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「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」が報告書を発表

2017年11月27日から始まる「ワシントン条約」の常設委員会会合を前に、日本の関係省庁主導のもと象牙製品の製造や加工、流通にかかわる業界関係者を集めた「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」が報告書を発表しました。今、世界では、アフリカゾウ密猟の深刻化に伴い、象牙の国内取引を合法として行なってきた国々のいくつかが、全面的に取引を法律で禁止する方向に舵を切ろうとしています。そうした中、同じく象牙の国内市場を有する日本政府と関係者が、どのような認識のもと対策を進めようとしているのか。発足当時から唯一のNGOとして参加し、協議会内部で提言を続けてきたトラフィックが最新動向を解説します。

日本における象牙の国内取引

現在、年間2万頭が密猟されているといわれるアフリカゾウ。
その密猟の目的は、アジア地域を中心に高値で売買される象牙です。

象牙は「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)」で、国際間の商取引は全面禁止されていますが、今もいくつかの国々では、国内で象牙取引が合法的に認められています。

日本もまた、象牙の製造、加工、流通、販売が続けられている国の一つ。

象牙の産業規模は、1980年代と比べ10分の一以下 まで縮小しましたが、いまだに多くの業界が関与する形で、国内取引が行なわれています。

ハンコ(印鑑)以外にはアクセサリーなどの装身具や、三味線の撥といった和楽器の部品など、その用途はさまざまであり、また、骨董市などでの「古物」としても活発に取引されています。

これらの象牙製品の多くは、1989年にワシントン条約で象牙の国際取引が禁止される以前から日本にあったもの、1999年と2008年の2回に限り、条約での取り決めの下、限定的に取引が認められて輸入した象牙から製造されたものであると考えられています。

そのほかにも、全形牙(1本の形状を残す牙の状態の象牙)や製品の原材料となるカットピースなどの原材料としての象牙も数多く残り、取引されています。

このようにして、現在でも世界有数の国内市場を有する日本。日本の象牙取引が、アフリカゾウの密猟や象牙の違法取引の一因とならないように厳格な体制を取らなければなりません。

官民協議会の発足

日本では、象牙の国際取引が全面禁止された1989年以降、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」をはじめ、象牙取引を管理する法律を設け、国内取引の管理を行なってきました。

しかし、取引の形態は時代によって変化するため、規制や管理もそれに合わせた対応を取ることが必要です。

特に、この10年間ではインターネットを介した流通が拡大し、2015年、その利用率は2002年と比べると5.2倍。そこでも象牙をはじめとするさまざまな野生生物由来の製品や生きものそのものが取り扱われるようになってきました。

WWFジャパンとトラフィックでは、この取引の変化に早期から注目。

現状の法体制ではその規制と管理が難しくなる可能性があることから、独自に調査と提言を行なってきました。

そして、2014年にはトラフィックが行なったインターネットでの象牙取引に関する調査報告をきっかけに、環境省と経済産業省の主導の下、eコマース企業を招いた関係省庁連絡会議が開催。

象牙の印材とハンコ製品

この連絡会議から発展し、「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」が2016年5月に発足しました。

協議会の目的は、多岐に渡る日本国内での象牙取引に関する情報や課題を共有し、違法取引への適切な対策の実施を促進すること。

政府機関をはじめ、小売りやハンコ業界などの象牙を取り扱う民間の事業者がこれに参加しています。

また、野生生物取引を監視するトラフィックも、唯一のNGOとして、アフリカゾウ保全や違法取引対策強化を求める立場から、この協議会に設立時から参加。

政府機関や象牙取引に関わる事業者が多数を占める協議会において、国際的な知見をふまえ、独自の市場調査を元にした実態や、科学的・客観的情報に基づく問題点を指摘し、参加者の問題認識の向上に努めると共に、協議会として取るべき今後の対策についての提言に取り組んでいます。

