石垣市スーパーシティ構想(石垣空港拠点)に対する要請書


内閣府特命担当大臣(地方創生) 坂本 哲志 殿
石垣市長 中山 義隆 殿

(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
会長  末吉 竹二郎

拝啓 時下、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

琉球列島を含む南西諸島は、南北に広く分布する島々のそれぞれの島の成り立ちや環境条件から、サンゴ礁や干潟、亜熱帯性の森林やマングローブ林という複雑な地形・環境を有し、そこに暮らす生物たちの固有性や多様性は世界でも類を見ない希少なものとなっています。WWFでも2003年に定めた世界の守るべき自然の優先地域「Global 200」の一つに南西諸島を設定し、また南西諸島の一部がUNESCOの世界自然遺産に登録されることとなるなど、世界的にもその自然環境の豊かさが評価されています。
特に、新石垣空港「南ぬ島石垣空港」周辺の地域・海域は、空港建設にあたっても生物多様性への配慮がなされ長年にわたる不断の取り組みにより希少な野生動植物が保全されてきた地域であり、また西表石垣国立公園区域に隣接し、現在でも周辺沿岸でのウミガメ類の上陸・産卵や、希少な両生・爬虫類の生息、鳥類・コウモリ類による利用などが見られる希少な自然環境を残す場所です。
「石垣市スーパーシティ構想(以下、本構想)」には、南ぬ島石垣空港周辺の土地開発と利用を行う計画が含まれ、これらの行為によって周辺の自然環境・生物多様性が不可逆的に失われることが懸念されます。
また、沖縄では地域の自然環境を基盤として生活や文化が育まれ、これは石垣島においても同様です。こうした人間活動による自然資源の利用のあり方や文化の保全も、日本における自然環境保全の重要な一部であると認識しています。本構想で想定されている大規模な開発・利用が、地域住民の生活・風習・文化への負の影響を及ぼさないため、また軋轢の原因とならないための施策が必要となります。
WWFジャパンは2021年6月4日に「南西諸島のサンゴ礁生態系の開発と利用に関するポジション」※1を公開しました 。同ポジションに基づき、WWFジャパンは本構想の検討に際し、下記の点を要望します。
世界的にも貴重な南西諸島の自然環境を後世に残し、地域住民による自然環境とともにある暮らしを守るため、以下の要請事項につき、なにとぞご高配の程、宜しくお願いいたします。

敬具

1. 内閣府は同構想の開発予定地にはHCV(High Conservation Value:高い保護価値)が存在することを認識した上で採択の可否を判断すること。
石垣市は、同構想が採択された場合には事業予定地でのHCVの特定を行い、事業の可否を改めて検討すること。事業を実施する場合は、HCVの保全策の策定・実施を行うこと。

(ア) HCVアセスメントの実施
WWFは以下の表に示す事柄をHCVとして捉え、これらの維持または向上が行われることを求めます。そのため、これらの「高い保護価値」の特定について、事業主体である石垣市が本構想の具体的計画策定より事前に調査を行うことを求めます。なお、HCV保全に係る調査は、一般的に環境アセスメントなどの法的要求事項を越えた内容を含みます。

HCVの分類と定義

HCV 1~3に関して、南ぬ島石垣空港の周辺では、多種の鳥類やコウモリ類、両生・爬虫類、淡水魚類、昆虫、その他の底生生物等の希少な陸上動物、沿岸部を上陸・産卵地として利用するウミガメ類(アオウミガメ、アカウミガメ、タイマイの3種でいずれもIUCNレッドリスト記載種)、多様な野生の陸上植物、また海洋部にはサンゴの生息が確認されるなど、陸域・海域双方が希少な生態系を有する地域と考えられます。なお、沖縄県が主催した「新石垣空港事後調査委員会」による報告では、国定特別天然記念物であるカンムリワシや、国定天然記念物であるセマルハコガメ、オカヤドカリ類、キシノウエトカゲ、石垣市自然環境保全条例で保全種として指定されているヤエヤマイシガメやツルラン、バイケイランといった希少な動植物種の生息が確認されております。

本構想に基づく開発・利用によってこれらの生物多様性が損なわれないよう、生物科学の専門家や地域の関係団体と共に科学的調査を実施することが必要です。なお、新石垣空港事後調査委員会による調査・研究がここでの科学的調査の基礎になるものと考えます。

HCV 4~5に関して、特に周辺の海域・沿岸域は漁業者や観光事業者を中心として地域住民が利用する海域に含まれると考えられます。本構想に基づく開発・利用によってこれらの住民による利用や、生態系サービスの恩恵が得られなくなることが無いよう、関係する地域住民、関連団体に対するヒアリングなどの社会的な調査を行い、守るべき価値の特定をする必要があります。

HCV 6に関して、開発予定の地域に加え、同開発によって間接的に影響を受ける可能性のある地域の文化的な価値が損なわれないよう、関係する地域住民、関連団体に対するヒアリングなどの社会的な調査を行い、守るべき価値の特定をする必要があります。

(イ) HCVアセスメントに基づく、HCV保全策の考案と実施
事業を実施する場合、上記1.(ア)で特定をしたHCVについて、維持・向上のための保全策の考案と実施を求めます。保全策の中には、長期的なモニタリングに関する計画や課題が発生した際の共有と解決のための仕組みを盛り込む必要があり、モニタリングは国または石垣市が契約する独立した第三者機関が継続的に行うことを求めます。


2. 内閣府は石垣市が現在までのところ地域の関係者に対して事前の計画説明や合意形成のための措置をとっていないことを認識した上で採択の可否を行うこと。
石垣市は事業主体として、同構想が採択された場合には、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(Free, Prior and Informed Consent:FPIC)の原則」に基づき、意思決定に関わるべき権利保有者を特定し、プロジェクト実施決定の事前に協議を行い、本構想に関し十分な情報を提供した上で合意形成を行うこと。

(ア) 意思決定に関わる権利保有者の特定
意思決定に関わる権利保有者は、本構想に直接関与する企業・団体だけでなく、関係する公民館などの地域社会を代表する組織や、その他計画によって影響を受ける利害関係者を含み、かつ、法的な権利保有者に限りません。また、本構想が実施された場合に影響を受ける自然や社会に関する研究を行ってきた専門家、地域で自然環境保全や社会環境改善などに取り組む関係団体についても特定を行い、本構想の検討・議論への参加を認め、促す必要があります。
上記1.で求めるアセスメントと保全策の検討より事前に上記の特定を行い、アセスメントと保全策の検討に自由に参加出来ることを十分事前に周知することを求めます。

(イ) 事前の十分な協議、合意形成
石垣市は現在までのところ、建設予定地の白保地区の自治組織として石垣市が認める「認可地縁団体」である白保公民館をはじめとした地域の関係者に対して、同構想についての事前の計画説明、合意形成のための機会を設けていません。同構想の計画策定実施にあたっては、上記2.(ア)を通して定める意思決定に関わるべき権利保有者に対して早急に説明の機会を設ける必要があると考えます。その上で、上記1.で求めるアセスメントと保全策の検討を意思決定に関わる権利保有者と共に実施し合意を得ることを求めます。


3. 上記1.2.の実施にあたって、絶滅危惧種の生育・生息地や個人情報への配慮の上、スケジュール、実施者、実施方法、評価結果、検討内容等の情報開示と透明性を確保すること。


4. 本要請は主に同構想の石垣空港拠点についての要請であるが、石垣港拠点についても同様の配慮と慎重さを持って検討すること。

以上

※1南西諸島のサンゴ礁生態系の開発と利用に関するポジション

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