南西諸島のサンゴ礁生態系の開発と利用に関するポジション


1980年にIUCN(国際自然保護連合)およびUNEP(国連環境計画)とWWFが策定した「世界環境保全戦略」は、世界の自然環境の現状を調べた最初の報告であり、南西諸島は島嶼生態系として世界的に重要な地域として挙げられました。この報告によりWWFジャパンは、1980年より南西諸島特別事業として取り組み始め、それ以来一貫して地域の自然環境の現状調査と、その科学的知見に基づく保全策策定を国や自治体に促してきました。

南西諸島は、生物地理区の旧北区と東洋区の移行帯にあり、北方系・南方系の動植物相がみられます。黒潮暖流が育む海域は、300種以上の多様な造礁サンゴ類が確認されており、回遊性のクジラ類などの繁殖地として、あるいはウミガメ類などの生息地として重要な役割を担っているほか、淡水と海水が混じり合う河口や内湾には、マングローブ干潟が発達し、ロシア・アラスカ・オーストラリアを往復する渡り鳥の重要な中継地、繁殖地となっています。
森林生態系として、屋久島では亜熱帯の照葉樹林から冷温帯の針広混交林が広がっており、西表島、石垣島、沖縄島、奄美大島などでは、亜熱帯の照葉樹林がみられ、環境省やIUCNのレッドリストに掲載される多くの希少種の生息地となっています。

以上のように、南西諸島は日本国有数の生物多様性を誇る自然保護上非常に重要度の高い地域と言えます。また、その豊かな自然環境からは、多くの地域住民が多様な生態系サービスを享受しており、自然環境が経済・社会の基盤ともなっています。
こうしたことから、南西諸島のサンゴ礁海域および連続性のある陸域の生態系における開発行為を含む土地・沿岸・海域の持続可能な利用は、生物多様性基本法を含む法令順守に加えて以下の原則を満たすべきと考えます。

1.サンゴ礁生態系を劣化させないこと
2.海域およびサンゴ礁生態系につながる陸域のHCV(High Conservation Value: 高い保護価値)が維持またはより良くなること

海域およびサンゴ礁生態系につながる陸域のHCV(High Conservation Value: 高い保護価値)

3. HCVの特定およびその維持の方策が、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意(FPIC)に基づいていること

HCVの特定およびその維持の方策の実施にあたっては、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent:FPIC)の原則に基づき、意思決定に関わるべき権利保有者の特定と事前の十分な協議、合意形成を行う必要があります。また、既に特定されているHCVが存在する場合は、その維持または向上の方策を含むことが求められます。
現在までのところ、FPICについて国際的に合意された定義はありませんが、平易かつ一般的な FPIC の説明は以下の通りです。
“意思決定に参加し、権利保有者に影響を与える活動に対し同意する、または修正、留保、ないしは撤回する権利。同意は自由意志のもとで与えられなければならず、当該活動の実施前にとりつけなければならない。また、当該活動ないしは決定に関係するすべての問題について理解した上でこの同意は形成されなければならない。ゆえに、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」と表現される。”

参考資料
生物多様性基本法では、生物の多様性は、地域の固有の財産であり、地域独自の文化の多様性をも支えるとした上で、以下の基本原則を掲げています。
1. 生物の多様性の保全は、健全で恵み豊かな自然の維持が生物の多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、野生生物の種の保存等が図られるとともに、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全されることを旨として行われなければならない。
2. 生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそれがあることを踏まえ、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用することを旨として行われなければならない。
3. 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法及び事業等の着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを旨として行われなければならない。
4. 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性から長期的かつ継続的に多くの利益がもたらされることにかんがみ、長期的な観点から生態系等の保全及び再生に努めることを旨として行われなければならない。
5. 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資するとの認識の下に行われなければならない

日本における高い保護価値(HCV) -実践ガイド―(草案)
https://jp.fsc.org/download-box.594.htm

FPIC 実施のための FSC ガイドライン(日本語訳)
https://jp.fsc.org/download-box.72.htm

WWFジャパン 生物多様性優先保全地域地図
南西諸島におけるHCVの特定に際しては、WWF発行の「南西諸島生物多様性評価プロジェクト報告書」も参考にして下さい。
https://www.wwf.or.jp/activities/data/Nansei_Is_BDreport.pdf

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