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アマゾンにおけるジャガー保護 2023年活動報告

この記事のポイント
WWFジャパンは2022年7月より、ブラジルのアマゾン北部で、WWFブラジルが取り組むジャガーの調査・保全活動を支援しています。南米大陸に広い分布域を持ちながら、各地で生息環境である森林の破壊や、家畜を襲う害獣としての駆除などによって、その数を減らしていると考えられるジャガーにとって、アマゾンは最後の楽園ともいうべきすみかの森。まだ謎の多いその生態を明らかにし、これからの保全に役立てていくことは、ジャガーを未来に向けて守っていく上で、欠かせない取り組みです。活動開始から1年の取り組みを振り返ります。
目次

ブラジル・アマゾンの自然とジャガー

南米大陸に広がるアマゾン川流域には、世界一の規模を誇る熱帯雨林をはじめ、季節によってその姿を大きく変える大湿地帯が広がっています。

アマゾン川流域の面積は約700万平方km。日本の国土の17倍に相当するこの地域には、4万種におよぶ熱帯の多様な植物と、3,000種もの魚類、400種以上の哺乳類が生息しており、鳥類も世界全体の種数の10%以上に相当する1,000種以上がこのアマゾンで確認されています。

このアマゾン川流域の森と湿地の生態系の頂点に君臨する野生動物がジャガーです。

ジャガーは南北アメリカ大陸では最大のネコ科動物で、ブラジル以外の中南米諸国にも分布しており、熱帯雨林はもちろん、広大な湿地や山地林、サバンナ、沿岸部の自然まで、さまざまな環境に適応。

かつては、1,500平方キロにおよぶ生息域をもっていたと考えられています。

© Andre Bartshi / WWF

ジャガーとすみかの森の危機

しかし、その生息域は現在までに半分近くまで減少したと考えられています。農地や牧草地の開拓のため、すみかの自然が広く失われてきたことが原因です。

また、こうした開発が行なわれた地域では、しばしばジャガーが家畜のウシやウマなどを襲うようになり、人と衝突する問題(HWC:Human- wildlife conflict)が発生。その結果、ジャガーが害獣として駆除される問題も多発するようになりました。

アマゾンとは別のもう一つのブラジルの熱帯雨林アトランティック・フォレスト(大西洋沿岸林)は、現在までにその大半が失われ、残っている森はかつての12%にすぎません。

同じく、セラードと呼ばれるブラジル中央部の広大なサバンナも、大豆などの栽培を目的とした農耕地の急激な拡大によって、自然の破壊が続いています。

これらはいずれも、長い間ジャガーがそのすみかとしてきた自然でした。

© WWF Brazil

大豆農園を造成するため大規模に切り払われた、ブラジル中部のセラードの自然。こうした開発もジャガーの生存を脅かす一因となっています。

ブラジルのジャガーに迫る問題

そうした中で、アマゾン川流域の熱帯雨林は、ブラジルのジャガーにとって、最後の楽園ともいうべきすみかになりつつあります。

しかし、このアマゾンも安全が約束されているわけではありません。長年にわたる開発は今も続いており、さらに近年は気候変動(地球温暖化)による干ばつや、森林火災の多発・大規模化が、その危機に追い打ちをかけています。

2019年から20年にかけてアマゾンで火災が多発した時には、930平方キロの森が焼失。約1,000頭のジャガーが犠牲になりました。

アマゾンの森を守ることは、ジャガーを守る上で欠かせない取り組みであり、同時に世界的にも類を見ない、貴重な生物多様性の宝庫を守ることでもあります。

そのためには、生息地の生態系に配慮した、持続可能な開発を地域で行ないながら、森林の保全・再生を進め、密猟や密輸を取り締まる必要があります。

また、国際的な気候変動を食い止めるための温暖化防止の取り組みが欠かせない活動といえるでしょう。

© Andre Dib / WWF-Brazil

2020年にアマゾンを襲った森林火災。ブラジル・ロンドニア州にて

WWFブラジルによるアマゾンのジャガーの調査活動

しかし、こうしたさまざまな保護活動を行なうためには、ジャガーの生態や、置かれている現状などを、正しく理解する必要があります。

とりわけ、熱帯雨林は、人の立ち入りが難しく、見通しが利かない場所。また、数か月間にわたる長い雨季があり、川の水位が数メートルも上昇して、森が広く冠水してしまうような場所も多いため、調査活動を行なうこともままなりません。
アマゾンに生息するジャガーも、まさにそうした状況にあります。

そこで、WWFジャパンでは、WWFブラジルがジャガーの保全活動の一環として取り組む、アマゾンでのジャガーの個体数調査を支援。

その1年目には、調査地点は、過去に十分な調査が行なわれてこなかった、ブラジル北部のアマパ州アラグァリ川とその支流の流域で、実際の調査活動が行なわれました。

© J.Mima / WWF Japan

アラグァリ川の支流。ボートで川を行き来するしか路はありません。

アマパ国有林でのジャガー調査

調査地点は、アマゾンの中でも、比較的豊かな森が今ものこる、アマパ国有林の域内で、陸路ではたどり着くことのできない場所です。

この広大な森の中で、常に移動している野生動物の姿を捉えるのは容易なことではありません。

そこでまず、2022年7月から9月にかけて、プロジェクトのパートナーでアマパ国有林の保全管理に当たっているブラジルの政府機関ICMBio(シコ・メンデス生物多様性保全研究所)と、WWF ブラジル、および現場での調査を担当する研究者らが連携し、調査地点の候補と、調査方法を検討。森の中に設置する、カメラトラップ(調査用の自動カメラ)を仕掛ける場所を選定しました。

