鹿児島県瀬戸内町西古見周辺海域の重要性と、大型クルーズ客船の寄港地  開発見直し、及び住民参加型の保全観光利用計画づくりに関する要望


国土交通大臣 石井啓一 殿
環境大臣 原田義昭 殿
鹿児島県知事 三反園訓 殿
瀬戸内町長  鎌田愛人 殿
奄美群島広域事務組合事務局長 信島賢誌 殿

(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
会長  末吉 竹二郎

背景
2019年2月2日に鹿児島県瀬戸内町で第3回「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」が開催され、同町西古見集落周辺での客船の寄港地開発計画が、米国の船会社ロイヤル・カリビアン・クルーズ社より説明されました。

WWFジャパンは、この寄港地開発(以下、本開発計画)が、周辺海域の自然環境に深刻な影響を及ぼす可能性があることを憂慮し、2019年2月15日、国土交通省、鹿児島県、瀬戸内町、ロイヤル・カリビアン・クルーズ社に対し、緊急声明を送付しました。
その後、瀬戸内町と直接面会し意見交換を通じて、地域の自然に配慮した持続可能な観光を目指す町の方針を確認しました。一方、西古見地区の住民の方々とも意見交換し、さらに2019年4月に寄港地開発予定地の周辺海域において緊急の環境調査と、自然環境の専門家に対し当該地の自然環境の重要性に関する情報収集を行ないました。

4月に行なったWWFの調査及び、その後の情報収集の結果、大型クルーズ客船が着岸する同じ湾内において、高い被度のサンゴ礁と、国が指定する希少種のオオナガレハナサンゴ、アマミホシゾラフグなどの生息を確認しました。総合的に判断すると造礁サンゴ群集を中心とした多様な生態系が維持されている海域であることが分かりました。

WWFジャパンでは、上記の結果を受け、2月の緊急声明での主な要望についてあらためて下記の3点を要望いたします。

1. 地域の重要な観光資源となりうる貴重な自然環境に対する観光開発と利用による悪影響の確実な防止をめざした、科学的評価に基づくキャリング・キャパシティの設定
2. 寄港地開発予定地の集落の住民のみならず瀬戸内町民や奄美大島の他の市町村住民に対し、開発に関する詳細な情報の開示と、検討過程の住民、一般への公表の徹底
3. 環境や地域社会に配慮した「持続可能な観光」の実現に向けた住民参加と合意形成を経た持続観光な観光等の利用計画の策定


西古見周辺の自然環境に関する保全上の価値
西古見沿岸は、環境省による「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として位置付けられています。また環境省が行っているモニタリングサイト1000において、サンゴ礁生態系のモニタリングサイトの調査では、西古見の対岸に位置する加計呂麻島の実久でも、80%以上の被度のサンゴが確認されるなど、海域一帯が優良なサンゴの生息地と判定されています。WWFジャパンが2009年に作成した南西諸島全域の生物多様性重要地域の評価情報(BPAマップ)でも、特に重要性が高い海域の一つとして大島海峡のほぼ全域が評価されています。

2019年4月にWWFジャパンが計画予定地となっている湾内で行なった緊急の環境調査では、卓上ミドリイシをはじめとした多種の造礁サンゴの群集が広がっていることを確認。優占種としては卓状のクシハダミドリイシ、サボテンミドリイシ、コユビミドリイシ、枝状のトゲスギミドリイシ等が認められ、さらに環境省絶滅危惧Ⅱ類に指定されるオオナガレハナサンゴやヒユサンゴが生息していることも分かりました。

この海域では2001年から2002年にかけて、オニヒトデが大量発生し、造礁サンゴが食害を受けて、一時壊滅状態となり、さらには2016年にも海水の高温化により造礁サンゴの白化現象が発生。サンゴ群体の死滅が確認されています。しかしWWFが2019年4月に行った調査では、全般に健全なサンゴが多く確認された上、生体サンゴの被度が最高で70~80%に達する高被度地点も見られるなど、過去の擾乱から回復が相当に進んでいることが分かりました。

さらに、鹿児島大学が2019年5月に行なった調査の結果、海底の砂底でアマミホシゾラフグの産卵巣が認められたほか、オオナガレハナサンゴなどの希少な造礁サンゴが存在していることが判明。
以上のことから、この西古見に面した湾内の海域で見られる生物多様性は、奄美大島のみならず、世界的にも重要な沿岸の生態系を有する地域であることが、改めて明らかとなりました。

客船寄港計画により懸念される影響
上記の調査により明らかになった多様なサンゴ礁生態系の分布は、大半が大型船の着岸する予定地に直接は重なってはいないものの、幅800メートル程度の狭い同一の湾内に広がっており、十分な配慮を欠いた開発は、深刻な環境破壊の影響を及ぼす可能性がきわめて高いと考えられます。

また、現在検討中とされる大型客船の就航計画では、一度に2,000~4,000人ともいわれる海外からの観光客が、高齢者を中心に40名に満たない西古見地区の小規模集落やその周辺を訪れることになり、地域の暮らしはもちろん、自然海岸や沿岸および陸域環境にも、さまざまな影響を及ぼすことが懸念されます。

2019年4月にWWFジャパンが西古見地区の住民の方々と行なった意見交換の場においても、「この海は地元の誇りであり大切にしている」という声が強くあった一方、「計画をぜひ誘致したい」という意見は皆無で、むしろ「集落内に外国人がたくさん入ってくるのは困る」「大規模計画が欲しいのではない、若い人が戻ってきて集落が存続していけるような、そういう手立てが欲しい」「海を大切にして観光をしてほしい」といった、地域の未来を思う切実な言葉を聞くことができました。

