対象となる地域では、産業伐採や林道の建設などが一切禁止されることになります。

極東ロシアの森の王者、シベリアトラ

アジアの自然の生態系の頂点に立つ肉食獣、トラ。
トラは、長年にわたる密猟と生息環境の破壊によりIUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」で、絶滅危惧種(EN)に指定されている野生動物です。

このトラの亜種で最大の体躯を持つのが、極東ロシアの沿海地方やハバロフスク地方の森にすむシベリアトラ(アムールトラ)。

一時は200頭以下といわれるほど、個体数が減少しましたが、近年の調査では、さまざまな保護活動の成果により推定600頭に回復したことが確認されました。

しかし、このトラの生息地である極東ロシアの森では、今も大規模な商業伐採や森林火災による森林減少が続いています。

現場では、違法な伐採も横行しており、伐採前に十分な事前調査が行なわれないまま、保全すべき森が伐採されてしまうといった問題も発生。

そこでWWFは沿海地方の森林局の担当官や警察機関の職員らを対象に、ドローンを使用した違法伐採の取り締まり強化手段の紹介や、大手の林業事業者と協力した伐採地での環境調査などを実施。

また、極東ロシアの森で生産される木材が日本にも輸入され、消費されていることから、WWFジャパンはWWFロシアと協力し、これらの保全活動への支援に取り組んできました。

2020年現在、シベリアトラの推定個体数は600頭ですが、20世紀初頭には約2,000頭が生息し、分布域は今よりもはるかに広大だったと考えられています。

©WWF Russia

極東ロシアにおける違法伐採の現場。

©WWFJapan/WWF Russia

違法伐採について現場に足を運ぶWWFジャパン職員。

©WWFJapan/WWF Russia

ドローンを駆使した違法伐採検知トレーニング。

RFP社との共同調査

こうした取り組みの一環として、2011年からWWFロシアは、日本へ木材を輸出している大手林業企業のRussia Forest Products(RFP)社と共に、同社が操業する伐採地の調査を開始しました。

これは、RFP社が伐採権を持つ、約450万ヘクタールの森林の中で、「保護価値の高い森林(High Conservation Value Forest)」を特定する、という取り組みです。

「保護価値の高い森林」は、生態系を維持する上で、また、現地の人々の権利や文化に配慮する上で重要な意味をもつ場所。

こうした場所での開発行為を避けることができれば、生態系の保全と持続可能な木材生産を両立することが可能となります。

©Brian Milakovsky / WWF Russia

RFP 社の管理する伐採地に残されている「保護価値の高い森林」

このRFP社が伐採権を保有する森は、北海道の半分以上の面積に相当します。

そしてWWFとの共同調査では、その中にトラをはじめとする希少な野生生物のすみかや、亜高山帯の広葉樹林、また泥炭湿地林など、多様な景観や植生が存在していることが明らかになりました。

これらを保全することは、極東ロシアの森林生態系を維持していく上で、大きな意味を持ちます。

©WWF Russia

保全すべき地域を特定した地図はインターネット上に公開され、世界中からアクセス・閲覧可能。

RFP社とWWFHCV保全の覚書を締結

「保護価値の高い森林」を区分するための調査結果により、ハバロフスク地方の20カ所で、合計11万ヘクタールの森林が、保全の対象として特定されました。

そして、WWFロシアとRFP社は2020年5月14日、「保護価値の高い森林」を保全していくことを約束した覚書を締結。

該当する地域の森では、産業伐採や林道の造設を行なわず、森林生態系の維持と保全を目指していくことなどが取り決められました。

この覚書が締結されるまでの日々を、WWFロシアのアムール事務所で持続可能な森林管理部門の部長を務める、イブゲニー・チュバソフは、次のように振り返ります。

「WWFがRFP社との契約締結に至るまで、たくさんの科学者の協力を得ながらフィールド調査とデータ収集をすすめ、精緻な分析を行ない、保全対象となる地域を、一つひとつ特定してきました。

2011年に最初のフィールド調査が実施されてから実に9年間という長い月日が経った今、これまでの活動がついに実を結んだことを感慨深く受け止めています」

極東ロシアから日本に運ばれる針葉樹

極東ロシアの森で産出される木材は、針葉樹合板の原材料として日本でも使用されています。

合板の原材料といえば、マレーシアやインドネシアなど熱帯産の南洋材を連想される方も多いかもしれません。実際、1960年代以降、日本は南洋材の最大の輸入国でした。

しかし、南洋材の大量消費は、熱帯林破壊の原因になっているとして、国際的な批判の声が強く向けられるようになりました。

2017年にも、新国立競技場の建設において使用されたマレーシア産の型枠用合板(建築時にコンクリートを流し込む型枠として使用される合板)をめぐり、熱帯林破壊や原産地の先住民への配慮の欠如といった問題が指摘されています。

こうした背景から、近年では、南洋材合板の代替として、カラマツなどの針葉樹を原料とした合板の需要が増加。

そのため、針葉樹合板においても、合法性や、生産・加工過程における持続可能性の担保が求められています。

©双日建材株式会社

日本の鉄筋コンクリート造の建築に用いられるRFP社の針葉樹と国産カラマツを使用した型枠用合板(登録商標:ドルフィンコート)。緑色の塗装には、建築現場において一般的な南洋材塗装型枠合板(黄色)との区別を容易にする目的もある。

日本でも需要が増えている、こうした針葉樹合板の産地の一つが、極東ロシアの森です。
そこで大規模に操業するRFP社が、「保護価値の高い森林」を守るコミットメントを表明した背景には、持続可能な木材を要求する日本企業からのはたらきかけが欠かせませんでした。

こうした取り組みをさらに進めていくためには、政府や、RFP社の木材を購入する企業や、日本で輸入業務にかかわる流通業者の理解と協力が重要です。

WWFジャパンではこれからも、日本とロシアで進められている持続可能な木材の利用を推し進め、極東ロシアの豊かな森と、シベリアトラをはじめとする多様な野生生物の保全に取り組んでいきます。

地球から、森がなくなってしまう前に

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今日、森林破壊を止めるためにできること

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