調査地点のマップ。2つの川の合流点にベースキャンプを置き、3km四方のグリッドで調査ポイントを設定しました。

実際の調査が開始されたのは10月で、地図の作成や、情報の整理が進められ、WWFブラジルが手配したカメラなど調査用の機器も現地の調査拠点に到着。

検討の末設定された、調査現場36カ所のポイントに、72 台のカメラトラップが設定されることになりました。ポイントの間隔は3 kmで、南北を軸にグリッド上に設置されています。

そして総員15人からなる調査チームが、2つのグループに分かれ、ボートを使って川を遡上。調査地点にちかい岸から、路のない森に分け入り、前後10日間にわたって、予定のポイントでカメラの設置を行ないました。

カメラは調査ポイント1点あたり2台ずつ、地表から30~40cmほどの高さに設置し、24時間稼働。動くものにセンサーが反応すると、1回につき15秒間の動画を撮影する仕組みです。

© J.Mima / WWF Japan

設置したカメラの確認と調整。現場にパソコンを持ち込み、実際に捉えた画像をその場でチェックします。

自動カメラのレンズが捉えたものは?

約2カ月間にわたるこの調査の結果、設置したカメラトラップからは合計1万5,856点の映像記録が得られました。

このうち、哺乳類の姿を捉えていた映像は1,588点。そしてその内、ジャガーを撮影した映像は9点確認され、毛皮の模様を照合することで、少なくとも5頭がこのエリアに生息していることが分かりました。

また、同じく大型ネコ科動物のピューマ(3件)や、ジャガーの獲物となる草食動物のアメリカバク(99件)、クチジロペッカリー(413件)、クビワペッカリー(285件)なども記録。

このほかにも、マザマジカやアルマジロ、大型げっ歯類のパカやアグーチなども確認され、ジャガーが確かに生息していることに加え、その獲物となる野生動物が豊富にいることもわかりました。

アマゾンはその後、雨季に入り、川の水位が数メートル上昇することから、調査チームは一旦、1月の中旬までに設置していたカメラをすべて回収。データの解析に取り組み始めました。

© ICMBio / WWF Brazil

カメラトラップが捉えた動物たち。上段左から、ジャガー、ピューマ、アメリカバク、メスグロホウカンチョウ、オオアリクイの親子

これからのジャガーとアマゾンの保全に向けて

今回の調査で収集した1万点以上におよぶ映像データの詳細な解析は、まだ完了していませんが、その調査結果は、まだ研究の進んでいないアマゾンのジャガーの個体数密度や行動圏、また同じ生息地にどのような野生動物が息づいているのか、など、生態系の現状を把握する上で、有効な情報となることが期待されます。

そのために、WWFブラジルでは調査チームの主要メンバーの一人で、共に活動を行なってきた研究者のデイジー・フェレイラ氏をパートナーとして、データの分類と集計を進めることにしました。

また、分析については、ブラジル連邦政府との関係機関で、ジャガーなど大型ネコ科動物を保全するための国家行動計画を所管する国立肉食哺乳類研究保全センター(CENAP)の協力も得られることが合意されています。

さらに、調査に際しては、現場となったエリアの周辺に点在する、伝統的なコミュニティの集落も訪問。ジャガーの保護に向けた理解と協力を得るため、WWFジャパンのスタッフもこれに同行し、コミュニティの関係者や、現地で活動する女性団体との対話も行ないました。

WWFブラジルは、こうした調査データや地域とのつながりを基に、アマパ州やブラジルの中央政府に対し、ジャガーの保全計画の立案に貢献する協力や提言を目指していきます。また、アマゾンのほかの地域での調査についても、今後実施を検討する予定です。

© J.Mima / WWF Japan

地域の女性団体との対話。コミュニティ内ではこうした女性たちが手掛ける手工芸品などの販売も行なわれています。

ジャガーの保護につながる調査、取り組みを目指して

今回ご報告した、ブラジルでのジャガー調査・保全活動は、日本国内でWWFジャパンに寄せられたご支援により、実施することができました。

今回実施した取り組みはいずれも、地域の人々はもちろん、政府機関や研究者など、さまざまな立場の人々の国境を越えた協力の下で実現した取り組みです。

WWFブラジルでは、アマゾン地域以外にも、パンタナールの大湿地帯やセラードのサバンナ、アトランティック・フォレストなどで、ジャガーと人の間で起きている「あつれき(HWC)」の問題に取り組んでおり、そうした活動への理解と支援を必要としています。

WWFジャパンとしても、現在の活動への支援を継続しつつ、ブラジル各地で行なわれているさまざまな取り組みについて、日本でも発信し、ジャガー保護の輪を広げていきます。

WWFジャパンの「野生動物アドプト制度」について

WWFジャパンは、絶滅の危機にある野生動物と、その生息環境を保全する世界各地のプロジェクトを、日本の皆さまに個人スポンサー(里親)として継続的にご支援いただく「野生動物アドプト制度」を実施しています。
現在、支援対象となっているのは、アフリカ東部のアフリカゾウ、ヒマラヤ西部のユキヒョウ、南米アマゾンのジャガーの保護活動。今回ご報告した取り組みにも、ご参加いただいている皆さまより寄せられたご支援が活用されました。
この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
また、この活動の輪を広げていくため、ご関心をお持ちくださった方はぜひ、個人スポンサーとしてご支援に参加いただきますよう、お願いいたします。

野生動物アドプト制度について詳しくはこちら
https://www.wwf.or.jp/adopt/

【寄付のお願い】ジャガーの未来のために|野生動物アドプト制度 ジャガー・スポンサーズ

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