©Karine Aigner / WWF-US
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WWFジャパン1年間の活動報告(2020年7月~2021年6月)

皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2020年度(FY2021)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。


活動ハイライト:コロナ禍に対する 環境分野からのアプローチ

感染症と環境

FY2021(2020年7月~2021年6月)は、1年を通して新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で活動を行なうこととなりました。さまざまな制約を強いられる中、森林、海洋、淡水域の保全や、地球温暖化の防止、野生生物の違法取引防止などの各プロジェクトを工夫しながら遂行すると同時に、感染症や、パンデミックに伴って発生した課題に対しての取り組みも続いています。
パンデミック対策の中心はもちろん医療や福祉ですが、環境保全の分野も無縁ではありません。特に関連が深いのは、感染症が発生する原因の部分と、コロナ禍からの復興に向かう際の社会設計の部分です。

「ワンヘルス」の実現に向けて

新型コロナウイルス感染症は、もともと野生動物が持っていたウイルスが、人にも感染するようになった「動物由来感染症」のひとつだと考えられています。近年、動物由来感染症の新たな発見が増えており、その背景には、森林破壊や、野生動物の不適切な利用が関係しているとの指摘もあります。人と野生動物の接触が増えれば、そのぶん、さまざままなウイルスと接触する機会も増えるからです。
この先、新型コロナに続く、新たな動物由来感染症の発生を防ぐためには、森林の無秩序な伐採や、野生動物の不適切な利用をなくしていくことが不可欠ですが、そうした認識は、残念ながらまだ広がっているとはいえません。
そこでWWFは、2020年春から「ワンヘルス」という考え方を広く知ってもらい、その実現を図っていくことをめざして、関係各所との連携に取り組んできました。ワンヘルスとは、人の健康を守るためには、動物の健康や生態系の保全にも目を配る必要があるとする概念です。
2021年2月には「人と動物、生態系の健康はひとつ ワンヘルスシンポジウム」を開催。国内の医療、獣医療、感染症、人類学などの専門家や、環境省、自治体、NGOに加え、WHO(世界保健機関)や国際獣疫事務局、生物多様性条約事務局、国連環境計画といった国際機関からの参加も得ることができました。ワンヘルスを実現していくために欠かせない、分野を越えた協力体制づくりへの一歩です。

いち早く掲げた 「グリーン・リカバリー」

コロナ禍に対して環境分野がかかわる、もうひとつのポイントとなるのが、パンデミックによって大打撃を受けた経済の復興策です。国をあげて行なわれる景気回復策が、環境に配慮しない形であった場合、地球温暖化をはじめ、多くの環境問題が悪化してしまう可能性があるからです。これを逆転して、経済復興に投じられる智恵と資金の一部を活かし、コロナ以前よりも環境負荷の少ない、持続可能な社会を築く「グリーン・リカバリー」を実現していくために、WWFでは2020年12月、「Go To Greenプロジェクト」を開始。コロナ禍からの復興に関する人々の意識調査や、グリーン・リカバリーの具体的事例の紹介、企業やオピニオンリーダーとの連携などを進めています。
「コロナ後」を語るのはまだ早いという声もありますが、さまざまな経済復興策が動き出してから軌道修正するのは困難です。「グリーン・リカバリー」を進めるには、いち早く動き出す必要がありました。

モーリシャスで起きた 油汚染にも対応

2020年8月、インド洋のモーリシャスで、日本の貨物船の事故に伴い、燃料油が流出。周辺の沿岸域のマングローブなどが汚染されました。モーリシャスにはWWFの事務局がなく、コロナ禍で国境を越えた移動が厳しく制限される中、対応は多くの困難を伴いましたが、現地の自然保護団体ECO SUDとの連携を開始することができました。
現在、油の漂着が確認された場所を含む島内の10カ所で、サンゴ礁、海草藻場、マングローブの環境と生物の調査を開始しています。今後は、油汚染への対応にとどまらず、沿岸生態系の状態を広く調べ、生物多様性の保全と、地域への普及活動を中心に、3年計画で支援を行なっていきます。

FORESTS:自然度の高い森と、野生生物を守る

2021年1月、WWFは報告書『森林破壊の最前線』を発表しました。生物多様性の豊かな森が特に激しく減少しているのはラテンアメリカ、アフリカ、東南アジア、オセアニア。そして、主要な原因となっているのが、植林地や農園への転換です。

