中央アフリカのアフリカゾウ保護に新たな希望


2012年6月6日、COMIFAC(中央アフリカ森林委員会)に加盟する10カ国は、アフリカゾウをはじめとする野生動物の密猟対策と、法律による取り 締まりを強化する、画期的な地域計画に署名しました。近年アフリカ中部で増えている大規模な密猟に対し、各国が協力して取り組む対応として、今後の成果が 期待されます。

アフリカゾウの受難

アフリカゾウ。この陸上で最大の野生動物は、長い間、象牙を目的とした狩猟の標的となり、数を減らしてきました。20世紀に入ってからも、特に1960年代以降に東アフリカなどを中心に激しく行なわれた密猟により減少。久しく絶滅の危機が指摘されています。

近年は、生息環境であるサバンナや森林などの開発が、アフリカゾウの危機の最大の原因となりつつありますが、いまだに象牙を狙った密猟は跡を絶ちません。

2012年に入ってからも、カメルーン北部にあるブバ・ンジダ(Bouba N'Djida)国立公園で、2カ月あまりの間に200頭を超えるアフリカゾウが密猟されるという事件が起きました。

アフリカゾウはサハラ砂漠より南の地域に広く分布しており、南部や東部では最近増加の傾向がみられていますが、一方で、西部や中部アフリカではいまだに危機が続いています。

とりわけこの密猟の脅威が、今も最も強く残っているのが、中央アフリカの国々なのです。

アフリカ中部の国々の協力

こうした野生生物犯罪のエスカレートが地域を悩ませているとして、2012年6月6日、チャドの首都ンジャメナで、新たな地域計画が採択されました。

これは、違法な取引によって危機にさらされている、アフリカゾウをはじめとする野生生物の保護を増強するための法の執行と、密猟対策の強化を共同で実現することを、各国が約束するものです。

この計画に署名したのは、2005年に発足したCOMIFAC(The Central African Forests Commission:中央アフリカ森林委員会)に加盟しているブルンジ、カメルーン、チャド、中央アフリカ共和国、赤道ギニア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ルワンダ、サントメプリンシペの10カ国です。

この合意の中で、COMIFACに加盟する国々は、警察、税関と司法、法執行機関による取り組みを、前例のない高いレベルで実施することを約束しました。

また今回の地域計画では、野生生物の保護と、アフリカの生物多様性を保全するための会議を来年行なう計画も発表されました。

この会議には、関係各国の首脳のみならず、アフリカ開発銀行や国連などの関係者が一堂に会することになっており、象牙をふくむ野生生物の取引先として重要視される、アジア諸国との協力機会を模索するとしています。

続く密猟とのたたかい

こうした一連の施策が、多国間で協力して行なわれることによる保護上の成果には、大きな期待が寄せられます。

実際、承認された行動計画には、各国の密猟対策の努力を高めるために、国境を越えて共同でパトロールを実施するなどの条項が含まれています。

また、COMIFACの会合が開かれていたンジャメナでは、チャド、中央アフリカ共和国、カメルーンの3国が、密猟対策のために、軍隊の動員と協力についての宣言にも署名を行ないました。

WWFのアフリカゾウ専門家であるラミン・ソボゴは、こうした措置について、「これは、2012年にカメルーンで起きた規模でのゾウの虐殺が、再発することを確実に防ぐ、歓迎すべき取り組みの在り方だ」と述べています。

主にアジアに向けて密輸される象牙についても対策が進められる予定です。
象牙は、アフリカの大きな港湾や空港など、海外への窓口である水際に到達する前に、まず内陸の国境を越えて密輸されますが、今回の計画の下では、国際間の取引をチェックするため、こうした場所の税関の機能を強化することになっています。

さらに、違法な野生生物の取引に従事した犯罪者に対する追及も強化するとしており、法律の最大限の適用と、COMIFAC加盟国による共同調査により、より徹底した訴追を行なうことが計画されています。これにより、密猟防止への取り組みを妨げる人々の行動や、汚職に対しても、監視の目が向けられることになります。

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アフリカゾウ。中央アフリカおよび西アフリカの森林に生息する亜種は、マルミミゾウと呼ばれる。

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2012年初頭に北カメルーンで起きた大規模な密猟の犠牲。一度に100頭を超えるアフリカゾウが殺された。

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アフリカゾウの象牙。WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムであるトラフィックは、象牙の取引状況の監視を続けている。

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トラフィックイーストアジアジャパンの特集サイト「象牙への日本輸入に関して」

アフリカの生物多様性を守るために

しかし、こうした取り組みが必要とされるアフリカ中部の現状は深刻です。
今回の地域計画の立案にあたり、アフリカ開発銀行の総裁ドナルド・カベルカ博士は強い口調で言いました。

「大規模な密猟事件の増加は、違法な野生生物の取引に手をそめる犯罪組織が関与していることを示す証拠です。一連の違法取引は、年間に80億ドルから100億ドルにのぼる規模に及んでいます。それは私たちが、何としても終わらせなくてはならない現状です」

COMIFAC会合の閉幕に当たり、議長国であったチャドの環境・漁業省のマハマト・ベシル・オコミ大臣は、声明の中で次のように述べました。
「COMIFACに参加する国々が、強力に、かつ効率的な協力を実現しなければ、我々はこの疫病のような問題との戦いに、決して勝つことはできないだろう」

実際、この計画を効果あるものにできるかは、COMIFACの国々の努力はもちろんのこと、それを支える国際社会の意識と行動にも左右されます。WWFの「グリーン・ハート・オブ・アフリカ」プロジェクトのリーダー、マーク・ランギーも言います。

「この計画はこれからの取り組みにとって重要な設計図であり、それを実現するCOMIFACの国々にとって必要な最初のステップでもあります。そして、この計画の実現には国際社会からの支援が不可欠でしょう」。

WWFは今後も、世界の野生生物の国際取引を監視する「トラフィック」、およびアメリカ政府の魚類野生生物局と共同で、COMIFACの計画に対する技術的、財政的な支援を継続してゆきます。

 

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