日本の新しい温暖化対策目標を考える:国際シンポジウム開催


2015年3月20日、国際シンポジウム「日本の新しい温暖化対策目標を考える~2015年パリ合意の成功のために~」が実施されました。主催したのは、地球温暖化問題に取り組む日本のNGOのネットワーク「CAN-Japan」。WWFジャパンもその一員です。2015年12月にフランスのパリで開かれる予定の「COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)」に向けて、日本でも早急に、新しい温暖化対策目標を掲げる必要があることを指摘するとともに、その目標がどのようなものであるべきかの提言を発表しました。

「パリ合意」とは?

2015年は、気候変動の国際交渉にとって非常に重要な年となります。
なぜなら、年末にフランスのパリで開催されるCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、「2020年以降の温暖化対策の国際枠組み」に、世界の国々が合意することをめざしているからです。

「2015年合意」あるいは「パリ合意」と呼ばれるこの合意の実現に向けて、2年前のCOP19では、各国が2015年3月までに国別目標の<案>を提示するよう促す決定がなされました。

前もって各国の目標案を出すことで、温暖化対策として充分か、衡平なものであるかなどを、国際的に十分に議論できるようにするのが狙いです。

すでに2月27日、スイスが草案を国連に提出。EU、ノルウェー、メキシコ、そしてアメリカもこれに続いています。

また、これまで温室効果ガスの削減目標を持つことに消極的だと見られていた中国も、目標案の提出に向けた準備を進めています。

国際社会の一員として、日本に求められることとは?

ところが日本では、国別目標案の検討作業が大幅に遅れています。
このままでは、世界的な合意の足を引っ張るだけでなく、国際社会における日本の発言力や信頼性を失ってしまうおそれもあると、「CAN-Japan(地球温暖化問題に取り組む日本のNGOのネットワーク)」では危惧しています。

そこで、本シンポジウムでは、アメリカを代表する環境シンクタンク・世界資源研究所(WRI)から特別ゲストを迎え、NGOや産業界からの提言もご紹介しながら、地球温暖化への対策として真に有効な目標とはどのようなものか、そして、新しい国際枠組みの合意がいかに重要であるかを議論しました。

2015年合意の土台づくりをめざして交渉が進められた南米リマでのCOP20

【各登壇者からの発表】

在日フランス大使館政治部:ポール・フリア氏

COP21の開催国となるフランスを代表して、在日フランス大使館一等書記官のポール・フリアさんよりメッセージをいただきました。

<メッセージの概要>

温室効果ガスの削減という話になると、どうしても「負担をどう分担するか」という議論になってしまう。しかし、負担を共有するのではなく、解決を共有するのだと考えるべきではないだろうか。そして、その解決は、意欲的な内容であるべきだ。

コペンハーゲン会議のような結果(COP15。2013年以降の国際的な削減目標の合意をめざしたが採択に至らなかった)になっている時間はもうない。COP21を成功させることは、フランス政府の使命だと思っている。

2014年9月にニューヨークで開催された国連気候変動サミットで、潘基文事務総長が語られた「人類にプランBはない。プラネットBもないように」という言葉を皆が心に刻んで、COP21に臨むことを願っている。

在日フランス大使館一等書記官のポール・フリア氏

世界資源研究所 (WRI:World Resource Institute) :ランピン・ソン氏

世界を代表するシンクタンク・世界資源研究所で、気候変動・エネルギー分野の戦略立案・実施を担当し、COP21でのパリ合意に向けて各国の目標案に関する調査・研究をコーディネートしているランピン・ソンさんに特別講演「国際的な行動~気候変動に対処するためのパリ合意の役割~」をお話しいただきました。

<講演の概要>

国連気候変動枠組条約のもとで、締約国は、2015年12月のパリ会議終結までに、気候に関する新たな国際合意を実現すると約束している。

そして、その目標達成を促進するために、国別目標案(約束草案)を公的に発表することに同意している。

国別目標案は、野心的であり、透明性があり、衡平であり、適切なタイミングで提出されることが必要である。パリ合意を成立させるためには、国々が互いの目標を比較して再検討する時間が欠かせない。

これまで温室効果ガスの排出量削減目標を持つことに消極的であったアメリカや中国に変化が見られ、目標案を発表する動きが見られる。

また、アメリカではエネルギー源としての石炭利用が減り、再生可能エネルギーへのシフトが始まっている。

中国は今や、世界で最も再生可能エネルギーに投資している国となった。インドでも大胆な再生可能エネルギー計画が作られている。

世界は大きく動き始めている。日本も、十分な時間的余裕を持って目標案を提出すべきである。

遅くとも2015年6月までに、しかも、アメリカやEUと同レベルの数字が入った意欲的な目標が示されることを期待している。

COP21で、温暖化対策にとってよりよい合意をすることで、初めて、経済界にも明確なシグナルを送ることができる。国はもちろん、都市、NGO、企業、市民、すべてのレベルで、パリ合意がよりよいものになるよう、力を尽くすことが求められている。

世界資源研究所 (WRI:World Resource Institute) :ランピン・ソン氏

WWFジャパン 気候変動エネルギーグループ・リーダー:山岸尚之

CANジャパンを代表して、WWFジャパンの山岸尚之が、「新しい気候目標に向けての提言」を発表しました。

<発表の概要>

現在、日本の国別目標については、環境省と経済産業省が共同で検討会を重ねている。

これと平行して、温暖化問題について長年、取り組んできたNGOでも、CAN-Japanというネットワークのもとで独自に、日本はどのような目標を持つべきかを検討し、発表している。今回はその提言内容を紹介したい。

