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2050年排出ゼロを実現する!日本の「エネルギーシナリオ」

この記事のポイント
WWFジャパンは2020年12月11日、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを実現する、日本の「エネルギーシナリオ」のアップデート版を発表しました。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの経済回復が志向される中で、日本の産業構造の変革・強化につながる、今後の政策、施策をまとめたものです。また同時にWWFジャパンは、2050年ゼロに向けた現実的な2030年のエネルギーミックスの在り方と、「パリ協定」に再提出するべき日本の国別削減目標(NDC)についても、提言を行ないました。
目次

WWFでは2021年9月にエネルギーシナリオのアップデート版を発表しております。

激化する気候変動の影響と対策の遅れ

気候変動(地球温暖化)に由来すると考えられている、干ばつや豪雨、台風の大型化といった異常気象が、毎年のように世界各地を襲うようになっています。

さらに、マラリアのような感染症の拡大や、大規模な森林火災の更なる激化などをも引き起こしていると考えられています。

これが2020年に世界を襲った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような危機と重なった場合の被害と損失は、はかり知れません。

それにもかかわらず、各国政府による温室効果ガスの排出削減目標は、いまだに不十分な状況です。

2020年にスタートした、世界の温暖化防止の約束「パリ協定」のもと、ヨーロッパでは早々にEU(欧州連合)が2050年排出ゼロを表明。

さらに、中国も2060年までの排出ゼロを表明し、アメリカでも2050年ゼロを選挙公約に掲げたバイデン大統領候補が当選したことで、温暖化防止に向けた国際社会の機運は、大きく盛り上がりました。

しかし一方で、各国が具体的に示している「国別削減目標(NDC)」は、全て足し合わせても、気候変動の深刻な影響を回避するために必要とされる水準、すなわち、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べ、1.5度未満に抑えるレベルには、明らかに不足しています。

このままでは今後、気候変動の影響はさらに激化し、経済や産業はもとより、人の暮らしや健康にまで、深刻な被害が及ぶことになるでしょう。

「自然エネルギー100%」の未来を示すWWFのシナリオ

こうした事態に対し警鐘を鳴らし続けてきたWWFジャパンでは、2011年から6回にわたり、「2050年までに自然エネルギー100%」を日本で実現する「エネルギーシナリオ」を提言してきました。

この過去10年間、日本は国際社会において、決して温暖化防止に積極的な姿勢を示してきた国ではありませんでした。

しかし、各国の排出ゼロに向けた機運と、アメリカ大統領選挙の結果の見通しから、2020年10月26日、菅義偉総理は就任後初の所信表明演説の中で、「2050年温室効果ガス排出量ゼロ」を表明。

この宣言により、日本も脱炭素社会へ向けた流れが加速し始めました。

それでも、現状で日本政府が掲げている削減目標は「2013年比でマイナス26%」という、2050年の排出ゼロ達成とは、かけ離れた、整合性の取れない内容となっています。

そのため、WWFジャパンでは2020年12月11日、株式会社システム技術研究所に委託してとりまとめた、日本で2050年までに脱炭素社会を実現する、エネルギーシナリオのアップデート版を新たに発表。

実際に排出ゼロを実現する上で有効な政策、施策の案をまとめ、提言しました。

日本で「2050年に100%自然エネルギー社会は可能」

この新しいアップデート版エネルギーシナリオの中で、WWFジャパンは、使用するエネルギーの削減(省エネ)と、風力や太陽光などの再生可能な自然エネルギーへの転換(再エネ)の拡大を進めることにより、2050年までに日本として温室効果ガスの排出を、技術的にゼロにできる可能性を提示。

次の考え方で「2050年に100%自然エネルギー社会は可能」であることを示しました。

① 使うエネルギーを減らす

  • 人口減とコロナ禍で加速した産業構造の転換で、重厚長大型からサービス産業型へ変化
  • 産業構造の変化と、現在想定できる省エネ技術・対策の普及により、一次エネルギー換算でエネルギー需要は2050年までに約3割まで減少する(2015年比)
  • 化石燃料による発電は投入したエネルギーの6割が損失になるが、自然エネルギーに変わっていくことで、最終エネルギー需要に占める損失は非常に小さくなる

② 自然エネルギーに替えていく

  • 化石燃料(石炭は2030年全廃)と原発は段階的廃止
  • 全国 842 地点の AMEDAS2000 標準気象データを用いて1 時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーションを実施して24時間365日電力需要を賄えることを確認
  • 可能な限りの燃料や熱のエネルギー需要を電化(電気自動車等)
  • 電力以外の燃料・熱需要は、グリーン水素(余剰電力を使った水の電気分解で作成)も活用して賄う
  • 鉄鋼産業における高炉は電炉への置き換えとグリーン水素活用

③ CO2がゼロになる

  • エネルギー起源CO2排出量はゼロ、温室効果ガス排出量もゼロ

2050年ゼロにつながる2030年のエネミックスとパリ協定削減目標

また、2050年に排出をゼロにするためには、その途上である2030年のエネルギーにあり方が決定的に重要です。

そのため、WWFシナリオでは、2030年までに石炭火力ゼロ、自然エネルギー約50%、省エネルギー約20%とすることで、日本はパリ協定の削減目標として、45%の温室効果ガスの排出削減が可能であることを示しました。

WWFジャパンはこれらを実現する中で、新型コロナウイルス感染症からの経済復興において、日本の産業構造の変革や強化にもつながるものと位置づけた、踏み込んだ考察も行ないました。

コロナ復興政策の過程において、気候変動の抑止や生物多様性の保全を促進する、このような「グリーン・リカバリー」の推進も、シナリオが求める施策の方向性に一致しています。

「パリ協定」が、2021年に延期された第26回締約国会議(COP26)に向け、各国政府に2030年までの削減目標をさらに改善し、削減量を上乗せするよう要求する中、日本がこれに取り組むには、2030年エネルギーミックスの改定にかかっています。

この目標の引き上げは、温暖化の影響を抑えることはもちろん、今後の日本企業の評価や国際競争力にも大きく関わる、注目のポイントとなるでしょう。

WWFジャパンでは今回のシナリオに基づき、日本政府に対して、自ら掲げた2050年ゼロ宣言と「パリ協定」の目標に整合した、国別目標の改訂、および具体的な政策の実現に早急に取り組むよう、強く求めていきます。

2050年脱炭素社会に向けた100%自然エネルギーシナリオ アップデート版(PDF形式)
脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ〈費用算定編〉(PDF形式)
WWFジャパン『脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ』インフォグラフィックス(PDF形式)

2021年4月に公表された日本のパリ協定新目標「2030年の温室効果ガス46%削減、さらに50%の高みを目指す」を受けて、2020年12月版をアップデートした(2021年9月)。
主な変更点は、エネルギー供給において、2030年の化石燃料の供給構造を改めて見直した結果、ガスの必要量が過大に見積もられていた点を修正した。結果として、2030年のCO2削減量は53.3%まで可能となり、温室効果ガスにして49.4%の削減が見込める。その他数値を精査した結果、再エネ設備容量などに端数の変化があるが、大きな変更はない。

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