【第4部:電力系統編】 第3章 費用の算定


電力系統シナリオ:第3章 費用の算定

ここでは以上の結果を用いて、送電線、余剰電力利用、蓄電池に関する費用の算定を行う。なお、本報告で求めている費用は、必要な送電線の総量(既設やすでに計画にあるものを含む)をもとに計算している。

3.1 地域間送電線費用

地域間の送電線建設費用は以下のようになる。送電線建設費用は500KVクラス(1000万kW程度)で、2~6億円/kmと推定されている(参考文献6、7、11)。これは42~126円/km・kW であり、以下の計算は126円/km・kWで行った。2050年までの累積費用は地域間送電線が3兆円程度となった(表20、図21)。

3.2 地域内送電線費用

地域間の送電容量に加えて、地域内の風力発電設備までの距離を推定して、この費用を追加する必要がある。

地域内送電線距離は、風力20MW に対して送電距離を1kmとして計算、2050年には建設費用は6.9兆円になっている(表21、図22)。送電線費用は、地域間と地域内を合計すると、2050年には9.9兆円になる。

 環境省「コスト等検証委員会報告書」は、2030年に自然エネルギー35%シナリオでは、系統対策費用を5.2兆円としている。風力発電協会では、2500万kWの風力の系統連系費用を3.8〜5.4兆円としている。この費用は5000万kWになると、比例的に増加して8.5兆円〜10.3兆円になる。ただし、これには揚水発電と蓄電池の費用を含んでいる。系統アクセス の距離は、陸上風力で10km、洋上風力で20kmを想定している。ここでは、このような距離の想定を参考にして計算を行った。

3.3 太陽光発電の系統安定化費用

太陽光発電の系統安定化の費用は、柱上変圧器、電圧調整装置、バンク逆潮流(変電所の双方向機能)、出力抑制機能などがあり、太陽光発電の規模1kWあたりに応じて必要な単価が知られている(参考文献6)。これを参考にして表22・図23のように推定した。

2050年には、太陽光発電が477GWの規模になり、系統安定化費用は6.1兆円になる。

以上の送電線関係の費用は、合計で9.9+6.1=16兆円になることがわかった。

3.4 余剰電力利用費用

各年における余剰電力とその利用方法を検討する。発電電力量のうち、余剰電力として扱う燃料用が次第に増加してゆき、2050年には40%に達する。この電力は純粋電力とは異なり、需要側の時間にあまり縛られない用途に供給される。燃料用電力の用途は、ヒートポンプへの代替、EV用の電力需要、高温用燃料およびFCV用の水素生産であり、表23の ようになる。

余剰電力の燃料利用を行う場合、余剰電力のすべてに対応するには、設備費用が大きくなるので、発生頻度を考慮して、利用可能な上限を考えるのが普通である。2050年の余剰電力のヒストグラムを作ると図24のようになる。余剰電力の最大値は309GWであるが、その時間はわずかであり、最大値付近の余剰電力を利用しようとすると経済性が問題になる。

過剰な設備を避けるために、需要側について改めて計算をした。とくに、想定しているEVおよびFCVの台数から燃料用電力需要を試算し直した。この結果、燃料用に必要な電力需要は、全体として305TWhとなった。つまり、余剰電力全体の389TWhのうち、燃料用には305TWh(78%)までが必要となる。そこで305TWhを利用するものとして検討すると、120GWまでの余剰電力を扱えればよいことがわかった。この図で120GW以上の余剰電力は、設備の能力を超えているので棄却するものとする。120GWの設備で利用するとき、必要な設備は309GWの39%になり、これで78%の余剰電力量を有効に利用できる。

水素生産の水電解装置は、量産によって費用低下が生じて2020年には1kWあたり12万円、2050年には5万円に低下するものとした。2050年には、余剰電力の利用120GWのうち、 水素生産装置の定格出力は、年間稼働2400時間として94GWになり、4.7兆円の設備費用になる。

ここで生じると想定した損失は、実際には太陽光発電や風力発電の出力抑制システムによって実現され、損失としては表れないようになる。

3.5 蓄電池費用

想定した蓄電池設備の費用は、2020年から2050年までにEVの普及などによって低下してゆくと想定される。現在、1kWhあたりの単価は10万円程度とされているが、量産効果により2020年には4万円、2050年には2万円になるものと想定した。

必要な蓄電池容量のうち、EVのバッテリーが一部を負担する。EVのバッテリー容量は現状では、1台あたり20kWh程度であるが、将来は軽量化され、さらに大きくなると予想される。利用可能なEVバッテリーは、2020年にはゼロであるが、2030年以降はEVの台数の30%が、1台あたり5kWhの容量を通信利用によって(たとえば、スマートグリッドを活用し、蓄電電力量をとりまとめるアグレゲーターや中央給電指令所などからの指令によって)、電力変動調整用に提供するものとする。当然、EV所有者は対価を得ることができるものとする。このとき、表24のように必要とされる電力用蓄電池の規模は減少するため、その費用は、表24のように2020年の4000億円から2050年の7.3兆円になる。

IEAの報告(参考文献8)によると、日本の揚水発電は26GW、10時間利用可能であり、蓄電規模は260GWhとしている。本シナリオでは、現実の利用量から推定して保守的に見て113GWhと想定しているが、揚水発電として260GWhが利用可能な場合には、表25のようになる。EVのバッテリーの利用を考慮するときに必要な蓄電池の費用は、2050年には4.3兆円程度におさまる。

3.6 総合的費用算定

以上の費用算定を総合的にまとめると、表26のようになる。蓄電池の費用のところでは、利用可能な揚水発電の規模が113GWhの場合(ケース1)と260GWhの場合(ケース2)を区分して計算した。また、気象予測を活用した系統運用システムの費用として、風力発電1MWあたり100万円(対策費用は風力発電の導入量に関係すると仮定)を追加している。

2050年までの費用合計は累積で25.1兆円〜 28兆円であり、40年間にこれを毎年支払うとすると年間6277億円〜7012億円となる。この間の年間平均GDPは697兆円であり、その0.090 〜0.101%となり、ほぼ0.1%程度である。

目次

脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第四部 電力系統>

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第1章 シナリオ実現に必要な基本要素の検討
1.1 燃料用電力を含むシナリオ
1.2 電力供給構成
1.3 火力発電の設備容量
1.4 地域別発電設備構成
1.5 揚水発電と蓄電池の地域別配分
1.6 太陽光発電の地域別配分
1.7 風力発電の地域別配分
第2章 ダイナミックシミュレーションでみた地域間連系線の送電容量の推定
2.1 ダイナミックシミュレータ
2.2 地域間送電容量の推定方法
2.3 シミュレーション結果と地域間送電容量
2.4 デマンドレスポンスの可能性
第3章 費用の算定
3.1 地域間送電線費用
3.2 地域内送電線費用
3.3 太陽光発電の系統安定化費用
3.4 余剰電力利用費用
3.5 蓄電池費用
3.6 総合的費用算定
第4章 まとめ
第5章 実現のために必要な施策
5.1 自然エネルギーを主役とする電力系統システムの3つのポイント
5.2 (1)送電網の独立性を高め、公平性を確保するために必要なこと
5.3 (2)気象予測を使った出力予測システムを活用した広域の中央制御の系統運用
5.4 (3)効率的な電力市場とルール設計
5.5 おわりに

※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh 本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。 ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。

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