水産資源の消費者として声を上げていこう!
2009/09/14
消費者としての声を上げていこう!
どれだけの魚や貝が漁獲されようと、それを食べるのは、私たち一般の消費者です。消費者が、「きちんと資源管理した水産物がほしい!」と、声を大きくして言えば、流通企業や、漁業に携わる人たちも、配慮をしないわけにはいきません。
消費者として、環境や資源に悪いものをできるだけ減らし、よいものを増やすことを求めるために、次のことについて、ぜひ考え、行動してみてください。
- :水産資源や海の環境のことをよく知ること
最近、新聞やテレビなどで、水産資源の問題が報道されるようになってきました。その内容に、まず関心を持つことです。 - :資源や環境に悪いものをできるだけ買わないようにすること
お店で「これは大丈夫なのか?」というような商品を見つけたら、お店の人にぜひきいてみてください。 - :水産資源や環境に配慮したものを買うこと
どういったものが水産資源や環境に配慮したものなのか分からない場合は、MSCのマークが付いたものをぜひ探して、選んで、買ってください。そして、もしお店になければ、ぜひMSCのマークの付いたものを販売してくださいとリクエストしてください。お店の「リクエストカード」、「お客様の声カード」などを利用するのも一手です。また、周りの方にも、こういったものがあるとぜひ紹介してください。
MSCについて
水産資源の管理の必要性が高まる中、MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)は誕生しました。MSCとは、1997年にWWFなどが立ち上げた組織で、1999年に独立した非営利団体となりました。MSCの認証制度は、資源の保全と海の環境を守るための仕組みです。
魚種別に見る水産資源の現状と問題
サケ
サケは日本で最も人気の高い魚の一つ。国内でも多く漁獲されている魚です。しかし、近年は輸入量が大きく増加。さらに、養殖されたサケも、多く流通するようになってきました。こうした海外から入ってくるサケの中には、資源管理や、原産地の自然環境に配慮せず漁獲されているものも、含まれているとみられています。サケの一大消費国である日本には、こうした問題の解決と、持続可能なサケ漁推進への貢献が期待されています。
養殖サケの氾濫
天然の大西洋産のサケ「タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)」の漁獲量は、1990年以降、漁獲量が急減しました。代わりに急増したのが養殖物の生産量です。天然物の漁獲量と比較すると、養殖物は生産量が二けたも上回っており、現在は、養殖サケが市場を席巻しているのが現状です。
世界のサケ養殖の2大生産地は、北欧のノルウェーと、南米のチリです。日本もそこから、養殖物のサケを大量に輸入しています。
ここでいう養殖サケとは、サケの卵を孵化させ、それを川に放流して、海から帰ってくる魚を獲る、というものではありません。卵から育てる完全養殖で、最初から最後までいけすで育てます。
しかしこの結果うまれてくる、大海原を知らないサケが、問題を引き起こしています。
問題は、この養殖のサケが養殖場から逃げることで起きています。ノルウェーでは、サケの養殖場から、30万匹とか40万匹という数のサケが、川へ逃げていることが報告されています。河川によっては、そこで見られるサケのうち、5割以上が養殖場から逃げたサケだったという例もあるほどです。
この事態は、天然のサケと、逃げた養殖サケが、限られた食物を争う競合を招くほか、養殖物のサケと天然物のサケが交尾・産卵することで、遺伝子が撹乱されてしまう可能性を高めることになります。
また、過密した状況で育てられた養殖のサケには、寄生虫がたくさん付きますが、これらが天然のサケにも蔓延し、天然のサケの生存が脅かされることにつながります。
ノルウェーに次ぐ世界第二位の養殖サケ生産量を誇るチリでは、湖などの淡水域で育てた稚魚を、海中の養殖場に移して成長させています。
しかし、チリのパタゴニア湖では、養殖されているサケの生産量がこの10年間で倍増しており、養殖場から流れ出る有害な物質などにより、湖の汚染が進んでいることが、明らかになっています。
天然のサケと異なり、養殖サケは非常に計画的に生産することができ、色も当たり外れが少ないといわれています。また、マグロと同様、豊富な餌を与えることで、脂(脂肪)も乗っており、日本で高い人気を博しています。
参考資料(PDF形式)
WWFノルウェー
WWFチリ
日本産のサケは?
