タイ最大の国立公園でトラの生息を確認!

この記事のポイント
タイとミャンマーの国境を走る山岳地帯に広がる熱帯林は、絶滅の危機にあるインドシナトラに残されたほぼ最後の生息地です。しかし、トラの生息数や行動圏などは、今も不明のまま。一方で、森林の破壊が年々深刻化しています。そこで、WWFではタイ最大の保護区ケーン・クラチャン国立公園で2018年6月より自動撮影カメラによる調査を開始。2019年1月に最初のデータを回収し、分析したところ、1頭のトラが確認できました。今後も調査を継続・拡大することでこの地域のトラの生息数を明らかにし、包括的な保全計画を策定する予定です。

インドシナトラに残された最大の生息地

タイとミャンマー国境の山岳地帯に広がる森林。

ここは、トラの1亜種であるインドシナトラに残された最大の生息地です。

トラは世界に9亜種が存在していましたが、その内の4亜種はすでに絶滅したか、絶滅が確実な状況。残された5亜種の一つで、東南アジアのインドシナ半島、いわゆるメコン川の流域を中心とした地域に分布するインドシナトラもまた、絶滅の危機にさらされています。

© Thailand Wildlife Collective
© Kabir Backie / WWF-Greater Mekong

インドシナトラ

危機の最大の原因は、生息環境である熱帯林の破壊。そして伝統薬の原料として高値で売買される骨を狙った密猟です。

20世紀の終わり頃に推定されたインドシナトラの個体数は、最大で1,400頭ほど。生息国も、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイなど、全てのインドシナ諸国に及んでいました。

しかし近年、これらの国々では経済発展が著しく、それに伴う開発によって多くの熱帯林が切り開かれてきました。

その結果、インドシナトラはカンボジアでは既に絶滅し、ベトナムとラオスでも、ほぼ絶滅。繁殖可能な個体群はタイとミャンマーにしか残されていないと考えられています。

© Hkun Lat / WWF-US

新たな農地拡大のための焼畑は自然林減少の原因の一つとなっている。

依然として不明な個体数

しかし、タイとミャンマー国境におけるインドシナトラの個体数や生息状況は、ごく限られた一部の地域を除いて、これまで不明でした。

これは、ミャンマーの政情不安により調査が実施されなかったことや、タイ側でも系統立った調査が実施されていなかったことが原因でした。

何より、国境地帯は深い山岳地帯。これを覆う密林に分け入り、調査を行なうのは、決して容易なことではありません。

しかし現在、ミャンマーでは国内情勢が安定してきたことなどから、WWFではミャンマーとタイの両国において自動撮影カメラ(カメラトラップ)を用いた個体数調査を本格的に開始。

©WWF Japan

WWFジャパンではWWFタイと協力して、タイ最大のケーン・クラチャン国立公園における調査を2018年6月より実施しています。

面積3,000平方キロ!WWFが調査を開始

タイ西部、ミャンマーとの国境に接する形で設置されている、ケーン・クラチャン国立公園の面積は、約3,000平方キロメートル(東京都の約1.5倍)。広大である上、公園内の全域に通じた路なども敷設されていないため、一度に全てのエリアで調査を実施するのは困難です。

そこで、WWFでは、過去の密猟防止パトロールで集められたデータをもとに、トラの足跡や糞などが最も多く見つかっている場所から優先的に調査を実施する計画を策定。

最初の1年間は、国立公園の中心部、約500平方キロメートルの30地点に、60機の自動撮影カメラを設置する計画を立てました。
この調査では、トラの個体を識別するために、1地点につき向かい合わせに2機のカメラを設置。この間を通ったトラの、体側面の縞模様を撮影し、これを使って一頭ずつの特徴を見分けてゆきます。

しかし、調査を開始した6月は、雨季のため国立公園内に流れる川の水位が高く、一部の調査場所にはたどり着くことができませんでした。そこで、まずは16地点にカメラを設置して調査を実施。
その後、乾季を待って、2019年2月から残りの14地点にも順次カメラを設置しています。

これらの場所は、片道5日間ほどかけて、道のない山地の森を、野営しながら奥深くへと入って行く必要があるため、全ての地点にカメラを仕掛けるには1~2か月が必要です。

1頭のトラの生息を確認

こうしたカメラの設置と並行して、先にカメラを仕掛けていた14地点では、2019年1月に第一回目のデータを回収。その内容を分析しました。

カメラは、前を何かが動き、赤外線のセンサーに反応した時、自動でシャッターを切ります。風が吹いただけで写真を撮ってしまうこともあれば、さまざまな動物が通りすぎた場合にも、その姿を捉えることがあります。

実際この時に回収したカメラにも、トラ同様に希少なヒョウの亜種インドシナヒョウやアジアゾウ、マレーグマなどさまざまな絶滅危惧種の姿が納められていました。

そして、何よりも大きな成果として、1頭のインドシナトラも確認することができたのです!

他の地域では、絶滅状態に近いこのトラが、今もこの国立公園で確実に生息していることを確かめられた瞬間でした。

撮影されたインドシナトラ

今後も続く調査

WWFでは、2019年6月まで同地点にカメラを設置して、他のトラの個体も生息していないか確認した後、過去にトラの痕跡が見つかっている国立公園内の他エリアにカメラを移して、引き続き調査を実施する予定です。

また、ケーン・クラチャン国立公園のすぐ南にあるクイブリ国立公園でも、2019年1月に9年ぶりにトラの足跡が発見されたことから、同国立公園でも自動撮影カメラによる調査を実施する予定です。

こうしたトラが、どれくらいの行動圏を持ち、どのように移動しているのか。果たして山の向こうのミャンマーにまで移動している可能性はあるのか。またその個体数など、不明なことは多く残されています。

それでも、こうした調査で得られた絶滅危惧種の生息情報は、パトロールや保全計画の策定に無くてはならいものです。

WWFでは、タイの国立公園当局だけでなく、ミャンマー政府とも協力しながら両国で調査を進めることで、今後、国境をまたがる包括的な保全計画の策定を目指していきます。

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