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森林セミナー「持続可能な天然ゴムの生産と調達」 開催報告

2017年7月7日(金)、WWFジャパンは森林セミナー「持続可能な天然ゴムの生産と調達」を開催しました。生物多様性豊かな海や森などの自然環境に由来するさまざまな資源は、どれも日々の暮らしやビジネスに欠かせないものばかり。本セミナーは、そうした資源の一つであり、今後も生産量の増加が予測される天然ゴムについて、日本市場からも持続可能性を求める動きがより拡大することを期待し、開催されました。

天然ゴムの持続可能な生産と調達

世界各地で森や海の保全に取り組むWWFは、林産物や水産物といった自然資源に由来する産品が周辺の生態系や地域社会などにも配慮した持続可能な方法で生産、利用されるための仕組みづくりにも力を入れてきました。

とくに森林分野においては、森林破壊との関連が強く指摘されてきた木材、紙パルプ、パーム油といった産品に関して、より良い管理を目指した多くの取り組みが実践されています。

そして近年、これらの産品に加え、天然ゴムに関しても、トレーサビリティや森林生態系への配慮について確認しようとする動きが始まっています。

ナイフなどでゴムの木の表面近くを削ると出てくる白い樹液。これを集めて凝固、加工したものが天然ゴム。

その一例には、2015年に発表されたWWFフランスと世界的なタイヤメーカーのミシュラン社、そして2016年のWWFジャパンとトヨタ自動車株式会社とのグローバルなパートナーシップ、2017年のゼネラルモーターズ社による持続可能な天然ゴム調達のコミットメント発表などがあります。

こうした動きの背景にあるのは、天然ゴムの生産も、主に熱帯地域で自然の森を減少させる要因の一つになっているということです。

生産現場と市場の両方で持続可能性の取り組みを広めるためには、現地の農家や地域コミュニティ、行政、NGO(民間団体)、そして調達を行なう企業など多様なステークホルダーの協働が必要です。

そうした中で、WWFジャパンは2017年7月7日、東京でセミナー「持続可能な天然ゴムの生産と調達」を開催しました。

これは、天然ゴムに関わる企業や団体が多い日本市場からも、持続可能性を求める動きが拡大することを期待し開催したものです。

セミナーでの各講演については、下記をご覧ください。

森林セミナー「持続可能な天然ゴムの生産と調達」開催概要

日時 2017年7月7日(金)13時半‐17時
場所 中央大学 駿河台記念館 285教室(東京都千代田区神田駿河台3-11-5)
参加者 約120名
主催 WWFジャパン

各発表の内容

発表1.森林保全と持続可能な利用

WWFジャパン 自然保護室 室長 東梅貞義

WWFジャパンからはまず、世界の森林資源の状況と減少の主要因について紹介しました。

とりわけ、違法であったり、持続可能とはいえない方法で行われる製紙原料やパーム油を収穫するためのプランテーション開発による森林破壊や、それにより生じている野生生物への影響、地域住民との紛争などの事例について報告。

そして世界中のWWFが長年取り組んできた、「持続可能な市場」の拡大のための取り組みついて説明しました。

これは単純に「自然資源を使うことに反対する」のではなく、科学的な根拠に基づき保全と利用の両立を実現し、地域住民や労働者の権利などにも配慮した「持続可能な生産」と、そうした方法で生産された製品を意図的に選択する取り組みです。

続いて、天然ゴムに関する近年の動きとして、一部の地域では違法伐採やランドグラブといわれる問題のある土地取引、自然林が豊富に残る地域での天然ゴム植林をはじめとする農地拡大のための開拓が、希少な生態系の損失につながっていることも指摘。

その一方で、持続可能な天然ゴム生産と利用の動きを加速させるための新たなプラットフォームの設立の動きがあることを紹介。これには天然ゴムのサプライチェーンに関わる多くのステークホルダーからの参加と協働が必須となることから、本セミナーに参加した日本企業に対しても積極的な参加が期待されると述べました。