WWFジャパンは、日本の消費と関係が深いアジア地域を中心に、木材、紙、パーム油、天然ゴムなどの生産を持続可能なものに改善し、森と野生生物を守ることをめざしています。

アジアゾウが棲む低地熱帯林の保全

©Chris J Ratcliffe / WWF-UK

アブラヤシ農園に出てきたアジアゾウ

インドネシアのスマトラ島中部に広がるテッソ・ニロ地域は、低地に広がる熱帯林が今も残る、限られた場所のひとつです。アジアゾウの亜種、スマトラゾウにとって「最後の砦」ともいえる生息地であり、2004年には国立公園にも指定されました。しかし、その後も違法な伐採や開墾が続き、WWFも長年にわたって違法行為の監視や、国立公園の管理体制の強化、放棄された違法開墾地での森林再生などに取り組んできました。2016年には年間2,600ヘクタール規模であった森林減少を、2021年度は100~500ヘクタールほどまで軽減させることができました。
ボルネオ島では、インドネシアとマレーシアの国境をまたいで行なうアジアゾウの調査を支援。全体の個体数は1,500頭以下で、インドネシア側では特に少ないことが明らかになりました。
ボルネオ島で森が減っている大きな原因のひとつがパーム油を採るためのアブラヤシ農園開発です。WWFはパーム油の小規模農家を対象に、持続可能な生産に切り替えるためのトレーニングを開始。新型コロナの影響で予定通りに進まない面はありますが、プロジェクトは継続できています。

個体数の回復から森の回復へ

© Shutterstock / Ondrej Prosicky / WWF-International

シベリアトラ(アムールトラ)

極東ロシアの森に暮らすアムールヒョウとシベリアトラ。WWFはこの2種を森林保全のシンボルと位置づけ、個体数の回復をめざす活動を続けています。日本は極東ロシアから直接木材を、そして中国経由で家具などの木材製品を輸入していますが、現地では違法伐採が後を絶ちません。そのため、WWFジャパンも、この地域での取り組みを支援しています。
かつて30頭まで減ったアムールヒョウは約120頭に、50頭以下だったシベリアトラも600頭近くに回復。さらなる個体数の増加を図るには、彼らの生存を支える森を増やすことが急務です。WWFロシアは、狩猟区の最低5%を保全区域にするという国の取り決めを利用し、トラの保護区の拡充を図る施策を推進。結果として、トラの個体数増加につなげることができました。

 

持続可能な天然ゴム生産をめざして

© Thomas Cristofoletti / Ruom for WWF

ゴムの木の表面を削ると白い樹液が出る。これを集めて凝固、加工したものが天然ゴム

タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアを含むメコン地域では、タイヤなどに利用する天然ゴムや、その他の農産物の生産によって自然林が減少。WWFは、現地政府や天然ゴムの生産者組合、タイヤや自動車関連の企業などと協議を継続し、天然ゴムの生産と利用を、持続可能で責任あるものへ変革する取り組みを推進しています。
特に豊かな森が残るタイとミャンマーの国境地帯では、森と野生動物の保全管理の強化も推進。タイでは、WWFが支援するEyes on the Forestチームが開発した、ドローンを使う森林モニタリング手法を政府が採用。多くの保護区で違法行為の監視が進み、保全強化の一助となることが期待されます。

企業の「調達」をサステナブルに

2021年4月、企業を対象としたオンラインセミナー「世界の潮流からみる『サステナブル調達(環境や人権に配慮して原料や資材を仕入れること)』のあり方」を開催しました。森林破壊を招くリスクのある産品は、紙、木材、パーム油、天然ゴム、牛肉、大豆、バイオマス燃料など多岐にわたります。また、自然環境の保全に加えて、先住民や地域コミュニティの権利の尊重も重要な課題です。
セミナーでは、参加企業にとって実質的な参考となるよう、すでに取り組みを開始している企業3社を招き、その実践例も発表していただきました。
当日の参加者は約230名。終了後も参加企業から、社内勉強会への協力要請や、調達方針についての問い合わせが相次ぎました。

 

OCEANS:乱獲や汚染から海の生態系を守る

海洋環境の悪化と資源枯渇の大きな要因として、近年、IUU(違法・無報告・無規制)漁業が国際的に問題視されています。また、廃棄されたプラスチックが海に流れ込む海洋プラスチック汚染の問題も、依然として深刻な状況が続いています。
WWFジャパンは、これらの問題に対して、日本が主要な消費国となっている水産物の利用を持続可能にすること、プラスチックの海洋流出を防ぐことなど、海の生態系保全に取り組んでいます。

