日本におけるインターネットでの象牙取引、最新報告書発表


2017年8月8日、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるトラフィックは、日本の主要eコマースサイトでの象牙取引を調査した報告書を発表しました。調査の結果、オンライン店舗のほか、ネットオークションや個人向けフリマサイトでも活発な取引が行なわれる中、現状の規制に大きな課題があることが明らかになりました。今回の調査で、これまで不明瞭だった、特にインターネットを通じた象牙取引の一端が明らかになったことから、WWFジャパンは日本政府にはあらためて、違法取引を許さない包括的な規制措置を求めます。

変化する象牙をめぐる取引の現状

過去10年で急増したアフリカゾウの密猟と象牙の違法取引。現在、その犠牲になっている野生のアフリカゾウは、年に2万頭にものぼるといわれています。

地域紛争や他の国際犯罪とも深く関係している、この違法な象牙取引の問題に歯止めをかけるため、2016年に開催されたワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)第17回締約国会議(CoP17)では、密猟や違法取引の一因になっている国内市場を緊急に閉鎖するよう、関係各国に対し、異例の勧告がなされました。

こうした国際的な流れを受け、これまでに、中国やアメリカ、香港といった主要国・地域が、国内での象牙販売を原則禁止することを公に宣言し、実行に移しています。

日本も国内に合法的な象牙の市場を持つ国ですが、輸入が禁止になる以前から国内にあった象牙の在庫などが多く存在し、日本への密輸例も2007年以降は少なかったことから、近年は、アフリカゾウの密猟に直接関係している可能性は低いと考えられてきました。

野生のアフリカゾウ

また、日本の象牙産業自体が、ワシントン条約で象牙の国際取引が禁止された1989年と比べて、およそ10分の1にまで縮小しています。

しかし一方で、2012年頃より、日本国内から中国など海外市場に向けた象牙の「違法輸出」が発覚。大規模な押収も起きていることから、問題のある海外の市場を活性化させる一因となっている可能性が指摘されるようになりました。

これは同時に、日本国内の象牙管理体制の不備と国内取引の実態把握、そして包括的な規制を緊急に行なう必要性を示すものでもあります。

多様で活発な日本のオンライン象牙取引

日本国内での象牙取引において、特に近年状況が大きく変化しているのは、インターネットを使った取引です。

象牙に限らず、このインターネット上での違法取引は、世界全体で年々拡大。
野生生物のサイバー犯罪(wildlife cybercrime)とも呼ばれ、国際的にも重要な課題のひとつとして認識されていますが、日本ではその現状がまだほとんど明らかにされてきませんでした。

そこで、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるトラフィックでは、2014年、初めて日本のインターネット上での象牙取引を調査。

今回、国内の主要なeコマースサイトを対象に、さらにその内容を刷新、拡充した調査を実施しました。
調査対象は下記の3つで、それぞれでの取引と法遵守状況、さらに、多様な取引形態における国内法の規制の有無を調べたものです。

  1. サイバーモール
  2. ネットオークション
  3. CtoCマーケット(フリマ)

サイバーモールでは、象牙製品を扱う店舗のうち、印章(ハンコ)を販売する店舗がおよそ70%を占めていました。

一方、オークションサイトの出品広告では、彫刻や根付といった調度品に続き、装身具(ネックレスやブローチ、イヤリングなどのアクセサリー)の割合が多く、象牙製品の広告上位100件の63%を占めました。

また、2012年頃のサービスが開始から利用者が急増しているCtoCマーケット(フリマ)サイトでは、装身具が、出品されている象牙製品の上位100件のうち70%を占めました。

象牙

象牙の印章(ハンコ)

象牙のネックレス

図1:日本の主要なeコマースサイトで広告されていた象牙製品の種類(※楽天市場では2017年7月1日から象牙製品の販売が禁止されています)

こうしたネット上での取引に使われている象牙製品が全て、密猟や密輸による違法なものというわけではありません。

日本国内には、日本が世界最大の象牙消費国であった1980年代までに国内で作られた、もしくは輸入された象牙製品が今も多く存在します。

それが、インターネットやスマホの普及により、事業者や個人間で気軽に取引できるようになったものと考えられており、また、ハンコの原料も多くが、過去に二度、日本が限定的に輸入した、密猟によらない象牙の在庫でまかなわれているとみられます。

しかし、今回の調査では、こうした由来の製品に、「違法なものが紛れ込んでも区別できない」という課題が改めて示され、実際に違法と分かる製品が販売されていることも明らかになりました。

「個人取引」という規制の抜け穴

今回の調査結果から、WWFジャパンとトラフィックが、最も重要な問題と見ているのは、現在、日本の国内法で取引が規制されていない、「個人による」活発な象牙の売買です。

日本では「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」により、象牙を扱う「事業者」に対しては、届出(2017年6月の改正法により登録に変更)の義務付けや、アクセサリーやハンコなどに加工されていない「全形象牙」の取引規制が設けられています。

