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【解説】持続可能な漁業のカギ「漁獲証明制度」とその課題

この記事のポイント
持続可能な漁業管理の有効な手段の一つとして注目されている「漁獲証明制度」。水産物のトレーサビリティを確立できるこの制度は、すでにマグロ類などを管理する地域漁業管理機関(RFMO)やEU、アメリカで運用されており、日本でも2022年12月から4種の輸入水産物に対してこの制度が導入される予定です。しかし、世界的にはまだ運用はごく一部に限られている状況です。この記事では、漁獲証明制度のRFMOでの運用状況を元に、課題やその解決策について解説します。
目次

漁業におけるフルチェーン・トレーサビリティの必要性

今、世界の各地で、木材や紙、水産物といった、さまざまな産品の生産により、現地の国々で環境破壊や社会的な問題が発生しています。

水産物(シーフード)についても、過剰な漁獲や、違法な操業などにより、資源が減少。海洋の生態系にも深刻な被害をもたらしています。

これを解決する手段として求められている、持続可能な漁業の確立には、「いつ、どこで、だれが、なにを、どのように」獲ったかを明らかにする「トレーサビリティ」、すなわち、「生産、加工および流通の各段階において食品の動きを追跡(トレース)できるようにすること」が欠かせません。

水産物にとってのトレーサビリティは、漁業の操業時、船上での加工、そしてその後の包装、輸送、保管といった最終消費者に届くまでの各段階で、衛生的な状態を確保し、食の安全を実現する上でも重要なものとなっています。

特に、流通構造が複雑な日本の水産物市場においては、生産現場から最終消費地までを正確にトレースすることができる「フルチェーン・トレーサビリティ」が重要です。

さらに、水産物のトレーサビリティは、漁獲、加工、販売された製品が、国や地域で合意されたルール(漁獲割当量など)を確実に遵守できているか、監視、検証および認証する、という、持続可能性を実現する上で不可欠な、重要な役割を担っています。

この役割によって、フルチェーン・トレーサビリティを確立するシステムの構築は、世界の水産資源の持続可能な管理に対する最大の脅威の一つである「違法・無報告・無規制漁業」(IUU 漁業)を根絶する手段としても有効とされています。

地域漁業管理機関(RFMO)における漁獲証明制度とその課題

海は特定の国に属さないエリア(公海)も広く、環境の保全や資源の管理を実現するのは、簡単なことではありません。

そこで、マグロといった回遊魚の管理のために、地域漁業管理機関(RFMO)という国際管理機関があり、資源管理のためのルールを定めています。

これらの国際条約は それぞれ、科学的な資源評価を行ない、海域ごとに各国が獲ってよい魚の量や大きさ、漁期などを魚種ごとに定めています。

また、それらのルールがしっかりと守られているかを監視、検証する責務もあるため、いくつかのRFMOでは、保全管理措置(CMM)において、トレーサビリティのための「漁獲証明制度(CDS:Catch Documentation Scheme)」が定められています。

【参考情報】マグロの資源管理を行なう国際機関

マグロ類を管理する地域漁業管理機関の管理対象海域図

漁獲証明制度(CDS)とは?

この漁獲証明制度とは、「いつ、どこで、だれが、なにを、どのように」漁獲したかを、その漁船の旗国に報告し、その情報が正しいことを示す証明書がなければ、漁獲した水産物を取引できないようにする制度です。

持続可能な漁業管理のためには、いち早く、より多くの魚種に対して漁獲証明制度を導入する必要があり、導入のための議論が行なわれていますが、RFMOでは導入が遅れているのが現実です。

その主な理由は下記の通り。

  • RFMOの各加盟国や協力的非加盟国の間では、この制度の導入の優先度がまだ低いこと
  • 漁獲証明制度の整備・運用には高い専門性が必要とされること
  • RFMOが全体的な改革を十分かつタイムリーに実施できていないこと など

この他にも、さまざまな要因が考えられますが、特に、発展途上国の中には、自国の漁業において、「いつ、どこで、なにを、どのように」漁獲したかを把握できていない国が依然として多く、それらの国では漁獲証明書の発行自体が困難な状況もあります。