IUU漁業根絶をめざす国内法が成立

© Shutterstock Stubblefield Photography WWF-Sweden

水産資源の持続可能な利用や海洋生態系の保全に深刻な影響をもたらし、正規の漁業者に不公平な競争を強いるなど、大きな国際問題となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業。それによってもたらされる非・持続可能な水産物は、世界3大水産市場である日本にも多く流通していると推定されています。
WWFは、IUU漁業に由来すると考えられる水産物が日本に輸入され流通することを規制する法律の制定と成立を、早くから日本政府に求めてきました。
2020年12月11日、IUU漁業による水産物の根絶をめざす法律「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)」が、ついに国会で成立。WWFは他団体と構成する「IUU漁業対策フォーラム」として、歓迎の声明を発表するとともに、2年後の施行に向けて留意すべき点についての指摘を行ないました
また、同法の詳細を検討するために水産庁が設立した検討会議に、WWFは環境NGOで唯一、委員として参加。今後もNGOの立場から、この法律が実効性のあるものとなるよう、厳しく意見を述べていきます。

プラスチック新法の強化を後押し

© Brent Stirton / Getty Images / WWF-UK

2021年6月4日、プラスチックごみの削減とリサイクルの促進を目的とした「プラスチック資源循環促進法(プラスチック新法)」が成立しました。
しかし、同法には、使い捨てプラスチックの総量削減や、リユースの推進、生産者による確実な回収・再商品化などの面で、まだ多くの課題が残されています。それでも、衆参両院の環境委員会で付された附帯決議には、WWFがこれまで複数の団体と協働して政府に対して求めてきた、包括的な国際連携の推進や漁具流出への対応、マイクロプラスチック対策に言及した内容が盛り込まれ、今後の規制強化に向けた足掛かりができたといえます。
WWFは引き続き、2022年4月施行となる同法の動きを追いながら、より包括的な政策導入に向けて提言を行なっていきます。

南堡湿地が省級の保護区に

© WWF Japan

南堡湿地にも飛来するシギ類の一種、ウズラシギ

中国、韓国、北朝鮮に囲まれた「黄海」の沿岸湿地の中でも、東アジア屈指の渡り鳥の中継地である、河北省唐山市灤南(ランナン)県の南堡(ナンプ)湿地。1950年代からの50年間で干潟の約7割が失われてしまった中国の黄海沿岸において、きわめて貴重な場所のひとつでもあります。
WWFジャパンは2017年より、WWF中国と共にこの南堡湿地の保全に向けた取り組みを開始しました。途中、新型コロナウイルスの世界的な大流行の影響を受けながらも、政府への働きかけを継続した結果、ついに2020年10月26日、南堡湿地の約58平方キロ*にあたる場所を、省級(河北省立)湿地公園として河北省林業草原局が承認。開発の危機にさらされていた南堡湿地の保全に向けた、大きな一歩となりました。
今後もWWFは、行政職員による湿地公園の適切な管理計画の策定や、実施のサポートを通して、南堡湿地の保全に向けた精力的な活動を続けていきます。

*参考値:浜名湖の面積=約65平方キロ

サステナブル・シーフードの普及

水産物の消費を「持続可能」なものへと転換するよう呼びかける「おさかなハンドブック」を制作。海から消費までの過程で起きている問題や、魚種ごとの持続可能性の評価、海を守るためのエコラベルなどについて、分かりやすく紹介しました。
また、「火曜日だけでも(まずは1週間に1度でよいので)サステナブル・シーフードを選ぼう」と呼びかける「火サス」キャンペーンを実施。ドラマ仕立ての限定動画を作成するとともに、サステナブル・シーフードが食べられる飲食店と提携して「火サス」特別メニューの提供を行ない、行動変容のきっかけとなる機会を創出。今後も、飲食業界の調達変容を求めて、積極的に働きかけを行なっていきます。

 

WILDLIFE:野生生物の不適切な利用を防ぐ

ゾウの牙やトラの骨から、ペットに至るまで、人間の過剰な利用が、多くの野生生物を危機に追い込んでいます。捕獲や取引(売買や譲渡)を規制する法律や条約も作られていますが、それらに反して行なわれる密猟や、違法な取引もあとを絶ちません。

WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFIC(トラフィック)は、特に日本が関係する野生生物の過剰利用を防ぎ、違法取引を根絶する活動に取り組んでいます。

日本から違法に持ち出される象牙

© Don Martinson

象牙の国際取引(輸出入など)は、ワシントン条約(CITES)によって原則禁止されています。日本では、禁止以前に輸入されたものなどを国内で取引することは合法ですが、それを海外へ持ち出すのは「違法取引」となります。近年、実際にこうした違法取引が増加し、問題となってきました。
WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFICは、2017年、2018年に引き続き、2020年も日本国内の象牙取引実態調査を実施。その結果、オンライン企業が自主的に実施した象牙取引禁止が、不適切な取引の減少につながったとみられる一方で、今も国内に残る象牙市場が、海外への密輸の温床になっている懸念が解決されていない実情を明らかにしました。
また、東京五輪の開催を前に、東京都が設置した「象牙取引規制に関する有識者会議」に、WWFも参加。東京都が6月に発表した、日本から海外への象牙の持ち出しを防止するための施策が、一時的な対策にとどまっており、根本的な解決を志向していない点を指摘、改善策を提言しました。東京都に対しては、都内での象牙取引の原則禁止をめざすよう求めています。

べっ甲の密輸に対策強化求める

© naturepl.com / Inaki Relanzon / WWF

熱帯の海に生息するタイマイの甲羅は、装飾品などの「べっ甲」細工に使用される原材料として高値で取引されてきました。しかし、そのために乱獲され、絶滅の危機に。ワシントン条約で国際的な商業取引は禁止されていますが、日本では、禁止以前に持ち込まれたべっ甲の国内取引が、今も合法として続いています。
2021年5月、WWFはTRAFFIC、NPO法人トラ・ゾウ保護基金と共同で『べっ甲と密輸:ウミガメの甲羅の違法取引と日本の関わり』を発表。日本への密輸が続いており、国内の在庫と混ざって流通している可能性が高いことを指摘。日本政府および税関、警察などの法執行部門と、規制当局にあたる環境省、経済産業省に対し、税関など水際での違法取引防除対策に加え、べっ甲の在庫と国内取引の管理状況について早急に見直すよう求めています。

日本の固有種の取引規制が実現

© Taichiro Oda

オビトカゲモドキ

TRAFFICが長年、要望してきた規制が、ついに実現しました。2021年2月14日、沖縄や奄美の森に生息する希少な固有種、トカゲモドキ属の6種とイボイモリが、ワシントン条約(CITES)の附属書IIIに掲載されたのです。これにより、国際取引を行なうには許可書が必要、という規制がかかることとなりました。
規制対象となる7種は、国内では捕獲や取引が禁止されていますが、ペットとして海外でも人気が高く、ひとたび国外へ持ち出されてしまうと、規制するすべがありませんでした。ワシントン条約への掲載は、この状況を大きく改善するものとなります。今後は、生息地での密猟防止とともに、有効な監視や取り締まり、法の適正な執行が重要となります。
また、宮古島のミヤコカナヘビなど、海外で密輸や違法取引の対象となっているにもかかわらず、まだ規制されていない日本固有の希少な野生生物は他にもいます。引き続き、取引の状況を把握し、必要に応じてワシントン条約への掲載を求めていきます。

密輸防止へ、航空会社と連携

野生生物の密輸手段に多く利用されている航空機。意図せず違法行為に加担させられるのを防ぐため、航空企業や空港では、密輸者や密輸品と接触する機会の多い社員・職員への教育に力を入れ始めており、WWFとTRAFFICもこの取り組みに協力しています。
2021年2月には、ANAと成田空港による共同ワークショップに講師として参加。密輸の発見ポイントや、警察に通報するまでの手順などに関するレクチャーを行ないました。
3月に開催されたJALの社内セミナーでも講師を務め、野生生物の違法取引の最新動向や、航空業界に期待される役割について解説。日本の航空業界の取り組みは着実に広がっています。

 

CLIMATE:地球温暖化をくいとめる

世界中の気候が今までと大きく違ってきていることを、誰もが肌で感じるようになってきました。温暖化は、人間社会はもちろん、野生生物の暮らしにも大きな影響を与えます。

WWFジャパンは、国、自治体、企業を対象に、温室効果ガスの排出量を大幅に削減するよう促す活動に注力しています。また、自然環境や地域の文化などに配慮しながら、自然エネルギーの導入が進むようにするための活動にも取り組んでいます。