これらはいずれも不十分ながら、違法に日本に持ち込まれた象牙が、国内で流通しないよう、歯止めをかけるためのものです。

しかし、「個人」間で行なわれる、アクセサリーなどの譲渡や取引については、こうした規制やルールが、日本では現状、何も設けられていません。

図2:ヤフオクで4週間のモニタリング期間に落札された象牙製品価格の集計

これまで、そうした事例があったとしても、人同士の間での直接的なやり取りの機会は、そう多くはありませんでした。

しかし、これが今では、オンラインでのフリマやオークションで機会が爆発的に増えたため、大きな問題となり、同時に法整備が追い付かない事態を招くことになったのです。

事実、日本最大のフリマサイト、メルカリでは、「個人」が、ワシントン条約に違反して海外から日本に持ち込んだ、象牙のアクセサリーの商品広告をサイト内で掲出している例が数件、確認されました。

これらは、東南アジアのタイや、アフリカ中部のコンゴといった、アフリカゾウの密猟や違法取引の大きな問題を抱える海外で、近年購入されたものです。

こうした個人による象牙の違法な持ち込みが、実際にどれくらいの頻度で行なわれているのかは分かっておらず、調べるのも容易ではありません。

しかし、その規模がどうあれ、ネットオークションやフリマサイトで、個人による象牙の取引が活発に行なわれていること、そして、このように問題のある海外の象牙製品が紛れ込むリスクを防げていない、現在の法規制の抜け穴は、最大の問題といえます。

eコマース企業の取り組みの成果と課題

今回の調査では、インターネット上での象牙取引の現状だけでなく、こうしたサイトを運営しているeコマース企業の対策と、法律の順守状況についても、確認を行ないました。

こうした企業は、前回2014年の調査以降、WWFとトラフィックが対応の改善を求めてきた対象でもあります。

その結果、各eコマース企業による取り組みによって、出店店舗や出品者の法遵守状況の一部改善が認められました。

象牙を扱う業者は現在、政府に届出を行なうことになっていますが、2014年の時点では、楽天市場とヤフオクを利用している象牙取り扱い業者で、この届出を行なっているのは半数前後にとどまっていました。

それが今回の調査では、各eコマース企業の周知により、新たに調べたヤフーショッピングも含めて88%~100%が届出を出していることを確認。

図3:eコマースサイトでの事業者届出状況を2014年と2017年で比較

事業者番号を掲示している割合も、2014年にはわずか11~22%だったのが、85%以上となり、大幅な改善が認められました。事業者番号の掲示は2017年6月の「種の保存法」の改正により、施行開始後は義務化されるため、この動きは一層進むことが期待されます。

また、調査対象としたeコマース各社では、「種の保存法」で取引が規制されている全形象牙については、登録票の伴わない違法出品をパトロールする取り組みも実施しています。

こうした改善の一方で、任意の製品認定制度に関しては、ウェブサイト上での未使用率が80%以上と、2014年から変化のない状態であることが分かりました。

「種の保存法」により設定されている、この象牙製品認定制度とは、希望する業者に対し、販売製品が適法に輸入された象牙から製造されたものであることを政府が認証する、「トレーサビリティー」を確立する手段です。

しかし、インターネットを介した象牙製品の取引については、この制度の利用状況は依然として低いままです。

さらに、今回の調査では、ネットオークションやCtoCサイトで、事業者が個人を装うなどして、実態を明かさずに取引をおこなう「隠れビジネス」が、無視できない割合で存在するという問題も明らかになりました。

ヤフー株式会社では、ヤフオクにおける隠れビジネスの取り締まり強化の取り組みをすでに開始していますが、こうした事業者の把握と届出は、eコマース業界全体に求められる急務というべき対策です。

しかし、各eコマース企業の法律の順守に向けた自主的な行動には大きな効果が期待できるものの、法規制に大きな抜け穴がある限り、いくら法を守っても、違法な取引を排除することはできません。

2017年11月にはワシントン条約の常設委員会が開催されます。ここでも、象牙は注目される話題となります。

市場規模が格段に小さくなったとはいえ、今も象牙の国内取引を続ける日本は、国内市場を厳格に管理する大きな責任を負っていることを、今一度認識しなければなりません。

そのうえで、自国の国内市場が、密猟や違法取引に寄与しないことを確実にするため、国内取引のすべてを網羅する厳格な規制措置を早期に実現する必要があります。

WWFジャパンとトラフィックは、今回の調査の結果をふまえ、日本政府に対し、早急な規制と対策の導入・実施を、あらためて求めることにしています。

また同時に、eコマース企業に対しても、法制度の改善を待たずに、取引停止の措置を含めた、より厳しい対応の必要を訴えてゆきます。

今回の調査は、インターネット上の象牙取引にフォーカスしたものですが、トラフィックでは引き続き、日本の国内市場の問題を明らかにするための調査を実施し、必要とされる抜本的対策を日本政府と関係者に求めてゆきます。

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