官民協議会の特色

この協議会の設立により、日本では初めて、国内の象牙取引に関わるさまざまな主体が、違法取引という一つの問題について認識を共有し、対策を話し合う場が設けられることになりました。

それまでは、違法性が疑わしい事例などが発覚しても、個別に対応や改善を要請するしかなかった状況であったことを考えると、これは国としての象牙管理の在り方を考える上で、大きな変化と言えます。

また、国内の管理体制の整備にあたる省庁に加え、警察庁など実際の取り締まりにあたる法執行機関が参加したこと。

そして、近年象牙に限らず課題の多いオンライン取引の対策を講じる上でもe-コマース企業や関連の団体が参加したことも重要な点です。

茶道具に利用される象牙(棗の蓋)

さらに、これまで取引の実態があまりわかっていなかった古物(骨董)市場への対策を強化する一環として、2017年3月からは古物関連の業界団体も、メンバーに加わりました。

【適正な象牙取引の推進に関する官民協議会:参加機関】

分野参加主体関与する内容
政府機関 環境省、経済産業省 国内の象牙管理体制の整備
財務省、警察庁 違法取引の取り締まり
外務省 ワシントン条約ほか対外政策
文化庁 芸術文化関連
事業者 全国印判用品商工連合会、日本象牙美術工芸組合連合会 象牙製品の製造・卸売
公益財団法人全日本印章業協会 象牙製品の小売
全国質屋組合連合会(販売)、東京都古物商防犯協力会連合会(防犯) 象牙を扱った古物の取り扱い
全国邦楽器商工業組合連合会 楽器の部品としての象牙の製造・小売(芸術文化関連)
e-コマース関連表 株式会社ディー・エヌ・エー、ヤフー株式会社、KDDIコマースフォワード株式会社、楽天株式会社(2017年8月脱退) 象牙取引が可能なオンラインでのプラットフォーム
違法情報等対応連絡会 インターネット上の違法情報に関する対策
有識者 大学教授 専門的知見からの助言
NGO(非政府組織) トラフィック 取引監視および保全提言

日本ではまだあまり注目されない野生生物の違法取引について、こうした多角的な主体による連携が実現したことは大きな特徴です。

協議会の認識の変化

この協議会が発足した当時の多くの関係者の認識は「現在の日本国内の象牙取引制度は十分」というものでした。

このため、議論の重点は「適切な制度運用の徹底」と「国内外への適正な情報発信」することに置かれていました。

そして議論の成果を、参加する各メンバーによる象牙管理に関する取り組みの情報とともにまとめ、「報告書」として発表。

日本政府により対外的にも発表され、日本の国内市場について述べた、国際的な資料の一つとされました。

しかしトラフィックは、協議会内で再三にわたり 、日本国内の管理体制も万全とはいえない懸念を指摘。

アフリカゾウの密猟と、国際的な象牙の違法取引の深刻さを示す情報を提供すると共に、日本の象牙取引が今後、新たな密猟や違法取引の一因にならないよう対策を講じることを訴えてきました。

その結果、協議会のメンバーの間には少しずつ理解が広がり、取り組みに対する姿勢にも変化が見られるようになりました。

例えば、WWFジャパンとトラフィックが取引の停止を求めてきたeコマースの分野に関しては、自主的に自社の提供するサービスの中での象牙製品の取引を停止する企業が出てきました。

2017年11月には、スイスで開かれるワシントン条約の常設委員会会合の開催を前に、協議会は最新の報告書を発表しましたが、そこでも、協議会の認識と姿勢の変化が見て取れます。

協議会が2016年9月に発表した報告書と比較すると、前回では、協議会の重点が、「適正な制度の運用」や「国内外への情報発信」に置かれていたのに対し、新たな報告書では、今後、「取引を適正にできない事業者を市場から徹底的に排除していく」、また、「問題が認められる取引形態については、その取引の停止の検討等も含めた方策の検討」など、といった必ずしも「取引ありき」ではない踏み込んだ主張を行なっています。