まず、国内での削減については、2025年までに1990年比で30~35%、2030年までに1990年比で40~50%削減する、という目標を掲げるよう提言している。

また、温室効果ガスの削減があくまで中心的課題ではあるが、それに加えて、温暖化による影響への適応計画、国際的な資金・技術支援に関する方針、海外での排出量削減への貢献についても盛り込むことを求めている。

CAN-Japanでは、「グローバルな削減量(世界で必要とされる削減量にどれだけ貢献できるか)と、「衡平性」を重視して提言の検討を行なった。

日本では、「削減ポテンシャル(どれだけ削減の可能性があるか)」が重視されがちだが、現実的な視点を踏まえつつも「どうすべきか」に立って考えることが必要。

日本政府は、すでに「2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減する」という閣議決定を行なっている。

その長期目標との整合性を考えれば、2030年に1990年比で23%削減が下限であり、それより速いペースで削減することが望ましい。

温室効果ガスの主要な排出国は、すでにどうやって温暖化問題の解決に貢献するかを示し始めている。日本がどのような目標を持つのか示せなければ、国際社会の中で指導力を発揮することはできない。

WWFジャパン 気候変動エネルギーグループ・リーダー:山岸尚之

株式会社リコー 環境推進本部審議役:則武祐二氏

株式会社リコーを含む8社が加盟する「Japan-CLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)」は、持続可能な低炭素社会への移行に先陣を切ることを、自社にとってのビジネスチャンス・次なる発展の機会と捉える企業ネットワークです。

2015年3月5日には、「日本の気候変動政策に関する政策提言~ビジネス界から~」を発表。その内容をご紹介いただきました。

<発表の概要>

Japan-CLPは、低炭素化を経済活動の前提と捉え、長期的には二酸化炭素の排出を伴わない全く新しいビジネスを展開する必要性を認識し、「日本の気候変動政策に関する政策提言」を作成した。この提言が、政策立案者を支援するきっかけになればと思っている。

IPCC第五次報告書の内容や、すでに起きはじめている被害を見ても、温暖化の進行は疑う余地がない。一方で、日本の温室効果ガス排出量の2013年暫定値は1990年比で10.6%増加している。

このまま温暖化の緩和策が不十分であれば、今後、リスクは増大し、膨大な経済損失と適応費用がかかることは明らかである。

温室効果ガスの削減をビジネスチャンスにするには、温暖化対策をしっかり行なうという政策決定が欠かせない。その決断がされないままだと、技術革新などの面でも世界に遅れをとってしまう。

Japan-CLPとしては、2020年以降の中長期目標を早期に設定すべきであり、その際には「2050年に80%削減をめざす」という閣議決定を変えることなく、それに基づいた目標とすべきであることを提言する。

これに加えて、政府には、目標達成に向けたグリーン経済への移行制作を進めるべきこと、企業には、低炭素社会実現の牽引車として役割と責任を果たすべきであることを、併せて求めていきたい。

株式会社リコー 環境推進本部審議役:則武祐二氏

名古屋大学大学院環境学研究科教授:高村ゆかり氏

国連気候変動交渉プロセスおよび国際制度を長年にわたって研究されてきた高村氏は、日本政府の国別目標(約束草案)を検討する審議会の委員でもあります。そこで、「日本の新しい温暖化対策の目標をめぐって」コメントをいただきました。

<発表の概要>

国別目標は、各国が自主的に作るものだが、何でもいいわけではない。発表のタイミングとしては2015年3月をめどとすること、その国の現状を越える取り組みで、継続的に前進するもの、とされており、この条件には日本政府も合意している。

日本の目標案は、2030年のエネルギーミックスが決まらないということで足踏みしている。しかし、エネルギーミックスがどうあれ、省エネルギーの量の積み増しや、再生可能エネルギーの導入を、もっと野心的に検討することはできる。2030年の目標を考える際には、2030年よりも先がどうなるかも考えつつ決めていかねばならない。

90%の電力を化石燃料に頼り、海外から輸入している日本の現状は、エネルギーコストの面からも問題が大きい。その意味でも、温室効果ガスの削減に対する野心的な目標案を持つことは、日本にとって大きな意味がある。そのあたりをもっと問うていく必要があるのではないか。

名古屋大学大学院環境学研究科教授:高村ゆかり氏

パリ合意の成功に向けて

それぞれの発表の後には、会場からの質問も交えつつ、ディスカッションを行ないました。

その中で、発表者の誰もが強調したのは、世界が国別目標の提出に向けて大きく動いている中で、日本政府の足取りはかなり鈍い、という点でした。

もう一つ、指摘されたのは、パリ合意がゴールではない、という点です。

国際社会はすでに、世界の平均気温の上昇幅を、産業革命前と比べて「2度未満」に抑える必要があることに合意しています。

それを達成するには、まずしっかりとパリ合意を成立させ、数年後に、さらなる削減に踏み込んでいけるようにせねばなりません。

WWFジャパンでは、2015年3月5日に安倍晋三首相にあてて書簡を送り、温暖化対策目標案を早急に策定すること、「2度未満」を見据えた長期ビジョンを示すこと、国際公約となっている「気候資金」にコミットすることなどを求めました。

12月のCOP21・パリ会議に向けて、日本が野心的な目標をしっかりと出せるかどうか、国内でも注目と関心が高まることが必要です。WWFは、CAN-Japanとともに引き続き、この課題に取り組んでゆきます。

新しい国際枠組みは合意されるか

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