【第2部:100% 自然エネルギー編】 第2章 WWFシナリオのエネルギーの需要と供給


脱炭素社会に向けた
エネルギーシナリオ提案

自然エネルギーシナリオ第2章 WWFシナリオのエネルギーの需要と供給

日本のエネルギー需要を分析すると、以下の2つのエネルギーの需要にあわせた供給が必要である。ひとつは電力であり、もうひとつは熱を供給する燃料である。これらを供給するための自然エネルギー源としては、以下の各項がある。

  • 電力:水力発電、太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電
  • 燃料:太陽熱、バイオマスなど

燃料は、貯蔵したエネルギーであり、必要なときに取り出して利用できる。これに対して、電力は、短い時間間隔で需要に応じて供給できるのが望ましい。しかし、自然エネルギーからの電力では、変動する気象条件により供給量が決まるので需要側の要求に常に対応できるわけではない。

2011年2月に発表されたWWFグローバルエネルギー報告では、電力を以下のように2つに区分している。(2)

  1. サプライ・ドリブン電力(供給対応型電力)
    太陽光や風力など供給側の条件によって供給がきまる電力
  2. デマンド・ドリブン電力(需要対応型電力)
    水力、地熱、バイオマスなど、需要に応じて柔軟に供給を行える電力

このサプライ・ドリブン電力は、需要と供給の変動に応じて、電力貯蔵装置による充電・放電が必要になり、そのためには、既存の揚水発電に加えてバッテリーが必要になると予想される。この点についての検討は第4章で扱っている。

また、電力に関しては、需要が供給を上回り、電力貯蔵システムからの供給(放電)を加えても不足するときには、バックアップ電力が必要になる。この問題に関しては、ダイナミック・シミュレーションを通じて、太陽光や風力により発生する余剰電力を大きくすれば、バックアップ電力を小さくできることがわかった。(参考資料7)

そこで、ここでは、サプライ・ドリブンの電力容量を大きくとり、一定の電力需要を満たし、さらに余剰電力が発生するようにした。この余剰電力から生産した水素を、自動車や産業用など、時間的な制約から自由で、単位時間に大きな出力を必要とする燃料需要に供給することを検討した。水素は、バッテリーに比較して、大量貯蔵技術として経済性の高いことが知られているからである。

以上のような方針により、本報告で検討するエネルギーの供給システムの全体構成を、図2-1のように構成した。

電力は、太陽光、風力、水力、地熱、石油、石炭、原子力から供給し、産業用と民生用の電力需要を満たす。電力の一部は電気自動車の動力源としても利用される。

太陽光と風力の時間変動性によって電力需要を上回る余剰電力は、揚水発電と蓄電池に充電し、電力供給が不足のときには放電する。電力の余剰が揚水発電と蓄電池の容量を上回ったときにはこれを水素に転換して貯蔵し、産業と民生用の燃料、あるいは輸送用燃料として利用する。

このほかに、太陽熱、バイオマス、さらにはヒートポンプによって、産業用と民生用の燃料需要に熱を供給する。また、自動車の屋根に取り付けたルーフトップ太陽電池は、自動車用の電力を供給する。(参考資料8)

このような考察にもとづいて、自然なエネルギー供給源を増やしてゆき、2050年には自然エネルギー100%のエネルギー供給システムを構成することを検討した。

図2-1 エネルギー供給システムの全体構成
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以下はここで実施した作業の方法である。

まず、中間報告で作成したエネルギー需要を、電力と燃料に区分した。基本的には2008年のエネルギーバランス表にある電力と燃料の構成比をベースにして、2020、2030、2050年の各最終用途エネルギー需要を電力と燃料に分離する作業を行った。この際には、燃料需要における電力化の進展についても検討を行っている。

つぎに、燃料については需要の特性を考慮して自然エネルギーの導入構成を検討した。燃料の最終用途の特性とそれに適する自然エネルギーの割合を決定した。

電力については、各部門に共通なので、その供給構成とダイナミックな特性を、第4章で別途に検討している。

以下には、産業部門、家庭部門、業務部門、運輸部門の各部門の最終用途エネルギー需要と供給について述べる。

2.1 産業部門

産業部門の需要構成は、図2-2に示すように、電力よりも燃料のほうが大きいが、効率化の進展によってしだいに燃料の比重が小さくなっている。

図2-2 産業部門の電力と燃料(MTOE)
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燃料用途のうち、200℃以下の中低温熱は、太陽熱と電気ヒートポンプで供給できる。

