ASC認証制度の新基準についてのセミナーを開催


世界的に盛んになりつつある養殖漁業。拡大する各国の水産物の需要を満たす一方で、海の自然環境への負荷が懸念されています。WWFジャパンは2016年8月18日、海外からもゲストを招き、環境に配慮した持続可能な養殖を認証する「ASC」に関するセミナーを東京で開催。集まった養殖業に関わる生産者や企業関係者に、ASCが新たに提案する「コア基準」や「飼料基準」の考え方を紹介しました。

ASCの認証基準改訂を前に

海洋の環境保全活動の一環として、持続可能な漁業の推進に取り組むWWFジャパンは、2016年8月18日、東京海洋大学で「ASC(水産養殖管理協議会)」認証に関する専門的なセミナーを開催しました。

テーマは、ASCの新たな基準である「コア基準」と「飼料基準」。

当日は、養殖業に関わる生産者や水産企業、加工・販売企業、飼料メーカー、認証機関の関係者や、研究者など100名近くが参加しました。

環境負荷の低減と、責任ある養殖業の確立を目指すASCでは現在、養殖する魚種ごとに一つずつ策定していた従来の認証基準を整理統合し、理解と普及を進めるための改善に取り組んでいます。

熱心に耳を傾ける参加者のみなさん。
およそ100名を集めて、会場はほぼ満員の盛況
©WWF Japan

その施策の一つとして新設しようとしているのが「コア基準」。これは、従来は無かったどの魚種にも共通する「基準」で、これに魚種ごとの特性に応じた基準を「付属文書」として組み合わせる方式が採られます。

さらに、「飼料基準」を新たに設けることで、養殖に欠かせない天然魚などを使った飼料の取得や利用に際しても、環境や社会への影響を低減することを目指しています。

そして今回、WWFジャパンは、ASCが直接その詳細を説明すると共に、より適切な基準が実現できるように、水産養殖関係者から直接意見を交換する場として、このセミナーを開催しました。

ASCの目指すもの

ASC開発普及部ディレクター ジョン・ホワイト氏
©WWF Japan

開催にあたり、WWFジャパンは、ASC開発普及部ディレクターのジョン・ホワイト氏とASC基準監督ディレクターのバス・ギアーツ氏を日本に招聘。

まず、ジョン・ホワイト氏からASCの誕生した背景について、説明がありました。

オランダでASCが、WWFとHDI社によって設立されたのは2010年。

ASCは今では独立した非営利団体として、オランダのユトレヒトに本拠を置き、活動しています。

2012年には、ベトナムのティラピア養殖場が世界初のASC認証を取得しました。

ホワイト氏は、「私たち人類が食料として消費する水産物の量は増加しており、またその半分はすでに養殖によるものとなっています。しかし、急成長する養殖産業は様々な環境上、社会上の問題を引き起こしています」と述べました。

配慮が十分でない養殖業は、海の環境に大きな負荷となってしまう現実があります。例えば、過剰な餌の投与によって汚染された海があることを指摘しました。

ASCが目指すものは、「養殖業が人類が必要とする食糧需要を満たし、社会的便益として重要な役割を果たしながらも、環境への悪影響が最小限に抑えられている世界」です。

そのために、ASCが採用しているアプローチのひとつが、マーケットに対して付加価値をもったエコラベルを開発し、普及させることです。

日本への導入の試み

こうした世界的な流れを受け、日本でも責任ある養殖業が広まるように、WWFジャパンは、2012年11月に「責任ある養殖業と養殖水産物調達の今後 養殖業の課題と認証制度ASC」と題するセミナーを開催しました。

これは、日本へのASC導入を意図した最初の取り組みであり、養殖業の抱えるさまざまな問題点を明らかにするとともに、その解決策として、ASCの認証制度の紹介をしたのです。

当初、ASCについては日本語での情報が限られており、日本市場への適合性についても不確定要素が少なくありませんでした。

セミナーには一定の手応えがあったものの、普及の道筋を展望するのは、容易なことではありませんでした。

しかし、それから4年。
ASCをめぐる国内の情勢や、世界的な普及の状況は大きく変化しました。

そして、2014年、日本国内でも初めてASC認証水産物が製品となり、販売が開始されました。

まずイオンリテール株式会社の店舗にノルウェー産のASCラベル付きアトランティック・サーモンが並んだことに続き、パンガシウスやむきえびなども商品化。

日本のスーパーの店頭でも、ASCの認証製品が気軽に購入できるようになったのです。

現在ではイケアやイトーヨーカドーの店舗も販売を行なっているほか、ホテル(パークハイアット東京)や飲食店(Totally Searoll Club/福井)なども、ASCの認証水産物を取り扱うようになり、業種としても広がりを見せています。

基準策定の支援と、ASC国内認証第一号の実現

また一方でWWFジャパンは、「ブリ・スギ類養殖基準」の策定を目的とした関係者意見交換会「アクアカルチャー・ダイアログ」の開催も日本に誘致しました。

これは、すでにアメリカやメキシコで始められていた、漁業者の参加を得た基準作りのプロセスの一つで、国内でASCへの理解と認証制度の活用を広げる上でも、重要なステップとなるものでした。

特に、ブリ養殖については、日本産のシェアが世界のシェアの多くを占めていることから、その養殖を持続可能なものに変えることは、国際的にも影響力と意味を持つ取り組みとなります。

そして、日本での開催を働きかけた結果、2013年、東京と鹿児島で計2回の開催が実現。

2015年には、日本のブリ生産者をはじめとする関係者の参画を得て、ブリとスギ類の養殖基準が完成しました。

現在は、「付属文書」が作成され、これを審査するASCの外部委員会による承認を待っている段階ですが、このブリ・スギ類の養殖基準が承認され、確定すると、2016年の冬には正式に、ブリ養殖の審査が可能になります。