日本政府がついに「脱炭素」を宣言

© Thanos_Giannakakis

2021年、温暖化によるとみられる干ばつが続いていた地中海沿岸で深刻な山火事が多発した

2020年10月、菅義偉首相(当時)は、所信表明演説の中で「2050年に脱炭素社会の実現をめざす」と宣言しました。また2021年4月には、日本の温室効果ガス排出量を、2030年までに2013年と比べて46%削減し、さらに50%に向けて挑戦を続ける、と発表。この2つの表明は、日本の環境NGOにとって、固く固く閉ざされてきた扉がようやく開いたような瞬間でした。
WWFは20年以上にわたり、さまざまな方法を用いて、日本政府に温室効果ガス削減の高い目標を掲げ、脱炭素をめざすよう求め続けてきました。2018年には他団体とともにJCI(気候変動イニシアティブ)を立ち上げ、企業や自治体による自主的な温暖化対策を推進してきましたが、その目的のひとつには、脱炭素社会に向かって進む民間の姿を政府に示し、積極的な温暖化対策へ舵を切るよう促す狙いもあります。
JCIでは、日本の2030年までの温室効果ガス削減目標についても、加盟団体のうち291団体(企業208、自治体22、団体・NGO60)の賛同とともに「45%を超え、50%にチャレンジする」よう政府に進言。冒頭の、菅首相の宣言につなげることができました。

脱炭素への道筋を示す

© Steve Morello / WWF

日本政府がこれまでよりも高い温室効果ガス削減目標を掲げたのは歓迎すべきことですが、一方で、これまでの温暖化対策の延長線上では目標達成は難しく、打開策が必須です。
 そこでWWFは、2011年から研究と発表を続けてきた『WWFエネルギーシナリオ』の改訂版を作成。このシナリオは、日本で2050年までに「再生可能エネルギー100%」を実現する上で必要な対策や技術、コストなどについて提言したものです。改訂版では、新型コロナ後の世界を見据え、日本の産業構造の変革と強化にも踏み込みました。
 さらに2021年5月には、必要な費用の算定を加えた『脱炭素社会に向けた2050 年ゼロシナリオ〈費用算定編〉』を発表。日本における「46%削減」の達成とさらなる目標の引き上げ、2050年までの脱炭素の実現を促しています。

自治体に向けキャンペーンを展開

脱炭素社会の実現には自治体が果たす役割も非常に大きいといえますが、「2050年脱炭素」を宣言する自治体がみられる一方で、2030年の削減目標が不十分な自治体もあります。
 そこでWWFは、自治体の温暖化対策強化をめざし、ウェブサイトを用いたキャンペーン『脱炭素列島』を開始。47都道府県の脱炭素に向けた目標をすべて紹介し、6段階でレベル分けして日本地図に表現しました。「地域の脱炭素化を応援する」という意思表示ボタンを押せば誰でもキャンペーンに参加でき、SNSを使って家族や地元の友人に伝えるなど、自分が在住の、あるいは出身の都道府県の脱炭素化を後押しできるしくみも用意されています。
 また、サイト内には、自治体の方々が温暖化対策の強化を図る際に役立つ情報や、先進事例などをまとめたプラットフォームも設置。市民が自治体を動かし、それが国全体の「脱炭素」につながることをめざしています。

自然エネルギー普及への課題に挑む

地球温暖化の進行を抑えつつ、必要なエネルギーをまかなうには、再生可能な自然エネルギーへの転換が不可欠です。2021年1月、「RE-Users(自然エネルギーユーザー企業ネットワーク)」が提言した、日本で自然エネルギー電力の利用を推進する「3つの戦略」と「 9つの施策」に41社が賛同。この提言はRE-Users 参加企業に、自然エネルギー財団、CDP Worldwide-Japan、WWFが協力してまとめたものです。
 一方で、自然エネルギーの導入に伴う開発が、自然や地域社会に悪影響を与えないようにする対策も重要です。WWFは今後の自然エネルギー関連の開発に対応できるよう、立地の適正化を図るゾーニングの普及や、環境影響評価制度の見直しを求めています。

