持続可能なエネルギー社会へ向けて、問われるエネルギー費用負担の在り方


東日本大震災以降、さまざまな課題が明らかになった日本の電力事業。2016年12月19日には、経産省の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」が「中間とりまとめ」を公開し、パブリックコメントにかけました。特に注目されたのは、福島第一原発を含む原発の廃炉・賠償費用の負担についてです。 事故のリスクも踏まえ、本来は事前にコストに乗せ、積み立てておくべき兆円規模にのぼるこの費用を、中間とりまとめでは今後、電気代の一部として消費者が負担するとしています。自然エネルギーの利用拡大にも深くかかわる「電力システム改革」。その行方に大きく影響するこうした重要な方針が、広く認知されないまま決定されようとしています。

震災以降の電力に関する議論

2011年3月の東日本大震災で生じた、福島第一原発の事故発生以降、生活や経済に欠かせない電力を、国内でどう生み出し、供給するかが改めて議論になりました。

特に見直しの対象となったのは、東京電力など10の大手電力会社が、発電の段階から一般消費者に届けるまでを独占している体制です。

このため、経産省に電力システム改革専門委員会と呼ばれる専門家会合が設置され、約1年に及ぶ議論が進められてきました。

そして2013年2月、同委員会は「電力システム改革専門委員会報告書」を発表。

太陽光や風力など自然エネルギー普及への要望が高まる中で、消費者が自由に電気を選べる市場の整備が重要だとして、電力業界改革の方針がとりまとめられました。

改革の範囲は、発電部門や小売部門をはじめ、電気を送る送配電部門、さらに電気の売買を取り仕切る電力市場など、いわゆる電力システム全体にわたり、以降、さまざまな電力システムの改革が、この方針に基づき進められてきました。

中でも注目されたのは、「電力の小売全面自由化」です。

自由化にともなう費用負担の課題

2016年4月、この小売り電力全面自由化(自由化)が開始されました。

それまで、東京電力など一部の限られた大手電力会社(旧一般電気事業者)からしか電気を買うことができなかった一般の個人消費者(※1)は、この自由化により、新しく電力市場に参入した電気事業者(新電力)からも、電気を買うことができるようになったのです。

これは制度上、誰もが、風力や太陽光などによる、再生可能な自然エネルギーによる電力を、自ら選んで使用することができるようになった、ということです。

一方で、自由化にともなう問題も顕在化してきました。

その一つが、原子力発電所にかかる莫大な費用の回収です。

原発を有する大手電力会社は、いずれも自由化前までは電力の市場をほぼ独占し、法律で認められる範囲内で必要な費用を料金に組み込んで、着実に回収していました。

しかし、市場が自由化されたことで、旧一般電気事業者の顧客が減少し、電気料金による費用の回収を確実にできなくなる可能性が指摘されるようになったのです(※2)

しかし、たとえ回収できず、運用が経済的に見合わないとしても、原子力発電所は簡単に止めることができません。しかも廃炉には膨大なコストがかかります。

そして本来であれば、廃炉の費用や、事故が起きた場合の賠償費用などは、原発を持つ大手電力会社が事前に見積もって、電気料金に組み込み、積み立てておくべきものでした。

しかし、原発は安い、という通念のもと、そうした処置を適切に行なってこなかったため、福島第一原発の事故では、賠償や廃炉の費用が十分に確保できない、という事態が生じたのです。

そうした中、2016年9月、「電力システム改革貫徹のための政策小委員会(貫徹委員会)」が、経産省内に立ち上げられました。

そして、その重要課題の1つとして注目され、あらためて議論されたのが、「電力の市場自由化が進む中、原子力の費用負担をどうすべきか」という課題でした。

提示された費用と負担方法

2016年12月19日、約2カ月半にわたる議論の末、貫徹委員会から「中間とりまとめ」が発表されました。

多岐にわたる論点のうち、原子力関連で特に注目されたのは、次の3点の費用負担についての方針です。

これらの負担はいずれも「託送料金」、すなわち電気料金の一部に乗せることで回収する、という点で全て共通しています。

  審議で示された 参考費用 「中間とりまとめ」での方針
①事故炉の賠償費用 約2.4兆円 2011年以降、消費者は原発事故の賠償への備えとして「一般負担金」を東京電力などに支払うことが義務づけられた。しかし、2011年以前は、この積み立てをせず原発を「安いもの」としてきた経緯があるため、今後は「過去分」として、遡って全消費者から全額徴収する。
②事故炉の廃炉費用 約13.6兆円
(※3)
東京電力のグループ企業、東京電力パワーグリッド(送配電事業者)の事業収益の一部を充てる(※4)。
(WWF補足:本来は、送配電事業者の収益が一定水準を超えた場合、託送料金はその分、値下げされることになっている(※5)。そのため、この方針は実質的な電気料金での回収と実質的に変わらない)
③通常炉の廃炉費用 1,540億円
(廃炉6基分(※6))
(2016年10月末時点で、まだ廃炉でない炉は46基(※7))
廃炉を決定した場合、一部の廃炉施設を資産扱いし、減価償却による費用計上ができる(※8)。その償却費用は、電力自由化以前は「総括原価方式」に基づき、電気料金として回収されてきた。今後については、託送料金に組み込み、全ての消費者から回収する。