北海道でも天然のサケが獲れ、国内で消費されています。
近年は、持続可能な資源利用の動きも進んでおり、MSC(海洋管理協議会)の漁業認証の取得も、実現しようとしています。
また、ヨーロッパやアメリカでは、養殖物よりも天然物を求める需要が非常に高まっているため、日本産の天然サケが、加工工場のある中国を経由して欧米へ輸出される量も増えています。
しかし一方で、日本では、北欧やチリから輸入される大量の養殖サケが市場を席巻しています。日本では、近くで獲れる天然サケを輸出し、地球の反対側から、養殖したサケを輸入しているのです。
すし屋やスーパーなどでは、よくきれいなオレンジ色のサケを見かけますが、その大半も、実は養殖されたサケです。
色がきれいなのは、養殖サケが、与える餌に身が赤くなる成分であるアスタキサンチンを人工的に添加されているため。
天然サケの身が赤いのは、自然の中でサケが食べているエビやカニの殻に、アスタキサンチンが含まれているためですが、養殖されたサケは、天然のエビやカニを食べる機会がないため、身が赤くなりません。このため、人工的な添加物を加えています。
密漁も起きている?
さらに、日本人は知らないうちに、密漁された安いサケを食べているかもしれません。2003年に、日本はロシアから2万892トンの冷凍ベニザケを輸入しましたが、ロシアの統計に載っている日本への冷凍ベニザケの輸出量は1万3,516トンでした(公式統計2003年)。
これは、ロシアの漁獲統計に載らない、密漁されたサケが日本に輸入され、流通した可能性を物語る一例です。
こうした違法な漁業の問題が起きている場所の一つであり、ロシア産サケの日本への輸出の半分以上を担っている地域が、カムチャッカ半島です。
2010年には、日本は、ロシアで漁獲されたシロザケのおよそ97%(2,074トン)を、またベニザケの42%(2万1,014トン)を輸入しましたが、そのうちシロザケの1000トンと、ベニザケの1万8000トンが、カムチャッカから来たものでした。
そして、この中には、過剰な漁獲によって、現地の豊かな自然を破壊し、サケ資源を危機に追い込んでいる可能性のあるサケ製品が含まれています。
日本でのトレーサビリティーの確保や、持続可能な漁業によって生産されたサケを、選んで輸入し、消費することは、サケの一大消費国である日本が、世界のサケ資源や自然保護に貢献できる、大切な一つの取り組みといえます。
参考情報
タラ
和洋で人気の白身
タラは日本人もよく食べる魚ですが、海外でもよく食べられています。イギリスでは、フィッシュアンドチップスなど、白身魚をフライにしたものが、好まれています。
大西洋のタラの漁獲量は、1970年まで増加し、その後、減少傾向になります。
この少なくなった白身魚の漁獲量を補ったのは、スケソウダラなど別の白身魚でした。これも、天然資源を獲りすぎたため、近年、漁獲量が少なくなってきています。
スケソウダラという魚は日本人にも非常に身近な魚で、ちくわやはんぺん、かまぼこなどの練り製品の原材料になります。また、このスケソウダラの卵は「タラコ」として消費されています。
タラやスケソウダラは、同じ資源を世界のいろいろな国が争って獲って、食べているという現状を示す、一つの事例といえるかもしれません。
ウナギ
日本、アメリカ、そしてヨーロッパのウナギ
ウナギは日本の伝統食、と思われがちですが、欧米でもよく食される魚です。種類も一種ではなく、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギなど、いろいろな種類があります。
最も獲られているのはヨーロッパウナギですが、その漁獲量は1970年前後をピークに、減少し続け、現在では最も獲られていた時の4分の1の漁獲量にまで減っています。
2007年には、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」の会議で、資源保護のため、このヨーロッパウナギの輸出入を規制する提案がなされ、採択されました。このヨーロッパウナギは、中国に輸出され、そこで蒲焼などに加工されて日本に輸入されてきました。
日本では国産のニホンウナギも食べていますが、これも漁獲量が減っています。
養殖ならOK?
