【第4部:電力系統編】 第1章 シナリオ実現に必要な基本事項の検討


第1章 シナリオ実現に必要な基本事項の検討

本報告は、WWFシナリオ「第2部:自然エネルギー編」の100%自然エネルギーシナリオでの検討をもとにして、2050年までの日本の各地域の自然エネルギー導入規模と地域間送電容量、関連費用を検討する。2020、2030、2040、2050年についての気象データを用いた1年間のダイナミックシミュレーションを行って、地域ごとの自然エネルギー(特に風力発電)の適切な導入規模と、各地域間で必要となる送電容量を検討する。以下では、シミュレーションの前提になる事項として、燃料用電力シナリオ、電源構成、揚水発電、蓄電池、太陽光・風力の地域別設置容量などについて検討する。

図1には、これまでの報告で示した2050年までのエネルギー供給構成を示した。人口減少、産業構造の変化、エネルギー利用効率の向上によって、エネルギー需要は減少してゆき、必要なエネルギーの供給を2050年には100%自然エネルギーにしてゆくシナリオになっている(参考文献1、2)

図1 WWF100%自然エネルギーシナリオの全エネルギー供給構成(MTOE)

1.1 燃料用電力を含むシナリオ

自然エネルギーの多くは、太陽光や風力など電力を供給する技術である。しかし、実際のエネルギー需要は電力よりも燃料(熱と輸送用)のほうが大きい。熱や輸送用輸送燃料を供給する自然エネルギーとしては、バイオマスと太陽熱があるが、太陽光や風力によって発電した電力の利用や水素へ変換したうえでの活用なども可能である。

太陽光や風力は変動する供給源であり、1年間でみると、電力需要に対して不足と余剰が発生する。不足と余剰をならす手段として一般的なのは、蓄電である。また、太陽光と風力の設備容量規模を十分に大きく取って、余剰が大きく発生しても不足は発生しないようにすることもできる。

ここでは、太陽光と風力の供給規模を、純粋の電力需要よりも大きく設定して、1時間ごとの電力需要を不足なしに供給する(参考文献2)。このシナリオは、純粋電力需要に対しての不足分をなくし、同時に余剰電力によって、熱や輸送用(電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)用の水素)の燃料を供給する。これを「燃料用電力を含むシナリオ」と呼んでいる。図2には、これまでのWWFシナリオで検討したエネルギー供給全体における燃料と電力の供給構成を示した。

図2 燃料と電力の供給構成(MTOE)

純粋電力シナリオ:
自然エネルギーにより電力のみを供給する

燃料用電力を含むシナリオ:
自然エネルギーにより電力と一部の燃料を供給する

2050年には、この燃料用電力を含むシナリオで、太陽光・風力・地熱・水力・バイオマスによるエネルギー供給量を純粋電力の1.6倍程度に設定して、不足分なしで電力のすべてに供給し、生じる余剰電力分で熱と輸送用燃料(熱供給用水素、EV用電力、FCV用水素)に供給することを想定している。

1.2 電力供給構成

すでに提出したシナリオでは、2020〜2050年の発電電力量は表1のような計画になっている。

表1 各年の燃料用電力を含む供給電力量構成(TWh)

この電力量を供給するための石炭・石油・ガス・水力・原子力・地熱・バイオマスの供給構成は図3のように想定した。原子力は、2040年までにゼロとなり、2050年には石炭・石油・ガスもゼロになるものと想定した。2020年からは燃料用電力分として太陽光と風力が増大してゆき、全供給電力量は2050年には純粋電力の1.6倍になる。

図3 燃料用電力を含む供給電力量構成(TWh)

1.3 火力発電の設備容量

火力発電は自然エネルギーの変動を調整する機能を持っている。火力発電設備が寿命40年で減少してゆくときの推移を参考(参考資料2)にして、本報告における火力発電の容量の推移を、シナリオにおける発電電力量に合わせて図4のように想定した。寿命40年の場合と比較すると、2020年ごろまでは減少の速度はややゆるやかになることを想定している。

1.4 地域別発電設備構成

表2と図6には、太陽光と風力を除く各種発電源の地域別設備容量構成(2020〜2050年)を示した。地域別の配分は、将来にわたって現状の設備の地域配分と同じ比率を想定している。化石燃料の発電設備は供給用の調整電源として重要である。設備利用率は表1の電力を供給するために必要となる数値とした。

