最新の地球温暖化の科学の報告書:IPCC第6次評価報告書 「自然科学的根拠(第1作業部会)」発表

この記事のポイント
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」の第6次評価報告書の第1作業部会総会が、7月26日から8月6日まで初めてオンラインで開催され、報告書と政策決定者向けの要約が8月9日に発表されました。今回は、猛暑や洪水などの現実の異常気象が、どの程度温暖化の影響によるものかが科学的に示されるようになったことや、1.5度の気温上昇に抑えるシナリオに関する知見がより詳細に示されています。2021年10月31日~11月12日にかけて開催予定の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向けて、最新の科学の知見が、私たちに「より早く、より強く、より高く」温暖化対策を進める緊急性を示しています。

IPCC第6次評価報告書「自然科学的根拠」政策決定者向け要約(2021年8月9日発表)

IPCC第6次評価報告書「自然科学的根拠」政策決定者向け要約(2021年8月9日発表)

IPCCとは、地球温暖化に関して世界中の専門家の科学的知見を集約している国連機関で、そこが出す代表的な「評価報告書」は、1990年に発表された第1次評価報告書から数えて6回目の発表になります。IPCCは、三つの作業部会に分かれており、第1作業部会は、温暖化の科学(自然科学的根拠)、第2は温暖化の影響(影響、適応、脆弱性)、そして第3は温暖化の対策(気候変動の緩和策)です。今回は、第1作業部会から自然科学に関する報告書が発表されたものです。

これらの作業部会ではいずれも、重要ながら複雑な科学の報告書を、各国の政策決定者にわかりやすく伝えるため40ページ程度の「要約」を作ります。この「政策決定者向けの要約」(Summary for Policymakers)は、内容のテキストの一文一文について、世界195か国の政府代表団が集まって承認していく作業を経て完成されます。これは国益がぶつかる温暖化の国際交渉のベースとなる科学の報告書ならではの手続きです。

初めてオンライン開催となり、2週間にわたって続いた会議では、各国政府代表団の激しい応酬が繰り広げられましたが、なんとか予定通りの期日の6日内に要約の承認作業が終了し、9日に発表されました。

はじめてオンライン開催となったIPCC総会。IPCC事務局の手際がよく、スムーズな運営だった

はじめてオンライン開催となったIPCC総会。IPCC事務局の手際がよく、スムーズな運営だった

スクリーンに映し出される進展状況。上が要約の文章の承認進展、下が時間を表す。残り時間が少なくなる中、まだ承認は半分しか進んでいなかった(緑色の部分)。

スクリーンに映し出される進展状況。上が要約の文章の承認進展、下が時間を表す。残り時間が少なくなる中、まだ承認は半分しか進んでいなかった(緑色の部分)。

夜中、早朝、日中と大きな時差がある中、参加した195か国の政府代表団。<br>WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー)の小西雅子もオブザーバー参加。

夜中、早朝、日中と大きな時差がある中、参加した195か国の政府代表団。
WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー)の小西雅子もオブザーバー参加。

2週間の最後に要約の承認作業が終わり、笑顔で拍手する第1作業部会共同議長

2週間の最後に要約の承認作業が終わり、笑顔で拍手する第1作業部会共同議長

これまでIPCCの知見は、パリ協定などの温暖化の国際協定の合意や実施に大きな影響を与えており、今回の報告書も、11月にイギリス・グラスゴーで開催される気候変動に関する国連会議COP26を前に、新しい科学の知見が注目されています。

なかでもCOP26に向かって注目される新しい知見は以下です(WWFジャパン私見)。
(()内は、政策決定者向けの要約の項目を表す)

1.地球の気候システム全体に人間活動によるフットプリントが見られること

人間活動によって約1.1度地球の平均気温は上昇しており(A.1.2)、熱波、激しい降水、干ばつなどに留まらず、氷河や北極圏の海氷の後退、海面上昇によるより頻繁な沿岸部の洪水や海岸浸食、海洋酸性化、熱帯低気圧の強大化などに人為的な気候変動の影響が認められる(A.1.4,A.1.5,A.1.6,A.3,C.2.5)。たとえば海面上昇は、近年になるほど上昇速度が高まっているが、少なくとも1971年以降は、人為的な影響が主要なドライバー(上昇要因)と指摘された(A.1.7)。