また、RFMOや魚種によって別種類の漁獲証明制度が混在していたり、証明書に記載すべき情報(KDEs, Key Data Elements:主要データ要素)が異なるケースもあるなど、制度を運用する側にとっては、より複雑に見えてしまっていることも、この制度の拡大の阻害要因となっています。

漁獲証明制度のさらなる拡大にむけて

RFMOにおけるさらなる漁獲証明制度の導入拡大と、その運用負担軽減のため、WWFヨーロッパ・オフィスも参加しているEU IUU連合は、2021年12月に発行した報告書において、以下の提案を行ないました。

  1. RFMO管轄水域内の全魚種を対象とする 漁獲証明制度を策定し、漁獲記録文書の作成に関する明確な規則や、データの偽造を防止し、かつ担当者が簡単に扱えるようなデジタルツールを導入すること
  2. 漁業者による漁獲に関するデジタルデータの入力、管理(検証や認証)を行なうためのデータ参照、外部データベースとデータ連携、これらが可能な電子システムを構築すること
  3. EU IUU 連合が示した17項目の主要データ要素(KDEs)を漁獲証明制度に組み込むこと
  4. 漁獲記録文書の準備、認証、そして漁獲証明書の発行にあたり、どの機関やステークホルダーが責任を負うのか、明確にすること
  5. データ照合、リスク評価、目標設定(最低検査実施率など)に関する強力な手続き体系を定めること
  6. 市場国間でデータをやり取りするための仕組みを強化すること(共通のデータフォーマット、システムの相互運用性など)
  7. かつお・まぐろ類を扱うRFMOすべてで共通して使える、すべてのかつお・まぐろ類魚種、およびその近縁魚種を対象とする普遍的整合性のある漁獲証明制度を作ること
  8. かつお・まぐろ類以外を扱う RFMO すべてで共通して使える、かつお・まぐろ類以外の魚種を対象とした普遍的整合性のある漁獲証明制度を作ること
  9. 漁獲証明制度間で効果的に整合性を持たせるための国際基準の採択を促すこと。また、その実施のために必要な技術的および法的な条件の採用を促すこと。

【EU IUU 連合による報告書】
水産物トレーサビリティ~IUU漁業と闘うためにRFMOによる漁獲証明制度間の整合性を図るには~

日本においても、2022年12月より特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)が施行され、サンマ、イカ、サバ、マイワシを輸入する際には、漁獲証明書の提出が義務付けられる予定です。

しかし、この制度の対象は、まだ4種のみ。
IUU漁業などの問題を解決するためには、将来的に全魚種に制度の対象を拡大することが求められています。

例えば、一時は絶滅が危惧された太平洋クロマグロについては、「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」において漁獲証明制度の導入がすでに合意されました。
しかし、依然として未導入の状況が続いています。

【参考情報】WCPFC北小委員会会合2021閉幕 時期尚早の太平洋クロマグロの漁獲枠の増枠方針に疑問

© Wild Wonders of Europe / Zankl / WWF

大西洋クロマグロやミナミマグロでは漁獲証明制度が導入されていますが、太平洋クロマグロでは未導入の状態が続いています。制度導入に向けた調整を主導している日本政府の手腕が問われています。

また、先行して漁獲証明制度を導入している、EUやアメリカとも連携し、主要データ要素の統一など、各国の制度の整合性を図ることも求められています。

【参考情報】IUU漁業について

IUU漁業撲滅のため、今後、世界規模での効果的かつ包括的な漁獲証明制度の導入が求められており、それらの知見を多く有している日本は、EU、アメリカとともに、国際的な議論におけるリーダーシップを発揮することが期待されています。

WWFジャパンは、日本だけでなく世界のステークホルダーとともに、漁獲証明制度の導入拡大や、フルチェーン・トレーサビリティの拡大にむけて活動を続けていきます。

EU IUU 連合による報告書

RFMOにおける漁獲証明制度の概要と課題についての詳細はこちらのレポートを御覧ください。

【報告書】水産物トレーサビリティ~IUU漁業と闘うためにRFMOによる漁獲証明制度間の整合性を図るには~

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