野生のトラはわずか4,000頭、では飼育されているトラは?


先日、インドシナトラの嬉しいニュースについてお伝えしたばかりですが、今度はトラ牧場に関するショッキングなニュースが届きました。

2016年4月のデータでは、野生のトラの個体数は約4,000頭。

一方、飼育個体は米国だけで5,000頭、アジア全体では7,000頭以上と推定されています。

特にアジアでその多くがいると考えられているのが、主に観光客向けの見世物やペットとして、また毛皮や肉、骨を食用や薬用にするため、商業目的でトラを飼育繁殖している「トラ牧場」です。

タイの動物園で飼育されているトラ(2012年)

「牧場」のトラは、野生での生き方も知らず、放せる場所も確保されていないため、数が増えても野生のトラ保護にはつながりません。

むしろ、飼育繁殖させたトラの売買は、トラ製品への需要を大きくし、野生個体の密輸や密猟を助長するおそれがあります。

このため、「ワシントン条約」では、飼育繁殖されたトラについても、国際取引を厳しく規制していますが、それでも密輸などの違法行為は後を絶ちません。

インドのランタムボール国立公園のトラ。こちらは野生の個体です

昨年、私たちトラフィックが発表した報告書でも、アジアで2012~2015年に実際に押収されたトラおよびトラ製品の少なくとも30%が、飼育繁殖によるトラのものと判明。

また、違法取引にタイから、ラオス、を通ってベトナムへ伸びる取引ルートが多く利用されていること、そして、この3カ国ではトラ牧場が増えていることもわかりました。

この状況を受け、昨年のワシントン条約の会議では、ラオスが取引の規制管理が不十分と指摘され、その後同国は自国のトラ牧場の段階的な廃止を発表。

タイも悪名高いトラ寺院を取り締まるとともに、全ての繁殖施設の調査を誓約しました。

各国が約束を守り、野生のトラが守れるように、私たちも各国の動きをチェックしながら、関係国政府への働きかけを続けていきたいと思います。(トラフィック 若尾)

関連情報

トラフィックの報告書「Reduced to Skin and Bones Re-examined(皮と骨に成り果てる:再点検)」

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自然保護室(野生生物)、TRAFFIC
若尾 慶子

修士(筑波大学大学院・環境科学)
一級小型船舶操縦免許、知的財産管理技能士2級、高圧ガス販売主任者、登録販売者。
医療機器商社、海外青年協力隊を経て2014年入局。
TRAFFICでペット取引される両生類・爬虫類の調査や政策提言を実施。淡水プロジェクトのコミュニケーション、助成金担当を行い、2021年より野生生物グループ及びTRAFFICでペットプロジェクトを担当。
「南西諸島固有の両生類・爬虫類のペット取引(TRAFFIC、2018)」「SDGsと環境教育(学文社、2017)」

子供の頃から生き物に興味があり、大人になってからは動物園でドーセントのボランティアをしていました。生き物に関わる仕事を本業にしたいと医療機器業界からWWFへ転身!ヒトと自然が調和できる世界を本気で目指す賛同者を増やしたいと願う酒&猫好きです。今、もっとも気がかりな動物はオガサワラカワラヒワ。

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