2020年〜2040年の石油・石炭・ガスの発電の設備利用率は、おおよそ石油25〜77%、石炭61 〜69%、ガス32〜41%となった。原子力の設備利用率70%は不変としている。最大需要時に、供給が不足するときには、石炭・石油・ガス・地熱・バイオの出力を定格出力にして対応するものとした。水力は定格で46%であるが、最大80%までの出力とした。
化石燃料の発電設備が定格で稼動するのはごく短い時間なのでCO2排出には大きな影響はない。

太陽光と風力を除く合計の発電設備容量は、図6に示すように2050年まで減少してゆくことを想定している。

1.5 揚水発電と蓄電池の地域別配分

現状の揚水発電の地域的配置は表3・図7のようになっている。全国合計で出力2512万kW、4.5時間継続的に利用可能とし、最大蓄電電力量は113GWhとした。これ以上増設することはなくこの規模を将来も維持するものと想定した。揚水発電の効率は70%であり、30%は損失になる。

揚水発電だけでは蓄電設備は不足であり、蓄電池が必要になる。(圧縮空気貯蔵などのほかの蓄電技術が低費用で利用可能になれば歓迎である。ただし、ここではEVの普及を想定しており、蓄電池の費用低下が進むものと想定している)

蓄電池の規模は、現在はゼロであるが2050年までに増大させていくものとした。全国を一つの地域として想定したケースを計算し、10地域全体に必要な蓄電池の規模を検討した。すでに行った計算では、全国について2050年に300GWh程度が適当となっている(参考文献2)

しかし、各地に分散して配置する場合は、単一地域で想定される容量より多く配置する必要があるため、蓄電池規模を2050年には400GWhに増やして、2020、2030、2040年にはそれぞれ10、100、300GWhと想定している。

この全体の蓄電電力量を各地域に分配し、実際にシミュレーションを行い、蓄電池の年間平均蓄電レベルが低い場合には、蓄電池への要求が少ないものとみなして配分調整した。その結果、電力需要の大きい地域には、蓄電池の規模を大きくすることが適当であることがわかった(図8、表4)。

蓄電電力量の20%が1時間に取り出せるものとし、効率(蓄電した電力量に対してとり出すことができる電力量)は90%と想定した。

1.6 太陽光発電の地域別配分

太陽光発電については、ユニットとして定格出力1kWの太陽電池パネルを各サイトで年間最大発電電力量になるように設置した。すなわち、南向き、傾斜角を「緯度−5」度に設定し、1時間ごとの水平面日射データ(拡張AMEDAS2000)を直達光と散乱光に分離し、設定した傾斜面に対する日射量をもとめ、1年間の発電電力量を計算した。842地点について各地域のそれぞれの年間消費電力量に比例した電力量を供給するように、ユニット数を計算して配分した。これまでのWWFシナリオ検討では2050年の太陽光発電の容量は4.77億kWになっている。これは燃料用電力を含むものであり、純粋電力用には2.27億kWである(参考文献2)

ここでは、別途に検討した結果を利用して、太陽光と風力の発電電力量の比を2:1として規模の設定を行っている(参考文献13、14)。太陽光発電の設備利用率は、全国平均で12.6%になっている。表5に示すように、地域ごとの太陽光発電の出力がその地域の電力需要に比例するように配分した。電力需要に対する太陽光発電の出力の割合は、各地域で同じであり、10.7%(2020年)、37.1%(2030年)、63.7%(2040年)、84.0%(2050年)としている。図9には、各年における太陽光発電の規模を示している。

地域間の太陽光発電の補完性

自然エネルギーは、地域ごとに変動のあり方が異なる可能性がある。その変動パターンの地域間の差異が十分に大きければ、それらが合わさったとき、地域間での変動をおたがいに補完できる可能性がある。そこで太陽光と風力について相関分析を行って検討した。

太陽光発電の9つの地域間の相関分析を行った結果は表6のようになった。これは1時間ごと1年間の発電電力量(8760時間)についての相関分析である。当然ではあるが、各地域間の相関係数は0.84 〜0.97といずれも高くなっている。とくに高いのは、関西・中部の地域の相関、および四国・中国・九州の地域の相関である。これより太陽光については地域間の補完関係はないと考えられる。

