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太平洋クロマグロの資源回復への道筋は? WCPFC北小委員会会合

この記事のポイント
オンラインで開催されていた中西部太平洋まぐろ類保存委員会(WCPFC)の北小委員会が2020年10月8日、閉幕しました。この会議では、2018、2019年と同様、漁獲可能な量(漁獲枠)の引き上げが日本から提案されましたが、資源回復を優先すべきとの意見により提案は棄却されました。WWFは、いまだに資源が危機的状況であり、かつIUU漁業由来でないことを担保する電子漁獲証明制度が未導入の現状では、漁獲枠の引き上げを行なうべきではないと考えています。

(2020年9月30日公開)

「WCPFC 2020年北小委員会会合閉幕(2020年10月9日 追記)」

太平洋のクロマグロ資源は回復傾向に

太平洋の海洋生態系の頂点に立つ太平洋クロマグロ*(標準和名:クロマグロ 学名:Thunnus orientalis)。
*:この記事では便宜上クロマグロを太平洋クロマグロとしております

東アジア近海からメキシコ沿岸まで、大洋を回遊するこの大型魚は、資源としても重要な魚種であり、日本はその7割以上を消費する、世界最大の消費国です。

しかし、長年続いた過剰な漁獲により、その資源量は危機的な状況に陥っています。

北太平洋マグロ類国際科学委員会(ISC)は2020年8月に発表した最新報告の中で、太平洋クロマグロは、漁獲規制により未成魚の漁獲圧が減少するととともに、資源は初期資源量(漁業が開始される以前の推定資源量)の4.5%(2018年の資源評価では3.3%)までに回復したことがわかりました。

しかし、世界的には、初期資源量の20%を下回ると禁漁を検討しなければならない危険水準であることを考えると、4.5%である太平洋クロマグロ資源は、依然として枯渇状態にあり、予断を許さない状況です。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFCとIATTCとが共同で管理しています。

早期導入が待ち望まれる漁獲証明制度

この太平洋クロマグロ資源の保全については、「漁獲証明制度(CDS)が導入されていない」という、重要な国際的な課題がまだ残されています。
漁獲証明制度とは、漁獲された水産物が違法でないことを示すための制度で、漁獲物に対し、いつ、どこで、だれが、どのように漁獲したかを記録することを義務づける制度です。
タイセイヨウクロマグロやミナミマグロでは、すでに漁獲証明制度が導入されていますが、太平洋クロマグロについては、漁獲している各国の間で、導入することに合意はされたものの未導入の状態です。

いっぽう、タイセイヨウクロマグロにおいては、漁獲証明制度が導入されていたにもかかわらず、2018年には違法な過剰漁獲が発覚しました。

したがって、太平洋クロマグロに対しては、早急に漁獲証明制度を導入することだけでなく、電子化の徹底などによって、不正行為をしっかりと防ぐことができるようなシステムの導入が求められています。

太平洋クロマグロ資源の早期回復をめざして

2018年、2019年のWCPFC北小委員会会合では、現状設定されている漁獲量を増枠するよう、日本から提案されました。

しかし、会議では「時期尚早」という判断から提案は棄却されています。

2020年の資源評価結果により、太平洋クロマグロ資源が回復傾向にあることが示されましたが、依然として危険水準であることには変わりはありません。

持続可能な太平洋クロマグロ資源の利用のため、WWFはWCPFCに対し、以下の提案を行なっていきます。

  1. 予防原則にしたがった目標/限界管理基準値を導入すること
  2. 漁獲枠を増やすことなく、より早期に回復目標に到達させること
  3. 正確な漁獲情報収集のためにも、漁獲証明制度(CDS)を早期に導入すること

異例のオンライン開催となる会合で、どのような道筋が示されるのか。展開が注目されます。

WCPFC 2020年北小委員会会合閉幕(2020年10月9日 追記)

オンライン上で開かれていた第16回WCPFC北小委員会会合が2020年10月8日に終了しました。

太平洋クロマグロの漁獲枠の増枠提案は、2020年も否決

今回会合でも、2018、2019年と同様、日本から、現状で設定されている太平洋クロマグロの漁獲枠を増枠するよう求める、管理措置の改定が提案されました。

これは、2020年の最新の資源評価において、資源が回復傾向にあることに加え、資源回復計画の達成確率がさらに向上した、という結果をうけた提案です。

しかし、資源が回復基調であるとはいえ、未だに資源は枯渇状態。資源回復を優先すべきとの米国の反対により、漁獲枠の増枠は今年も見送られることになりました。

漁獲証明制度(CDS)の導入の見通しは?

IUU漁業を撲滅するためには、すべての魚種に対し、早期の導入が求められる漁獲証明制度導入。太平洋クロマグロの電子漁獲証明制度導入プロジェクトを主導している日本から、新型コロナウイルスの影響で進捗に遅れは出ているものの、着実に制度導入に向けて議論が進められていること報告されました。

また、すべて魚種での漁獲証明制度導入を見据えると、熱帯マグロをふくめた共通の電子システム構築が必要です。しかし、WCPFCで制度導入が決定しているのが太平洋クロマグロのみということもあり、そのための議論は遅延しています。

太平洋クロマグロの資源は回復基調。しかし、解決すべき課題は多い

2020年の資源評価結果によって、2015年より導入された保全管理措置が十分機能し、着実に太平洋クロマグロの資源が回復してきていることが明らかとなりました。いっぽう、クロマグロ以外の魚を獲るために設置された定置網に、クロマグロがかかってしまう「混獲」の問題は解決されていません。
今後、資源回復につれて混獲の発生頻度が増加すると予想されますが、実用化されつつあるクロマグロの混獲回避装置の開発・普及を促進し、漁獲枠を増やすことなく、混獲の影響を低減していくことが必要であると考えられます。

会合に参加したWWFジャパン海洋水産グループサイエンス&テクノロジー担当の植松周平は、今回の結果について次のように述べています。

「今回の会合においても、資源回復を優先するため、現状の効果的な保全管理措置が引き継がれたことは、歓迎すべき結果だと思います。

いっぽう、漁獲証明制度の導入スケジュールは遅延しているため、太平洋クロマグロ以外の魚種についても、早期に漁獲証明制度の導入を決定し、共通電子システム構築を急ぐことが必要です。

また、定置網漁におけるクロマグロの混獲問題は、韓国でも顕在化してきています。

技術立国である日本は、漁獲証明制度の電子化や定置網の混獲回避技術開発など、日本の科学技術を活かし、世界の水産資源の保全に対し、より一層貢献していくべきです」

太平洋クロマグロは、絶滅の危機に追い込まれるまでは、現在のような厳密な保全管理措置がとられてきませんでした。この苦い経験を活かし、他のマグロ類についても、資源が減少する前に、適切な保全管理措置を導入していくことが重要です。WWFは、持続可能な漁業実現のため、引き続き各国政府に働きかけを行っていきます。

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