【アーカイブ動画あり】 気候×生物多様性オンライン勉強会 第3回「SBTi FLAGで求められる森林破壊ゼロの確認方法とは?」
2025/12/05
※EU Deforestation Regulation(EUDR)は、2023年6月29日に発効した規制であり、その適用開始は、従来の予定(2024年12月30日)から延期され、大・中規模事業者については 2025年12月30日 から適用開始される予定となっていましたが、さらなる延期が提案されています(2025年12月1日現在)。
森林破壊ゼロの確認方法をテーマとした勉強会
近年、日本の生鮮食品価格は2020年比で22.6%(2024年時点)と大幅な上昇傾向が続き、多くの企業が原材料高騰への対応に苦慮しています。その背景には、為替や需給要因だけではなく、気候変動や森林破壊といった構造的な要因が存在します。持続可能な調達を確保するためには、これら自然資源に関わるリスクへの対応が不可欠です。
国際的には、温室効果ガス排出削減のための科学的目標設定イニシアチブ(SBTi:Science-Based Targets initiative)において、農業・森林・土地利用(FLAG: Forest, Land and Agriculture)分野でのコミットメントが広がりつつあります。FLAG分野では特に、2025年12月末を期限とした「森林破壊ゼロ」の確認が要件として求められ、農畜産物の調達を行う企業にとっては避けて通れない課題となっています。
本勉強会では、SBTi FLAGにおける森林破壊ゼロの確認方法に焦点をあて、森林破壊リスクの概要と、サプライチェーン上で特定された生産現場レベルでのリスク確認方法についてわかりやすく解説しました。

第3回勉強会概要
日時:2025年11月27日(木)14-15時
主催:WWFジャパン
場所:オンライン
参加者数:255名
プログラム:
「SBTi FLAGで求められる森林破壊ゼロの確認方法とは?」
田沼俊剛(WWFジャパン自然保護室森林グループ)
質疑応答
サマリーと資料
解説「SBTi FLAGで求められる森林破壊ゼロの確認方法とは?」
森林破壊の現状とSBTi FLAG
- 炭素削減と生態系保全、という2つの大きな課題を抱える現在、炭素削減の観点では2050年のカーボンニュートラルを、生態系保全の観点ではネイチャーポジティブを目指した取組みが求められている。SBTi FLAGにおいても森林破壊ゼロ達成の目標年が2025年末と迫っている
- 世界における温室効果ガス(GHG)排出割合をセクター別に見ると、農業森林土地利用セクター(AFOLU)が約20%を占める。そのうち45%が森林破壊に起因しているため、世界全体では約10%のGHGが森林破壊によって発生していることになる
- 国連食料農業機関(FAO)の最新データによると、直近10年間でも毎年約1,090万ha(日本の国土面積の約1/4)の森林が減少しており、特に南米、東南アジア、アフリカの熱帯林で破壊が深刻である
- 森林破壊の最大の原因は、農地や放牧地の開拓を目的とした森林伐採であり、全体の約9割を占める

- SBTiは、科学的知見に基づき、企業がどれだけの量のGHGをいつまでに削減しなければならないかを示した国際的な認証。14セクター中、森林土地農業セクターがFLAGと呼ばれる。2025年12月31日までの森林破壊ゼロが求められている。
- 炭素の6割は地表および地中に存在しており、森林が失われると大気中に年月をかけて放出される。GHG Protocolでは、その期間が20年間と規定されており、森林破壊ゼロを達成してからも、20年間に渡りGHGを排出していることになる。このことから、SBTi FLAGにおいて森林破壊ゼロが求められている

森林破壊ゼロの達成に必要となる要件
- 要件はAccountability Framework initiative(AFi)が定めた12の基本原則が活用可能。注意点として、保護林や国立公園等の国内法で守られた森林の伐採だけではなく、現地の国内法では合法であっても、森林の転換や深刻な劣化は森林破壊と見做されることに留意する必要がある
- 森林破壊ゼロの確認に必要となるデータは複数あるが、代表的には「植生変化データ」「生産地データ」「原材料とサプライヤーの紐づけデータ」等が挙げられる。本勉強会では、植生変化データを使用した森林破壊の確認について事例を紹介する

事例紹介
- 植生変化の確認において3事例を紹介。サプライチェーンの途中段階までトレース出来た場合に、地域レベルでのリスクを確認する事例がインドネシア、調達先の切替によって確認を省略する事例がガーナ、外部の情報ソースを基に確認する事例がオーストラリアとなる
- パーム油の場合、農園の1歩手前となる搾油所までのトレースが取れれば、地図上に位置データを落とし込み、土地利用区分や森林面積データ等を重ね合わせることで、調達可能性が高い農園が分布している地域レベルでのリスク分析が可能となる
- カカオ豆の場合、特定のサプライヤーまで遡ることができれば、農家の特定は可能となる環境がガーナでは整いつつあり、農家を特定した後、さらに農園の位置を確認する必要がある
- 日本企業を含めてカカオ農園の位置を特定している企業が複数存在するが、農園における森林破壊有無の確認は容易ではない。ガーナでは、保護区内の森林伐採など違法な森林破壊が起きていないことの確認は、サプライヤーの切替で可能となるが、森林破壊ゼロを確認するには、農園の位置データを基に全ての森林破壊有無を確認する必要がある
- 【オーストラリア:植生モニタリング・評価プログラム(VMAP)】2000年以降、オーストラリア全体の森林破壊は年平均約50万ha。森林破壊の8割は放牧地開拓のためであり、主にクイーンズランド州とニューサウスウェールズ州に集中している。それに伴うGHG排出量は年間約5,500万トン(CO2換算)
- クイーンズランド州のみを見ても、2000年以降で約840万haの森林破壊が起きており、これは北海道の面積に相当する
- VMAPは、オーストラリア国立大学とHaizea Analytics社が主導する共同プログラムで、オーストラリア全土の森林およびその他の木本植生の地理的な配置をモニタリングし、誰でもアクセス可能な形で提供することを目的としたツール(木本植生:幹が太く、年輪を形成しながら多年生存する植物のこと)
- 森林面積データセットは2025年9月に公開済み、今後、植生被覆データセットおよび陸域炭素モデルを提供していく予定(2025年11月時点)
関連リンク:VMAPウェブサイト(外部ウェブサイト)


お問い合わせはこちらまで:
森林グループ :forest@wwf.or.jp