「天然ものが減ったら、養殖すればいいのではないか?」という意見があるかもしれません。実際に、スーパーなどでは、「養殖ウナギ」がたくさん出回っています。しかし、ウナギは現在のところ、卵から完全に人工的に養殖する技術が確立されていません。
つまり、「養殖」と書いてあるものは、全部天然の稚魚(シラスウナギ)を獲って、それに餌を与えることで育てた、自然の資源に頼った製品なのです。養殖のウナギを食べていれば、天然資源が守られる、というわけではありません。
タコ
急増する輸入量
日本のタコの漁獲量は1950年代から1970年にかけて急増し、その後、減少し続けてきました。
その減った分を補っていたのが、輸入されたタコです。そして近年は、その輸入量も減っています。原産国で輸出のための漁獲が増え、資源が枯渇してしまったためです。
地球の裏側から
日本へのタコの2大輸出国は、西アフリカのモロッコとモーリタニアです。
かつて圧倒的に多かったモーリタニアからの輸入は、1990年頃をピークに減少。以後はモロッコからの輸入が増えました。そのモロッコからの輸入も、近年急激に減少しています。
このモーリタニアとモロッコの漁獲量を、それぞれ日本への輸出量を重ねてみると、ほとんど一致しているのが分かります。モーリタニアからの輸入量の方が、モーリタニアの漁獲量よりも多い年もあり、データの信頼性にも疑問があります。
モロッコやモーリタニアで獲れたタコのほとんどが日本に来ていたことは明らかで、それが暫らく続いた後は、どちらもタコが獲れなくなってしまいました。日本人が、たこ焼の具や酢だことして、安く大量に食べることにより、ある国の資源を根こそぎ獲ってしまい、次々に違う国や地域を探して開拓していく、という、典型的な事例です。
カニ
「食べ放題」の裏に「獲り放題」
カニも日本では人気の高い水産物の一つ。かつては、日本の近海でも、人気のあるズワイガニをはじめ、たくさんのカニが獲れました。
しかし、ズワイガニは日本の漁獲量は1970年頃をピークに減少。その後、アメリカの漁獲量が増えましたが、これも減り、近年は韓国やロシアなどの漁獲が目立っています。
日本はタラバガニやアブラガニをロシアから輸入していますが、ロシアでは2004年の1年間に漁獲が許可されているカニの量が、約1万トンであったにもかかわらず、その倍の量が日本に輸入されました。
獲り過ぎた密漁の可能性のあるカニが、日本で喜ばれている「安いカニの食べ放題」を支えてきたのです。
アサリ
減少する国産アサリと増える輸入
日本のアサリの漁獲量は、1950年代から増え、1980年の後半から減少しています。
この漁獲の減少は、輸入によって補われています。当初多かったのは、韓国からの輸入ですが、その輸入が少なくなってくると、今度は中国から輸入するようになりました。そして、中国からの輸入も減ってくると、今度は北朝鮮からの輸入に切り替わりました。
北朝鮮産のアサリについては、国による制裁が行なわれたことで、北朝鮮から輸入ができなくなり、輸入量も一気に下がりました。ところが、今度は再び中国からの輸入が増えています。これは、北朝鮮で獲ったものを、一度中国に持ちこみ、そこから中国産として日本に輸出した可能性があります。実際にそういう事実が発覚して、輸入業者が捕まった例もありました。
また、中国や北朝鮮から輸入したアサリが、生きたまま一度日本の干潟にばら撒かれ、暫らく経ってから漁獲されることもあります。このようなアサリは、海外から病気などを持ち込み、また日本のアサリを駆逐してしまう可能性もあるため、外来種としての問題も抱えています。