ヒートポンプのCOPは3.5が実現している。このため、燃料の一部を電力で代替することになり、その規模を電力化として示している。さらに高温熱などの燃料需要には、バイオマスと水素を利用するものとした。

図2-3 産業部門の燃料構成(MTOE)

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紙パルプ産業は、木材パルプ生産からの廃棄物である黒液をボイラ用に利用しており、生産に必要なエネルギーの40%になっている。紙パルプ産業は、将来的にはバイオマスに依存するものとした。

セメント産業や化学産業もバイオマスを多く利用するようになる。鉄鋼業については、前回の<中間報告 省エネルギー>の内容を見直して、将来のエネルギー需要を再計算した。(参考資料1)

高炉鋼の生産用には原料炭が利用されているが、将来的にはこれを水素で代替するものとした。しかし、その技術は未開発であり、未知の点が残っているため、自然エネルギー利用を適用できずに残される可能性もある。

2.2 家庭部門

家庭部門では、燃料の効率化は進展するが、電力については需要減少の程度が低いのが特徴である。その理由は、電力については効率化が進展しても、情報化などにより各種の活動が電力消費を増加させるためである。

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家庭部門の燃料需要のうち暖房、給湯には太陽熱と電気ヒートポンプが広範に利用されるようになる。厨房用にはバイオマスと水素が利用されるものと想定した。

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2.3 業務部門

業務部門の特徴は電力の比重が高いことであり、燃料よりもその割合は大きくなっている。

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業務部門の燃料需要のうち暖房・給湯需要は、低温の熱であり太陽熱が広範に利用可能である。ここでは太陽熱の積極的な利用とバイオマス利用を検討し、補助的に水素の利用を想定した。もちろん、「電力化」として示すヒートポンプによる効率的な熱供給も考慮している。

図2-7 業務部門の燃料構成(MTOE)
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2.4 運輸部門

運輸部門の主要なエネルギーは燃料であり、電力は鉄道向けにごく一部である。

将来的には、乗用車としてEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)が利用されるので、燃料需要の一部を電力で代替することになる。

図2-8 運輸部門の電力と燃料(MTOE)
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図2-9 運輸部門の燃料構成

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 運輸部門の燃料構成を検討すると、以下のようになった。

航空、船舶には液体燃料であるバイオマスが使用される。

乗用車と貨物車にはEVとFCVがほぼ同じ割合で利用されるものとした。バッテリーの重量あたり密度が飛躍的に増大し、コストも低下すればすべてがEVに転換することになるが、今のところは不明である。FCVにすると電力を使って水の電気分解をするため、効率が低下するが、ここではこのように想定している。

さらに乗用車などの車上に設置した太陽光発電が、走行用エネルギーの一部を負担するものとしている。

以上の検討により、最終的に電力と燃料の最終用途エネルギーとその供給構成をまとめることができた。詳細な数値データは参考資料9に示している。

 

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目次

脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第二部 100% 自然エネルギー>
PDF版はこちら全文 / 概要版

第1章 自然エネルギー
1.1 太陽光発電
1.2 風力発電
1.3 水力発電
1.4 地熱発電
1.5 太陽熱
1.6 バイオマス
1.7 水素/電力
1.8 自然エネルギーによる発電の最大規模
第2章 WWFシナリオのエネルギーの需要と供給
2.1 産業部門
2.2 家庭部門
2.3 業務部門
2.4 運輸部門
第3章 WWFシナリオのエネルギー供給構成
第4章 2050年の電力供給
4.1 気象データ
4.2 電力需要の月別・時刻別パターン
4.3 太陽光発電と風力発電の規模
4.4 電力貯蔵システム
4.5 電力のダイナミック・シミュレーション
第5章 CO2排出量
参考文献 参考文献 一覧(PDF)
参考資料 1)鉄鋼産業のエネルギー需要
2)地熱発電のポテンシャルに対する考え方
3)原子力発電の想定
4)太陽光発電と学習曲線
5)バイオマスの扱いについて
6)ダイナミック・シミュレーションの方法
7)電力貯蔵システムとバックアップ電力
8)自動車技術
9)燃料需要の詳細と供給構成
  • ※単位について
    1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh
    本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。
    ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。

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