JAPAN:日本の生物多様性を守る

「自然との共存」という言葉が普通に聞かれるようになる一方で、実際の現場では、持続可能とはいえない利用や開発、外来生物による影響などが、依然として続いています。

WWFジャパンは、長年にわたって保全に注力してきた南西諸島や、希少な水生生物が多く生き残っている九州北西部の水田地帯を中心に、人と自然が真に共存できる社会の実現をめざしています。

減災と生物多様性保全をめざす

© 九州大学 林博徳

毎年のように浸水被害が発生する日本。これからは、河川の流速を弱める工夫をしたり、一時的に水を溜める遊水池を確保するなど、さまざまな対策を組み合わせた、流域全体での治水を考えていくことが重要です。こうした対策は、生物多様性、特に水生生物の保全にも役立つという面を持っています。
2020年11月、WWFは九州大学および長崎大学と共に、淡水生態系の保全と減災の両立をめざす共同研究を開始しました。「水田・水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト」に取り組んでいる九州北西部の水田地帯で、実践的な研究や調査を進めています。
九州大学との共同研究では、河床をコンクリートで固めるよりも、伝統的な石積みの工法を用いたほうが、河川の流速を抑える効果があり、防災・減災につながること、そして、自然の川に近いレベルで生きものの生息も可能であることを明らかにしました。
こうした取り組みは、国際的にも注目が高まっている「NbS(ネイチャー・ベースド・ソリューションズ=自然に根ざした解決策)」のひとつでもあります。地域の方々と協力しつつ、研究成果を現場の保全に役立てていきます。

サンゴ礁と人との繋がりを再構築

© Rintaro Suzuki

時代の流れとともに薄れてつつあった、人とサンゴ礁のつながりを再び強め、地域にサンゴ礁保全の基盤を作ることをめざす「サンゴの島の暮らし発見プロジェクト」は、2017年に始まった、WWF、喜界島役場、喜界島サンゴ礁科学研究所の協働事業です。最終年にあたる2021年の2月、その成果を発表する「喜界島サンゴ礁文化フォーラム」が開催されました。
新型コロナの感染防止を考慮して、オンラインでの開催となりましたが、プロジェクトを機に新たに結成された「阿伝(あでん)集落サンゴの石垣保存会」や「荒木集落盛り上げ隊」などが、サンゴ礁の海と共に生きてきた伝統を後世に伝えていく活動などを報告。フォーラムの最後には、今後、「サンゴ礁文化連絡会議」の設立を、地域主体で進めていくことが発表されました。

石垣島白保での取り組みは新たなステージへ

© WWF Japan

WWFは、沖縄県石垣島にあるWWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」を、地域の自治組織「白保公民館」に譲渡することを決定しました。2021年3月27日には譲渡式を実施。施設の正式な所有者は、白保公民館となりました。
「しらほサンゴ村」へのWWFスタッフの常駐は、2021年末までに終了する予定ですが、今後も複数年にわたって白保での活動は継続します。その間に、これまで行なってきた活動を、段階的に地元のNPO「夏花(なつぱな)」に引き継ぐとともに、「しらほサンゴ村」の施設が、地域住民の方々の交流やサンゴ礁保全活動の拠点として、よりよい形で活用いただけるよう、協力を続けていきます。
WWFの白保での活動は、1970年代にサンゴ礁を埋め立てる形で計画された、新石垣空港の建設問題を機に始まりました。貴重なサンゴ礁を埋め立てから守り、後世に引き継ぐために行なってきたさまざまな活動の中で、2000年4月、日本中の多くの方々から寄せられた募金・寄付金によって開設されたのが「しらほサンゴ村」でした。
以来、白保におけるWWFの活動は、常に地元の方々と共に行なうことを心がけてきました。地域の自然は、地域の方々が主体となってこそ、世代を超えて守られていくとWWFは考えています。その理想の形をめざす中、2013年には地元のNPO夏花の発足が実現。そして2020年、「しらほサンゴ村」を地域に移譲できる準備が整ったと判断するに至りました。
これまで「しらほサンゴ村」の活動を支えてくださった全ての皆さまに、改めて心より感謝申し上げます。

NETWORK:WWFネットワークの活動

WWFは、スイスにあるWWFインターナショナルを中心に約80カ国に事務局を置き、100カ国以上で保全活動を行なっています。いわゆる本部-支部という関係ではなく、通常は各国のWWFが、それぞれに立てた計画に基づいて活動を行なっていますが、グローバルな課題には、世界のWWFが協力して取り組みます。
FY2021年に進展が見られた活動の中から、いくつかをピックアップしてご紹介します。