さらに、2016年には、WWFも支援を行っていた、宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所のカキ養殖が、国内で初となるASCの認証を取得しました。

東日本大震災の津波によって壊滅的な被害を受けた同漁協が達成したこの認証の取得は、単に震災前に漁業を戻すのではない、新たな漁業と、復興の一つの形を示すものとして注目され、称賛を受けました。

現地では、認証セレモニーが開催され、ASCのジョン・ホワイト氏も来日して祝辞を述べ、その様子は新聞等でも大きく報道されました。

この他にも現在、国内では複数のブリ類生産者が、基準の成立を待ちながら、ASC認証を取得する準備や検討を始めています。

また、これら以外のさまざまな魚種についても、認証についての問い合わせが増えてきており、今後の国内での拡大が期待されます。

ASCの課題と改善の取り組み

セミナーでは、認証の取得についての疑問点や課題についても話がありました。

まず、認証制度の課題として指摘されることが多いのが、準備から審査までにかかる費用。

しかしこれについては、宮城県をはじめとする自治体の中には、ASC認証の取得を資金的に支援する動きも出てきています。

また、ASCの基準に基づいて、実際の漁業の現場で認証作業を行なう、第三者の認証機関も日本国内に複数社出てくるようになりました。

これにより、これまで海外から認証機関の関係者を呼んで行なっていた認証手続きの多くが、国内で済ませられるようになります。

こうした、費用面や手続き面での状況の改善もセミナーでは報告されました。

2016年8月現在で、ASC認証を取得した養殖場は世界で311カ所。その数は、日々増えつつあります。

また、ASCラベルを付けて、市場に送り出される認証製品の数も増加しており、日本でも認証ラベルつき製品がすでに162点、流通しています。

「今後は、ASCでは対象魚種を増やし、マーケットの動きに機敏に対応すること。また、水産業界の中で、取り扱い業種の幅を広げることに取り組みたい」とホワイト氏は話しました。

特に日本の場合は、2020年の東京オリンピックを視野に入れ、ロンドン大会に始まる「持続可能なオリンピック・パラリンピック大会」の流れをくんで、ASC認証製品が五輪会場内で大規模に供給されることが期待されています。

ASCの新基準:コア基準

ASC基準監督ディレクター バス・ギアーツ氏
©WWF Japan

現在、ASCの認証基準は、サケやパンガシウス、エビなどの魚種ごとに8つの基準が策定されていますが、これらに共通する項目を整理統合する作業が進められています。

これは「コア基準」と呼ばれます。

そして、個別の魚種ごとに必要な基準は「付属文書要件」にまとめるという変更作業がおこなわれています。

この点について、ASC基準監督ディレクターであるバス・ギアーツ氏がセミナーで解説しました。

ASC基準は整合化により、整理統合されていく
©WWF Japan

「2012年以降、ASC認証を取得する養殖場は急速に拡大し、これまで様々な知見が蓄積されてきました。これらに基づき現行の8基準を見直し、その意図や文書表現に関して、整合性を持たせ、統合を図るプロジェクトを現在、進めています」

どの魚種にもあてはまるコア基準が策定されれば、魚種ごとに異なる個別の条件は「付属文書要件」として後から付与していけばよくなるため、新規魚種の追加がより簡便になるというのがASCの考えです。

2016年8月には、この「コア基準」の第一草案が発表されました。

この草案は、パブコメ募集(パブリック・コメント:意見聴取)と、それに基づいた修正作業を経て、2017年の後半には完成となる見込みです。

ASCの新基準:飼料基準

一方、原料を世界各地から調達するため、生産地域だけではなく、影響のおよぶ範囲が広いのが餌に関する問題です。

その対処法としてASCが新たに策定しようとしているのが「飼料基準」です。

この飼料基準は飼料工場に適用される基準。

現在、養殖場に適用されている養殖基準の中に、飼料原料のトレーサビリティが定められていますが、これに加え、飼料製造の過程における環境や社会への悪影響を最小化することを目的とした基準を設けるのが狙いです。

こちらも2015年に飼料基準の第一草案が公開され、間もなく第二草案も公開されて、パブリック・コメントの募集が行なわれようとしています。修正のプロセスを経て、2017年には完成の見込みです。

セミナーでは、最後に設けられた総合討論の時間で、これらの新基準に対して、その適用範囲や、現在の日本の操業実態とギャップがあった際の判断や対処方法についての質疑が活発に行なわれました。

日本が参画したグローバル・スタンダードへ向けて

WWFジャパン 自然保護室 海洋水産グループ長 山内愛子
©WWF Japan

セミナーでは、ASC認証に関心はあるものの、現状では、費用面や手続き面から取得が難しいと感じている生産者や企業が、今も少なくありません。

しかし、ASCでは基準作りのプロセスにおいて、そうした関係者からも意見を聴取、反映した上で、新基準を策定することを義務付けています。

こうしたプロセスや取り組みも、認証の取得と広がりを確実なものとしていく上で、重要なステップの一つになっているのです。

質疑応答も活発におこなわれた
©WWF Japan

セミナーの討論の時間では何度となく、来日したASCの担当者が、水産業の生産者や関連企業が策定過程に関与することと、意見を述べ、必要な情報を提示することの重要性を強調しました。

「ASC基準ができてから、これへの対応について検討を始めるのではなく、策定過程から関心をもって参画することが、日本にとっても使いやすいグローバル・スタンダードを決めることになります」

ギアーツ氏はセミナーの最後にそう語りました。

セミナーの資料

  • 注:これは、8月18日のセミナーのためにWWFジャパンが仮訳したものです。参照に際しては、原文と照らし合わせてご利用ください。

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