WCPFC北小委員会会合:問われる太平洋クロマグロの資源回復計画の行方


「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の第11回北小委員会の会合が、2015年8月31日から札幌で開催されます。この会合で、危機的な状態にある太平洋クロマグロの資源を保護するため、日本をはじめとする参加各国は、長期的な資源回復目標に合意することが求められています。これが成立しなかった場合、危機はさらに増大し、日本近海を含めた北太平洋では今後、クロマグロ漁を一時禁漁とする措置も、検討せざるを得ない状況になることが懸念されます。

機能しなかった現行の資源管理

マグロ類の資源管理を話し合う国際機関の一つである「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の第11回北小委員会の会合が、2015年8月31日から9月3日まで北海道の札幌で開催されます。

WCPFCの北小委員会は、同じく東部太平洋のマグロ資源を管理するIATTC(全米熱帯まぐろ保全委員会)と共に、現在危機的な状況にある太平洋クロマグロ(本まぐろ)資源の確実な回復に対し、大きな責任を負っています。

北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)の報告によれば、太平洋クロマグロ資源は、過去の過剰漁獲により非常に悪い状態にあることが指摘されており、資源量も約96%が失われたとされています(初期資源量=漁業が行なわれる前の推定される資源状態との比較)。

2011年からは、各国による資源管理が導入されましたが、現状も資源は重度の枯渇状態が続いており、2014年に報告された最新の資源評価でも、資源が大きく枯渇していることの主因は、漁獲による死亡であることが示されました。

また、2014年には、クロマグロの加入量(孵化後、新たに漁獲対象となる幼魚数)についても、低迷が続いている傾向が確認されました。

もし、現在の加入量が低い水準のまま継続することになれば、資源回復が想定より遅れる可能性も懸念されます。

WWFでは、これらの状況を受け、中西部太平洋および東部太平洋で行なわれている現行の暫定的な管理措置では、太平洋の海洋生態系の頂点に立つクロマグロを健全に保全し、その資源を持続可能な形で利用してゆくには不十分であると考えます。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。
海域や魚種によって管轄が異なる。くわしく見る


メキシコで養殖(蓄養)される太平洋クロマグロ。 マグロは卵から育てる完全養殖がまだ普及しておらず、未成魚をつかまえて生け簀で育てる「蓄養」と呼ばれる養殖が一般的に広く行なわれている。こ の方法は結局、自然の資源に依存するため、蓄養マグロを増やしても、天然資源の保護にはつながらない。

WCPFCでの保全措置とWWFの要望

2014年の中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)において、日本をはじめ各国は、ISCの科学的勧告に従い、30kg未満の太平洋クロマグロの漁獲削減を行なう保全措置を採択しました。

ここで対象となったのは、主に「メジ」「ヨコワ」といった名で呼ばれる、若い個体です。

この採択は、一応の評価に値するものですが、産卵可能な大きな親魚については、その漁獲規制が「努力目標」にとどまり、不十分なものとなっていました。

結果として、太平洋クロマグロへの漁獲圧力は十分に軽減されることなく、資源状況は回復を見ないままです。

そして、ISCの勧告に従って、若い個体の枯渇の危険性を低減し、産卵可能な親魚の量を早期かつ確実に回復させるためには、最新の科学的な情報に基づいた、太平洋クロマグロの長期的視点に立った資源回復計画を、早急に導入することが必要とされています。

現在の資源状態に強い懸念を抱いているWWFも、太平洋クロマグロを漁獲する漁業の全てにおいて、成魚の漁獲規制についてもより厳しい取り組みを行なう必要があると指摘。

その実現のため、現行の暫定措置にとどまらず、IATTCとWCPFCの両委員会に対して、資源量を「初期資源量の20%」を目指すべき指標として回復させることを目標とする、厳格な長期的回復計画の合意を強く求めてきました。

また、規制措置の遵守が徹底されるよう、漁獲の綿密なモニタリングを行なうこと、さらに、2016年のはじめに新たな資源評価を行なうことを求めています。

今回の北小委員会会合に対するWWFの要望のポイント

WWFジャパン・水産グループリーダーの山内愛子は、「もし、今回の北小委員会で十分な管理措置が合意されなければ、今後、枯渇の危険性が極めて高い太平洋クロマグロのような魚の漁業を、一時的に全て禁漁にする措置を検討する必要が出てきます。

また、世界で漁獲されるクロマグロの多くを消費している日本の流通関係者も、その取扱いについて大幅な見直しを行なう必要も出てくるでしょう」と今回の会議の重要性いついて述べています。

また、WCPFCが、特にホスト国である日本政府が、クロマグロ資源の保全に向けた取り組みをためらうような事があれば、それはIATTCでの合意形成にも悪影響を及ぼし、太平洋全体のクロマグロの保全にも、深刻な打撃となるでしょう。

WWFは、こうした「負の循環」が生じることに強い懸念を示しています。

WWFによる要望の骨子

  • 2030年までに、初期資源慮の少なくとも20%にまで回復させることを目標にした、太平洋クロマグロの長期的な回復計画に合意すること
  • 太平洋クロマグロの産卵親魚を保全するために、現行の暫定的な管理措置に加え、30kg以上の成魚についても厳しい漁獲制限を実施する、予防的措置に合意すること
  • WCPFC、IATTC双方での太平洋クロマグロの漁獲証明制度の導入


2015年9月3日 追記:WCPFC北小委員会、閉幕

太平洋クロマグロの長期回復計画の骨子合意に失敗

2015年8月31日から9月3日まで、札幌で開催されていた、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)第11回北小委員会の会合が閉幕しました。

今回から参加国となったフィジーを加え、10カ国が加盟する北小委員会でしたが、会議参加国数は合意のための定数を下回る6か国となり正式な合意は12月に持ち越されました。

今会議の主な議題は、現在の太平洋クロマグロの暫定管理措置を長期的回復計画に乗せるにあたり、回復計画の骨子や回復目標などを議論することでした。

しかし、会期中これらの議論は空転し、結果として、危惧されている太平洋クロマグロの加入量の崩壊リスクに備えた「緊急措置」を、現行の管理措置に盛り込むことのみが、実質合意されたにとどまりました。

この「緊急措置」には、クロマグロ漁業の全面禁漁も、選択肢の一つとして加えられる可能性がありますが、そもそも求められていた長期的な回復計画の合意には程遠く、会合としては大きな成果が見られずに終わりました。

WWFジャパン・水産グループリーダーの山内愛子は、この結果について、次のようにコメントをしています。

「太平洋クロマグロの資源回復の成功は、北小委員会のリーダーシップにかかっていますが、4日間を通して委員会の積極的なイニシアチブは全く見られませんでした。

こうしている間にも、太平洋クロマグロの状態は歴史的にもっとも悪かったレベルに近づいており、北小委員会がその資源保全に対する責任を果たし切れていないことに懸念を抱かざるを得ません」。

今回の会合にあたり、WWFが各国に対して要望していた漁獲証明制度については、次回会合で合意するべく取り組みが本格化することになりましたが、これも次回会合までの宿題を多く残しています。

2015年の交渉の遅れにより生じた、2016年になされなければならない作業は、ISC(科学委員会)が発表する予定の新たな資源評価による現行措置の見直しを含め、山積の状況が続いています。

WWFは2016年9月に日本で開催される第12回北小委員会が太平洋クロマグロ資源をはじめとする北太平洋の重要な漁業資源であるマグロ類の保全管理に責任を果たすことを強く要望し、そのプロセスを見守り続けていきます。


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