また、2019年5月9日には、同じ瀬戸内町の加計呂麻島住民の有志が、町に対して計画の白紙撤回を求める要望を提出。6割を超える加計呂麻島民が反対の意を示しており、反対する住民らによる署名活動では既に3万5,000名を超える計画撤回の署名が集まっています。

国会ではこの問題について、2019年5月22日に参議院議員決算委員会において、川田龍平議員が国に対し質疑を行いました。質問の中で川田議員は、第3回「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」の場で、ロイヤル・カリビアン・クルーズ社の1社のみが事業の提案説明を行ったこと、同社として計画の実施に際しては周辺土地の購入及び陸側での開発を行なうなどの発言があったことを指摘。これに対し国土交通省は、このロイヤル・カリビアン・クルーズ社の、集落周辺の開発の必要性を追認する答弁を行ないました。

こうした内容について、最大の関係者である地元の住民の方々が、正しい情報を得ているのかは大きな疑問が残る点です。そしてこれらはいずれも、ユネスコの世界自然遺産登録の基準の一つである、地元の団体・関係者が連携した保護管理体制の構築と合意形成の点において、深刻な不備があることを示すものです。

世界遺産の島々、南西諸島の未来に向けて
これらの情報や状況を踏まえ、瀬戸内町内の住民や行政にあたる町役場、また観光や建設に関連する地元の企業を含めて、今一度、計画の推進を誰が、どのような形で求めているのかを明らかにしつつ、全ての情報を開示・共有するとともに、地域の中でその是非についての合意形成を行なっていく必要があるといえます。

その中で、この豊かな自然を将来にわたり守りのこしていくためには、環境や地域社会、そこに暮らす人の気持ちを損なうような大規模な計画を当該地で推進するべきではなく、むしろ予防原則の観点に立ち、地域の宝として守ることを前提とした、持続可能なエコツーリズムの展開によって、南西諸島の他の地域の見本となるような保全型の地域振興を、地域の合意形成のもと目指すことが求められます。

またこれを実現するためには、地元の自治体や集落の住民だけでなく、国、県、また島内の関係産業や団体が一致して連携し、環境と地域社会への悪影響御防ぎ、地域が主体となって取り組みを支えていく体制の構築が必要です。

前述の国会での国土交通省の説明等が事実とすれば、今回の客船就航計画は、我が国が本年、登録を再申請した世界自然遺産登録にも、影響する可能性があります。島内の自然環境の保全価値の維持・管理に反する開発利用にあたると見なされれば、今後予定されているIUCNによる再評価において、不適格要件となることも考えられるでしょう。

さらに、調査によってその生態系の豊かさと価値が、あらためて明らかにされつつある中で今後、自然科学分野の学会や国際機関などが計画に対し、危惧・抗議の声をあげることも予想されます。
なにより、世界的にも貴重な南西諸島の自然環境の損失という瑕疵を、現在、そして将来にわたって残すことになります。

以上の内容をふまえ、WWFジャパンは瀬戸内町と奄美群島広域事務組合、鹿児島県、国土交通省および環境省に対しては、それぞれ下記の内容を要望いたします。

国土交通省および環境省への要望
1. 保全価値の高い西古見沿岸や陸域を含む大島海峡周辺について、関係法令に定める保護区域の設定を含めた保護施策をとること
2. 対象地域での開発案件や提案事業者に対し、県及び自治体とともに積極的に保全価値の高い自然環境への悪影響を縮小・撤回を検討するよう調整を図ること
3. 世界自然遺産登録に向けた政府の方針を重視し、縦割りを越えた共有・連携を図るとともに予防原則に立った在来自然環境の保全と住民全体の合意形成を前提にした、事業の実施や、瀬戸内町の取り組みを支援すること

鹿児島県への要望
1. 世界自然遺産の推薦書の中で周辺管理地域に含まれる西古見とその沿岸に見られる保全価値の高い自然を保全するため、部分的開発を含め、保全価値の高い自然環境へ悪影響を与える恐れがある開発案件の許認可を行なわないこと
2. 地域の自治体や住民による自然環境の保全と持続可能な観光等の利用の取り組みを支援すること
3. その実施にあたっての基準となる、観光等での利用管理計画の策定に積極的に関わり、同じくこれを支援すること

瀬戸内町および奄美群島広域事務組合への要望
1. 客船の就航計画を含む、あらゆる開発計画については、保有する情報を住民やメディアに公開・共有すること
2. 今回の開発に関しては西古見集落のみならず、町民全体の参加型による合意形成を目指し、その経過や協議会及びそこでの議論の内容等は、メディアや広く一般にも公開すること
3. 世界自然遺産の推薦書の中では、西古見のほか大島海峡に面したほとんどの地域は主な利用場所と利用者数の統計から外れている。客船のみならず観光など開発や利用の適正な規模を含むあり方を検討する際は、島内全体での合意形成と、科学的評価に基づく、自然環境と地域社会が許容し得る影響のレベルについてのキャリング・キャパシティの検討・設定を行うこと
4. 上記を基に、保全と観光等の地元産業利用を両立する利用管理計画を、産業関係者、住民、保全団体を交えたプロセスで策定すること

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以上
(本件に関する問合せ先:(公財)世界自然保護基金ジャパン自然保護室国内グループ)

 

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