世界は一つになれるのか?国際社会が抱える「差異化」の問題


パリで行なわれている国連気候変動会議「COP21」の会場より、温暖化担当の小西です。

1週間にわたる事務官レベルの交渉の末、金曜日の朝に「パリ合意」の文書の草案がまとめられました。

この草案は、予定通りに行けば、土曜日の「ダーバンプラットフォーム作業部会」の総会で採択され、来週からは、上位の意思決定機関であるCOP(締約国会議)に場を移し、各国閣僚も含めて、いよいよ最終合意へ向けて議論されることになります。

しかし、この草案にはまだ多くの争点が残されています。背景にあるのは、「差異化」の問題です。

これまで国連の下で進められてきた、国際社会による地球温暖化対策では、「気候変動枠組条約」や「京都議定書」がつくられた1990年代の世界情勢を受け、196の国々を、先進国と途上国に二分し、それぞれの役割を規定していました。

先進国が排出削減義務を負い、途上国の温暖化対策に対する資金や技術を提供する、という取り決めも、こうした当時の事情を反映したものです。

4日10時に発表された合意文書の草案。本当は朝8時に発表の予定でした。草案は完成と同時に、会場の資料センターで配布されます。

しかし、その後の20年間に、中国やインドなどの新興国が経済成長を遂げ、世界は大きく変化しました。

そのため、京都議定書に続く新しい温暖化防止のための枠組みでは、こうした変化を受け、全ての締約国をどう「差異化」するかが争点となってきました。

それぞれの国がどれだけ温室効果ガスの削減や、資金支援を行なうのか。それをまさに差異化し、規定するのが「パリ合意」の条文なのです。

京都議定書から18年。これからも世界の国々の間の勢力図は、変化し続けるでしょう。

ですが、地球温暖化への対応は、国家ではなく、人類の課題です。

世界が一つになって、長きにわたり継続可能な温暖化対策を実現するためには、各国の国情に応じた責任と能力を問い、実効性と柔軟性を持った体制を作ることが必要です。

パリ合意には、その起点となることが求められています。

アメリカ政府のパビリオンで行なわれたサイドイベント。COP会場では国連交渉以外にもさまざまな活動が展開されています。

インド政府のパビリオン。現在のCO2(二酸化炭素)排出量は、中国が世界1位でインドは4位。日本は5位です。しかし、国民1人あたりの排出量は、日本の9.6トンに対し、中国は6.7トン、インドは1.6トン(出典:EDMC)。先進国と間には今も格差があり、同等の責任や能力を求めることは衡平とはいえません。

この記事をシェアする

専門ディレクター(環境・エネルギー)
小西 雅子

博士(公共政策学・法政大)。米ハーバード大修士課程修了。気象予報士。昭和女子大学特命教授、京都大学院特任教授兼務。
中部日本放送アナウンサーなどを経て、2005 年に国際 NGO の WWF ジャパンへ。専門は国連における気候変動国際交渉及び国内外の環境・エネルギー政策。2002 年国際気象フェスティバル「気象キャスターグランプリ」受賞。環境省中央環境審議会委員なども務めている。著書『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』(岩波書店 2021)など多数。

世界197か国が温暖化対策を実施する!と決意して2015年に国連で合意された「パリ協定」の成立には感動しました!今や温暖化対策の担い手は各国政府だけではなく、企業や自治体・投資家・それに市民です。「変わる世の中」を応援することが好きな小西です♪

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP