【COP17現地報告】ターゲット3の現在地~30by30とOECMをめぐる世界の議論
2026/10/29
- この記事のポイント
- アルメニア・エレバンで開催中の生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」の中間評価となるグローバルレビューが行なわれています。「30by30」で知られる、2030年までに陸域・海域の少なくとも30%を効果的に保全・管理することを目指す「ターゲット3」についても進捗評価が行なわれ、まだ達成軌道にないことが明らかになっています。CBD-COP17では30by30の面積目標の達成だけではなく、保全効果や連結性、公平なガバナンスといった「質」の確保の重要性が改めて強調されているほか、保護地域以外で生物多様性保全に貢献するOECMについても、取り組み加速に向けた国際協力の強化が進められています。
ターゲット3「30by30」の目標
2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を目標に掲げた昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)。
アルメニア・エレバンで開催されている、国連の生物多様性条約会議(CBD-COP17)では、KM-GBFの中間評価にあたるグローバルレビューが実施されています。
KM-GBFの23のターゲットのうち、最もよく知られているもののひとつが、30by30と称される「ターゲット3」です。
これは、2030年までに、陸域・内陸水域、海域・沿岸域の少なくとも30%を、特に生物多様性と生態系機能・サービスにとって重要な地域を中心に、効果的に保全・管理することを目指すものです。
なぜ保全される区域を拡大する必要があるのかというと、森林や湿地・沿岸域などの自然環境の開発や土地・海域利用の変化が、生物多様性の損失の主要な要因となっているためです。
人間活動により種の絶滅速度が自然の状態の数百から数千倍規模に高まっていると指摘される中で、自然で健全な生態系を「エリア(区域)」として守っていくことは、有効な手段です。

豊かな自然と野生生物に恵まれた、日本の南アルプス国立公園。
保護区とOECMの役割
こうしたエリアの保全で、これまで中心的な役割を担ってきたのが、国立公園などの「保護地域」です。
保護地域は、通常、自然や野生動植物を守ることを目的に指定・管理され、程度の差はあるものの、開発、狩猟・採集、伐採、漁業などの活動が制限されます。
しかし、人口が増加を続け、食糧供給や、開発などを伴う経済活動の需要が高まる中で、保護地域の拡大だけに頼って、生物多様性を守ることには限界があります。
また、法的に保護地域に指定はされていない場合でも、民間の主体や先住民族と地域社会(IPLCs)などによって、自然を守りながら伝統的に利用・管理が行なわれている土地や海域も多く存在します。
このため、30by30の達成に向けて、保護地域以外で、生物多様性保全に寄与するエリアとして、OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)が注目されています。
OECMは、保護地域とは異なり、必ずしも保全を主目的として設定・管理されている必要はありません。一方で、その区域の管理を通じて、生物多様性保全にとってプラスとなる長期的な成果がもたらされていることが求められます。
OECMを国内でどのような制度・基準のもと認定していくのか、どこに設定すべきなのか、権利保有者や、地域住民をはじめとする関係者との協議や関与をどのように進めていくのか。
各国がターゲット3の実施を進めるにあたり、OECMの質や信頼性を確保していくための手段についても、議論が活発化しています。
日本においては、企業やNPOなどによる自主的な申請に基づいて国が認定する「自然共生サイト」の制度が2023年に開始され、自然共生サイトのうち保護地域と重複しないものがOECMとして国際データベースへ登録されています(このほか、国制度によるOECMも検討されています)。

民有地の里山や里地にも豊かな自然がのこされています。こうしたエリアを、面積、質ともにどう保全するかが、今後の生物多様性保全のカギになります。
ターゲット3の現在地
CBD-COP17で実施されている、グローバルレビューの基礎情報「グローバルレポート」では、KM-GBF全体の進捗の遅れが明らかにされています。
それと同時に、各ターゲットに関する目標設定や実施状況の詳細な評価結果が示されました。
その中で、ターゲット3は、最も進捗が遅れているターゲット群にこそ含まれないものの、その進捗は不十分とされています。
グローバルレポートによると、国別報告書に基づく2026年時点の保護地域およびOECMにより保全されている面積の割合は、陸域・内陸水域で19.5%、海域・沿岸域で16.7%にとどまっています。
2020年以降、世界全体で保護地域は拡大しているものの、30%目標の達成にはなお距離があります。
ターゲット3に関する目標設定も、いまだ30%の面積目標には届いていません。
Campaign for Natureの報告書「30×30 Global Assessment 2026」によれば、各国が設定した目標がすべて達成された場合に、陸域・内陸水域の保全面積は世界全体で27%(2026年5月時点で132か国が陸域・内陸水域の目標を設定・報告)。未報告の国が同等の目標設定を行なった場合に、29%近くになると試算されています。
一方、海域については、各国が設定・報告した目標をすべて達成しても、世界全体では海域の12%しか保全されないと試算されています。
その主な要因は、海洋全体の約3分の2を占める公海において保全目標の設定が進んでいないためです。
各国の管轄水域内だけで見れば目標が約26%に達する見込みであることからも、30by30達成にはBBNJ協定(国連公海等生物多様性協定)の発効・実施などを通じた公海保全の進展が鍵となります。
【参考情報】State of Biodiversity Action (グローバルレポート)(CBD事務局)
【参考情報】30×30 Global Assessment 2026 (Campaign for Nature)

面積の拡大だけでは達成できないターゲット3
一方、ターゲット3の保護地域については、その面積目標にだけ注目することにも問題があります。
生物多様性保全にとって重要な場所が実際にカバーされているのか、保護区やOECMが実効的に管理されているのか、先住民族や地域社会の権利や参加が確保されているのか、といった「質的」な側面がおろそかにされては、KM-GBFの達成にはつながらないためです。
実際、ターゲット3にはこうした要素も盛り込まれています。しかし、グローバルレポートの評価によると、30%という面積目標に比べて、こうした質的な側面に関する目標設定は十分に進んでいません。
国別報告書を提出した国のうち、陸域・内陸水域・海域の面積目標を設定している国の割合はそれぞれ78%、64%、72%に達している一方で、生物多様性や生態系にとって重要な地域の保全、生態系の代表性、保護区やOECMの連結性、公正なガバナンス、空間計画との統合、先住民族や地域社会(IPLCs)の権利の尊重といった要素を目標に盛り込んでいる国の割合は、いずれも3~4割程度にとどまっています。

COP17においても、ターゲット3の実施をめぐり、面積目標の達成だけを追うことの問題と、保全効果や連結性、公平なガバナンスなどを重視した「質の高い(High-integrity)」30by30やOECMの重要性が改めて強調されています。
Earth InsightがIUCN世界保護地域委員会(World Commission on Protected Areas)らと発表した報告書では、アマゾンでは生物多様性上重要な地域(KBA)の40%超、東南アジアや中米では50%超が依然として保全対象となっていないことを指摘しています。
また、既存の保護・保全地域についても、石油・ガス鉱区や鉱業権との重複も広く見られることから、保護面積の拡大だけでは十分な保全効果が得られないと警告しています。
【参考情報】High-Integrity 30x30 Implementation: Industrial Threats and Promising Pathways for Effective and Rights-Based Biodiversity Conservation (Earth Insightほか)
このように、ターゲット3をめぐっては、面積で見た進捗の遅れを解消するだけでなく、保全の効果やIPLCsの権利の尊重といった質的な側面についても、その進捗や成果を評価・報告する仕組みを強化し、説明責任を果たしていくことが各国政府に求められています。
また、大きな遅れが見られる海洋については、2027年1月に最初の締約国会議が予定されているBBNJ協定を通じた公海保全の取り組みの加速も重要な課題となっています。
COP17で発足「グローバルOECMアクション・ハブ」
ターゲット3の実施強化に向けて、議長国アルメニアが焦点を当てているのがOECMに関する国際協力です。
OECMは保護区と比べて、指定が進んでいない国が多く、相互学習が重要になっています。
Campaign for Natureの報告によれば、国別報告書でOECMを報告した国は16か国、OECMに関する国内制度を報告した国は12か国にとどまります。また、OECMとして報告されている面積は、陸域で1%、海域では0.2%と極めて限定的です。
CBD-COP17第2週の議長国イベントにおいて10月28日に立ち上げられた「グローバルOECM アクション・ハブ」では、アルメニアと、CBD事務局、FAO、IUCNなどの国際機関が呼びかけ人となって、既存の取り組みやプラットフォームなどを束ねて協力を加速させることを目指しています。
各国の能力構築や知見共有、専門家とのマッチングを強化することで、各国においてCOP18までに信頼性の高いOECMの拡大を後押しすることを目指しています。
【参考情報】The launch of Yerevan Global OECM Action Hub
今後に向けた日本への期待
日本におけるターゲット3の面積上の達成状況を見ると、2026年8月時点で、陸域・海域の保護区・OECMがそれぞれ、21.0%、13.3%となっており、まだ30%には届いていません。
このうち、自然共生サイトとしてOECM登録された面積は0.2%にとどまっており、その半数以上は企業による登録が占めています。
世界の状況と同様に、日本においても2030年に向けては、保護区・OECMの面積を拡大するだけでなく、生物多様性保全上の重要性や連結性、管理の効果、地域社会の参画や地域と自然の好循環の創出といった質的な側面の成果を重視して、取り組みを進めていくことが重要です。
また、世界でも早い段階でOECMの取り組みに着手した日本としては、今回アルメニアのイニシアティブで立ち上がったプラットフォームなどを通じて、関係国との知見・経験の共有に貢献するとともに、自らの取り組みの質を継続的に検証しながら、質の高い30by30やOECMの実現に向けて前進していくことが期待されます。