またイベントアトリビューション研究によって、熱波や激しい降水といった異常気象の頻度と強度の増加を気候変動に直接関連付けることが可能になった(A.3.5,A.3.4)。
すなわち、私たちはよりクリアに気候変動の爪痕を知ることができるようになった。

2.0.5度のさらなる気温上昇が影響に大きな差をもたらすこと(1.5度シナリオのより詳細な分析)

今回のシナリオ分析には、1.5度に抑えられる可能性が高いSSP1-RCP1.9シナリオが加わって、5つの代表的な排出シナリオに基づく将来予測の結果が公表されている(B)。1.5度に抑えるシナリオを除いて、どのシナリオでも2021年~2040年の間に1.5度を超える可能性が指摘された(B.1.3)。

気温の上昇に応じて、極端現象は増大していく。たとえば0.5度ごとの追加的な上昇で、熱波や激しい降水の頻度や強度は、識別可能な増加がみられる(B.2.2)。50年に一度の記録的な熱波が起きる頻度は、1.5度の気温上昇では産業革命前に比べて8.6倍、2度では13.9倍、4度では39.2倍にも達すると示された(Figure SPM.6)。また海面上昇は、1.5度に抑えるシナリオでも2100年には28~55センチ上昇し、最も高いシナリオでは最大1メートルに達する(B.5.3)。さらにいずれのシナリオでも、今後何世紀にもわたって海面はさらに上昇し続けると予測されている(B.5.4)。

すなわち、今後の気温上昇を可能な限り1.5度に抑えなければならない必要性がより切実に指摘されていると言える。

3.1.5度に抑えるための今後の排出上限枠の知見(炭素予算の観点)

気温の上昇幅は、過去からの累積CO2排出量にほぼ比例する。累積CO2排出量1兆トンごとに約0.45度上がることが示された(D.1.1)。気温上昇を抑えるには、それぞれのシナリオの炭素予算(炭素排出上限枠)の範囲内で排出ネットゼロにすることが必要である。またCO2以外の温室効果ガス、メタンも急速に減少させる必要がある(D.1)。

産業革命以降、人間活動によってCO2は約2兆4000億トン排出されており、気温上昇を1.5度に抑えるためには(67%以上の確率で)、残りあと4000億トンの枠しか残っていない(Table SPM.2)。
すなわち、排出量は今後ただちに急減させてネットゼロに持っていかなければ、1.5度の気温上昇に抑えることは可能ではなくなってしまう。


これらの科学の知見は、すでに私たち人類が地球環境を変化させていることを明示しており、さらに0.5度単位の今後の気温上昇に応じて影響が激甚化することを明確に示しています。より1.5度目標を目指していく重要性が示されたと言えます。

COP26に向けて、各国が提出しつつある2030年に向けた国別削減目標(NDC)を科学の知見に照らして十分な削減量、すなわち2030年には半減、2050年にはネットゼロに沿った目標を掲げることの重要性が改めて強調されました。

また、これまで人為的なCO2排出量を吸収してくれていた海洋や陸地の吸収源も、吸収量の増加ペースが累積CO2排出量の増加には追いつかず、今後実質的な緩和効果は相対的に低下していく事も示されました(B.4.1)。すなわち人為的な排出を急減させることがより求められていることが明示されているのです。

 今回のIPCC第54回総会にオブザーバー参加したWWFジャパンの小西雅子は、
「もはや気候危機は遠い国の話ではなく、自分たちの生活を脅かす猛暑や洪水が直接的に関係しており、このままではさらに激甚化していくことが科学によってより明示された。誰もに関わる身近で巨大なリスクとして、パリ協定に沿って1.5度に気温上昇を抑えることが、社会全体で共通認識となる知見を提供している。COP26に向け、46%削減目標を掲げた日本であるが、50%以上の高みを目指すことがより一層必要である。そしてその半減目標を確実に実施していく施策を整えて、COP26に提出してもらいたい」と、コメントしています。

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