新たなプラットフォームで「持続可能な天然ゴム」に必要な要素

発表2.生産現場からの事例

WWFタイ アグリカルチャー・フォレストリープロジェクト、マネージャー、スダラ・サンクン

WWFミャンマー サステナブルビジネス、マネージャー、ゴーラ・ブギュプタ

WWFインドネシア ポリシー・サステナビリティ・トランスフォーメーション、ダイレクター、アディタヤ・バユナンダ

発表2では、天然ゴムの主要生産国であるタイ、インドネシア、そして近年生産地の拡大が報告されるミャンマーより、現地で森林保全と天然ゴム生産に関わるプロジェクトを担当するWWFのスタッフが、各国での具体的な取り組みについて紹介しました。

はじめにWWFタイからは、パーム油や天然ゴムといった産品の生産の拡大にともない、タイ国内の自然林は減少していること、またその一部は国立公園といった法的に保護されている地域でも行なわれていることを説明。

また天然ゴムの木は、樹液の採取に適した期間が過ぎれば、木材や木質チップ、燃料とてしも利用可能なライフサイクル全体で有益な樹種であり、天然ゴムの樹液以外の木材やチップ、ペレットとしての利用では、森林認証制度、FSC®の認証が得られているものもあることを紹介しました。

そして生産の大部分を占めてはいるものの、管理や効率的な生産に関する知識の十分ではない小規模農家のため、タイ国内の天然ゴム協会や行政機関とも連携し、プランテーションの管理改善のための基準を作成中であることを報告しました。

続いて、近年急速な開発で知られるミャンマーの豊かな森林生態系とそこに生きる多様な民族、そして人々の生計手段の一つとなっている天然ゴム生産について、WWFミャンマーのスタッフが紹介。

東南アジアで最大級の自然林景観、ダウナ・テナセリウム・ランドスケープでは、貧困や限られた生計手段、さまざまな面での情報・経験の不足など複数の課題が関係し、天然ゴム生産が自然林減少の最大の脅威となっていること、またそうした要因が密猟などの不正な野生生物の取引にもつながっていることに言及しました。

WWFタイの発表

WWFミャンマーの発表

WWFインドネシアの発表

またWWFミャンマーの取り組みとして、地域コミュニティや生産者組合や行政といったステークホルダーとの連携事例を紹介。最後に会場の日本の市場関係者に対して、そうしたミャンマー国内の前向きな動きの推進力ともなる、市場側からの「持続可能な調達」を呼びかけました。

WWFインドネシアからは、タイヤメーカーとして初めて「持続可能な天然ゴムに関する方針」を策定し、「森林破壊ゼロ」を宣言したミシュラン社との協働事例として、インドネシアのスマトラ島中部で行われている生産現場でのプロジェクトが紹介されました。

スマトラゾウやスマトラトラといった絶滅危惧種の生息地でもある自然林景観、ブキ・ティガプル・ランドスケープは、ここ10年ほどの間にほとんどの自然林が違法に破壊され、その多くがパーム油を生産するためのアブラヤシのプランテーションへと姿を変えました。

そうしたなかで始まった天然ゴムプランテーションでの協働プロジェクトは、関係する土地利用者、管理者が連携して野生生物にも配慮した土地利用計画を策定し、自然林を保護、回復させてゆく計画であることを紹介。

終わりに、これまで大規模に自然林が失われてきたインドネシアではあるものの、その主要因となってきたパーム油、製紙産業に携わる企業の多くが現在では調達方針を策定し「森林破壊ゼロ」を宣言していることを伝え、そしてこうした歴史を他の地域で繰り返さないため、日本の天然ゴム産業界に対しても、調達方針の策定やトレーサビリティの確保、ステークホルダーとの連携を提言しました。