1.7 風力発電の地域別配分

風力発電は、各サイトにユニットとして出力2000kW、直径80m、プロペラ中心高さ(ハブ高さ)65mの風車を設置した。カットイン風速(利用開始風速)3m/s、カットアウト風速(運転停止風速)25m/sとして、842地点の風速データを用いてハブ高さの風速を計算し、効率40%で1時間ごとの平均出力を計算した。風力発電の年間設備利用率が18%以下の地点は除外して、90サイトを有効とした。2050年の燃料用電力を含む風力発電の容量は1.13億kWとなった。純粋電力用には0.52億kWの規模である(参考文献2)

設備利用率は全国平均で26.6%になっているが、地域別にみると北陸の18.9%から四国の43.6%まで広がっている。これらの設備利用率の高いサイトには離島が含まれているが、洋上風力のデータに近いものとみなすことができる。消費電力量に対する風力発電の割合は、全国では42%に設定しているが、地域別にはばらつきがあり、関西の12%から九州の120%まで広がっている。なお、風力発電が1年間(8760時間)にゼロになる時間数を調べてみると、設備利用率が低い北陸が2799時間と大きくなっている。全国で見ると発電ゼロ時間数がゼロになっているのは、日本中の風力発電を合計すると必ずどこかで発電していることを示している(表7)。

風力発電の地域ごとの配分比は、大消費地である関東と関西に、またその隣接する地域に多く設定する。このため、関東地域に対しては東北の風力を大きく、関西地域には中部、北陸、中国、四国、九州の風力規模を大きく配分した。北海道を大きくすると、東北を経由して関東に送るための送電線投資が過大になりやすいため、比較的小さめにしている。

地域間の風力発電の補完性

太陽光発電の場合と同様に、地域間の補完関係を検討するため、各地域の風力発電の相関性を検討した。9つの地域間の1時間ごとの1年間(8760時間)の発電電力量の相関係数を求めると、表8のようになった。

北海道と東北の相関係数が0.51と比較的高いが、そのほかの地域間の相関は0.3付近かそれ以下である。北海道と東北は経度が近い。風は西から東へ移動する低気圧から生じるため、経度が近いのでいくらかの相関性があるものと想像される。他の地域間については、緯度は同じ程度であるが、経度が異なるため風力エネルギーの相関性は低いと考えられる。

例として、図11に北海道と東北の、図12に東北と関東の相関分布図を示した。図上の一つ一つの点は、1年間(8760時間)のある1時間における、北海道・東北・関東それぞれでの風力発電平均出力を示している。

各地域間の風力発電の相関性が低いことは、地域間を送電線によって接続して相互の不足分を補完できる可能性を示している。これは、風力発電設備を設置する地域を広くとることによって変動を吸収できることを示している。

風力発電の規模とポテンシャル調査の関係

環境省調査による陸上と洋上の風力ポテンシャルを図13に示す(参考文献4)。風力発電の地域別配分は、地域間の送電規模に大きな影響を与えるので慎重な配分が必要であることがわかった。図13のように陸上+洋上の風力ポテンシャルでは、北海道、東北、九州が大きな数値になっている。

表9に示すのは、各地域のポテンシャルと本シナリオの2050年の風力発電の設置規模である。洋上と陸上のポテンシャル合計に対して、実際の2050年の設置規模は、全体では6.1%であるが、関東19.3%、関西16.2%、中部15.4%になっている。

出典:環境省(参考文献4)


目次

脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第四部 電力系統>

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第1章 シナリオ実現に必要な基本要素の検討
1.1 燃料用電力を含むシナリオ
1.2 電力供給構成
1.3 火力発電の設備容量
1.4 地域別発電設備構成
1.5 揚水発電と蓄電池の地域別配分
1.6 太陽光発電の地域別配分
1.7 風力発電の地域別配分
第2章 ダイナミックシミュレーションでみた地域間連系線の送電容量の推定
2.1 ダイナミックシミュレータ
2.2 地域間送電容量の推定方法
2.3 シミュレーション結果と地域間送電容量
2.4 デマンドレスポンスの可能性
第3章 費用の算定
3.1 地域間送電線費用
3.2 地域内送電線費用
3.3 太陽光発電の系統安定化費用
3.4 余剰電力利用費用
3.5 蓄電池費用
3.6 総合的費用算定
第4章 まとめ
第5章 実現のために必要な施策
5.1 自然エネルギーを主役とする電力系統システムの3つのポイント
5.2 (1)送電網の独立性を高め、公平性を確保するために必要なこと
5.3 (2)気象予測を使った出力予測システムを活用した広域の中央制御の系統運用
5.4 (3)効率的な電力市場とルール設計
5.5 おわりに

※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh 本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。 ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。

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