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キタサンショウウオのいる場所で?釧路湿原周辺で進む太陽光発電事業

この記事のポイント
気候変動問題の解決策として、普及が期待される太陽光や風力などの再生可能エネルギー。しかし、その発電施設を、場所を選ばずに建設すれば、地域の自然に大きな負担となる危険があります。北海道の釧路湿原周辺で急増している太陽光発電開発もその1つです。国内最大の湿地環境にして、ラムサール条約登録地でもある釧路湿原とその周辺地域は、多くの鳥類や絶滅危惧種キタサンショウウオの生息地でもあります。これら野生生物や生態系に大きな影響を与えず再生可能エネルギーの普及が進められるか、釧路市の対応が注目されています。
目次

再生可能エネルギーに寄せられる期待と課題

近年、深刻化の一途をたどる気候変動問題は、人間社会をはじめ、地球環境にも甚大な影響をもたらしています。

さらなる地球環境への影響を避けるには、2050年までに排出量ゼロの脱炭素社会を実現することが必要であり、残された時間は多くありません。

そのため、原因となる二酸化炭素(CO2)を排出しない、太陽光や風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーの普及拡大が急務となっています。

気候変動による生物多様性への影響を避けるためにも再生可能エネルギーの普及は欠かせない
© Michel Gunther / WWF

気候変動による生物多様性への影響を避けるためにも再生可能エネルギーの普及は欠かせない

しかし、一方で、こうした新しいエネルギーの普及にともない、各地で新たな問題が生じるようになりました。

豊かな自然環境が残る場所や、景勝地の近くでも発電施設の建設計画が持ち上がるようになり、野生生物の生息地が失われたり、景観の悪化を招く問題が起き始めたためです。

釧路湿原周辺での太陽光発電事業

現在、こうした自然環境への負担が心配される地域の1つとして、北海道にある日本最大の湿原、釧路湿原が挙げられます。

釧路湿原は、1980年に日本で初めて、国際的な保全湿地である「ラムサール条約」の登録湿地に指定されたウェットランド(湿地環境)で、タンチョウなどの鳥類をはじめとした野生生物の宝庫となっています。

その主要エリアは国立公園に指定されていますが、公園の外側、保護区に指定されていない地域にも、いまだ多くの貴重な自然環境が残されています。

釧路湿原の周辺域に生息する希少種のキタサンショウウオ。

釧路湿原の周辺域に生息する希少種のキタサンショウウオ。

この釧路湿原の周辺地域では近年、複数の太陽光発電施設の建設が進められています。

現地では、こうした計画による湿地環境への影響が懸念されており、とりわけ、ほぼこの地域にしか分布していない絶滅危惧種のキタサンショウウオについては、開発による絶滅が危惧されています(※1)。

キタサンショウウオの生息適地は、保護区である国立公園内にくわえ、保護区外にも多く存在しているため、湿原周辺部での開発は特に注意が必要です。

実際、環境省の「レッドリスト(絶滅の恐れがある野生動植物の種のリスト)」では、2020年にキタサンショウウオを、従来の準絶滅危惧から2段階引き上げ、絶滅危惧Ⅰ類Bに選定。その原因の一つとして、近年の釧路湿原周辺での太陽光発電開発を挙げています。(※2)

また、同様に釧路湿原の周辺部に生息する、チュウヒなどの希少鳥類についても、影響が心配されます。

地図上の赤いメッシュはキタサンショウウオの生息適地。市街部と湿原にまたがるように分布している

地図上の赤いメッシュはキタサンショウウオの生息適地。市街部と湿原にまたがるように分布している
出典:釧路市ウェブサイトより

経産省(資源エネルギー庁)が公表している発電設備の認定情報によれば、現在も比較的規模の大きな事業が釧路湿原の周辺で新たに計画されており、今後さらに計画が増えていくことも想定されます(※3)。

規模の大きな事業については、本来は、国や都道府県が定める環境影響評価(環境アセスメント)により、環境影響が生じないよう調査・影響を予測し、対策が講じられるのが理想です。

しかし、現状は多くの中規模事業はその対象要件未満であり、こうした影響評価は義務付けられていません(※4)。

そのため、個別事業で影響評価が行なわれなくとも、環境への大きな負担が発生することのないように、地元自治体には、主体的に事業開発の立地を適切な場所へと誘導していくことが求められます。

こうした状況の中、2023年3月17日、地元の9つの自然保護団体は、釧路市に宛て、太陽光発電の立地適正化を求める趣旨の要望書を提出。WWFジャパンもこれを支持する旨を表明しました(※5)。

開発と保全のバランスをとる施策(ゾーニング)の必要性

再生可能エネルギーの開発による自然環境への影響を最小化するためには、「開発を避けるべき場所(保全区域)」や逆に「開発を進めていくべき地域(促進区域)」を決めて、対外的に明示する「ゾーニング」を、あらかじめ自治体(市町村)が進めておく必要があります。

WWFジャパンでは自治体によるゾーニングのためのガイドを公開している
© WWF Japan

WWFジャパンでは自治体によるゾーニングのためのガイドを公開している
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2022年の温暖化対策推進法の改正により、こうしたゾーニングの取り組みが各自治体の「努力義務」として規定されましたが、あくまで実施は任意であるため、残念ながらまだ実際に取り組んでいる自治体は多くはありません。

釧路市では2023年3月の市議会で、この釧路湿原周辺での開発事業の問題が議題に上ったことを受け、市長がガイドライン策定に言及。今後の対応が注目されます。

自然環境の保全と、再生可能な自然エネルギーの開発を、うまく両立していくためにも、特に、釧路湿原のような貴重な自然環境を有する自治体では、ゾーニングの早期実施が必要です。

WWFジャパンは、今後も各自治体が脱炭素社会に向けた計画づくりを進められるよう、引き続き協力と支援を進めていきます。

参考情報:今後必要となる再生可能エネルギーの予測

脱炭素社会の実現に向けて社会が動き出したいま、これまで以上に多くの再生可能エネルギーが導入されていくことが想定されます。

WWFが2021年9月に発表した「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」では、脱炭素社会の実現に向けて、2050年までに太陽光発電設備で約3億6000万kW(現在の導入量の約5倍)、風力発電設備で約1億5000万kW(現在の導入量の約31倍)の設備が必要になることが分かっています(※6)。

省エネルギーが進んだ上でなお必要になる開発規模

省エネルギーが進んだ上でなお必要になる開発規模

(※1) Ecological niche differentiation of two salamanders from Hokkaido Island, Japan より
(※2) 環境省レッドリスト2020補遺資料より
(※3) 資源エネルギー庁の事業計画認定情報 公表用ウェブサイト(1月31日時点)より北海道のデータを参照。釧路町、釧路市を対象にスクリーニングした結果
(※4) 太陽光発電については、国の環境影響評価法の対象要件は、環境アセスメントが必須の第1種では4万kW以上が対象、評価を行うか判定の上で決める第2種では3万以上~4万未満となる。また北海道環境影響評価条例では、第1種は国と同様で、第2種の要件が2万kW以上~4万kW未満となる。そのためこれ以下の規模の事業は、アセスメントの実施は義務にならない。
(※5) 釧路湿原周辺における太陽光発電事業に関する意見および再生可能エネルギーと地域共生のための実効性のある釧路市条例の制定に向けた要望
(※6) 資源エネルギー庁の再生可能エネルギー情報公開ポータルサイトより、2022年9月末時点の設備導入量の情報より概算

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