東シベリア海に新しい自然保護区が誕生

©WWF-Russia

メドベジイ諸島での調査風景

WWFロシアの調査によって、ロシアのシベリア沿岸の生態学的な重要性が明らかになりました。その結果を受けて、2020年6月30日、ロシア政府による、メドベジイ諸島国立海洋厳正自然保護区(約8,155平方キロ*)の設立が実現しました。
 メドベジイとは、クマを意味するロシア語。その名が示す通り、ここはホッキョクグマ保護にとっての最重要地域であり、WWFロシアのパトロールチームが、昨年春にスノーモービルで氷上を移動しながら行なった調査では、8つの巣穴と14頭のホッキョクグマ、そして11頭の仔グマの姿が確認されました。周辺は、アゴヒゲアザラシやワモンアザラシが生息し、シロイルカ、セイウチ、アシカなども訪れるなど、豊かな生態系が残る貴重な海域。海底に、この地域固有の無脊椎動物が数多く生息していることも、保護区の設立を後押ししました。
 WWFは、この新しい保護区の設立を歓迎する一方で、保護すべき重要な地域が数多く存在するロシアの海域において、まだ全体の2.4%しか保全されていない現状を憂慮し、政府へのさらなる働きかけを行なっています。

*参考値:東京都の面積=2,194平方キロ

最新の調査で回復が明らかに

© Conservation program - Ex-situ del lince ibérico

イベリアオオヤマネコの仔

狩猟や密猟の脅威にさらされ、世界で最も絶滅の危機に瀕するネコ科といわれるイベリアオオヤマネコ。
 そんなイベリアオオヤマネコを保護するために、WWFスペインが50年以上にわたって、行政機関や団体と協力して実施してきた保護活動がついに実を結びました。最新の個体数調査で、野生のイベリアオオヤマネコが、わずか94頭から1,100頭以上へと、20年間で約10倍に回復したことが報告されたのです。
 今後は、回復した群れと個体数を安定させるために、野生のイベリアオオヤマネコを2040年までに3倍に増やすことを目標に据え、主なえものである野ウサギの数を増加させるための取り組みや、罠による違法な捕獲などへの取り締まりを強化していきます。

最も保護すべき動物の一種へ

© Justin Jin / WWF-US

ヨウスコウスナメリ

WWFは2002年以来、中国政府と協力して絶滅危惧種であるヨウスコウスナメリの保護に取り組んできました。
 2021年、中国政府がヨウスコウスナメリの保護レベルを、野生動物としては最高となる「国家一級保護種」へと引き上げることを決定。これにより、1,000頭強にまで減少しているヨウスコウスナメリの保護活動がさらに強化されることになり、20年にわたって中国政府と協力し、ヨウスコウスナメリの保護区設置や、一般市民に向けた啓蒙活動などの取り組みを行なってきたWWFにとっても嬉しいニュースとなりました。これを受けてWWFは、さっそく今後10年間で長江の主要地域におけるイルカの数を倍増させるための新たな計画の策定に着手しています。

スマホアプリで漁業管理

© Meridith Kohut / WWF-US

沿岸の漁船の様子がリアルタイムに表示される

世界最大級の漁業国であるチリでは、WWFの支援により、漁師がスマートフォンを使って漁獲データを報告できるアプリが導入され、これまで以上に持続可能な漁業管理が可能となりました。
 いつ、どこで、何匹の魚が獲れたかといった漁獲データが、アプリを通じてリアルタイムに報告されるため、漁業管理者は、すべての漁船の漁獲量を、より早く簡単に、そして効率よく把握することができます。同時に漁業者側も、制限区域で違法な漁をしていないことを、当局に示すことができます。
 チリでは、この新しい技術が121隻の漁船に導入され、混獲や魚の廃棄等を適切に管理するために役立てられています。また、この事例には南米の他の国々もさっそく大きな関心を寄せており、取り組みの更なる広がりが期待されています。

Many thanks!

皆さまからのご支援が、世界100カ国以上で展開されているWWFネットワークの活動を推進する大きな力となっています。

FY2020
個人サポーター総数:約5,810,000人
SNSフォロワ-総数:約30,000,000人
ネットワーク全体の収入 約880,000,000ユーロ
ネットワーク全体の支出 約738,000,000ユーロ
*FY2021については現在、WWFインターナショナルにて集計中です

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生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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