発表3.企業の取り組み事例

ミシュラン社 シニア・ヴァイス・プレジデント、チーフ・プロキュアメント・オフィサー、ルック・マンゲ氏

ミシュラン社 CSRマネージャー、エドワー・ドゥ・ロストラン氏

発表3では、産業界の取り組み事例として、世界的なタイヤメーカーで知られるミシュラン社よりお話をいただきました。

まず、シニア・ヴァイス・プレジデント、チーフ・プロキュアメント・オフィサーのルック・マンゲ氏からは、2016年に発表された「持続可能な天然ゴムに関する方針」の概要、とりわけ「2.環境の保護」については、「森林破壊ゼロ」原則のもと、法令の遵守、原生林の保護、高い保護価値(HCV)と高炭素蓄積(HCS)の保全を、「5.健全なガバナンスの実践」では、サプライチェーン全体にわたり天然ゴムのトレーサビリティの確保を目指すことが語られました。

ミシュラン社 ルック・マンゲ氏の発表

ミシュラン社 エドワー・ドゥ・ロストラン氏の発表

ミシュランにおける持続可能な天然ゴムに関する方針の5つのテーマ

  1. 人の尊重
  2. 環境の保護
  3. 農業技術の改善
  4. 天然資源の慎重な利用
  5. 健全なガバナンスの実践

さらに、今後ステークホルダーとともに具体的な検討が始まる持続可能な天然ゴム拡大のための新たなプラットフォームについてもご紹介いただきました。

次に実施面に関しては、同じくミシュラン社よりCSRマネージャーのエドワー・ドゥ・ロストラン氏より、天然ゴムのサプライチェーン全体の環境、社会、労働慣行を評価するため、2017年に開発されたばかりのスマートフォン用のアプリケーション「ラバーウェイ」についてお話をいただきました。

「ラバーウェイ」は、サプライチェーン川中(天然ゴム加工工場)から仲買(トレーダーやコレクター)、そして上流(天然ゴム農家)へと遡るアンケートで、複雑なサプライチェーンのトレーサビリティを確保し、生産現場の情報を収集、状況を把握するためものです。

(例)回答者が小規模農家の場合の設問と回答選択肢

設問:労働者からの苦情に対してどう対応しますか?(複数回答可)

回答選択肢:
1. 労働者からの苦情はない
2. 直接会って話し合う
3. 労働者の代表/労働者諮問グループ
4. 労働者サポートグループ−第三者

設問:あなたの家族や、その他の13歳(またはあなたの国の法的な最低就労可能年齢)以下の子供が、学校に行く代わりに、ゴム園で働いていますか?

回答選択肢:
1. はい、彼らを頼りにしています/彼らの助けが必要です/近くに学校はありません
2. はい、ゴム園が忙しい際に助けてくれます
3. いいえ、彼らは学校に行っていますが、授業前か放課後に助けてくれます。

設問は、回答者の立場によって異なり、このようなアンケートによって得られた情報は、あらかじめ定められたKPIにそって自動的にスコアリングされ、評価の可視化も可能となっています。

また最後に、この「ラバーウェイ」は、ミシュラン社のみが使用できるものとするのではなく、2018年には第三者機関が管理する、特定の企業に属さない独立したツールとして天然ゴム産業界に提供する計画であることも紹介いただきました。

4.パネルディスカッション:持続可能な天然ゴムの拡大にむけて

各発表のあとのパネルディスカッションでは、全ての登壇者がパネリストとして参加し、質疑応答と今後の方向性、市場への期待などについて議論が行なわれました。

このなかでは、本セミナーでは多くの具体的な持続可能な天然ゴムのための取り組みや方向性の共通点が示されたものの、生産や市場全体の規模からすれば、まだまだ天然ゴムのトレーサビリティや持続可能性について確認しようとする動きは限られているという課題も語られ、だからこそ、時間はかかっても、より多くのステークホルダーの意識の転換と参加が必要だという声があがりました。

パネルディスカッションの様子

また生産国のWWFスタッフからは再度、世界的なタイヤメーカー、車メーカーの多い日本の影響力ある市場からも、生産現場における様々な課題を改善するための協力が呼びかけられました。

参考情報