【協議会の認識変化】

2016年9月の報告書2017年11月の報告書
アフリカゾウの密猟及び象牙の違法取引について 適切な対応を不断に点検・検討し、徹底した管理に努める 日本が責務を自覚し、断固として対処していく
日本の象牙取引について 適切な対応を不断に点検・検討し、徹底した管理に努める
  • 実態を精査し、取引を適正にできない事業者は市場から徹底的に排除されるようにしていく
  • 問題が認められる取引形態についてはその取引の停止等も含めた方策を検討し、健全化を目指す
協議会の進め方について
  • 課題の認識
  • 適正な制度運用
  • 国内外への情報発信
  • 新たな課題(トラフィックの調査結果など)の検討
  • 事業者寄りの活動にならないように、種の保存の観点を踏まえた対策を進める

報告書は、それぞれの参加機関の取り組みの進捗を報告するもので、日本政府の政策を示すものではありません。

また、書かれていることも書面上の「文言」に過ぎず、実際の行動が約束されているわけでもありません。

しかし、日本政府が主導する協議会の中で、これだけ幅広い業界関係者が共通認識を示す「文言」に、ここまで踏み込んだ記述が加えられたのは、大きな変化であり、進歩といえます。

こうした認識や展望の変化には、トラフィックが、2017年に実施した最新の取引動向の分析や市場調査の結果(2017年12月発表予定)にもとづき、「日本においても取引停止を含めた厳格な措置が早急に必要である」という立場を貫いたことも、強く影響を及ぼしました。

日本の象牙取引のこれから

近年、いくつかの国が象牙の国内取引禁止を宣言 する例が増えてきました。タイやアメリカは国内の法律を改正し、中国は国の指針として示すなど、政府主導の対策が取られています。

その背景にあるのは、深刻化するアフリカゾウの密猟。そして、その密猟の利益が紛争のための武器の資金や、他の国際犯罪にも回っているという、深刻な状況です。

日本では今のところ、密猟されたアフリカゾウの象牙が大量に違法輸入されるような事態は生じていません。

しかし、そうであっても、密輸(違法な輸出入)の確実な取り締まりと、密輸された象牙かどうか国内で識別ができない限り、新たな密猟による違法象牙が流通する可能性を否定することができなくなります。

2011~2016年の期間で、中国側で押収された象牙が日本から輸出されたものであった事例が、100件以上確認されています。
国内での取り締まりや、国内の象牙の流通の状況を把握できなければ、国内在庫の海外への違法輸出を止めることはできません。

そうした中、今も日本では古物業者による法令不遵守が相次いでいるほか、国内から国外に象牙が違法に輸出されていることが、トラフィックの調査により明らかになっています。

これは世界の象牙のブラックマーケットを活性化し、さらなる密猟を呼ぶ一因になる可能性につながります。

1980年代までは大量の象牙を輸入し、その後も特別に認められた取引で取得した象牙の在庫を抱える日本として、こうした違法取引を取り締まり、断固とした措置を国内で取ることは、国際的な責任です。

日本は、違法輸出や国内の無規制な取引、違法行為をただちに阻止しなければなりません。

WWFジャパンとトラフィックは、日本の象牙の国内市場は、管理のできない取引は停止し、厳格に管理できる狭い例外を特定するなど、健全化に向けて厳しい決断を下すべきと考えています。

日本の象牙取引は今、この先どのような道を歩むべきか、指針を示す時を迎えています。

協議会にはその中で、今後の判断を支え、あらゆる「抜け穴」を排除して、取るべき施策を検討する場としての機能が期待されています。

幅広い象牙取引関係者を集めた協議会が積極的なイニシアチブを取り、その「責務」を果たすように、トラフィックは引き続き建設的な協議を強く求めていきます。

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シリーズ:象牙とアフリカゾウ

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