託送料金とは、発電所から需要家に電気を送る料金、いわゆる「送料」に相当するもの。 電気を使う人であれば、その電源が原発によるものであれ、風力や太陽光によるものであれ、ほぼ必ず支払う費用です。

つまり、自由化の下で、原発からの電気を扱っていない電力の小売事業者を選び、そこから電気を買った場合も、その人は原発の費用を支払わねばならない、ということになります。果たして、これは公正な市場といえるのか、という問題が残ります。

目指すべきエネルギー社会に向けた、あるべき消費者の責務とは

今回の原発の費用負担は、単に消費者の個人負担を増やす、という話には留まりません。

そもそも、原子力発電は、自然エネルギー等に比べても、「費用が安い」というのが、これまで政策的に推進され、優遇されてきた理由の1つでした。

しかし、その陰で、事故が起きたときに必要となる費用が、きちんとこれまでの費用の中に組み込まれてこなかったということが、今回の問題の大きな原因です。

廃炉にかかわる費用は、いずれは誰かが負担しなければなりません。その負担を今後、国民が全員で引きうけるというのも、一つの考え方です。

しかし、それを決定する前に、そもそも「原発が安い」という見積もりが、明らかな間違いであったことを、国や大手電力会社は認める必要があります。

そうでなければ、安かったと説明され続けてきた原発のコストを、「追加料金」という形で、消費者が請求される理由はないからです。

この議論は、地球温暖化が世界各地で異常気象などの形で深刻な問題となり、これまで以上に脱炭素に向けたエネルギー社会への移行が求められていく中、本当に進めるべきエネルギー源とは、何なのか。何が、真に「持続可能なエネルギー」なのかを、問い直すものでもあります。

今回、あらためて提示された、託送料金での負担をめぐる方針は、これまでになく生活に深いかかわりを持つ課題を、消費者に問うものとなっています。

少なくとも政府は、この件について十分な分析と説明を行ない、パブリックコメントに留まらない国民的議論を経た上で、国民にその可否を問うていくべきでしょう。

「エネルギー社会」という言葉には、電力を作ること、それを消費することだけでなく、それらを支え、循環させる対価として、国民が引き受けるべき費用や責任が含まれていることを、考えてゆかねばなりません。


※1 ここでは主に50kW以下の低圧消費者を指す。
※2 「地域独占・総括原価方式から一気に電力自由化に移行すると、規制料金の下で保証されてきた確実な原価回収が見込めなくなり、競争環境の下で回収することが困難となる費用(ストランデッドコスト)が発生する」、第2回財務会計WG 資料3 参考資料より
※3 "福島事故及びこれに関連する確保すべき資金の全体像と東電と国の役割分担"に示された総額は21.5兆円。賠償費用(7.9兆円)含み、これを除く廃炉関連費用(廃炉・汚染水、除染、中間貯蔵)については約13.6兆円が示されている。第6回財務会計WG中に参考提示された資料で、東京電力改革・1F問題委員会(第6回) 参考資料より
※4 中間とりまとめ(案)(p22)においては、「~グループ各社との負担の程度を比較し著しく不当な分担となっていないかどうかを確認する~」と記載されており、東電HDの企業のうち、東電PGのみが廃炉費用負担が課されることを示していない。
※5 一般送配電事業者については、「託送収支の超過利潤が一定の水準に達した場合や、想定原価と実績原価の乖離率が一定の比率を超えた場合は、電気事業法の規定に基づき託送料金の値下げを求められることがある」とされている。第3回財務会計WG 資料5より
※6 関西電力美浜1・2号機=491億円、中国電力島根1号機=205億円、四国電力伊方1号機=289億円、九州電力玄海1号機=281億円、日本原電敦賀1号機=274億円の総計。第6回財務会計WG 資料5 参考資料より
※7 2016年10月末時点の数字(事故炉を含む廃炉を決定した炉を除く)。第6回財務会計WG 資料5  参考資料より
※8 2013年、2015年に制定された廃炉会計制度により、廃炉決定後も原子炉格納容器や原子炉容器などを廃炉措置資産として、また発電機やタービンなどを発電資産として資産計上し、その残存簿価を分割して減価償却することが認められている。経産省 廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ報告書 「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」より

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